調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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虚妄のサンクトゥム攻略作戦(2)

 

 

 

 シャーレ主導下で行われる、虚妄のサンクトゥム攻略作戦。

 まずはD.U.以外に現れた5本の塔を破壊するため、各地の生徒たちがそれぞれの場所に集った。

 

 

 

 

 第一サンクトゥム、アビドス砂漠。

 守護者は、砂漠を放浪する大蛇、ビナー。

 ここに配置されたのは、地元の生徒であるアビドス高等学校廃校対策委員会と、彼女たちに縁のあるゲヘナの便利屋68、そして相手がAIであることも鑑みて派遣されたミレニアムのヴェリタス所属のマキという、少数精鋭。

 廃線になった列車を暴走させることで囮とし、その隙に火力を叩き込むことでこれを撃退することを主眼とする作戦を立案していた。

 

 第二サンクトゥム、ミレニアム「廃墟」。

 守護者は、無限の軍勢を作り出す、ケセド。

 ここは敵戦力が無尽蔵という都合上、ネル率いるC&Cに、ツルギ率いるトリニティ正義実現委員会、レッドウィンターの軍勢が派遣され、そして廃墟のことを良く知る特異現象捜査部の和泉元エイミが作戦担当に就くこととなった。

 トリニティの戦略兵器と、約束された勝利の象徴。強力な生徒を擁する二陣営が正面からの陽動とパラシュートによる降下強襲をそれぞれ担当、一気呵成に本丸を攻め落とすこととなっている。

 

 第三サンクトゥム、廃園された遊園地、ユートピア。

 守護者は、夢の時間を再現する、シロ&クロ。

 配置されたのは、ミレニアムのゲーム開発部に元SRT特殊学園のRabbit小隊、そしてゲヘナ風紀委員。軍団勢力と同時に各々の練度を両立し、また雰囲気も悪化しないように構成された三陣営だ。

 要塞都市エリドゥでアバンギャルド君を攻め落とした功績からゲーム開発部のユズが作戦担当へと据えられ、先生の指揮を全体へ共有、細かい現地指示を飛ばす手筈だ。

 

 第四サンクトゥム、トリニティとゲヘナの境界、古聖堂。

 守護者は、複製(ミメシス)により完成した旧い教義、ヒエロニムス。

 本人たちの強い希望から、トリニティのシスターフッド、及び救護騎士団がメインの戦力として派遣され、作戦担当は双方に接点のある浦和ハナコが担当。

 そしてここに、現地で協力を申し出た、かつての敵であり今の仲間であるアリウススクワッドたちが戦力として加わることとなった。

 

 第五サンクトゥム、ミレニアムの要塞都市。

 守護者は、ミレニアム通信ユニットの元管理者、ホド。

 敵の性質上電子戦の側面が強くなるだろうことが予測されており、マキを除いたヴェリタス、そしてエンジニア部とセミナーによるミレニアム陣営に加え、突発的に現れたゲヘナ温泉開発部が対処に就くこととなる。

 現れたのが要塞都市エリドゥであることからも、その支配者たるリオが作戦担当に就き、地下に潜ったホドと現在進行形で電子戦・情報戦を繰り広げている状況だ。

 

 そして、残る第六サンクトゥム、サンクトゥムタワー跡地。

 ここには現状守護者が確認できておらず、しかしタワー内部に溜められたエネルギー量から考え、恐らくはこここそが虚妄のサンクトゥム全体における本丸であると予測されていた。

 そのため、他サンクトゥムの攻略後、一挙に戦力を集中して攻め落とす算段となっている。

 現在は最も甚大な被害を出したことから、ヴァルキューレやゲヘナ給食部主導で、周辺住民の避難や炊き出しが行われている状況だった。

 

 

 

 そうして、虚妄のサンクトゥムへの対処が行われる一方。

 そこに登用されることのなかった生徒たちも、各地でその力を振るっていた。

 

 ミレニアムの特異現象捜査部のヒマリとトキは、この現象に対する抜本的な解決を図るべく、各地でデータの計測と敵性存在の鹵獲を試みることで事態への理解を深めようとしている。

 これがどこまで効果を為すかは未だ不明ながら、少なくともトキは順調にスポットの確保とデータの取得を行えている状況だった。

 

 配置されることのなかったトリニティのティーパーティやゲヘナの万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)、リオの擁するドローン群などは、各地の治安維持や避難者救護、どこかから現れる敵に対する警備などに当たっている。

 この攻勢作戦は、同時に防衛戦の側面も持っている。虚妄のサンクトゥムを破壊するまでの間、虚空から湧き出てくる敵たちからキヴォトスの安寧を守らなければならないのだ。

 

 そして、シャーレから遠隔で情報整理・全体指揮を執る先生の下、連邦生徒会のメンバーがシャーレの中を忙しなく走り回り、虚妄のサンクトゥムの状態や敵性存在の所在を都度確認している。

 世界の終わりのような危機的状況、もはや何が起きても不思議ではない。故に何が起きても対処できるように設置された、緊急対策委員会の総本山だ。

 勿論、ここが中枢となる以上、敵からの攻撃が予測されていたが、そこに関してはカンナ率いるヴァルキューレ公安局や暇を持て余したスケバン、先生に恩のあるヘルメット団たち……そして同盟者から情報を得ているワカモが、これを防衛している。

 

 ……それに加えて、独自に動くのは百鬼夜行のミチル率いる忍術研究部。

 彼女たちには、「色彩」による精神攻撃の治療方法を探るため、現在失踪しているらしい百鬼夜行連合学園のクズノハの足取りを追う任務が与えられている。

 彼女たちが成果を出すことができるかは……少し先の未来にわかることだろう。

 

 

 

 こうして、キヴォトス全体が一体となって、虚妄のサンクトゥム攻略作戦は始まったのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……しかし、その一方で。

 キヴォトスにいる多くの陣営が協力し合えたとしても、ここに住む全ての生徒が、この超常現象に対して真向から向き合えていたわけではない。

 

 その典型例が、百鬼夜行の治安維持組織にあたる、百花繚乱調停委員会だろう。

 

 この組織は性質上、委員長の権限に強く依存してしまっている。

 しかし今、肝心の委員長である七稜アヤメは失踪しており、彼女に代わって組織を率いるべき副委員長の御稜ナグサは彼女の捜索のために百鬼夜行の都市部を後にしていた。

 

 意思決定を行う頭脳を失った組織は、動かない。

 いいや、「動けない」と、そう表現するのが適切だろう。

 

 参謀は、委員長と副委員長の意思の下に作戦を立案するものであり。

 切り込み隊長は、その作戦の下に敵を打ち倒すものであり。

 委員は、その指揮の下に戦う者たちなのだ。

 

 一番最初の意思決定が失われてしまえば、彼女たちは動けない。

 たとえ……百鬼夜行に化け物が溢れ、愛する街々が燃えたとしても。

 

 

 

「きっ、キキョウ先輩! やっぱり身共たちも……!」

「くそっ、先輩にはまだ連絡取れないのか!?」

「…………」

 

 百花繚乱調停委員会、本部。

 そこに詰めていた生徒たちは例外なく、焦りに表情を歪めていた。

 

 本来、彼女たちは百鬼夜行を守るために存在する。

 少なくとも、これまではずっとそうだった。

 小さな諍いから大きな紛争まで問わず、彼女たちは百鬼夜行で問題が起きればすぐに駆け付け、双方の間を取り持ったり、あるいは適切に事態を収束させてきた。

 

 それなのに、今。

 この上なく百鬼夜行が追い詰められた今、彼女たちは何もできずにいる。

 

 今百鬼夜行を守っているのは、一般の生徒たちだ。

 お祭り運営委員会に修行部、陶芸部にクロレラ観察部。本来戦闘や治安維持を主眼にするわけではない、百花繚乱が守るべき平和に生きるべき生徒たち。

 そして、更に言えば……いつも百鬼夜行を荒らしている魑魅一座すら、今は百鬼夜行を守ろうと奮闘していた。

 

 それなのに、自分たちは何だ?

 何故戦いにも出ず、こうしてぼんやりしているのか?

 

 その現状が。

 負けることも、戦うことすらもできず、百鬼夜行が死にゆく姿を傍観することしかできないことが。

 何よりも、彼女たちの百花繚乱としての自覚とプライドをズタズタに引き裂いていく。

 

 

 

 あるいは、全ては運命なのかもしれない。

 

 まるでこの現状を導くように、アヤメは消え、ナグサも行ってしまった。

 百花繚乱にとって、彼女たちこそがこの最大の強みであり、そして同時に最大の弱みでもあり。

 2人が同時に消えてしまえば、この組織は機能を停止させ、腐りゆくことしかできない。

 

 あるいは、語り部たちはこれを狙い、嗤っているのかもしれない。

 彼女たちがこのまま、語り部たちの望む破滅へと突き進んでいくことを。

 

 

 

 

 

 

 そう。

 ここに、外部から持ち込まれた余計なお節介がなければ、それは運命だったのだ。

 

 

 

 

 

 

『あ~、拍子抜けだなァ~~~!!!』

 

 百花繚乱の本部に……いいや、百鬼夜行連合学園の校舎に、大きな声が響き渡る。

 まるで拡声器を通したような、少しだけ割れた、けれど誰にでも聞き取れるだろう声で……。

 

 ソレは、高らかに、嘲笑していた。

 彼女たちの、誇りを。

 

『あの名高い百花繚乱と戦えるって思って、楽しみにしてたんだけどなァ~~!

 まっさかあの百花繚乱が、トップがいなきゃ何もできない思考停止の他責集団とは思わなんだぁ!

 そっかそっかァ! 自分の頭で考えることもできなきゃ、命令が来ないと誰かを守りたいとも思わない、そんな意志薄弱な白痴ばっかの雑魚部活かァ! 期待して損したなァ!?』

 

 空気が、張り詰める。

 

 彼女たちは百花繚乱調停委員会。

 非常に長い歴史を持ち、代々百鬼夜行を守ってきた組織の、正当な後継だ。

 

 当然そこには、自分たちこそが百鬼夜行を守るのだという誇りと信念があり……。

 

 それを貶されることを、彼女たちは許さない。

 

 

 

「……百花繚乱。出るよ」

 

 ずっと沈黙を保っていた参謀が、立ち上がる。

 副委員長のナグサより留守を任され、けれど何も決断を下せずにいた彼女が……。

 しかし今、百花繚乱の誇りのために、一つの選択を取る。

 

「し、しかし、キキョウ先輩……」

「いい。全部私の責任でやる。

 アヤメ先輩がこんな百花繚乱への侮辱を許すわけないし、この声が騒動の発端だとすればそれを捕らえるチャンスでもあるし……何より」

 

 部員の言葉に、キキョウと呼ばれた参謀は、大いに不快の念を込めた笑いを浮かべた。 

 その負の感情は、声の主に向いたものか……。

 

「言えてるよ。

 私たちは、私たちの本分を果たさないといけない。迷ってる暇なんてなかった。

 アヤメ先輩がいるから、ナグサ先輩がいるから、だから百花繚乱ってわけじゃない。

 私たちは皆、百花繚乱だ。百鬼夜行を守るために、ここにいるものだ」

 

 ……あるいは、不甲斐ない自らに向かうものだったか。

 

 

 

 そうして、何十人もの百花繚乱調停委員会が出陣した先。

 そこには……。

 

「あ、ようやく来た! ったく遅い! ホント遅いよ!

 私相性悪すぎて普通にヤバかったからねあとちょっと遅れてたら! 無尽蔵に湧き出る上、概念防御とか卑怯じゃない!?」

 

 ……先程の声の主が、百鬼夜行の敵たちと、激戦を繰り広げている様子があった。

 

 恐らくはミレニアムのものだろう、その制服には大小問わず傷ができ、その顔にも赤い血が二筋程流れている。

 満身創痍と、そこまでは言えずとも、少なからず消耗した様子だ。

 

 しかし、キキョウが眉をひそめたのは、その生徒に対してではなく……。

 彼女の周りに散らばる、数えきれない程の敵の残骸。

 

 十、いいや、数十。

 もしくは、既に塵と消えたものも含めれば、百に届いているかもしれない。

 百鬼夜行を襲う敵たちを、彼女は両手に抱えたショットガンで撃ち抜き、打倒していたのだ。

 

 それは、キキョウが思い描いていた光景の、おおよそ真逆にあったものだった。

 

 

 

「クソ、ヒエロニムスといい、百物語といい、銃弾通りにくいったら……近接して倒し切れなかったらヤバいし、今は転移も乱発はできないし。

 それで、働いてくれるってことでいいのかな、百花繚乱? まだまだわんさか敵は来るみたいだし、因縁が強くて弾が通りやすいそっちに防衛お任せしたいんだけど!」

 

 肩を荒く上下させる生徒に、百花繚乱の面々は困惑を隠せない。

 

 この声の主こそが騒動の元凶、もしくはそれに準ずる存在かと思っていた彼女たちにとって、むしろ百鬼夜行を守ろうとしているらしいこの行動は予想の外にあったのだ。

 

「……あなたは、誰? その服装、ミレニアムらしいけど……どの立場なの?」

 

 先頭に立つ参謀の言葉に、少女は……。

 「6」という文字の刻印された目出し帽を被る怪しい少女は、笑って答える。

 

「言ったでしょ、百花繚乱と『一緒に』戦えるかもと思ったって! あ、ちょっと言葉足らずだったっけ?

 でもさー、ああして煽りでもしなかったら、あなたたち動かないでしょ? それって後々後悔することになると思うんだよね。

 私はそれを避けさせようとする、ちょっとしたお節介焼き。せっかくだしあなたたちにも頑張ってもらおうと思っただけの、つまらない介入者に過ぎません。

 ま、どうせ何もできないとしてもやらない理由にはなんないし? さいてーな悲劇なんて私の好みじゃないし? どうせ全部終わるんなら、その前に精一杯できることやっとこうと思ってね!」

 

 明るい、けれどどことなく不穏を思わせる言葉に、キキョウは眉をひそめる。

 

 作戦参謀たる彼女は、相手の意図と狙いを読み解く役割を持っている。

 しかし、今目の前にいる少女には……それが、できない。

 

 どこか明るく、けれどどこか昏く、この上なく強く、けれど弱々しくも思える。

 そんな、矛盾ばかりを孕んだ相手のように思え、まともにその思考を追うことができない。

 

 

 

 故に、彼女はまともに答えが返ってこないことを知りながら、それでも問いを投げた。

 

「私たちを誘って、何が狙い?」

「さっきも言ったけど、あなたたちが本懐を果たせず腐り落ちるのは勿体ないと思っただけ。

 やらない後悔よりやった後悔、もしも後悔しなければ最高だしね!」

「……私たちの戦力調査でもするつもり?」

「あ、駄目だこの感じ、頭が良すぎて永遠に深読みされるヤツ。ちっちゃい頃のリオちゃんかな?

 まぁ丁度いいか、そろそろタイムリミットだしね!」

 

 そう言った目出し帽の生徒は、不意にかがんで、跳んだ。

 ほんのひとっとびで数メートルはある土産屋の屋上に飛び移り、そこから百花繚乱を見下ろして来る。

 

「じゃ、部外者はこの辺で。そろそろ次に行かなきゃなんでね!」

「どこに行くつもり?」

「次はハイランダーかなぁ。やんなきゃいけないことはたっくさんあるからねぇ……。ま、君たちは気にしなくてヨシ! 関係ない話だからね。

 そもそも部外者の力なんていらないでしょ? そっちはそっちで、存分に百鬼夜行を守っててよ。その方がじっとしてるより気持ち良いだろうしさ。

 それじゃあね、よろしく!」

 

 まるで猫のような軽快な身のこなしで、なおかつ鳥のように素早く建物の屋上を跳び、どこかへと消えていく謎の目出し帽の生徒。

 後を追おうとする百花繚乱の切り込み隊長を、キキョウは引き留めた。

 

「キキョウ、あいつ、何か知って……!」

「いいよ。アイツの言う通り、今は何より百鬼夜行を守るのが優先。ここを害するつもりがないのなら、追う必要はない。……少なくとも、今はね」

 

 害意は、なかった。少なくとも、キキョウは目の前に立った生徒をそう感じた。

 

 どちらかと言えば、むしろ……逆。

 慈愛、いいや、愛着のような感情を感じ取った。

 悪意はなく、むしろ善意によって、あの膠着を破ってくれた……とするのは、少し都合が良すぎるだろうが。

 

 

 

 どちらにしろ、キキョウたち百花繚乱調停委員会がすべきことは変わらない。

 幸か不幸か、あの目出し帽の生徒のおかげで、彼女たちはそれを思い出すことができた。

 

「……改めて、これから来たる敵を撃ち滅ぼし、百鬼夜行を調停する。

 百花繚乱、出撃」

「了解!」

「ですの!」

 

 

 







 Q.なんでオリが運命変えられてんの?
 A.今は世界の運行規則(運命のルール的なもの)が破綻してるから。
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