未来の自分からの、叱責のような、あるいは激励のような言葉。
それを聞いて、オリが多少の平静を取り戻した時には、既に未来の自分は消え去り、戦いは終わっていた。
ホシノの弱点である機動力を、自身や触れたものの転移、そして時に物理的な解決法によって補うオリ。
オリの弱点である脆弱性を、凄まじい頑健さを誇る盾と強力な神秘によって補うホシノ。
互いへの声かけすら要さない完全な連携を以て銃撃戦を行う2人に対し、一人しか残されていないシロコは抗しようもなく。
本来は全ての不利を覆し得るプレナパテスの大人のカードも、しかし先生の使う大人のカードによってその出力を相殺されてしまっており。
……極めつけに。
未来のホシノと未来のオリは、疑いようもない程確かに、シロコの戦い方を知っていた。
何度も模擬戦をした、と語っていたのは嘘ではないのだろう。
その言葉が何を意味するのかは、シロコには理解しかねたが……それはともかく。
既に消えていった、良く知るはずのホシノと、知らない生徒。
2人に翻弄され、追い詰められたシロコは、力尽きたように膝を突いていた。
そして、同時。
裏で進行していたもう1つの戦いもまた、大勢が決した。
それはシロコたちが繰り広げていたような、白熱する銃撃戦ではない。
むしろその逆、遠距離間で行われる、静かな情報戦だ。
プレナパテスの隣に、寄り添うように立つA.R.O.N.A。
彼女が作動させた、2つのプログラム。
地上にそびえる虚妄のサンクトゥムの活性化。
ウトナピシュティムの本船の自爆シーケンス。
前者に関しては、地上75kmにいる彼女たちには手の出しようもないが……。
後者は、緊急対策委員会の面々にとって、必ず防がなくてはならないものだった。
A.R.O.N.Aが推し進めていた、ウトナピシュティムの自爆シーケンス。
これは、アトラ・ハシースと接触しているウトナピシュティムを、物質の再構築によって「アトラ・ハシースの一部」とし、完全に制御下に置くというもの。
名も無き神々の技術、物質の再構築という反則中の反則が使えるアトラ・ハシースにとって、生中に敵を攻撃することよりは、こうして取り込んでしまった方がむしろ手間がないのだ。
……しかし、その作戦には、2つの障害が立ち塞がっている。
ウトナピシュティムが、物質の再構築への強力な耐性を有していたことが1つ。
アトラ・ハシースに抗するために作られた兵器であるこれは、当然ながら最たる特異性である物質の再構築を防ぐこともできる。
同一化を始めるためには、おおよそ15分程度の時間を要した。
そして、もう1つの障害は……。
『システムハッキング完了! いけるよ!』
『それでは……ええ、連結システムの解除要請、承認されましたわ』
『抑制、安定化しました!』
『連結っ、解除!!』
先生の付けたイヤホンの向こうから、生徒たちの叫びが聞こえて来る。
そう。
もう1つの問題は、ウトナピシュティムやアトラ・ハシースの各部に残された、緊急対策委員会の生徒たち。
彼女たちは決して諦めることなく、この破滅的な状況に抗し続け……。
ついには、アトラ・ハシースの同一化システム解除を果たしたのだ。
A.R.O.N.Aは、感情を感じさせない声で、淡々と状況を整理する。
「状況確認。ウトナピシュティムとの接続解除を確認。迂回路を試行。
……試行失敗。『名もなき神々の王女』の『鍵』により、次元断層及び物理外障害の展開を確認。アクセス不可、介入できません」
アトラ・ハシースの箱舟から切断されたウトナピシュティムの本船。これへの再度の再構築による同一化は、不可能だ。
元より不意打ちに近い形で行われたこれは、しかし「両者の物理的な接触が必要」という条件がある。
それを理解しているケイは、接続が解除された瞬間、ウトナピシュティムとアトラ・ハシースを物理・観念的次元の両面で切り離した。
これによって、再度ウトナピシュティムに接続、再構築による同一化を試みることは不可能となり……。
……それどころか、ビッグシスターと超天才病弱美少女ハッカーの手により、ウトナピシュティムの演算を用いてアトラ・ハシースに強制的な自爆を強いるプロトコルを押し付けられた。
A.R.O.N.Aのハッキング能力を垣間見たミレニアムの賢人たちは、無理にこの攻撃を抑えることより、カウンターハックの威力を優先した。
毎秒どころか毎ミリ秒更新され続けるパターンが何百と層を為せば、如何なA.R.O.N.Aに対しても、時間を稼ぐくらいはできる。
それこそ、この自爆プロトコルが完了するまでの時間くらいは。
「『多次元解釈』の抑制状態維持を確認。演算加速、再度破壊を試行。
……演算加速失敗。地上サンクトゥムの
再度の顕現、及びエネルギーの流出コントロールは不可能」
システムを散々使い倒してしまったために、今のアトラ・ハシースには、エネルギーのリソースが多く残っていない。
多次元解釈による状態の共存状態を再度展開しようにも、この演算を行うだけの余裕がなかった。
地上にそびえる虚妄のサンクトゥムからエネルギーを吸収しようにも、これは既に絶対者を騙るシステムによって「感化」されていた。
ミレニアムのユートピア地下から広がった、もはや汚染にも等しいこれは、キヴォトスの他4つのサンクトゥムを呑み込み、今やプレナパテスの指示を受け入れなくなっている。
……これらを総括し、A.R.O.N.Aは結論を出す。
「作戦は破綻しました。これ以上の続行は不可能。
……私たちの敗北です」
かなり短いんですけど、今回はここまで。
めちゃくちゃ忙しくて余裕がないのと、区切りが良いので……許して……。