調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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サンクトゥムタワー奪還電撃戦(2)

 

 

 

 サンクトゥムタワー上層、いつもなら連邦生徒会が走り回っているはずの管制室。

 けれど、今はそこに、子供たちではなく大人たちが詰めていた。

 

 カイザーによる、サンクトゥムタワー、及びD.U.自治区の占領。

 これは異様と言っていい……誰かしらが警備情報を流したとしか思えない要領と速度で完了した。

 キヴォトスの中心点と言ってもいいそこは今、カイザーの手中に収められている。

 

 ……しかし、一同が達成感に浸っているかと言えば、それは否だ。

 

「馬鹿な……これは、何が起こっている……?」

 

 カイザーインタストリー傘下、いわゆるカイザーグループの傭兵派遣稼業、カイザーPMC。

 その長に任命されているジェネラルは、機能を停止した通信機器の前で思わずそう呟いた。

 

 

 

 彼が、そしてカイザーがその異常に気付いたのは、つい数分前のこと。

 けれど、これらの通信機器に異常が発生していたのは、恐らくはもっと前からだった。

 

 彼らが持ち込み、前線部隊との通信に使用しているそれら。

 秘匿された回線を通して、前線と後衛で情報共有するための通信機器は……しかし、いつからかその役目を果たせなくなっていた。

 

 通信ができなくなった、という訳ではない。

 全ての部隊が、「異常なし」としか報告しなくなっていたのだ。

 

 ……あり得ない。

 キヴォトスの住民の気性は、かなり血気盛んだ。決して穏やかではない。自分たちの平穏や町の治安を守るためなら、平然と銃を持ち出すくらいだ。

 

 故に、この段階で、市民の反感や生徒たちの反撃がないわけがない。

 それらを部隊で鎮圧して、以後も厳しい監視の目を走らせ、ようやく落ち着くだろうという目算だった。

 

 部隊員たちには、細かいことにまで気を配り、片端から報告を流すように教育している。

 それが一切ないというのは、あまりにも妙だった。

 

 

 

 ジェネラルは連続するそれらを見て、即座に通信が相手方に掌握されている可能性に思い至った。

 すぐさま最上階から管制室にまで降り、これらを解析にかけさせた。

 

 その結果として、判明したのが……。

 

「ディープフェイク……! AIによる音声データの捏造だと!?」

 

 彼らが話していた部隊長たちの声、その全てが、いつからか偽物にすり替わっていたという事実だ。

 

 恐らくはこれまで部隊長たちが上げて来た連絡の言葉を学習させたのだろう、高精度なAIによる学習を以て作られた、偽の声。

 それらによって、恐らくは大いに欺瞞の入っているのであろう誤情報が流され続けていた。

 

 更には、それだけでなく。

 彼らがそれに気付いた直後、持ち込んだ通信機器全てが、一斉に沈黙した。

 定期報告も、異常報告も、一切が入ってこない状態だ。

 

 それはつまり、今自分たちが話していることや考えていることが、情報封鎖をして来た相手に対して筒抜けになっている、ということを意味していた。

 

「いつからだ? いつから我々は回線を乗っ取られた? どこから情報が漏れている?

 いや、待て、そもそもこちらはサンクトゥムタワーを不完全とはいえ手中に収めている。真っ当な手段では防壁を抜いてハッキングを仕掛けることは不可能。

 それが可能なのは……ミレニアムか? クソッ、そうならないように情報封鎖を敷いたというのに……!」

 

 ジェネラルは後手に回った状況に歯噛みする。

 

 いいや、思えば、一昨日からずっとそうだ。

 シャーレの先生の拉致はゲヘナ風紀委員の介入のせいで失敗し、多少目をかけてやっていた防衛室長は深夜独断で動いた挙句FOX小隊と共に失踪。

 手を尽くしてサンクトゥムタワーの占領には成功したものの、殆ど間を開けることなくミレニアムに情報を抜かれてハッキングをしかけられ、優位を手放してしまった。

 情報の欺瞞が行われた以上、今前線に立っている部隊も無事ではあるまい。どこまでかはわからないが、恐らくは生徒による反撃が現在進行形で進んでいる。

 

 何もかもが上手くいかない。

 周到に準備し、完璧に仕上げたはずの策の数々が、即座に頓挫していく。

 

 そしてそれらは、キヴォトスの甘っちょろい子供たちだけでは成し得ないものだ。

 純真な子供は、賢しい大人に騙されるもの。それがこのキヴォトスにおける、絶対と言っていいルール。

 だからこそ……こうも真正面からカイザーの策を破却できるのは、大人の手を以て他にない。

 

「誰だ……誰が糸を引いている? 確実に、我々カイザーに悪意を持つ大人が関わっているはずだ。

 敵対する企業か? いや、そもそもどこで我々の行動を掴んだ? シャーレの先生の拉致以前、アビドス以外では本格的に行動を起こしていなかったはず……。

 一体誰が、どうやって、私たちの行動を掴み、そして何故その情報を生徒たちの中に流した……?」

 

 ぼそぼそと呟いて、考えを整理するジェネラル。

 

 

 

 ……しかし、迫る時は、彼に結論を出す暇を与えない。

 

 

 

 何の兆候もなく、状況は変化する。

 

 ピシッ、という鋭い音と共に……。

 故障した通信機器の詰まった管制室、その外と中を隔てる窓に、一発の銃痕が刻まれた。

 

「っ! 総員伏せろ!」

「せ、西方から狙撃! どこの誰が!?」

「落ち着け! すぐに情報を……!」

 

 カイザーPMCは傭兵グループ、その全員が荒事に慣れた戦闘集団だ。

 突然の狙撃を受けても、咄嗟にその場に伏せて、事を凌ごうとするだけの機転が利く。

 

 

 

 しかし、それこそが侵入者の狙いであれば、如何ともし難い。

 

 

 

 カイザーの兵たちが抱えていた武器を落として伏せるとほぼ同時、部屋のドアが蹴り破られた。

 

「コンタクト、前進する!!」

 

 その言葉と共に部屋に突入したのは……。

 ウサギの耳を模した、特徴的な装飾のある鉄帽を被る少女。

 元SRT特殊学園、Rabbit小隊所属、コールサインRabbit2……空井サキだ。

 

 部隊の先陣を担う彼女は、部屋に入ると同時にいくつかのスモークグレネードを投げ、マシンガンで正面のカイザーPMCを無力化しつつ、既に用も成さない通信機器の陰へと駆けこんだ。

 立ち上がる白煙の中、派手な突入の仕方と鳴り響く銃声から、カイザーたちの注意はどうしてもそこに引き付けられ……。

 

 息も付かせず、続いて窓を割って突入してくる敵の気配。

 高度な鍛錬を積んだ彼女にとって、上階からのワイヤーでのエントリーなど、そう難しいことでもない。

 ガラスを蹴破った勢いそのままPMCの頭を蹴り飛ばして気絶させながら、彼女は……Rabbit小隊小隊長、Rabbit1月雪ミヤコは告げる。

 

「カイザーPMC。あなたたちはその戦力を用い、数々の犯罪を行いました。

 サンクトゥムタワー及びD.U.自治区の不当な占拠、市民への恫喝と監禁、政権転覆を図るクーデター……これらはキヴォトスの市民の安全を著しく脅かす、重大な犯罪に当たるため……。

 我々SRT特殊学園の名の下、あなたたちを緊急逮捕します!」

 

 

 

 SRT特殊学園。

 それは連邦生徒会長の指揮下、キヴォトスの脅威を打倒し得るエリートを養成すべく設立された学校。

 どのような悪が立ち塞がろうと、どのような脅威が現れようと、最上級の装備と練度によって尽くを制圧し、キヴォトスに平穏を取り戻す……。

 言うならば、生まれ持ってのものではなく、人工的にキヴォトス最強級の戦力を創り出す、という試みだ。

 

 そこには連邦生徒会長が絶対的な正義と作戦を担保するという大前提があり、それが失われた今、十全に機能を果たせているとは到底言い難いが……。

 しかし、それでも。

 日々積み重ねて来た訓練と、最新鋭の装備や戦術への理解は、確かに彼女たちの力となっている。

 

 Rabbit小隊は強い。

 それこそ、たった4人でも、小部隊程度の相手であれば制圧できるくらいには。

 

 

 

「……制圧、目標クリア。残敵無し」

「了解、引き続き警戒を。Rabbit3、隔壁の一時封鎖を解除。Rabbit4、全方位の警戒をお願いします」

 

 たったの数分、たったの4人。

 それだけの戦力で、サンクトゥムタワー管制室は制圧された。

 

 通信妨害によって、自分たちの行動や侵入を悟らせず。

 狙撃によって作った隙に、正面と左方の窓から侵入し、クロスファイアの状態を作って。

 1キロ以上離れた遠方からの狙撃と併せ、一気に敵の残数を削る。

 

 相手の数を減らしてからは、遮蔽に潜んで順当な撃ち合い。

 しかし、アドバンテージを握られたカイザー側は、傷付いた仲間の安全確保や退避も行わねばならず、またあまりに急激な攻勢を受けて動揺も走っており。

 練度……積み上げた時間と濃度の差もあって、カイザーは、至極順当に敗北した。

 

 

 

 そうして、前線に出て来た2人。

 サキが油断なく銃を構えて警戒する中、ミヤコは気絶させたPMCの兵たちを手早く拘束していく。

 

「くっ……貴様ら、SRTの亡霊共が……!」

 

 ジェネラルは苦々しく子供たちを睨むが、彼女たちはその視線など意にも介さない。

 彼の自己認識はどうあれ、ミヤコやサキにとってジェネラル率いるカイザーPMCは、キヴォトスの平穏を脅かす犯罪者……つまるところ敵以上の何者でもない。

 であれば、無駄に話をする意味も、言い返す必要もなかった。

 

「押収した武器はどうする? それとコイツら」

「武器はこちらで処理しましょう。Rabbit3、コンテナを回してください」

『りょうか~い』

「犯人は……一度先生の指示を仰ぐべきでしょう。連絡します」

 

 部隊内で意見を纏めた後、ミヤコは左耳のインカムの回線を開く。

 

「こちらRabbit小隊、Rabbit1。管制室制圧完了、被害軽微。先生、次の指示を」

“……了解、こっちも公安局の皆と、リンちゃんの救助が終わったところ”

“ヒナからも制圧は終わりつつあるって連絡が来てるから、終わり次第合流しよう”

“ミヤコたちはそこで待機しておいて”

「了解しました。……Rabbit小隊、警戒を維持しつつ待機。先生たちの到着を待ちます」

「了解」

『りょうか~い。それじゃあ非常へリポートにコンテナ飛ばすね』

『り、了解……』

 

 ジェネラルは彼女たちの言葉を聞き、薄々抱いていた直感が正しくなりつつあることを悟る。

 

 即ち……自分たちカイザーPMCは、あまりにも一方的に、敗北したのだと。

 

 

 

 こうして、サンクトゥムタワー及びD.U.自治区の不法占拠、カイザーPMCによるクーデターは、ほんの数時間で失敗に終着した。

 

 ……ただし、現在の荒れ狂うキヴォトスにおいて、彼女たちに休む間など与えられない。

 

 ようやく事態も落ち着き、連邦生徒会がゲヘナ・ミレニアムとの連名で、起きた事態の表明とカイザーへの批判を行おうとしていた時……。

 

 

 

 不意に。

 

 青いはずのキヴォトスの空が、禍々しい赤色に染まる。

 

 

 

 







 あ ほ く さ

 カイザー、めっちゃ人数動員したくせにほぼ何もできずに退場です。しかもゲヘナとミレニアムに知られたから原作よりかなり状況が悪い。
 これも全部オリヒメってやつのしわざなんだ。

 次回、宣戦布告。
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