源氏物語に転生したので光源氏の男友達としてアイツに出来る限り責任を取らせる 作:あるふぁせんとーり
「母さま!!母さま!!」
「すまぬ……すまぬ桐壺……!すまぬ皇子……!」
桐壺が都に戻ってきた時、彼女は既に息絶えていた。桐壺の眠る棺桶に縋り付く光源氏と、それを背中から強く抱きしめる帝。彼女を囲うヒノキの香りを身に刻み込まんばかりに二人はそこを離れようとしなかった。当時は死人に近寄ることは穢れが移るとして忌み嫌われていたが、二人の場合はそれでもなお桐壺更衣への愛情が勝っていたのである。
そして一昼夜に渡って彼らその棺桶を涙で濡らした翌朝、桐壺更衣の葬儀は執り行われた。場所は洛外の愛宕寺、仕来りに従って、けれども精一杯に豪勢に。参列者の誰もがその目に涙を湛え、彼女のことをほんの少しでも耳にしたことがあれば乞食でさえ嗚咽し、そして彼女を嫌っていたはずの右大臣の娘や他の女御でさえ彼女の清らかさが思い出されて部屋に籠もり啜り泣いたという。当時の作法では親が子の葬式に出席することは認められなかったため、桐壺更衣の母君は火葬された桐壺更衣が煙となって天に昇るのを見て、ようやく邸宅から一人その死を受け入れていた。その慟哭は十里に響き渡っていた。
***
桐壺更衣の死から一ヶ月。帝の涙も枯れ果てて、それでもなお泣き続け、光源氏もすっかり部屋に籠もってばかりになっていた。そんな帝と皇子が哀れで堪らなくなった大納言を始めとする臣下達は何とか桐壺更衣に良く似た少女を探し当てた。先帝の女四宮、即ち第四皇女。本人も帝の現状について耳にしていたらしく、「私なんかでお役に立てるなら」と彼女は十四才で入内し、有力貴族の娘が迎えられる飛香舎、通称「藤壺」が与えられた。亡き母に良く似た彼女を光源氏は姉のように慕い、藤壺もまた彼を弟のように可愛がった。
そしてその一ヶ月後、桐壺の面影を感じさせる輝かしいばかりの美貌を持っていた彼女は光の君と並んで「輝く日の宮」と称されて評判となり、帝もようやく本調子を取り戻しつつあった。そんな中でようやく準備を整えた帝は大納言、源充を呼び出した。
「桐壺の方については残念でしたが……お元気そうで何よりです、帝」
「いや、藤壺と巡り合わせてくれたこと、本当に感謝している。お陰で私は何とか踏み止まることができた上、皇子もまた以前のように明るく笑うようになってきた。嬉しい限りだ」
「それで、本日は……」
「……ああ。二の宮を源家の養子とする準備が整った。名前は──」
その言葉に大納言は唾を飲み込み、そしてもう一度問いかけた。
「……光の君は、ご存知なのですか?」
「ああ。既に伝えた。……入れ、二の宮」
トテトテと拙い足音とともに姿を現した光源氏。幼いながらに事情は理解しているようで、その目には僅かな涙を湛えていた。
「……この方がお前の新たな父だ。……きちんと言うことを聞くように」
「……よろしく、おねがいします。大納言さま」
ぺこりと深く頭を下げると、彼はおぼつかない足取りで、必死に嗚咽を堪えながら大納言の方へ寄る。
「……頼んだぞ、大納言」
「はっ、命に換えても必ず」
「……行け。早く行け。行ってくれ」
「……帝……」
「……私は、私は堪えられぬ!!これ以上二の宮と共にあれば私は道を違えてしまう!私は良き王では、良き父ではなくなってしまう!行け!行ってくれ大納言!!」
涙を流し、嗚咽混じりで帝は大納言に光源氏を連れて行くように叫ぶ。大納言は深く一礼した後に、光源氏を抱きかかえて走り出した。
「……忘れません!ずうっと忘れません!だからさようなら父さま!!」
「私もだ!一瞬、刹那たりとも生涯お前を忘れない!!さらば、さらばだ
最後に最愛の息子への贈り物を叫び、帝は去った大納言と、その牛車が見えなくなるまで手を振っていた。
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