調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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虚妄のサンクトゥム攻略作戦(1)

 

 

 

「結論から申し上げますと、あの塔を二週間以内に破壊しなければなりません」

 

 会議は、リンのその言葉から始まった。

 

 赤くなった空から突如として降り注いだ謎の塔と、そこからあふれ出して来る真意も覗けない正体不明の敵。

 緊急対策委員会は、何はともあれまずはこれに対処せねばならないのだが……。

 

 その上で、リンは早急に塔を破壊する必要があると告げた。

 

 キヴォトスの各地に出現した、計6つの塔。

 リンが「虚妄のサンクトゥム」と命名したそれらは、キヴォトスに到来した「色彩」によって引き起こされた現象の一つ。

 シスターフッドの古書、及びミレニアムの解析によれば、この塔から放たれる赤い光には人の人格と意識を変化させ狂わせる効果がある、とのことだった。

 つまるところ、今キヴォトスを覆う赤い光は「色彩」による精神攻撃の一種であり、虚妄のサンクトゥムはそれを拡散するための拠点である、と考えられる。

 

 更に、この塔の内部には莫大なエネルギーが蓄えられ、今なお膨張しており……おおよそ300時間後に臨界点に到達する見込み。

 止めなければ、恐らくはそれを以てキヴォトス全域に赤い光が広がってしまうだろう、とのことだ。

 

 セイアの、そして先生の見た終末の予知夢。

 それはあるいは、この赤い空の先にあるのかもしれない。

 

 

 

 今確かなことは、これより300時間後というタイムリミットまでにこの塔を破壊しなければ、キヴォトスの平穏は覆されるだろうということ。

 猶予はない。短期決戦でこの塔を攻め落とさなければならないだろう。

 

 また、この光によって影響を受けた者を治す方法の捜索も急務となる。

 そこに関しては、どうやらトリニティのセイアに心当たりがあるらしく、百鬼夜行連合学園のクズノハが知っているかもしれないとのこと。

 ここの生徒会にあたる陰陽部のニヤは、微妙に言葉を濁していたが……。

 こちらに関しても、塔の破壊と並列して情報の捜索を進めなければならないだろう。

 

 ……が、何はともあれ、やはり差し迫っているのは虚妄のサンクトゥムの攻略だ。

 こちらを果たさなければ、最悪治さなければならない相手が無限に増えることになる。

 

 アビドス砂漠、D.U.近郊の廃園となった遊園地、ミレニアム郊外の「廃墟」、トリニティとゲヘナの境界にある古聖堂、ミレニアムの要塞都市……そして、D.U.中心のサンクトゥムタワー跡地。

 その内、サンクトゥムタワー跡地のエネルギーは特段大きいため、攻略には戦力を集中させる必要があるだろうと予測される。

 とはいえ猶予は全くと言っていい程にない。他の五か所は同時並列して破壊していかねばならない。

 

 

 

 そして厄介なのが……これらの塔には、門番のような存在がいることだ。

 

 デカグラマトンの預言者である、砂漠を征く大蛇のビナー、感化された「Divi:Sion」システムそのものであるケセド、元々はミレニアムの通信ユニットAIであったホド。

 恐怖の側面の転写である複製(ミメシス)、旧きアミューズドールのシロ&クロに、「聖徒の交わり」と呼称されていたヒエロニムス。

 

 これまでキヴォトスで散見されてきた超常の存在たちが、まるで虚妄のサンクトゥムを守護するように、付近に出現しこれを警備していた。

 

 また、塔がないはずの地区も含めてキヴォトス全域に現れた敵の襲撃への対処、治安の維持及び住人たちの避難とその護衛、食料の配給に不安の解消もあり……。

 この作戦に必要になる労力は甚大であり、各自治区の生徒たちがその力を合わせなければとてもではないが間に合わない。

 

 ……だからこそ、緊急対策委員会という結びつきが、今何より効果を発揮する。

 

「各自治区との意見の合一、治安の安定化はトリニティのティーパーティにお任せを。我々は本来、こちらをこそ領分としておりますので」

「なら、ゲヘナ風紀委員で住民の避難と護衛は受け持つ。誰かを守るためにこそ、私たちは普段から鍛えているのだから」

「ミレニアムからは避難拠点と安全な経路、そして備蓄と警備ドローンを提供するわ。……元より備えていた最悪のケース、万全とは言えないまでも相応の備えはある」

 

 キヴォトスの三大校を中心とし、各自治区がこれに約束を協力。

 自治区の枠を超えた協力体制を確立し、この異常事態への対処……「虚妄のサンクトゥム攻略作戦」が開始されたのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 便宜上付けられた番号で、第一とされる虚妄のサンクトゥム。

 それは、アビドス砂漠に現れたものだった。

 

「…………」

 

 遥か遠くにそびえるそれを眺めながら、アビドス廃校対策委員会の長たる小鳥遊ホシノは、列車の外に投げ出した足を揺らしていた。

 

 装備の点検や作戦の確認は済んでいる。いつでも動き出せる態勢で、後は作戦開始を待つのみ。

 その状況にあって、しかしホシノの関心はあの塔やその守護者ではなく、別の場所に向いていた。

 

「大丈夫、ホシノ先輩?」

 

 後ろから声をかけたのは、同じく対策委員会のセリカ。

 いつも強気な彼女は、しかし珍しく心配そうに眉を垂らし、ホシノのことを見つめていた。

 

 

 

 彼女は、対策委員会の面々は知っている。

 ホシノはとても仲間思い、後輩思いの先輩だ。

 いつもはだらけてサボっていても、自分たちが危なくなれば迷うことなく手を差し伸べ、障害を打ち払ってくれるだろう、尊敬できる人。

 

 けれど、ホシノの優しさは、時に諸刃の剣ともなる。

 

 友人思いで、後輩思いで、仲間思いだからこそ……ホシノは時に、その感情を揺らがせてしまう。

 

 かつて大切な先輩を喪った時、これ以上ない程に荒れてしまったように。

 言葉を残して失踪した友人を探すため、アビドス砂漠中を探し回ったように。

 突然消えた後輩を思って、つい昨日も先生の招集を無視して捜索をしようとしていたように。

 

 今も、セリカから見て、ホシノは作戦に集中し切れていないように思えた。

 

 

 

 そして、セリカの懸念は一面の真理ではあるのだろう。

 ホシノは、相手の意図からは少し外れた言葉をセリカに投げ返した。

 

「……うん、大丈夫。

 大蛇の……ビナーの対処法は、おじさんが一番よく知ってるからね」

 

 ビナー。

 アビドス砂漠を流離う大蛇。これまでに何度かアビドス高等学校が衝突し、撃退してきた災厄。

 

 ミレニアムのヒマリの話が正しければ、今の白い大蛇は、デカグラマトンというAIによって感化されたものなのだという。

 以前の赤い大蛇とは行動理念や指針の異なる、よく似た別個体とすら思っていいような存在。

 

 しかし、どちらにしろホシノにとっては関係ない。

 アビドスの平和を乱す相手は……ホシノにとって、敵以外の何物でもないのだ。

 

「シロコちゃんを探すにも、オリを探すにも……まずはあの『虚妄のサンクトゥム』ってヤツをどうにかしないとマズいんだよね?

 じゃ、頑張るしかないよねぇ」

 

 その場で軽く伸びをするホシノは、いつも通り気だるげで……。

 しかし、普段の彼女とは、少しばかり様子が違う。

 

 普段のホシノが昼行燈だとするのなら、今のホシノは刃を落としたナイフのようで。

 切れ味がないことは間違いないが、どこか危うげな雰囲気を纏っているようにセリカには思えた。

 

 

 

「……先生も言ってたよ、シロコ先輩は強い子だから無事だって。ただで攫われるような子じゃないって」

「うん、おじさんもそう思う。たとえ誘拐されたって、中の金目のものをかっぱらって来ちゃうのがシロコちゃんだもんね。よくわかってるよ。

 ……まぁそれでも、昔に比べたらだいぶ丸くなったんだけどさ」

 

 首をすくめるホシノ。

 セリカは少し迷ってから、頼れる、けれど小さな先輩に歩み寄り、その隣に腰を下ろした。

 

「昔のシロコ先輩って、どんなだったの?」

「ん……」

 

 投げられた疑問に対して、ホシノは中空に目をやる。

 砂嵐の舞う砂漠地帯、見上げた先には真っ白な太陽がそこにある。

 

 ……そう、最初にシロコに会ったのも、こんな太陽の照り付ける日のことだった。

 

 

 

「1年前……あ、もう2年前か。

 まだオリがしょちゅうアビドスに顔を出してた頃、オリとノノミちゃんと一緒に登校したら、駐輪場の辺りで倒れてたんだよね、シロコちゃん。冬とは思えないくらいにボロボロの薄着で、ぼんやりしてさ」

「えっ……それって、シロコ先輩って」

「何かあったんだろうね。本人が憶えてないらしいから、おじさんにもわかんないけど。

 それで、戯れにマフラーを渡したら懐かれちゃって。たはは、おじさんの魅力にメロメロかな~?」

 

 昔を思い出してか柔らかい笑顔を浮かべるホシノに、セリカはジト目を向ける。

 

「なんかその言い方、野生動物みたいなんだけど……」

「実際、当時のシロコちゃんは野性味すごかったよー? おじさんとオリにしょっちゅう絡んで来て、勝負を挑んで来て。アレはまさにリーダーの座を奪おうとする狼って感じだったなー」

「え……ホシノ先輩とオリ先輩に? 命知らず……?」

「そうそう、ぐわーって襲い掛かって来てぐわーって撃退されるの。それでぐむむって悔しそうにしててねー。あの頃のシロコちゃんも可愛かったなぁ」

「……シロコ先輩、ちょっと変わってるとは思ってたけど、昔から割とアレなところあったんだね」

 

 セリカにとってシロコと言えば、体作りにストイックなアスリートでもあり、物騒な発想をするアウトローでもあり、力を信奉する戦闘狂でもあった。

 何かを作るより何かを奪う方が手っ取り早いと考える質であり、なおかつ自分の体作りや戦闘技術の錬磨に余念がない。

 確かにその辺りは、野生動物らしいと言えば野生動物らしいだろうか。

 

「アハハ、アレでも相当丸くなったんだよ? 最初の頃なんて、通学路にクレイモア地雷をしかけて踏んだ瞬間に奇襲してきたりもしてたし」

「普通に危ないじゃん!」

「そ、仲間にやるには普通に危ないんだ。だからちゃんと『そういうことはやっちゃ駄目』って叱ったんだよ、3人でね。

 シロコちゃんは素直な良い子だから、理由を説明して叱ったらやめてくれる。1年経つ頃には可愛い後輩に落ち着いてくれた、って感じかな」

「へぇ……そうだったんだ」

 

 

 

 元気付けようとしたら、思いの外興味深い話を聞いてしまったセリカは、ぱちくりとその目を瞬かせる。

 

 セリカにとってシロコは変わった先輩ではあるが、同時、間違いなく「良い先輩」でもあった。

 突拍子もなく物騒なことを言い出したりするし、隙あらばとんでもなくハードなトレーニングに巻き込もうともしてくるが……。

 無表情だから分かり辛いけど、いつも自分やアヤネのことを気にしてくれている、頼れる先輩。

 そんな人がまさか、記憶喪失のところをホシノに救われた野生児だったとは。

 

 どんな見た目だったんだろうと思いを巡らせるセリカに、ホシノは続けた。

 

「当時から、シロコちゃんはよく脱走する子だったからね。それにオリも、都合が悪くなるとすーぐ逃げ出す悪癖があって。おじさんは2人を追うことには長けたハンターなのさ。

 ……今回も、さっさと面倒事を片付けて、2人共捕まえないとな」

「ん、そうだね。まずは目の前の、あの変な塔を片付けるためにまたビナーをやっつけないと!」

 

 言って、セリカは立ち上がり、ホシノに手を差し伸べる。

 ホシノはその手を取り……ゆっくりと、立ち上がる。

 

「そうだね。……セリカちゃん、アヤネちゃんのとこ行って、作戦準備できたか訊いてきて。

 おじさんはもうちょっと風に当たってから行くからさ」

「……わかった。先輩も早く来てよね!」

 

 たったったっと、軽快な音を立てて去って行く足音。

 それを聞きながら……ホシノは、天に向かってそびえる巨大な塔へ視線を投げかけた。

 

 

 

「また会えるから大丈夫、って言ったくせに。

 なんで先生には会いに行って、私のところには来ないのさ、オリ」

 

 

 







 (追記)
 リオ実装によって本編の描写がちょっとだけ変わるかもしれません。
 その時は最初から自分で読み直して片端から修正箇所を探していくことになると思います。
 ありがとうヨースター、ありがとうブルアカ開発チーム。
 解釈違い怖すぎて禿げそう。

 というか外付けの飛行ユニットまで作れるんですかリオ会長?
 流石に難しいかと思って避けたけど、オリの決戦仕様兵装、今から変えた方がいいんかこれ……?
 というか与太のつもりで決戦兵装とか書いてたら新章でみんなが近似したもの着るだしたんですが、今日から予言の大天使名乗るべき?

 (追記2)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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