アタマ空力かつコーラルに脳を焼かれた幻覚を駄文にてお届けしております。寛大な心でお許しいただければ幸いです。
空に憧れた
始まりは憶えていないし理由や切っ掛けもわからないが、『空を飛びたい』という欲求が自分にはあった。
アーキバスグループの企業展、そこで空を舞うACに一目惚れした自分はシュナイダー社のAC開発部へ進んだ。
入社してすぐACパイロット資格を取得し、技術実証試験テストパイロットに志願した。戦闘技能は散々な評価だったが、機動操縦技能に限れば十二分に評価を貰えたのは幸いだった。
シュナイダー本社のAC開発部のテストパイロットとして実績を積んできた頃にルビコン3への移動が決まったのは幸運だったのか不運だったのか、人生で2度目の一目惚れに出会った。
「V.IVラスティ」彼の戦闘機動は空を舞いながら地を駆けるように鋭く敵機へと喰らいつくものだった。
彼はここ、ルビコン3における当社の人材公募プログラムから入社し僅か半年でアーキバスグループの精鋭部隊の一席に上り詰めたという。やはり世界には物語に登場する「主人公」めいた天才もいるものなのだなぁ、と話を聞いた時には思ったものだ。
しかし、その彼が駆る我が社のAC「NACHTREIHER」だが独立傭兵達には正直あまりウケが良くない。傭兵支援システムAMによるアンケートに曰く「軽量二脚じゃなくて逆関節じゃん」「装甲薄すぎ」「EN負荷重いくせにあの出力補正なんなの」「射撃適性に対して反動制御無さすぎ」etc.....
勿論、愛用してくださっている顧客の方もいらっしゃる事に疑いは無いのだが、多くの傭兵達には空力を理解するおつむが不足しているのが現実だ。
とはいえ我が社も高性能なパーツを手掛けるプロである。アーキバス本社からは量産性と汎用性を求められるしそれに応えた製品をキッチリ納める。いくら現場で作りたいものと違えども、親会社の要請にはNOと言えない。現実は厳しいのだ…
まぁ自分はAC開発部でも技術実証が主な部署である。出されたものを要項の指示通り動かし、データをまとめるのが仕事なので、たまの事故で死にかける以外は気楽なものだ。自分の仕事が空力学の糧となり、それによってより高く、より速く、より美しく人は空を舞うのだから、こんなにやり甲斐のある職場も無いだろう。
しかしいつも通り仕事をしていると「うちの会社がアーキバスグループを抜けるらしい」と噂を耳にした。先日の技術実証機「LAMMERGEIER」の開発計画会議で上が大喧嘩してきたらしいからそれ絡みか?
アーキバスの連中、頭は固いが金払いだけは良かったのに先方の担当者は「脚部前肢を両翼にする?バカを言うな、貴社には軽量四脚の開発計画を依頼したのだ。そんなお遊びに出す金は無い」などと宣ったというのだ。
資料作成用の先行試作機は自分が動かしたのだが素晴らしい機動性だったのに。「四脚は重く遅い」という常識を過去の物にする革新的な計画案を「遊び」だなんて、ウチの開発部長はよく憤死しなかったものだと思う。
しかしそうなると新たな金ヅル、もといスポンサーなり提携企業なりを探さなければ研究開発に力を入れている我が社は立ち行かなくなるのではなかろうか?世に出している製品は胸を張って良いものだと言えるが、広い顧客のニーズに合わせていると言うよりニッチなより良いものを求める顧客が主な取り引き先である。個別の取引の利率は悪くなくとも、件数が限られてくるのは如何ともし難い。
まぁその辺はウチのお偉方がなんとかしてくれるのだろう、研究開発を重視する社風だし空力学への熱意は現場も経営陣も変わらない。余計な心配をしている暇があるなら検証データをより多く取りまとめた方が有意義というものである。
自分はいつも通り、空を飛ぶために考えを向けるのだ。