余城「君がANOMATROL本部に提出するドキュメントは、報告書も研究テーマも...どれもこれも素晴らしい。」
レンツマン「ありがとうございます。...初めて褒められました。」
余城「特に、アノマリーフィールドへの解釈を、背景的な宇宙のスクリプトだと再解釈し、理論を展開していった結果エレガントな帰結に辿り着くのが好みだ。」
レンツマン「私の人生の中で...最も感動した発見だったと思います。...その...止まった風車からインスピレーションを受けて...思いついたんです。」
余城「表現方法が違うだけだが、有限で閉じたアノマリーフィールドが、仮想的にどこかに記述された宇宙のスクリプト、プログラム、まあルールといっても過言ではないだろう。そこでの抽象的な範囲指定に制限されているだけで、通常の物理法則なのかアノマリーによる異常事態なのかの区別は無い、という結論は、拡張ゲージ原理にも共通している。君は多様体と一般化数学を学ぶといい。きっと全てのアノマリーフィールドについて包括的な記述が可能になるからだ。...私はもうその先の予想が粗方付いているのでしないが。」
レンツマン「すみません、拡張ゲージ原理についてあまり知らなくて...」
余城「ゲージ理論は知っているかね。遥か昔に人類が提唱した理論だ。」
レンツマン「はい、ネーターの定理や電磁気学の勉強で少しだけ触れました。」
余城「まあ簡単に言えばその進化版だよ。そろそろ次の作業があるので失礼する。」
いつかの夜、小さかったレンツマンは頭を抱え込んでいた。
自分が本当に好きな事、良いと思った事をしているだけなのに、
周囲の人から求めてもいない感想やアドバイスを受けるのである。
...その好意はありがたいのだけれど、
「それじゃ気に入られないし食っていけない。」
だの、
「受け手に魅力を示さないと理解が得られないだろ。」
だのと批判的なものもあるのがとても嫌だった。
レンツマンは小さい頃から"止まった風車"に関する事象が大好きで、
みんなとの遊びのお誘いを断り、狂ったように止まった風車を眺めていた。
他の人らは、
「俺らが嫌いだからわざとああやってるんだ。」
だとか、
「奇をてらってキャラ付けをしてるだけなんだろ。」
だとか好き勝手な評価をしたが、そのどれもが間違いで、
ただ、
「止まった風車が好き。」
なだけだった。
けどレンツマンは、それが誰にも理解されないことを知っていた。
...そして自分が、この世界に向いていないということもよく知っていた。
もしもレンツマンがそれで何か成果を出したなら...?
周囲の人らの反応は無自覚かつ無責任にもガラリと変わった。
しかし大抵の場合、そんな事は起きないもんである。
だってレンツマンは別に成功したいわけではなくて、
生きている残りの時間すべて、止まった風車を追究したいだけだから。
恥知らずな愚か者共にはそんな事分かんないのであろう。
だがレンツマン、安心しなさい。
私なら君の気持ちはちょっぴり分かる。
痛みは見えないが、傷は見える。
愚か者たちもきっと、
その愚かさ故に、
今頃別の怪物やら不幸に苦しめられているかもしれない。
だからこれでトントンだ、レンツマン。
さあ、ぐっすりお休み。
いつか時間制限は来るだろうけれど、
明日も大好きな、
"止まった風車"を、一緒に見ようね。
サキ「お~い!」
ユウマ「なんだ、アイツ。」
サキ「レンツマンは~?」
ネンカ「来ないんだって。なんかぼーっと風車見てる...風なんか無いのに...。」
ユウマ「あいつ可笑しいんじゃね?だよなユイト、」
ユイト「さあな、けどユウマ、誰だってあいつみたいなもんじゃね?」