調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

121 / 144
逆襲

 

 

 

 ウトナピシュティムの本船。

 先生たちがアトラ・ハシースの箱舟に至るために使った、アビドス砂漠に埋まっていた古代文明のアーティファクト。

 

 これは本来、アトラ・ハシースによる情報攻撃に対し、強い耐性を持つ。

 そもそも、ウトナピシュティムの本船自体が、アトラ・ハシースの箱舟に抗するために生み出されたカウンター機構。物質の再構成を筆頭とする攻撃に耐性を付与されているのは、ある種当然の帰結であった。

 

「この情報攻撃耐性は、私によるアトラ・ハシースへの書き換えの後にも有効です。今も確かに、この機能が正常に成立していることを観測しています。

 しかし同時、現在ハッキングを受けているというのに、この機能は沈黙している。

 即ち……このハッキングは、直接的にアトラ・ハシースを使ってのものではない、それ以外の何かからの干渉、ということになります」

 

 エラー音の響くウトナピシュティムの本船のオペレーター室にて。

 天童アリス……いいや、その中にいるケイが、呟く。

 

 アトラ・ハシースの制圧が殆ど完了した時から始まった、不明な敵によるハッキング。

 これに対し、オペレーターたちは必死に防備を固めたが……。

 ミレニアムが誇る二つの頂点、明星ヒマリと調月リオ、そして元「名もなき神々の王女の鍵」であるケイをしてすら、この攻撃は止めるには至らなかった。

 

 その時ウトナピシュティムのシステム内にデータとして存在したケイは、自らまでも相手に掌握され、再びアリスたちの敵となることを忌避し、アリスの体へと退避。

 現在は、少しでもハッキングを留めようとコンソールへ指を走らせながら、情報共有を行っている。

 

「……物質の再構築、情報の塗り替え、定義の変更、いずれも確認できず。このハッキングは、名もなき神々による力ではありません。

 ただただ、シンプルな情報攻撃……掌握ではなく、恐らくは機能停止を目したクラッキング。

 しかし、私さえ見たことのない規模と速度。これは一体……いや、まさか?」

 

 半ば独り言のように、ケイは言葉を並べ……。

 ちらりと、モニターに映る映像の1つを見やる。

 

 そこに映っているのは、保護したシロコを連れ、このクラッキングの発信源であると特定された「ナラム・シンの玉座」と呼ばれる場所に急行する先生……。

 その手に握られている、一つの遺物だ。

 

 その名は、「シッテムの箱」。

 あるいは……「契約の匵」とも。

 

 先生がキヴォトスに至る際に連邦生徒会長から託されたものであり……。

 数えきれない程、先生を助けたアーティファクトでもある。

 

 ケイは他の生徒たちと違い、「名もなき神々の女王の鍵」としての知識を有している。

 故に、その遺物の正体に、ある程度の推測を付けることもできた。

 

 おおよそ全てを叶えるアレならば、このようなハッキングも可能だろう。

 なにせ、それはこの世界の根底を定めるべき「崇高」を有しているのだから。

 

 しかし、それは可能不可能の話であって、ケイは実際にこれが事を起こしているとは思っていない。

 所有者である先生に、その様子がないからだ。

 

 ケイから見て、先生はいたずらに生徒の邪魔をするような人間ではない。

 ふざけている時は極めて不愉快でイライラムカムカする人間ではあるが、エリドゥでの戦いでそうだったように、生徒たちの命が懸かった状況でそんなことをする質ではない。

 今だって、真剣そのものの表情で先導するシロコの後を走っている。

 

 更に言えば……契約の匵は、過度の奇跡には対価を求める。

 無理にウトナピシュティムの本船を起動した際に、先生が少なからぬダメージを負っていたように……。

 ウトナピシュティムの本船という巨大な演算装置に、この規模と速度のハッキングを行えば、少なくとも多少の顔色の変化はあるはず。

 いいや、それどころか、キヴォトスの外の人間には耐えられない程のフィードバックがあるかもしれない。それ程に、この船の防御能力は高いのだ。

 

 それなのに、画面上でハッキングの発信源へと走る先生は、そんな重い負荷を感じている様子はない。

 

「では……一体何が」

 

 考えすぎかと、ケイは一度視線を切り、手元のコンソールに視線を向け直す。

 

 

 

 ……それが杞憂ではないことを、ケイはまだ知る由もない。

 

 彼女の力を以てなお、玉座にいるその存在を覗き見ることは許されなかったのだから。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ウトナピシュティムの本船のクラッキング。

 青天の霹靂とも言えるこれを受けて、先生とシロコは「ナラム・シンの玉座」へと駆ける。

 

 2人がここへ向かった理由は簡単で、シロコが囚われていたセクションはナラム・シンの玉座と程近く、可及的速やかに発信源を叩くのであれば、彼女たち以上の適任がいなかったからだ。

 2人は情報共有もそこそこに、現在の状況に対応するためにひた走った。

 

 外に繋がる窓からは、再び赤く染まった空が窺えた。

 虚妄のサンクトゥムの再生までには、未だ暫くの猶予がある予測だったが……あるいはこれも不可解なクラッキングの主の仕業か、再生速度を異常に速め、再びキヴォトスを赤く染め始めてしまった。

 

 各学園の意思統一のために設けられた緊急対策委員会が不在であり、先生が地上の生徒たちの指揮を取れない今、地上に残っている生徒たちが虚妄のサンクトゥムの被害を抑えられるかはわからない。

 もはや猶予はなかった。少しでも早く、これを停止させる必要がある。

 

 そのための手段は、1つ。

 クラッキングの大元を断ち、多少強引にでも事態解決を図ることだ。

 

 

 

 そうして辿り着いた先、「ナラム・シンの玉座」。

 

 そこには……いた。

 

 アビドス砂漠でシロコを攫ったという存在。

 先生が変貌したシロコを追って辿り着いた先で見たモノ。

 黒服が「プレナパテス」と呼んでいた……この世界の侵略者が。

 

 石でできているように思える仮面を被り、司祭のローブのようにも見える白い外套を羽織った、奇妙な風体の巨体。

 それを確認するや否や、シロコは愛銃を握り、声を上げる。

 

「止まれ! 少しでも動いたら、撃つ!

 ……下手な抵抗はやめた方がいい。

 ここには、「シャーレの先生」がいる。だからもう、全部終わり。大人しく降参して、すぐに……」

 

 シロコは平時からは考えられない強い口調でソレを脅し……。

 

“…………”

 

 しかしそれに対して、プレナパテスは、動きを止めない。

 非常に緩慢な動きではありながらも、何かを取り出そうとするように、その手を白い外套の中へ伸ばした。

 

「動くな、手を挙げろ! さもないと……!!」

 

 どれだけ言っても止まらない敵に、シロコは眉を寄せ、引き金を引き絞り。

 彼女の愛銃からは、人を殺し得る威力の鉛の嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 ……が、しかし、それより僅か早く。

 

“……我々は望む、ジェリコの嘆きを”

“……我々は覚えている、七つの古則を”

 

 プレナパテスが掴んだ、タブレット状の遺物の、認証が通った。

 

 

 

 

 

 直後、シロコが目にしたのは……。

 

 自らの撃ち放った10発の弾丸、その尽くが、虚空を切り裂き、地面に跳ねる光景だった。

 当然ながら、プレナパテスは傷を負うどころか揺らぎすらしていない。

 

「銃弾が、全部外れた……? この距離で、なんで……!?」

 

 あり得ない、と瞠目する。

 

 砂狼シロコは、ストイックな気質の持ち主だ。

 毎日のように運動と鍛錬を欠かさず、その銃の腕は今やアビドスでホシノに続く程の実力者。

 そのシロコが、僅か10メートル先の相手に対して、たった一発すら当てられないなど、あり得ない。

 

 いいや、それどころか。

 シロコは確かに、弾丸を命中させたという実感まで持っていた。

 風は吹いておらず、手はぶれず、掩蔽はない。確かに敵に攻撃を命中させたはずだったのだ。

 

 それなのに……当たったはずの銃弾は不可思議な挙動で逸れ、外れた。

 外れたことに、された。

 

 

 

“…………”

 

 対し、先生は黙し、唇を結ぶ。

 

 先程、小さく聞こえて来た言葉。

 正常に意味を理解することの難しい、けれど確かな意義を持つのだろうそれ。

 

 聞き間違いでなければ、それは……。

 

 「シッテムの箱」の認証パスワードと、近似していた。

 

“シロコ、下がって”

 

 言いながら、先生自身も数歩後ろへと下がる。

 

 凡そ、事情は把握した。

 何故そのようなことになっているのか、何故こんなことが起こり得るのか。それらは一旦棚に上げる。

 とにかく、守るべき生徒のいる今の先生にとって大切なのは、現状からどう動くべきか。

 

 状況に不可思議な変数が加わった以上、何が起こってもいいよう、距離を取るべきだろうという判断だ。

 

 

 

 いつになく真剣な先生に、微かに怯えを滲ませながら慌てて飛び下がったシロコ。

 その2人の元に……先生にとって聞き覚えのない、けれどどこかで確かに聞いた、少女の声が届いた。

 

「……『シャーレの先生』の生体認証、完了」

 

 見れば、いつの間にか、プレナパテスの前には一人の少女がその手に開いた傘を持ち、佇んでいた。

 

 白く長い髪に、黒く怜悧な瞳。

 制服の上から黒のロングコートを羽織った、幼い少女。

 

 先生は、その少女に見覚えがなかった。

 けれど……彼女とよく似た少女に、見覚えがあった。

 

 奇妙な既視感、その正体は、あまりにも近似した存在の認知。

 先生は、目の前の少女によく似た少女を知っている。

 

「『シッテムの箱』常駐、システム管理者兼メインOS……。

 A.R.O.N.A、命令待機中」

 

 パサリと、その傘を閉じる、無表情の少女は。

 先生がずっと頼りにしてきた相棒、シッテムの箱のメインOS、「アロナ」そっくりだった。

 

 

 

「『アトラ・ハシースの箱舟』、復旧シーケンスを起動。

 『シッテムの箱』の権限により、多次元構造を展開・掌握。破壊された『アトラ・ハシースの箱舟』を、同一存在と置換・修復します。想定シーケンス完了時間、28分44秒」

 

 その口調は、先生のよく知るアロナとは全くと言っていい程に別物だった。

 まるで冬の雨に打たれたように冷たく温度のない、淡々とした報告。

 けれど……その声自体は確かに、いつも先生を助けてくれる相棒のもので。

 

「並びに、『ウトナピシュティムの本船』の掌握を完了、再構築を解除。最終自爆シーケンスを起動。

 想定シーケンス完了時間、15分11秒」

 

 そんな少女が、これまで先生たちが為してきたことの全てを、無に返そうとしている。

 それは先生にとって、決して少なからず衝撃を与えるものだった。

 

 

 

「……だから言ったでしょう」

 

 あまりにも予想外の事態に固まる2人に、声がかかる。

 

「定められた運命を変えることはできない、と」

 

 もはや見慣れてしまった、不可思議なワームホールが開かれ……。

 その先から、女性とも言える姿に変貌した、シロコが姿を現した。

 

 コトリ、コトリと、静まり返るナラム・シンの玉座に、足音を響かせ……。

 変貌したシロコは、嘲弄するように、あるいは憐れむように、シロコへと目線を投げかける。

 

「キヴォトスは予定通り、終焉を迎える。

 私と……私の『先生』の手で」

 

 

 







 リオとケイちゃんのいるミレニアム、パワーつよすぎ問題
 しかしそれすら覆すぷらにゃつよすぎ問題

 やはりぷらにゃが最強か
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。