調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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虚妄のサンクトゥム攻略作戦(3)

 

 

 

 シャーレ指揮下で行われた、虚妄のサンクトゥム攻略作戦。

 これは、おおよそ滞りなく進んだと言っていい。

 

 第一サンクトゥム、アビドス砂漠のビナー。

 超高出力のビームが生徒に直撃するというハプニングこそあったが、キヴォトス最高の神秘たる小鳥遊ホシノが防御することにより、これを殆ど完全に無力化。

 便利屋たちの走らせた電車にビナーが気を取られている内に、シロコのドローンやノノミのミニガン、そしてアヤネの飛ばすヘリによる爆撃によって装甲に穴をこじ開け、最終的に電車車両を突っ込ませることによって打破。

 

 第二サンクトゥム、ミレニアム廃墟のケセド。

 ツルギが陽動として単騎突出し敵軍を薙ぎ倒し、その一方でC&Cとレッドウィンターの精鋭たちがパラシュートで降下して強襲をかけた。

 全サンクトゥムでも随一の兵力に対し、対抗するのはキヴォトス随一の暴力。

 圧倒的な力によって道を切り拓き、こちらも最奥、サンクトゥムの傍らにあったケセドを撃破。

 

 第三サンクトゥム、ユートピアのシロ&クロ。

 序盤こそトリッキーな敵に翻弄されたものの、作戦担当でもあるユズの操作するリオから託された兵力、アバンギャルド君がこれを正面から抑え込み。

 単純な物量での勝負になれば、精鋭たるゲヘナ風紀委員とRabbit小隊にとって、これは大した難敵ではなかった。

 

 第四サンクトゥム、古聖堂のヒエロニムス。

 その堅固な教義により外敵よりの迫害を退ける性質は、しかしトリニティの一員であるシスターフッドと救護騎士団、そしてアリウスであるスクワッドたちには有効とならず。

 以前これと相対したことのあるサオリとアツコは、しかしあの日感じた絶望感を感じることはなく。それが何故かと考えて……誰かと協力し手を取り合うことの強さと意味を再認識することとなった。

 

 第五サンクトゥム、エリドゥのホド。

 リオと、そして反省室から連れ出された助っ人のコユキの高度な演算能力による電子戦の結果、ホドは一度は奪ったはずの都市管制権を完全に奪取され、地中から叩き出され。

 ユウカたちセミナーが侵食を食い止めている内に、半ば地面に埋まるような状態で現れたそれを、温泉開発部が掘り起こして丹念に破壊していった。

 

 

 

 それぞれがそれぞれの強みを持つ、強敵だった。

 内何体かは、先生もこれまでに相対し、その時には苦戦を強いられたものだった。

 

 しかし今、キヴォトスの多くの勢力が手を取り合い事態に対処するこの瞬間において、それらは決して絶望的な壁足り得ない。

 

「第一、第四サンクトゥム、破壊! 続いて第三サンクトゥムも破壊を確認!」

「これで5つ全ての虚妄のサンクトゥムが破壊されました!」

 

 シャーレの部室に詰める連邦生徒会たちの報告を受け、リンは頷く。

 

「残すは……D.U.中心部、サンクトゥムタワー跡地の第六サンクトゥムのみ。

 シャーレの全戦力を終結させます、各地の生徒さんたちに連絡を。これから第六サンクトゥムの攻略を……」

 

 

 

 そうして作戦が最終段階に入りかけた……その時だった。

 不意に、シャーレに持ち込まれた計器が、信じ難いデータを観測する。

 

「っ、待ってください先輩! これ、この反応は……第六サンクトゥムから、膨大なエネルギーが放出されました!」

「守護者……いや、違う! 守護者も出てるかもだけど、これは……他の5つのサンクトゥムが!!」

 

 計器とカメラ、そして各地からの報告の意味するところは……。

 

 ただ一つ、異常性を発揮していなかった第六サンクトゥムが、不意に起動。

 莫大なエネルギーが各地に放たれ……それぞれが破壊したはずのサンクトゥムが高速で復元されている、ということだった。

 

「なっ、こ、これは……!?」

「虚妄のサンクトゥムが、復活……今までの攻撃は、全て無駄に……」

『いいえ、それは違うわ』

 

 連邦生徒会の会話に通信越しに割り込んだのは、ミレニアムのビッグシスターであるリオ。

 彼女は、トキを遣わせて独自に調べていた情報を流しながら、ヒマリと打ち立てた仮説を語る。

 

『あの第六のサンクトゥムの役割は……他のサンクトゥムが崩壊した際のための、バックアップ。

 その内に蓄えていた膨大なエネルギーの大半を使って、アレは他サンクトゥムの復旧を行った。

 結果として5つのサンクトゥムは復活したけれど……当然、ノーコストというわけではない。第六のサンクトゥムは蓄えていたエネルギーの殆どを枯渇させて、守りを大幅に弱めているはずよ。

 最後の抵抗として、他のサンクトゥムと同じように守護者を呼び出しているようだけれど……逆に言えば、そうせざるを得ない程に追い詰められているという証左でもある。

 今なら第六のサンクトゥムも、他と同じように常識的な戦力で攻め落とせるはずよ。

 ……ただし、他5つと同時に攻めなければならないのだけれど』

 

 

 

 それは、これまでの戦いが無駄にはならないという希望であり……。

 

 ……しかし同時、どうしようもないという絶望でもあった。

 

「し、しかし……第六サンクトゥムに招集できる戦力は……」

 

 顔を青くするアユムの言葉。

 その危惧は実際のところ、正鵠を射ていた。

 

 そもそも虚妄のサンクトゥム攻略作戦は、他の5つのサンクトゥムを陥落させた後、第六サンクトゥムに戦力を集中させる手筈だった。

 しかし今、他のサンクトゥムは全て復活し、第六サンクトゥムにも守護者が現れてしまった。

 

 この状況下で、先生たちはどう動くべきか?

 

 5つのサンクトゥムを放置して、第六サンクトゥムに戦力を集中させる?

 いいや、駄目だ。あまりにも移動に時間がかかりすぎるし、そして何よりサンクトゥムから溢れる敵たちの、都市や生徒たちへの攻撃を抑えられなくなる。

 相手を攻める意味でも、こちらを守る意味でも、他サンクトゥムから戦力を抜くことはできない。

 

 では逆に、予定通り5つを攻略した後に第六サンクトゥムに戦力を集中させる?

 それも駄目だ。第六サンクトゥム内部では、一度枯渇したエネルギーが再び膨張を始めていた。時間をかけてしまえば、再び他のサンクトゥムを復元するだけのエネルギーを蓄えてしまうかもしれない。

 

 リオの言う通り、第六のサンクトゥムは、他と同時に攻略を進めなければならない。

 

 しかし、それを為せるだけの戦力は……各学園には残されていなかった。

 

 この作戦に協力を誓った全ての自治区が、戦力の大半をこの作戦に使ってくれている。

 それで各地の治安を保ちながら、5つのサンクトゥムをなんとか攻め落とすことができた、というのが現状だ。

 

 だからこそ、この第六のサンクトゥムに投入する戦力は、各学園に残されておらず……。

 

 

 

 ……それならば、と。

 先生は一度まぶたを閉じた。

 

 あまり生徒に頼ることは、大人として相応しい態度とは言えない。

 けれど……彼女たちは、おおよそ間違いなく、それを望んでいる。

 

 だから。

 

“協力してくれる? ……オリ、ワカモ”

 

 ミレニアムから出奔し、あるいは百鬼夜行から停学をもらった少女たちの名を呼ぶ。

 

 

 

「おっけー! 任せちゃって!」

「ええ、勿論。あなた様のためならば」

 

 連邦生徒会員たちからすれば、あまりにも唐突に思える先生の言葉に、けれど応える声。

 驚愕と共に振り返った先には、2人の生徒がいた。

 

 片やミレニアムのセーターを着た、左手にハンドガンを握る黒髪の少女。

 片や和服を身に纏い、一丁のライフルを肩にかける仮面の少女。

 

 いつのまにかシャーレの部室に入ってきていた2人は……少なくとも黒髪の少女の方は、先生へと笑顔を向けた。

 

「それじゃ、行ってくるよ。最後の塔ぶっ壊しにさ!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「とはいえ、今回の件は私が出るまでもないんだけどね」

 

 ワカモがハンドルを握る、シャーレに備えられた小型車両。

 その助手席に座るオリは流れゆく景色を見ながら、インカムの向こうの先生へと、そう話し始めた。

 

「第六サンクトゥムの守護者は、私たちが手を出すまでもない。までもないっていうか、もっと言えば手を出しようがないって言うべきなんだけど。

 ただ、サンクトゥム自体の破壊はこっちでやる必要がありそうだし、もう『あの子』の語る物語とは細かいところがズレてきてるからね。もしもの時のことを考えて、私とワカモでやるってワケ」

 

 訳知り顔で語るオリ。

 彼女に対し、先生は根本的で、なおかつ今一番肝要な疑問を提起した。

 

“オリは、第六サンクトゥムの守護者について知ってるの?”

「うん、『あの子』から聞いてるからね。

 ここの守護者は、ペロロジラ。知ってるかな?」

 

 

 

 先生はインカムの向こうから届いたその名を聞いて、思わず眉をひそめた。

 

 ペロロジラ。何故か版権キャラクター「ペロロ様」に酷く近似している何者か。

 オリが失踪してから少しした頃に相対した、敵だ。

 

 一見してとぼけたような見た目をしているものの、その大きさはおおよそ30メートル以上。

 目からビームのようなものを放ったり、口からミニオンと呼称される小さなペロロジラを吐き出したりする、まさしく大怪獣と呼んでいいめちゃくちゃな相手だった。

 

 その時には、トリニティとミレニアムに力を貸してもらい、海から這い上がって来ようとするこれを迫撃砲とドローン爆撃の火力によって圧倒して、なんとか打倒したのだが……。

 今回は、同じ作戦は取れそうにない。

 

 なにせペロロジラが現れたのは、サンクトゥムタワー跡地……つまるところ、市街地だ。

 ヴァルキューレの生徒たちのおかげでD.U.の住民は避難しているが、それでも前回のような屋外戦と違って、近隣に発生する被害を考えなくてはならない。

 

 ……いいや、そもそも、前回のような火力を振るうこと自体が不可能だ。

 現在先生がこのサンクトゥムで運用できる戦力は、オリとワカモの二人だけ。

 彼女たちは高い運動能力と戦闘能力を持つ生徒ではあるが……それはあくまでも、対人戦に限った話だ。決して怪獣狩りに向いているわけではない。

 ……そもそもそんなことに特化している生徒は、キヴォトス全体を見ても少ないだろうが。

 

 そして、先生の切り札である「大人のカード」。

 これを使うことができれば、おおよそペロロジラの打倒は可能だろうが……。

 オリは、恐らくはオリヒメからこのカードの代償について聞いているのだろう、先生がこれを使うことを避けさせようとする。

 彼女がここにいる以上、先生はこれを切ることはできないだろう。

 

 

 

 迫り来る危機に対して、先生は今、有効となる手札を持たず。

 各地で戦っている生徒たちへの申し訳なさもあって、無力感から思わず眉を寄せてしまったのだが……。

 

 オリは、そんな先生を元気づけるように、明るい声を上げた。

 

「アハハ、何考えてるかは大体察しが付くけどさ、心配しなくてだいじょーぶだって!

 こう言っちゃなんだけど……先生の一声がなくても、キヴォトスの危機に立ち上がる生徒もいるんだよ。

 百鬼夜行を守る誇り高き調停委員会もそうだし、ダイヤ表を守るためなら実力行使を辞さない管制センターもそう、山海経の思考停止の伝統厨集団も、まぁそうだ。

 みんな自分たちの日常を守るために立ち上がった。子供だって、その胸に決意を抱くことはあるんだ」

“……どうやら、親切な誰かが、そうなるように説得して回ったみたいだけどね”

 

 「覆面水着団6号」がキヴォトスを走り回ったという情報は、先生の耳にも、そして彼女と親しい生徒たちの耳にも入っている。

 その奇想天外な行動は、やはり調月オリという少女が健在なのであると印象付けるものだった。

 

 先生がそれを指摘すると、オリはへなりと表情を歪める。

 そこには、喜びや嬉しさより、困惑が大きかった。

 

「……まぁ正直、私もあそこまで上手く動くとは思ってなかったわけだけどね。これまでは何やったってまともに変わらなかったのに……と、まぁそれはさておきだ。

 多少恣意的な誘導があったとしても、みんなが自分の意思で立ち上がったのは事実だよ。

 いやはや、キヴォトスも捨てたもんじゃないね。みんな、誰かや何かのために頑張れる良い子たちばっかりだ。……いや、良い子かな? まぁ広義的かつ良心的に見れば良い子だね、うん」

 

 赴いた先で起こったはちゃめちゃな事件を想い、オリは自分を納得させるようにこくりと頷く。

 

 余りにもトップダウンであったために、身動きが取れなくなっていた集団。

 ダイヤを守るためなら乗客への脅迫や暴力も辞さない、イカれた倫理観の集団。

 誰が責任を負うか話し合ってばかりで、まともに現実を見ていなかった集団。

 

 どこもかしこも問題は抱えていたが……。

 それでも彼女たちは、最後には自治区を守るためにと立ち上がった。

 

 それは否定しようもなく尊いことだと、オリは知っている。

 ……なにせそれは、きっとオリにはできないことだから。

 

 

 

 気を取り直すように、オリはインカムの位置を正す。

 

「で、このD.U.にもいるんだな、そういう子が。

 決して善玉じゃなくて、独自の善に向けてひた走ってる狂人……でも実力は確かにあって、それこそ全員合わされば私と対等に張り合えちゃって、こういう時にだけは頼りになる連中がさ」

 

 オリがそう言った時。

 不意に、車の進路上に、空間が歪むようにしてソレが現れる。

 

 色彩の色に染められた巨大な怪獣、ペロロジラ。

 

 最後のサンクトゥムタワーを守護しようと立ち塞がる、最後の敵に対し……。

 

 

 

 

 

 

「カイテンFX Mk.(インフィニティ)、出撃!!」

 

 どこかで上げられたのだろう高らかな叫びが、D.U.自治区に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

“……あ、あれは!?”

 

 思わずディスプレイに掴みかかる先生。

 その画面上では、不可思議な存在が現れていた。

 

 目からプラズマのようなビームを迸らせるペロロジラに対し、横合いから跳び蹴りを喰らわせる、おおよそ同じくらいの巨躯を持つ何者か。

 かつて、まだシャーレが無名だった頃にオリと共に撃破したモノによく似たそれは……。

 

 寿司の意匠を施された、ロボットだった。

 

“ばっ、馬鹿な……!? アレは、あんなに大きくなかったはずなのに……!!”

「ふふふ……ミレニアムの全知が手を尽くしちゃった結果生まれた、サンクトゥムのエネルギーを流用した物理現象超越、質量拡大。そしてそれに応じた、指名手配犯たちの秘密兵器。私たちが戦ったヤツの完成品。

 いいや、もっともっとわかりやすく言うんなら……そう」

 

 目を輝かせ、子供のような憧れの表情を見せる先生に……。

 

 オリもまた、いたずらな笑みを含んだ声で応えた。

 

 

 

「巨大怪獣を倒しに現れた、正義の巨大ロボだよ!」

 

 

 







 サンクトゥム関連はちょこちょこ設定をイジってる部分があります。
 物語として簡略化するためだったりするのでご容赦を。



(追記)
 リオの解釈概ね一致で安心しました。
 本作のリオはオリが近くにいたせい(おかげ)で原作とは少し違う性格になっていることはご了承ください。
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