無料で読めるので読んでください。
「満面の笑顔でユウカの太ももの間に顔を挟むアリス」が公式で見られるので読んでください。
ユウカも満更じゃなさそうなので読んでください。
早くケイもメンバーに加わってほしいので読んでください。
オリのお願いにより、リオが今すぐにAL-1S……天童アリスの排除に動くことはなくなった。
これにより、即座にアリスが名もなき神々の王女が覚醒することや、リオがそれとミレニアムをあげた決戦をするような展開は回避されたが……。
それはそれとして、オリのすべきことは変わってはいない。
そもそも今回オリがリオを止めたのは、現在彼女が取り組んでいる問題とは別の、少しばかり先に響いてくる話。
言うならば、後々の伏線となるサブストーリーの類でしかない。
誰より熱心なシャーレの部員を自負するオリの目的は、あくまでもミレニアムを訪れゲーム開発部を助けようとする先生のサポート。
つまるところ、ゲーム開発部の廃部の阻止であった。
……まぁ、それもリオが今後の方針を決定した今となっては、その手の上で踊る茶番のような状態なのだが……。
そうしてまた青春の1ページであろうと、オリは納得している。
そして何より、
そうも、思っている。
しかし、だからと言ってオリや先生がゲーム開発部の廃部の阻止に全面的に協力できるかと言えば、それはなかなか難しかった。
一時期前、まだシャーレの知名度がゼロに等しかった時期であれば、話は別であったが……。
アビドス高等学校での問題を半ば解決したことでその知名度を上げた今、各地から様々な問題や問い合わせが寄せられるシャーレの顧問である先生は、かなりの多忙の身。
常にゲーム開発部にかかりきりになるわけにもいかず、特に用事がない場合は2日に1日程度、空いた時間を縫ってミレニアムを訪れるのが限界だ。
オリもまた、他の部活の助っ人に入ったり、定期的に来るヒマリからの調査依頼をこなしたり、お願いの対価としてリオに要求されたデータ収集を行ったり、あるいはシャーレの当番に呼ばれたり、黒服と会う必要があったりと、自由に使える時間は多いわけでもない。
可能な限り先生のタイミングに合わせてゲーム開発部を訪問してこそいるものの、どうしても毎日とまではいかない。
そういった事情から、危急の用事がなく、アリスにゲームをプレイさせ続けている今、先生とオリが来る頻度は少しばかり低め。
そんな日々の中で2人は、アリスが少しずつ普通の言葉を使えるようになる……と言うよりは、その語彙がゲームの語録へと傾いている様を見て、「これでいいのかなぁ」と首を傾げていたのだが……。
そんなある日。
ゲーム開発部の3人から「今日だけは来てほしい」と連絡があったため、揃って部活の扉を叩くことになったのであった。
* * *
「ゲー開部、来たよー」
そう言って、気軽に扉を押し開けた先。
そこにいたのは、才羽姉妹と天童アリス……だけではなかった。
「ひゃっ!」
悲鳴を上げながら慌てて手近なクッションで頭を隠したのは、いつぞやロッカーの中から顔を覗かせた、赤髪の少女。
ゲーム開発部の長であり、極めて強い人見知りの気を持つ少女、花岡ユズだ。
彼女の姿を確認すると、オリは即座に先生を内に引き入れ、静かに内と外を繋ぐドアを閉めた。
「いきなりドアを開けてごめん、驚かせたかな。今日来たのは私と先生だけだよ」
ユズは現実逃避でもするように頭だけを隠して震えていたのだが、オリの言葉を聞いて、少しだけその震えは小さくなり……。
おずおずと、恐る恐るクッションから顔を出して、入り口に立つ2人の方へ視線を向けてくる。
そうして、オリの言葉が真実であると確認した後。
まだ緊張気味ではあるが、安堵のため息1つ、クッションを足元に置き直したのであった。
ユズが少なからず落ち着いたのを見て、オリは思わず「おっ」と声を上げる。
ユズは対人恐怖症……とまではいかずとも、人とのコミュニケーションに忌避感を持っている。
知らない人とは話すことすら難しいような状態である。
そんな彼女が、アリスがいる状態でロッカーから出て来ているということは、少なからず……というか、かなりアリスに心を許していることが窺えた。
そして、自分と先生が来てもロッカーに隠れようとせず、むしろ落ち着きを取り戻したことから考えて、自分は勿論、先生にも信頼を寄せているのがわかる。
自分がいない間に、ユズは思っていたよりも交友関係を広めていたらしい。
「ユズ、いつの間にかアリスちゃんと仲良くなった? それに先生とも」
「は、はい……その、2人とも、『テイルズ・サガ・クロニクル』を面白いって言ってくれて……」
「そうなんだ、良かったじゃん、ユズ!」
テイルズ・サガ・クロニクル。
かつてゲーム開発部が作成した、唯一のゲームである。
ミレニアム自治区はキヴォトスでも頭1つ抜けた技術力を持つ自治区ということもあり、ゲーム市場も相当に発達している。
外部では流行るどころかまだ前衛的とまで言われるVRゲームですら時代遅れと言われ、疑似的な五感刺激を受けるフルダイブ型であったり、他自治区のものとは桁外れたクオリティを持っていたりするのがもはや普通で常識で前提の、ウルトラレッドオーシャンである。
しかし、そんな市場の需要に対して、テイルズ・サガ・クロニクルは積み上がった埃すらも感じられるような、ゴリゴリのレトロゲーム。
ローポリどころかドット絵のみで構成されており、BGMや一枚絵も決して多くはなく、ゲーム性も(一部の例外を除けば)ごくごく平凡なRPG。
ハッキリ言ってしまえば、需要とはあまり一致しない内容だった。
そんな事情もあり、ユズが単独で作成し公開したプロトタイプ版は、世間からは決して高い評価を受けなかった。
それどころか、一部のプレイヤーからは、心無い批判意見すら受けることになってしまった。
クソゲー。
やる価値なし。
作者はゲーム作りやめろ。
その悪意あるコメントに心を痛めてしまったユズは、他人に会えば「また非難されるんじゃないか」と思うようになってしまい、すぐにロッカーに隠れるのが癖になってしまったのである。
更にその後、プロトタイプを気に入って押しかけ入部してくれたモモイやミドリと共に作り上げた完成版も、ネット上で悪い意味で注目を集めてしまい、某所で集計された「今年のクソゲーランキング1位」に輝いてしまった。
ユズにとってテイルズ・サガ・クロニクルは、自分たちが作り上げた唯一無二のゲームであると同時、面白くないだのクソゲーだのと散々こき下ろされた、苦い記憶の残る傷痕なのだった。
……しかし。
そんなテイルズ・サガ・クロニクルには魅力がないかと言えば、そうでもない。
“オリも遊んだことあるの?”
「あるよー。ていうか私、当時ユズに頼まれて、アルファ版の頃からテストプレイしてたからね。
自慢じゃないけど多分、それこそユズを除けば最古参なんじゃないかな?」
リオちゃんには散々、「何故そのようなことに時間を」と眉をひそめられてしまったけども。
オリがそう内心で付け加えていると、ユズが少し落ち込んだ様子を見せる。
「はい……オリ先輩は、その、なんというか、忌憚のない意見をくれるので……」
“それは……うん、オリなら言いそうだよね”
「先生の中の私って、そんな正直者? そう思ってくれるなら嬉しいけども」
ちょっと困ったように後頭部を掻くオリ。
そんな彼女に、それまではアリスと遊んでいたゲームに集中していたモモイが声を上げる。
「先生聞いて! オリ、テストプレイ頼むとすぐクソゲーって言ってくるんだよ! 酷くない!?」
「いやモモイが出す案はマジでホンットにクソ要素多いからね。なんで縦長のシューティングゲームで左右に弾撃つんだよ誰が使うんだこの仕様。というか何故RPGにシューティング要素が?」
「その方が面白いじゃん!」
「面白いのはシュールな画面の絵面と罠に引っかかった人の情けない顔だけだが?」
「つまり面白いってことだよね?」
「まぁ正直面白いとは思うけども」
“どっちなの……?”
首を傾げる先生に、オリは肩をすくめる。
「面白さとかゲームの評価って、何も一側面だけのものじゃないからねー。
ゲー開部のゲームのわけわかんない攻略法とかとんでもない展開の怒涛のラッシュ、一周回って笑えて来るんだよ。
実際私、テイルズ・サガ・クロニクルの完成版、総合的に見ればまごうことなきクソゲーだとは思ってるけど、同時に下手なゲームなんかよりずっと笑える楽しいゲームだとも思ってるからね」
オリのように、このゲームと感性の合う一部のゲーマーは、良ゲーだと認めている。
確かに、企業が作るゲームような強烈な没入感や達成感は得られないかもしれないが……。
この、誰かの「好き」が詰まったゲームからこそ得られる、唯一無二の体験があると。
「少なくとも私からすれば、ノルマこなすみたいに作られた何のこだわりも感じられない工業製品みたいな凡作なんかより、このとんでもないクソゲーの方がよっぽど面白くて楽しいと思うよ」
「左右弾も面白くて楽しいでしょ!?」
「いやそれはマジでおもんない」
「さっきは面白いって言ったのに!?」
オリは改めて、ユズを見る。
まだ少しばかりおずおずしているものの、今もロッカーに逃げ込もうとしないところを見るに、どうやら彼女はアリスや先生に心を開いているらしい。
その表情は、落ち着かない風ではあったが、しかし今までにない程楽しそうでもあった。
それを見て、知らずオリの頬が緩む。
オリはかつて、ユズの絶望の表情を見たことがあった。
元より花岡ユズは、自分を出すのが得意ではない内気な少女。
そんな彼女が、知り合いの先輩にテストプレイを頼んでまで世間に出した渾身の一作が、鬼の首でも取ったかのように叩かれたのだ。
そして創作とは自身の価値観や人生観といった感覚の結晶であり、それらの感覚は多くの体験から導かれるものであり、体験とはつまりそれまでの人生だ。
創作者にとって、創作を否定されることは、人生を否定されることにも等しい。
感覚が離れすぎているが故に、オリからすれば想像することしかできないが……。
きっとそれは、それこそ夜のロッカーの中のように、暗く冷たく閉塞感のある空間に包まれるような気分だったに違いない。
故にこそ、オリは嬉しかった。
自分が面倒を見た少女に、新たな友人と信じられる大人ができたことが。
そんな素直な気持ちをニヤニヤとした笑顔で隠し、オリは先生の脇腹を肘で突く。
「さっすが先生ったら、生徒たらしだねぇ~!
ユズってアレだよ? 最初に仲良くなるまでがすっごく長いというか、きっかけ掴むのがかなり難しいタイプだよ?
それをたった5日かそこら……先生の来訪頻度を考えると2、3日でこなせたってのは、トロフィーか何か獲得できてもいい偉業だよ!」
対して先生は、思わずといった様子で苦笑いを漏らした。
“アリスが『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイしている日に来ることができてね。
アリスも面白がっていたし、私も楽しく思いながら見ていたよ”
「はい。『テイルズ・サガ・クロニクル』には確かに面白さが存在していました」
先生の言葉に、モモイと対戦ゲーム中のアリスが、コントローラーを握ったまま頷いて応えた。
「確かに面白さが存在する」という絶妙な言葉に、オリは何とも言えない苦笑を漏らす。
アリスは嘘を吐いていない。確かに『テイルズ・サガ・クロニクル』に面白さを覚えてはいたのだろう。
というか、精神的にまだ幼いと言っていいアリスは、嘘を吐いてまで誰かを励ますという思考にまで行き着いていない、と言うべきだろうが。
画面から目を離した隙に、対戦ゲームをしていたモモイがアリスにK.O.されたことを契機に、閑話休題。
満面の笑顔でゲームをプレイする、天童アリス……と、現在は名乗っている少女。
彼女の正体を知っているのは、ゲーム開発部の面々と先生にオリ、そしてミレニアムの2つの頭脳のみ。
そういった事情から……そしてもう1つの理由からも、オリは少なからずアリスに気を配っていた。
「改めて2日ぶり、アリスちゃん。その後調子はどう?」
聞かれたアリスは、前にオリが見た時の機械じみた無感動な所作ではなく、人間らしいキレのある動きで敬礼を返して来た。
「はい、オリ。アリスは現在、格闘系勇者として活動中です。
モモイに対して現在33戦29勝4敗、もはやアリスの起き上がりライジングドラゴンを止められる者はどこにもいません!」
「うわーん、執拗なぶっぱでアリスにボコボコにされる!」
「お姉ちゃん、すぐ頭に血が昇ってガード忘れるから……あ」
「んあーッ中パンつよすぎぃーッ!!」
バターンと後ろに倒れるモモイ。
画面にはアリスのキャラクターの勝利演出が流れている。
「ぱんぱかぱーん! 称号、『モモイに対して30勝』を獲得しました」
「よし、アリスちゃん、次は私と勝負だよ」
「あ、アリスちゃん、上達が速いよね……!」
いつしか本題から逸れ、わいわいと1つのゲームを中心に盛り上がるゲーム開発部を見て、オリの眉に入っていた力が抜ける。
少しだけ、ほんの少しだけ心配していたが……。
アリスは問題なく、このゲーム開発部に馴染んでいる。
これなら……リオちゃんに頼んだ「試し」も、無事に終わることができそうだ、と。
“……ところで、今日は何の用だったの?”
「あ、そうそう、今日はユウカが来る日なんだ! アリスの資格審査さえ通れば、これにて廃部の危機は完全になくなるってわけ!」
アリスとミドリの対戦を見ながらも、モモイは先生の問いに答える。
「あー、いや、それなんだけどさ、多分部員数が足りても……」
対して、オリは少し申し訳なさそうな表情で言うが……。
「モモイたちはいる?」
その声は、部室外からかかったユウカの声にかき消されてしまった。
ぎょっとして扉の方を窺うモモイ。
その見た目からは想像も付かない程の俊敏さでロッカーに逃げ込むユズ。
負けてうわーんという顔をするアリスに、両手を挙げて勝利の喜びを表すミドリ。
今、
モモイの起き上がりぶっぱ警戒できなそう感は異常。
毎回ぶっぱして狩られてそう感も異常。