調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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 調月姉妹要素:4文字
 全知要素:91文字





調月姉妹と静謐な山に流れる清水が如く透き通った美貌と全てを知るとされるキヴォトス最高峰の頭脳を持ち合わせる、雪の結晶と同じように生まれたこと自体が大自然の神秘とすら言える超天才清楚系病弱美少女

 

 

 

 明星ヒマリ。

 彼女はミレニアムサイエンススクールに所属する生徒の1人であり、調月姉妹にとっては、少しばかり特別な意味合いを持つ少女だ。

 

 彼女の最大の特異性と言えば、その頭脳だろう。

 超天才という言葉に十分に見合う、すさまじい頭のキレと知識の量。

 ミレニアム史上でも3人しか獲得したことがない「全知」なる学位を獲得した(と自称する)その頭脳は、実際リオ以外の誰も横に並べない程だ。

 

 その見た目もまた、彼女の自称に相応しい。

 髪や肌の色素が極めて薄く、その瞳は切れ長ながら穏やかで理知的な光を宿している。

 更に、生来の病弱さと体の不自由から、常に大型の自作車椅子で移動しており、こうして入浴する際は誰かの介添えがなければ体を洗うことも難しい程。

 まさしく清楚系病弱美少女といった様子だ。少なくとも、その言葉が彼女に相応しくないと反論できる者はまずいまい。

 

 ……こういった特徴だけを見れば、さぞ穏やかでお淑やかな少女であろうと、多くの人が思うだろう。

 いや、実際にそれは間違っていない。

 明星ヒマリが、穏やかでお淑やかであることは、決して間違いないのだが……。

 

 

 

「ふふ、オリ、どうですか? 良い感触でしょう。

 なにせこのキヴォトスにおいて唯一無二と言っていい程明晰な頭脳と美しい外見を完璧なバランスで持ち合わせた、まさしく天より二物を与えられたと言っていい、清楚という言葉の象徴のような美の化身を抱き締めているのですから!」

 

 ……彼女はやや、自分への評価が高すぎた。

 

 いや、高すぎるというのもまた語弊だ。

 実際、明星ヒマリの自己評価は的外れなわけではない。

 

 ソースは不鮮明で多少誇張が入っている部分はあるが、確かに彼女はキヴォトスにおいてもトップクラスの天才的な頭脳を持ち、同時にトップクラスの儚げな魅力もまた持っている。

 

 実際、彼女の語りは当然の事実を明朗快活と告げるようであり、その不思議な愛嬌もあって、どれだけ自賛に溢れても嫌味さを感じない。

 

 が、それを「正しい情報だから」という理由を以て堂々と他人に語れる辺り、彼女の見た目にそぐわぬ図太さが表れている。

 そう、この明星ヒマリという少女、なかなか良い性格をしているのだ。

 

 

 

 とはいえ、それは彼女を背中から抱き締めている少女もまた、同じではあるのだが。

 

「感触? んー……骨と皮!w」

「オリ?」

「冗談冗談! でも、やっぱりちょっとばかし痩せすぎだと思うよ、ヒマリ。

 あんまり体動かせないから難しいかもだけど、もうちょい食べてもいいんじゃないの? 体うっす……って感じだよこれじゃ」

「あなたたちと比べたら、殆どの生徒の体が薄いと思いますよ?」

 

 そんなことを言いながら、浴槽に浸かるヒマリを後ろから抱き締めているのは、調月オリ。

 少し離れたところから呆れた様子で眺める、調月リオの姉(自称)である。

 

 

 

 ヒマリと調月姉妹……より正確には、ヒマリとリオの間には、浅からぬ因縁があった。

 

 彼女たちは、どちらも極めて明晰な頭脳を持つ。

 このミレニアムにおいても、ここまで冴えた頭を持つ者は、他にはいない。

 リオにとってヒマリは、そしてヒマリにとってリオは、おおよそ唯一完全に思考を共有し合える相手と言っていい存在だった。

 

 しかしながら、彼女たちの行動指針は、対極的と言っていい。

 感情を捨て去ろうと努め、現実的で合理的な未来を目指すリオに対し……。

 ヒマリはどちらかと言えば、自分の望む未来に向かうよう、現実を作り替えようと試みる。

 

 故に、最終的に目指す未来や、その方法論が大きくズレてしまう。

 どうしても意見の食い違いが発生してしまうのだ。

 

 結果として、明星ヒマリと調月リオは日常的に、緩く敵対している。

 決して表沙汰にはならないが、常日頃からお互いが余計な行動を取らないよう、消極的な監視と警戒、妨害を続けているのだった。

 

 

 

 ……が、そんなことは不条理の化身たるオリには関係ないわけで。

 

「あ、そいえばヒマリ、作ってもらったグラップリングフックの射出装置、この前めっちゃ役立った! アレがなかったらちょっと痛い目にあってたよ、ありがとね」

「構いませんよ。オリはどこぞのビッグシスターと違って、健康的で活動的ですからね、あの程度の装備は必要でしょう。メンテナンスが必要になれば言ってください」

「うん! いや、ホント助かったよ。先生にはあの高さは危……すぅ~~~……危なかったと思うし」

「シャーレの先生については詳しく話を聞いてみたいところですが……その前にオリ、無断で人の頭皮の匂いを嗅ぐのはあまり褒められた行為ではありませんよ?」

「良い匂い……」

「まぁそれはそうでしょうね! なにせこの冬の月が如き孤高にして唯一の美を誇る……」

「おばあちゃんの家の樟脳の匂いがする」

「オリ」

 

 オリは妹とは違い、ヒマリと親しくしている。

 ……より正確に言うのなら、やんちゃなオリをヒマリが受け入れてくれている、という表現が正しいが。

 

 そもそもヒマリがリオを敵対視するのは、「自分に並ぶ程の頭脳を持ちながら、どうしてそんな方向性に自らの能力を使うのか」という怒り……つまるところ、いわゆる「解釈違い」の側面が強い。

 自身とは全く別の方向に大きな実力を持ち、なおかつ自身に近しい精神性をしているオリは、ヒマリにとって強く親近感を覚えられる相手であり……。

 オリの方も、知識がある上にノリも良く、話していて飽きが来ないヒマリにはかなり懐いている。

 

 そういうわけで、ヒマリはオリのために装備を作ったりすることもあり、そのお返しとしてオリはヒマリの調査を手伝ったりもする、緩やかな協力関係を築いているのだった。

 

 

 

 

「……もう、いいかしら。今は些か時間がないのだけれど」

 

 見方によってはいちゃいちゃしているようにすら見える2人に、少しばかり気まずい様子でそう言ったのは、リオだった。

 対し、オリははっと目を見開く。

 

「あ、そっか、今シリアスシーンだったっけ」

「ええ、そうですね。そろそろ話を戻しましょう」

 

 こほん、とヒマリはわざとらしく咳払いをした。

 どうやら少し時間をかけすぎていると感じていたのはヒマリも同じらしい。

 しかし、それを口に出すことはできず、だからと言ってリオの言葉に乗ることもできず、オリの言葉に応える形でようやく本題に戻ったのだった。

 

 腕の中でヒマリがほんの少し気まずげに身をよじったのを感じて、オリは内心でため息を吐く。

 

 仲の良い友人と大切な妹が険悪なのは、肝の太い彼女をしても、若干の居心地の悪さを覚えてしまう。

 それも本格的に険悪とかじゃなく、「ヒマリ、あなたならきっと……」とか「リオ、どうしてあなたはそう……!」みたいな、ちょっと湿度まで感じる関係性だ。

 

 お互い認め合ってるんだから、さっさと妥協点を探るなり何なりで意地の張り合いは切り上げてほしい、というのがオリの偽らざる本音であった。

 ……とはいえ、夢の中で会う「彼女」の言葉を信じるのなら、それはだいぶ先のことになりそうではあったが。

 

 

 

「ヒマリ。あなたがここを見つけた方法は、この際聞かないわ。

 けれど……あなたはあの『少女の形をしたモノ』、AL-1Sについて、何を知っているの?」

 

 リオは気を取り直すように本題を切り出す。

 何を話すにせよ、あるいは席を立つにせよ、まずはヒマリがどこまで状況を掴んでいるかを確認する必要があるが故の質問ではあったが……。

 

 対してヒマリは、とぼけるように笑顔で返す。

 

「『少女の形をしたモノ』のことは何も知りませんよ? 『私たちの後輩になってくれるかもしれない可愛らしい女の子』のことなら知っていますが」

「アレは、ヒトではないわ」

「あなたは一体何を見ているのですか? 純粋無垢にゲームを楽しむ少女が人間でなければ一体何だと言うのでしょう」

「……あの廃墟の、私やあなたでさえアクセスできなかった領域にあった、恐らくは人造であろうと思われる不可思議な存在。それがヒトだと言えるの?」

「誕生の経緯や生育の環境が違えば人間足り得ないと? であれば人工授精で生まれ歪んだ家庭環境で育った人間は人間ではないと言うのですか?」

「そういう問題ではないわ。定義上人間の遺伝子を持たない彼女は……」

「なるほど。つまり身体不全により完全義体に精神を移入した者は既に人間とは言えないと? あなたは一体何を基準に人間であると定義しているのです?」

 

 オリは、あーあーと内心でため息を吐く。

 

 この2人の議論は、大体いつもこんな感じだ。

 リオが感情を排除した冷たい言葉を吐き、ヒマリがそれにピキッと来て多少の怒気を含みながら否定し、リオが真正面から反論、ヒマリが更に苛立って反論……と。

 2人の思考過程が対極である以上、その議論も平行線になってしまう。

 

 そういう部分で、普段は一歩引けるはずの温厚なヒマリも、ことリオ相手となると内心の不満が燻るのか、いくらか感情が出る……というか丸出しになってしまう。

 リオもリオで、ミレニアムを守らねばならないという重圧から、決定的な破綻が見つかるまでは自分の意見を取り下げようとはしない。

 

 まったくもって不毛なこの会話は、大抵がどちらかの予定の時間が来るまで続くのだが……。

 今日は、少しばかり事情が異なった。

 

 

 

 リオは、じっとヒマリを見つめて言う。

 

「……ヒマリ、あなたもわかっているはずよ。

 今回の論点は、AL-1Sが人間であるか、ではない。曖昧な定義を元に無駄な言葉を紡ぐだけの時間は、私たちにはないの」

 

 今回の件はリオにとって、真の意味でミレニアムの存続に関わる問題なのだ。

 

 故に、キロリと、その赤く冷たい瞳がオリを捉える。

 ヒマリと言葉を遊ばせる以上に、リオはオリとの情報共有を優先した。

 

「オリ。名もなき神々のことは知っている?」

「んー……名前は知ってる。でもその意味は知らない」

「それでは、改めて教えるから、聞きなさい」

 

 

 

 リオの説明は、理知的で理論的だ。

 1本の大筋を幹として、そこから枝を伸ばし葉を伸ばし、必要な情報を提示していく。

 ……しかしながら、彼女の語りはあまり聞き手側のことを考えてはおらず、また自分の頭の回りを基準としているため、慣れていないとなかなかに理解が困難なのだ。

 

 しかし、流石に生まれついた時からの付き合い。

 オリはリオの説明を頭に流し込むことに長けている。

 

 ヒマリの脇腹を突っついて面白い悲鳴を楽しみながら、オリは受けた説明を頭の中で整理し直した。

 

 

 

 ……「名もなき神々」。

 それは、キヴォトスに以前存在したとされる、「ナニカ」。

 今やビッグシスターの手ですら資料は殆ど集められない、真偽も不確かな太古の記録。

 そこに記述された、信仰を受けていた大いなる存在の総称だ。

 

 恐らくは、アニミズム信仰や自然信仰の類。

 何気ない自然現象や、当然発生するこの世の理を神格化したものではないかと、リオは推察していた。

 例えば、いくつも分岐した川の氾濫を8ツ首の龍に例えたり、吹きすさぶ嵐を天狗の仕業と捉えたり。

 悪性善性問わず、当時のキヴォトスの民の信仰を集める人知の及ばぬ存在のことを、彼らは「神」と呼んだのだと。

 

 そして、名もなき神々を崇める民は「無名の司祭」と呼ばれる。

 既に彼らは滅び、キヴォトスを今の住民たちに明け渡しているのだが……。

 

 どうやら、オリにとっての問題は、むしろこちら。

 無名の司祭たちの方らしい。

 

 

 

「無名の司祭は、現在のミレニアムの技術の、少なくとも9世代は先の技術を持っていた。

 それらを以て、ヘイローを持つ新たなる民……つまるところ、私たちの祖となる民族と、生存競争を繰り広げていた……と読み取れるわ。

 最終的に、その戦いには私たちの祖が勝利した。敗れ去った無名の司祭たちは滅び去り、その技術は既に忘れ去られ……現在その多くは、廃墟の地の底に死蔵されているの」

 

 知られざるキヴォトスの歴史。

 ほへーと息を漏らしてそれを聞きながら、オリは気まぐれにヒマリの肩を揉む。

 

 「あの子」に聞くだけ聞いて、しかしその言葉の大半を理解し切れていなかったオリだが、これでようやく理解が進んできた。

 つまるところ、リオが言いたいのは……。

 

「アリスちゃんは、無名の司祭たちの作った人造人間? ってことね。

 で、無名の司祭たちは私たちの先祖……というか今のキヴォトスにいる者たちに敵対的、と。

 だからAL-1S……天童アリスちゃんも危険なのかもしれない、って考えてるわけだ」

「ええ、概ねその理解が正しい可能性が高い。……ただし、真相は恐らくもっと悪いものだけれど」

「ふむ?」

 

 首を傾げながらヒマリをくすぐるオリに対し、リオは一度まぶたを閉じて一拍空ける。

 

 それは彼女にとって、整理と覚悟の時間だった。

 自らの推論が本当に間違っていないのか。その方法が本当に最適なのか。

 

 それらの計算を終え、……本当に間違いはないのかともう一度計算を行い。

 それでもなお、やはりこれがただしいと確信して、リオは口を開く。

 

「今までの統計上、オリの夢に現れる特異現象・『あの子』の予知は、極めて正確よ。それこそ、未来に起きる出来事を、何かの書物で読んだかのように。

 AL-1Sが『名もなき神々の王女』に該当する存在であると、現段階ではその仮定の上で推論を進めるべき。

 ……ヒマリ、この名称が示すことは何?」

「はぁ、はぁ……ふぅ、そうですね。

 まず第一に、他に王位継承者がいない場合、王女は女王になるもの。

 彼女は恐らく、無名の司祭たちが人工的に『名もなき神々の女王』という存在を作ろうとしたもののプロトタイプ。あるいは未完成なままに終わったもの、もしくは彼らの作った何かを以て完成するオーパーツ……といったところでしょうか。

 現状はまだ、この内から答えを絞り込める段階にはないかと」

「そうね、私も同意見。

 そして、国というものは王があって成り立つもの。

 これまでに発見された資料の情報も合わせて考えるに、恐らく『名もなき神々の女王』という存在の発生は、特異現象・『名もなき神々』の復権の始まりであり、無名の司祭たちの支配体系の復活を意味する。

 それはキヴォトスの、ひいてはミレニアムの全く新たな形への転換を示すものよ。

 ……ここまでは、同じ理解を持っていると思っていいのかしら」

「ええ、大方異論はありません。

 勿論、『あの子』という存在が真実を語っているのかは確認の必要があるでしょうが、これまでに観測されたデータとは一切の矛盾が生じませんね」

 

 

 

「…………huh?」

 

 急激に上がった議論のスピードに、オリは呆けた猫のような表情を浮かべる。

 思考が理解に追いついて行かない。完全に2人だけの世界であった。

 

 オリはリオやヒマリのように、桁違いに明晰な頭脳を持っているわけではない。

 その場その場の柔軟な思考こそあれど、知識量も頭の回りも、2人には到底及ばないのだ。

 

 彼女の様子を見たリオは、なんとか自称姉が理解できる形に話を落とし込もうとする。

 

「オリ、ひとまず今は……そうね、あの少女の形をしたモノ、名もなき神々の王女は、キヴォトスを滅亡させる爆弾だと思えばいいわ。

 今のところ爆発する気配はないけれど、何が条件になって爆発するかは不明な不発弾」

「わお」

「……驚かないのね」

「ま、『あの子』に軽くは聞いてたしね」

 

 無論、ただ聞いていただけなので、実感はなかったのだが。

 こうしてミレニアムが誇る2つの頭脳から直接話を聞き、「聞いてはいたけどこりゃ思ってたよりやべー事態っぽいな」というのが、オリの感じた正直な感想であった。

 

 

 

「ミレニアムに、危険物を入れるわけにはいかない。

 ……名もなき神々の王女は、排除する。如何なる手段を以てしても」

 

 ミレニアムサイエンススクール、セミナーを統べる生徒会長(ビッグシスター)は、静かに裁定を下す。

 これこそが唯一無二、絶対の正答であると言わんばかりに。

 

 ……しかし、今、浴槽には、彼女に唯一異を唱えられる少女がいた。

 ミレニアムの「全知」明星ヒマリは、堂々と胸を張ってビッグシスターに向かい合う。

 

「それは時期尚早な判断でしょう、リオ」

「何故そう思うの? 危険性を早期に切除するのは合理的な考えよ」

「天童アリスが真に『名もなき神々の王女』たる存在なのかは未だ不明。

 あなたがやろうとしていることは、まだ何の罪も犯していない無辜の民を、犯罪を犯す可能性があるからと処刑することに他なりません」

「今回の件に関しては、疑わしきを罰する必要があるだけのリスクを孕んでいるわ。実際に『それ』が起こってからでは遅いのよ」

「『あの子』が嘘を言い、あるいは勘違いをしている可能性もあるでしょう」

「可能性があること自体は、先程から否定していないはずよ。話題を逸らすのはやめて頂戴」

 

 今回もまた、2人の議論は平行線。

 どこまでも慎重に、あるいは臆病に、1人で多くの人を守ろうとするリオ。

 どこまでも前向きに、あるいは挑戦的に、1人の少女を見捨てないヒマリ。

 彼女たちは同じだけの視座を持ちながら、けれども手を取り合うことはない。

 

 不意に、シン、と静まり返る空気。

 漂い始めた緊張感に、リオの横に控えるトキが、そして水風呂に浸かっていたエイミが、チラリと互いの存在を確認する。

 

 どちらかが動き出せば、即座に弾けてしまうような、緊迫した空気。

 

 そうして、それは────。

 

 

 

「っひゃん!」

 

 ヒマリの声で、弛緩した。

 

「ちょ、な、何をするんですかオリ!」

「物騒なことはやめてよー、ここお風呂だよ? 憩いの場だよ?

 いやそりゃ私だって暴れることあるけど、それでも空気ってモノはあるじゃん?」

 

 ちろりとヒマリの耳を舐めたオリは、呑気にそんなことを呟く。

 

 そうして、ふざけた雰囲気を収め、リオの赤い瞳を真正面から見据えた。

 

「リオちゃん、お姉ちゃんからお願い。1回だけ、信じてくれないかな」

「……AL-1Sの善意を、あるいは人間性を信じろ、とでも言うつもり?」

「ううん、私のことを、だよ」

 

 首を振ったオリは、ヒマリの体をきゅっと抱き締め、言う。

 

「私は『あの子』から聞いたから、知ってる。アリスちゃんは今、記憶も使命も失ってるんだ。

 だからアリスちゃんは、少なくとも『まだ』、『名もなき神々の王女』にはならない」

「……続けなさい」

「うん。だから、試してほしい。

 アリスちゃんが、危機や危険に差し迫った時、周りの人たちを傷つけないか。

 彼女が……このキヴォトスに住む人たちに対して、積極的な攻撃性を持っているかどうか」

 

 

 

 リオは、自称姉の言葉に、数十秒の間思案を続けた。

 その言葉をどう捉えるべきか、何故オリがそう言っているのか、そこでミレニアムが得られるリターンと、生じるリスク。

 全てを天秤にかけ、丁寧に計算を続け、何が最善かを判断しようとし……。

 

 結局、ただ1つの要素が、あらゆる天秤をひっくり返す。

 

 

 

 そうしてリオは、重いため息1つ。

 

「…………一度だけよ」

 

 そう、諦めたように呟くのだった。

 

 

 







 この3人の空気感を書きたくて本作を始めたと言っても過言ではない。
 あと、今回リオたちが語った内容は、あくまで彼女たちがそう思ってるだけなので、必ずしも正しいというわけではないです。

 対策委員会三章プロローグ、情報量多すぎておかしくなっちゃうよ……うへ……。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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