調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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 話は戻って、アトラ・ハシースでの戦い。





無限の可能性Ⅱ(1)

 

 

 

 現在キヴォトスを襲う異変の発生地点、アトラ・ハシースの箱舟。

 地上75kmという超高度に存在するこれには、明確な心臓部がある。

 

 縦に低い円筒状の構造になっている箱舟の中央部、緊急対策委員会の面々が「第四ブロック」と名付けた区画の更に最奥……。

 「ナラム・シンの玉座」と呼ばれる地点がこれにあたる。

 

 今キヴォトスの空に浮かんでいるものはあくまでも模造品に過ぎないが、そもそもアトラ・ハシースの箱舟とは、キヴォトスが今の形になるより以前にあった名も無き神々の文明による遺産。

 

 この文明は現在のキヴォトスからは考えられない程の超高度文明であり……。

 これによる技術の筆頭こそが、物質の再構築。

 物理的に接触した物質を、それがどのようなものであろうと接収・再構成し、箱舟の一部として取り込んでしまう、というものだ。

 

 要塞都市エリドゥでの戦い、その最終盤を思い出せば、その脅威も伝わりやすいだろう。

 オリの提言から、リオは都市にある程度の再構築耐性を持たせていたというのに、僅か数分でエリドゥの50%以上は無名の守護者へ変換され、都市機能は完全に崩壊してしまった。

 名も無き神々の力は、まさしく現行のキヴォトスの技術力では抗しようもないものなのだ。

 

 そして、今空に浮かぶアトラ・ハシースの箱舟の模造品は、既にこの力によって体積を大きく広げている。

 実に1キロもあろうかという遠大な構造物、その殆どは、再構成したリソースにより拡張した追加機構に過ぎないのだ。

 

 そうして、拡張する前に存在した箱舟の中核……。

 それこそが「ナラム・シンの玉座」。

 ある意味において、この区画こそがアトラ・ハシースそのものであり、他はあくまで追加のアタッチメント。

 物質の再構築、状態の共存波長の再現を可能とする演算機能を持つ、本来は王女が坐するべき玉座だ。 

 

 

 

 

 そして、今。

 

 先生やシロコ、オリにホシノ、未来のシロコ。

 そして、「大人のカード」によって召喚された、未来のオリと未来のホシノがいる場所。

 

 彼女たちの戦場こそが、この心臓部に当たる。

 

 

 

「シッ!」

 

 小さく余った息を吐き、未来のシロコは目の前の柵──プレナパテスの「大人のカード」によって再現された、疑似的な市街地戦フィールドの障害物──を蹴り飛ばす。

 恵まれた体躯による体重を乗せたその一撃は、「大人のカード」による強化も合わせ、恐らくは10キロもあろうかという金属製の柵を凄まじい勢いで射出せしめた。

 

 纏めていたロープが解け、バラバラに散る金属片は、過たず彼女の敵であるオリ……それも機械式のバトルドレスを身に纏う、未来のオリの元へと飛んでいき。

 

 ……けれど、ガガッと音を立ててそれが突き刺さったのは、オリの肌や装甲ではなく。

 

 彼女の前に滑り込んだ未来のホシノの、盾。

 かつてはアビドスの生徒会長が使っていた、彼女の死に瀕してホシノが引き継いだ……そして彼女のいる未来において、新たな決意の象徴となった盾。

 それは持ち主の親友への一切の攻撃を許さず、全てをその身で受け止める。

 

 今の蹴りによる被害は、おおよそなかったと言っていいだろう。

 

 

 

 しかし、実のところ。

 そこまでは、シロコにとって想定の範囲内だった。

 

 つい先ほども、ホシノとオリは連携を見せていた。

 ホシノが防ぎ、オリが移動させる。声掛けと共に行われるこれに、シロコは苦戦を強いられた。

 

 だが……それでも、なお。

 ホシノには、攻撃を受ける瞬間は盾を構えるために足を止めざるを得ないという弱点があるし。

 オリには、攻撃を受け損なえば即死に近いダメージを受ける脆弱性がある。

 

 どれだけ互いにカバーし合おうと、所詮は他人である以上、限界はある。

 それが、先の戦闘の中で観察を行っていたシロコの出した結論だった。

 

 故に、金属塊を受け止めて一瞬足を止めざるを得ないホシノに対して、更なる追撃を仕掛ける。

 

 

 

「……!」

 

 シロコの後方、プレナパテスの大人のカードが、とある武器を召喚し出力する。

 

 それは、かつて「リトルマシンガンⅤ」と名付けられた銃。

 シロコにとって、大切な人が使っていたマシンガン……正確に言えば、ガトリングガンと言うべきもの。

 毎秒50から100発までの弾丸を放つ連射力に優れたそれは、命中率こそ極めて高いわけではないが、絶えず面の攻撃を行うことで対象に反撃を許さない、制圧射撃を可能とする。

 

 シロコはそれを手にし、かつての友人を思わせる乱射を行った。

 点でもなく線でもなく、面での攻撃。

 降り注ぐ雨は、盾を構え続けるホシノ、そしてその後ろに隠れたオリに向かい……盾で弾かれ、弾かれ、弾かれ続ける。

 攻撃は、いつまでも続く。大人のカードによる奇跡の発露が、残弾や銃身の加熱という概念を棄却する。

 

 ホシノが持つのは、分類としては大盾にあたるもの。

 地に付けて体重をかけて支えることで真価を発揮する、いわば持ち歩き式の障害物とでもいうべきものだ。

 本格的に防御しようとすれば、ホシノは足を止めざるを得ない。

 

 一方で、オリは弾丸の海に撃たれて、無事で済む耐久力がない。

 彼女は力と速度にこそ優れるものの、こと耐久の面で見れば平均以上でこそあれ、飛び抜けてはいない。

 故に、この連続する攻撃の嵐の中に飛び出すことは、できない。

 

 ホシノは盾を構え続けなくてはならず、オリはその後方から顔すら出すことも難しい。

 

 となれば……シャーレサイドのオリとホシノから見て、この状況からの打開策は、考え得る限り1つのはず。

 あの、オリの不可思議な転移能力。

 アレで攻撃の範囲外に出て、不意打ちでシロコを叩くことだ。

 

 

 

 オリの専売特許、初見殺し。

 それを知ることのないシロコは、先程までかなり手を焼かされていた。

 突然死角から超高威力の一撃が飛んでくるのだ。常にそれへの警戒に意識を割かなくてはならないこともあって、ホシノの純粋な強さと同格の脅威とすら感じた。

 

 ……だが。

 それは、あくまでも、不意打ちで放たれるからこその脅威だ。

 

 来ることを誘引し、それ以外に打開策を残さないよう誘導した今。

 ホシノという脅威を封殺してしまっている今。

 シロコはマシンガンを放ちながらも、そちらに大部分の意識を割くことができる。

 それに何よりの警戒を行うことができる。

 

 であれば、どの角度、どの位置から攻撃が来ようと、撃退できる自信がシロコにはあった。

 彼女の積み上げた痛みと苦しみ、それらがもたらした成長は、決して小さなものではない。

 たとえ今この瞬間に後頭部を殴られようと、即座に受け流して叩きつけるくらいはできるだろう。

 

 シロコにとって、全てはこの局面へ誘導するための作業であり。

 この一度の機会で、対策される前にオリを殺すと、そう決意を固めていた。

 

 

 

 ……の、だが。

 

 

 

「っ、な!?」

 

 次の瞬間。

 シロコが見たのは……自分に向かって飛んでくる盾、だった。

 

 より正確に言えば、ホシノが盾を構えながら、凄まじい勢いで前進している姿。

 

 ……あり得ない。

 この規模の、それも大人のカードによる加護を受けた弾丸の嵐の中、ジリジリと距離を詰めるのではなく、それこそ跳ぶような勢いで進むなど。

 

 こんな速度で前進する能力は、ホシノにはない。

 

 ……そう、ホシノにはないのだ。

 

 それを為したのは、つい先ほどまで、ホシノの後ろで庇われていた生徒……調月オリ。

 その表情は……ニヤリと、笑みを浮かべており。

 今、まさに「何かを蹴り飛ばしましたよ」と言わんばかりに片足を上げ、シロコにその裏を見せていた。

 

 蹴り飛ばした?

 仲間を、敵に向かって?

 こんな……下手をすれば、普通の生徒なら気絶する威力で?

 

 シロコは戸惑いながらも、跳んでくるホシノという名の弾丸を見る。

 このような突飛な展開で、けれど盾からチラリとシロコを覗くホシノの眼光は鋭く、焦りも戸惑いもない。

 

 それはまるで、オリならそうすると、そう確信していたようで……。

 

 遠慮もない。気遣いもない。ただ気安い友達……いいや。

 互いの力を信頼し行動を把握し合う、戦友としての関係がそこにはあった。

 

 

 

 咄嗟にマシンガンを鈍器として振り下ろし、ホシノを迎え撃とうとしたシロコだが……。

 キヴォトス最高の力を持つオリが射出し、キヴォトス最高の神秘を持つホシノが構えた盾を前にして、ありとあらゆる暴力は抵抗を許されない。

 

「よい、しょおっ!」

「くっ!」

 

 盾を構えた生徒という弾丸はシロコに突き刺さり、容赦なく突き飛ばした。

 

 ホシノも同じく、団子のように転がるが……オリの全力を以てすら青アザができるかどうかの耐久力を持つホシノは、この程度では痛みすら感じているか怪しい程で。

 一方でシロコは、受け止めたマシンガンは大破し機能不全、右腕と肩、そして止められずに受けた脇腹に意識が明滅する程の激痛が走る。

 

 

 

 不味い、とシロコは歯噛みした。

 

 誘っていたつもりだった。

 今この状況、この展開を、形作ろうとしていた。

 

 だが、その実逆に、これを誘われていた。

 まるで……まるで、シロコの取る戦術論、方法論を知悉しているかのように。

 ホシノとオリは、こちらの思惑を逆手に取ってきたのだ。

 

 

 

 咄嗟に立ち上がろうとしたシロコは、しかし直後。

 

「なっ、あ、ぐっ……!」

 

 明らかに何もないはずの場所から飛んできた、ショットガンの弾丸の群れに襲われた。

 更に……それぞれの弾丸の間を流れ散る電流が、更に彼女の体と脳を焼く。

 

「っ、が、あ……!?」

「あっはっは、痛かろう痛かろう! リオちゃんとヒマリのコラボ製品、電磁レールショットガン!」

 

 誇るように……いいや、実際誇っているのだろう。

 片手に煙──硝煙ではなく、走った電気により熱された砲身の冷却蒸気──を上げるショットガンを掲げ、未来の調月オリは快活に笑った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その戦場を、先生とシロコ、そして現在のオリとホシノは、傍から見ていた。

 

“ホシノは5秒後、1時方向へシールドを立てながら走って。オリは後ろから助力を。

 オリ、アサルトライフルで制圧射撃、ホシノ到着から1秒後にホシノの後ろに”

 

 先生はシッテムの箱と「大人のカード」をフル活用し、「半ば」ではなく「真に」未来視を用いて、2人に完璧と言う他ない指示を飛ばし。

 

「つ……よ、い。今の2人よりっ……!」

 

 強さに対してストイックなシロコは、2人の動きの速さ、命中精度、判断の速さ、そして何より強力な信頼関係に刮目し。

 

「……あの、装備。あれは……」

 

 ホシノは、アビドスの生徒会室に置き去ったはずの自分の過去と相対し、そのオッドアイを見開き。

 

 

 

 ……けれど、一行の中で最も大きな反応を見せたのは、3人ではなく。

 

「……………………は?」

 

 呆然と、久々に飾らない声を上げた、オリだった。

 

「……なん、で?」

 

 その手に握っていたスタンバトンが、落ちる。

 カツンと虚ろに跳ねた音が、オリの心の明かしていた。

 

 そうして彼女は、その内心で処理しきれない思考を、口から垂れ流す。

 

「あり得ない。あり得ない。あり得ないよ。

 だって、私は……違う。違うんだ、だって、私は、生徒じゃない……生徒に、『先生の生徒』になれてない。

 私は、この物語に加担できない。キヴォトスの生徒じゃない。メタのレイヤーで、ヒロイン足り得ない。

 だから、カードでは呼べない……呼べるはずがない、のに」

 

 

 

 「大人のカード」。

 それは端的に言えば、然るべきコストを払って過程をカットし、結果をもたらす装置だ。

 どれだけ小さかろうと、そこに可能性が存在するのなら、再現できる。

 

 例えば、つい先ほど行われた「生徒の召喚」がその典型例だろう。

 「シャーレの先生が生徒を呼び出す」ことは、なんら不自然なことでなく。

 「呼び出す場所がアトラ・ハシースの箱舟である」こともまた、あり得ないわけではなく。

 「それが過去、あるいは未来のシャーレの生徒である」ことも、確かに可能性を持っている。

 ならば、コストを支払ってその結果をもたらすことができる、というわけだ。

 

 大人のカードには、場所や時間の縛りなどない。

 例えば、かつて先生の生徒だった子を、その時点の装備/精神性で呼び出すこともできる。

 例えば、未来に先生の生徒となる子を、その時点の装備/精神性で呼び出すこともできる。

 

 不可能がない、というわけではない。

 しかし、「不可能」でない限り、本当に何でもできる。

 それが大人のカードだ。

 

 

 

 ……しかし。

 「先生の生徒」は、イコール「シャーレの部員」ではない。

 

 先生に隔意どころか好意を持っていようと、シャーレに部員として入部していようと、どれだけ先生と親しかろうと。

 その生徒を呼べないことは、ある。

 

 その典型が、オリである……はずだった。

 

 先生に全てを明かしていない。

 先生に全てを預けていない。

 それどころか……実質的には「先生の敵」とすら言えることを、しようとしている。

 

 そんな駄目な生徒が、「先生の生徒」になれるはずがない。

 そして……そうなる可能性も、また。

 

「この場で……この場で死んで終わりの私に、この先なんてあるわけ、ないのに、なんで」

 

 オリはこのまま、終わる。

 このアトラ・ハシースの箱舟で、死ぬ。

 

 だから……オリは、大人のカードを使っても、呼べない。

 過去、現在、未来に渡って、呼べる「可能性」が存在しない。

 

 その、はずだった。

 

 

 

 呆然と、恐らくは未来の、あり得べからざるはずの未来の自分を見やるオリ。

 その先では、明朗快活に笑うオリと、そんなオリに苦笑するホシノが、先生の指示の下戦っていた。

 

「はっ、ははは! シロコったら、そんなんじゃよわシロコだよ!! あるいは雑魚シロコ!!」

「年下の後輩にイキるの、カッコ悪~。私たちはシロコちゃんと散々模擬戦してて、あっちは初見なんだから、こうなるのは当然だよ? わかってる?」

「アンダースタ~ン! でも正直、最近のシロコ強すぎて全然イキれないし、イキれる時にイキれの精神だってこういうの!」

「うーん、親友の性格の歪み、どうやって正すべきか迷うな~」

 

 向こうのオリは、戦いながら、笑っていた。

 時に弾丸が頬を掠り、時にシロコに腿を打たれ。

 けれどそれでも、ホシノと共に、心底より楽しそうに笑っていた。

 

 今のオリが浮かべることのできない、本当の笑顔を。

 綺麗じゃない、少し不細工な、けれどキラキラとした笑顔を、その顔に張り付けていた。

 

「っ、なんで……なんで、私に、未来なんて! いや、でも、だって、もしこの計画が失敗したんなら、あんなに笑えるわけないのに……!」

 

 

 

 懊悩し頭を抱えるオリ。

 未来の自分に張り付いていた視線が、パチリと、向こうの自分のそれと合った。

 

 あり得ないと、その存在を疑い。

 けれど見覚えしかない手癖、動き、戦法に、確かに自分であると思わされ。

 

 そうして。

 向こうの調月オリは、未来の自分自身は……。

 

 

 

「ばーか」

 

 戦闘の、一瞬の隙。

 少し恥ずかしそうにそう言って、あっかんべーをした。

 

 

 

 







 大人のカードで呼べないのは、メタ的に言えば未実装です。
 この世界線のゲーム「ブルーアーカイブ」では、オリは未だにガチャ実装されていません。
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