昔々、あるところに。
幸せな少女がいました。
少女は本来、生まれることのできない定めでした。
彼女の存在は、生まれ以て破綻しており、この世界がそれを許されないのです。
その本質は、反証と非存在。
「そこにない」が「ある」とされる、ゼロの体現。
あらゆる数字と方向性と事象を確定させるための基準、仮定される非実在。
それこそが、彼女の崇高でした。
けれど、とある優しい人が、そんな少女を憐れみました。
存在できないなんてかわいそう。生まれられないなんて不幸せ。
だから……自分の存在を擲ってでも、助けてあげよう、と。
本当に優しいその人は、自分という存在そのものを、少女に与えたのです。
彼女の献身の結果として、少女はこの世界に存在を許されました。
その優しい人の、生まれることのできなかった命。
それによって、少女は生きることを許されました。
自分と、彼女。
他の人達とは違って、少女は2つの命を背負っているのです。
だから、少女は幸せでした。
この世界に生きられるだけで、とってもとっても、幸せでした。
* * *
────で。
それが、ただ幸せなだけでないと知ったのは、いつのことだったっけな?
そう。
それは確か、少女が私になる頃。
自我の覚束なかった誰かが、明確な自我を構成した辺りで。
私は、彼女の物語から、一つの事実を悟ったんだ。
彼女が私にそれを語ったのは、多分……慈悲とか、慈愛とか、そういう感情からなのだと思う。
ミステリアスっぽい素振りこそ見せているものの、その実結構ポンコツなところのある彼女は、それを語る時、自慢げな表情と共に私を慈しむ表情を覗かせていたし。
そのお話は……勿論、当時家族の中に居場所のなかった私が望んだってのもあるけど、彼女自身話すべきだと思って話してくれていたんだ。
未来のこと。これから先に起こるはずのこと。
普通に考えたら、これを知るメリットは計り知れないだろう。
俗な話、ギャンブルなんかは典型例だ。出る賽の目を知ることができれば、いともたやすく巨万の富と怖いお兄さんの肩ポンを得ることができるだろう。
とんでもない本来あり得ないはずの外法で無法なルール違反。まさしく「チート」って言っていいヤツだ。
多分彼女は、そのアドバンテージを私にくれようとしていた。
これから先にこういうことが起こるから、君はそれを知った上で上手く立ち回りなさいと、そう優しく教え諭してくれていた。
実際私は今、それを実行している。
過度に使い倒しているわけじゃないし、それで何かを為せたわけじゃない。
けど、確かに恩恵にあずかったことはある。数えきれないくらいに。
……でもね、それはそれ、これはこれ。
私にとっては、その恩恵以上に、そこで突きつけられた事実が重かった。
この世界には、調月オリがいなくてもいいんだっていう事実が、さ。
彼女の語る話の中に、調月オリはいなかった。
なんでかって聞いたら、「私があなたを助けたからです」って。
つまりは、彼女という介入者がいなければ、私がこの世界に生まれることはなかったんだ。
それはいい。
彼女に感謝しこそすれ、恨むなんて筋違いにも程がある。
でもさ。
最後に「めでたしめでたし!」で終わる物語。
生徒たちが先生に導かれ青春を生きる、
そこに、私はいらない。
私がいなければハッピーエンドに辿り着けない、なんてことはない。
私がいなくても、全ての人が幸福に笑う終わりへ辿り着く。
それは……この上なく残酷な、事実だった。
人ってさ、承認欲求ってものを持ってるよね。
誰かに認められたい。必要だって言われたい。
もうちょっと言っちゃえば……誰かとの繋がりを持ちたいっていう、社会的な欲求。
で、欲求っていうのは、例えば睡眠とか食事なんかで例えればわかりやすいけど、往々にして「生きるために必要だから」存在するんだよね。
承認欲求もそう。それを満たすことは、私たちが健常に生きるにあたって必要なことなんだ。
五段階説でも上から二番目なことからわかる通り、別にこれは生理的に必要ってわけじゃない。
それがなくなったら即座に死ぬような、致命的に重い欲求ではないんだ。
でもさ。社会的に、正常な精神で生きるには、必要なんだよ。
誰かからの、「あなたのおかげで助かってる」「だから、あなたはここにいていいんだ」って許しが。
この世界に生きる誰かとの……いや、この世界との、接続が。
私には、それがない。
この世界の運行、この世界の物語、この世界の結末に、私は必要ない。
私がいなくとも、リオちゃんも、トキちゃんも、ホシノもシロコもアビドスの皆も、ネルパイたちC&Cもアリスたちゲーム開発部も、知り合いになった全ての部長とその所属部活の子たちだって。
私がいなくても、構わないんだ。
誰一人、私と繋がってはいない。
本当のところでは、誰も、私を必要としていない。
世界に必要とされない。
この世界にいてもいいし、いなくていい、どうでもいい存在。
自分がそうだと気付いて、それを理解しちゃった時は……まあ、うん、正直少なからず取り乱したよね。
多分だけど……その頃からだったはずだ。
彼女が「お話」を渋るようになったのは。
私のそういう変化、異変に気付いたんだろう。
そしてそれが、自分の「お話」を発端としていることにも。
あの子は私なんかよりずっと賢いから……実際にその立場に置かれてないから、事前には察することこそできなかったけど、それでも私の顔から感情を汲み取るくらいはできるんだろう。
でも、まあ、正直手遅れだった。
私は「調月オリ」という存在のどうしようもなさを、その一発で理解しちゃっていた。
だからその後も……ただ「お話」を楽しむってだけじゃなく、私の存在意義を探すって目的も合わさったけど、「お話」をせがみ続けた。
そう。存在意義。存在意義だ。
私はそれが欲しかった。
調月オリが存在する意味はない。
誰にも必要とされず、誰にも承認されることはない。
だからせめて、調月オリが存在する意義が欲しかった。
アイデンティティー、とは少し違う。
私がいる価値。私が生まれた重要性。私がそこにいて、何かをできたっていう事実。
それさえあれば、私は確かにこのキヴォトスにいた意味があったんだって、納得できるはず。
私がいなかったらできなかったことが、私がいるからできる。
私がいなかったら救えなかったものが、私がいるから救える。
そんな何かが、欲しかった。
誰かに、「ありがとう、あなただから助かった」って、そう言ってもらいたかった。
……あはは! 言葉にすると、なんて浅ましくてみみっちいんだろ!
所詮調月オリは、その程度のことに熱中する器だったってことですよ。
リオちゃんとは、全てが違う。誰もが幸せになること、誰もが自らの探究を行えることを目指し、ミレニアムという千年王国を作り上げたあの子と比べて……。
ずっと穢れて、気持ち悪い。
本当、よくもまあ、恥ずかし気もなく「お姉ちゃん」なんて言えたよね。
殺してやりたいよ、過去の自分を。
さて、と。何はともあれだ。
私は生きる意義を求めた。
私がいないと絶対に救われない何かを、彼女の「お話」から見つけ出そうとした。
で、まあ、見つかったよ。
絶対に救われない存在。
梔子ユメ。アビドスの生徒会長。
「かつて喪われた命」として「お話」に登場する、先生すらも救えない生徒。
であれば、やるべきことは一つだった。
私はリオちゃんに無理を言って、アビドスを調査して、赴いて、あの人を救おうとした。
持ち得る全てを使って、何が何でも彼女の死をなかったことにしようとした。
うーん、今考えると本当に烏滸がましい。
先生でもない私が、そんなことできるわけなかったのにさ。
当然ながら、私は失敗した。
知っていたはずの私は、彼女の喪失を防げたはずの私は、それを取りこぼした。
ホシノの大切な人を。……私にとっても、好きになりかけてた人を。
ビジネスライクに救おうとした結果、情が移っちゃって、「なおさら絶対に助けなきゃ」なんて思ってた人は。
他の誰でもない、調月オリの失敗で死んだ。
梔子ユメは、私が殺した。
「あの子」は、「あなたには生徒を救うことはできないかもしれません」と語った。
とても重苦しい蒼白な面持ちで、今にもゲロ吐きそうなくらい申し訳なさそうに。
謝罪は、なかった。私をみじめにさせないために。
彼女はただ、同情という形で、一日数時間の夢の中で寄り添ってくれた。
現実世界で、あの超人じみた女がストレス解消に付き合ってくれたのもあって……。
そして何より、彼女が新たな方針を見つけてくれたのもあって。
調月オリは、新たな目的に向けて再始動することができた。
そう、その目的こそ、「先生を救う」こと。
生徒は救えなくとも、「絶対者」とやらである先生なら救えるかもしれない。
それも……決して救われない先生を。
プレナパテス。
既に死んだ、どうしようもなく救えない先生。
私の最終目標は、彼を助けることだ。
こっちの世界の先生は、まあ、救うなんてのは烏滸がましいよね。
あの人は世界の中心。そういう意味では、ちょっと嫉妬しちゃうけど……。
それ以上に、私の憧れた英雄でもある。
あの人は救う者であって、救われる者じゃない。
私がそうしようとするのは余計なお世話、っていうかむしろ冒涜にすら近い行為だ。
でも……もうどうしようもなくなった、プレナパテスなら。
あっちの世界で既に死んでしまい、本来誰にも救えない、その存在なら。
私が救済を目指しても、冒涜まではいかないかな、って。
勿論さ、これが極めて困難なのはわかってるんだ。
死人は、蘇らない。
完全に恐怖に反転した存在が、神秘へと戻れないのと同じように。
それはこの世界のルールに反したこと。
自然に発生する可能性はおおよそなく、だからこそ大人のカードを使ってもこれを起こすことはできない。何やら限度額……? とやらに触れる、とのことで。
つまるところ……いわゆる、「奇跡」と呼ばれる類の事象となる。
起こらないからこそ、あり得ないからこそ尊ばれる、不可能現象だ。
……だからこそ、さかしまに、それを為せれば。
誰にも為せないことを、誰にも救えない人を救えれば。
私はきっと、この世界に必要なんだって、自分を認められる。
残った問題は、どうやってそれを為すかだった。
別の世界の死者を蘇らせ、この世界で生きさせる。
言葉にすれば一呼吸分で言い切れる簡単さだけど、多分これまでに実行できた人はいないだろう。
それはもはや困難を超えて、不可能に隣接していることだ。
ま、それだけ難しいからこそ、私にとっては意味を持ってるんだけどさ。
というわけで、一旦整理してみよう。
他の人にできて、私にできることは何か?
調月オリが持つアドバンテージは、大きく分けて4つ。
彼女から聞ける「お話」に基づく、未来予測と世界への理解。
私自身が持つ、身体的なスペックの高さと非存在性。
調月リオという少女との接点。そしてそれに基づく豊富な物資と情報。
そして……既に滅んでしまったけど、ゲマトリアと呼ばれていた組織との接点。
以上が調月オリという少女が持つ、他の生徒たちが持っていない唯一性だ。
……で、結果として。
こうしてアトラ・ハシースの箱舟に残ったことからも分かると思うけど、私はそれらの強みを以て、なんとかプレナパテス救助の道筋を見出したわけだけど。
最終目標までの道を切り拓いたのは……忌々しいことに、最後のものだった。
半年前。あのエデン条約とアリウス自治区に纏わる一件。
先生が凶弾に斃れないよう介入しようとした私は、黒服に止められた。
「あの子」の話にない展開、現れるはずのない介入者。
それに驚きながらも苛立っていた私に対して、彼はこの一件に関わらないことを要求してきた。同時に、いくつかの対価を提示して。
1つは、トリニティ地下にあるカタコンベの構造と変化パターン、及びマエストロが作り上げつつある『教義』についての情報。
それらは……まあ、最終的になくてもなんとかなったとは思うけど、この一件に関して情報の有利を取る大きな材料となった。
でも、言ってしまうとこっちは割とどうでもいい。これだけだったら、私はまず間違いなく黒服を殺して事件に介入してただろう。
……大事なのは、その後。
ゴルコンダとデカルコマニーの作る作品……「子供の封筒」の、試作品を見せられたことだ。
黒服は、私が誰にも一言も漏らしていないはずの最終目標に、どういうわけか勘付いていた。
そのためには、不可能を覆す奇跡が必要であると、知っていた。
だから……これを完成させ、渡すことを対価にしてきたわけだ。
私は、最終目標を見据えれば……それを受けざるを得なかった。
エデン条約の一件で、先生は死なない。
重傷こそ負うが、致命的なそれにはならない。
けれど……この「子供の封筒」があれば、先生を死から回帰させられるかもしれない。
ここで動いたら、1が0.5になり、0.5減少するだろう。
ここで動かなければ、0が1になり、1増加する……かもしれない。
単純に、長期的な目線で見た時のリターンが余りにも大きかったのもそうだけど……。
私の、ただ一つの絶対的な目的に対して、それは必要不可欠で。
だから私は、煮え滾る感情すら抑え込んで、それを呑み込まざるを得なかった。
「子供の封筒」。
それは「大人のカード」を参考に作られた、ゲマトリアの装置。
「大人のカード」が使用者の時間や存在を消費し、奇跡を発生させるのに対して……。
「子供の封筒」は使用者の時間──「子供が子供でいられる時間」、つまるところ「神秘」を消費して奇跡を発生させる。
そして、この「封筒」の最大の特徴は……「上限がないこと」だ。
「大人のカード」には、「限度額」と呼ばれるセーフティがあるらしい。
ある程度以上は、自分を切り売りできない。対価を差し出せない。
だからこそ先生は……極端な奇跡を起こすことができない。
たとえそれが愛すべき生徒でも、死んだ者を復活させるようなことはできないんだって。
黒服は「あくまでこの辺りは考察ですが」、って言ってたけど。
でも、「子供の封筒」に、それはない。
大人のカードよりも遥かに燃費も効率も悪い。後遺症も発生するし、継続的に使うことはできないっていう弱点があるんだけど、その代わり。
ただ一度や二度の奇跡に限れば、「大人のカード」とは比べられない程の規模で事を起こせる。
……そう。
それこそ、「不完全な死者」の復活だって可能だ。
プレナパテス……テラーに反転したシロコの世界の、先生。
その死因は、シロコによる銃撃じゃなかった。結局シロコは、先生を撃てなかったんだから。
色彩に接触され、その存在を塗り替えられた。
それが、先生の直接的な死因らしい。
……ただ、シロコ*テラーは「色彩が先生を殺した」と解釈したが……これはちょっと違う。
いや、殺したのは間違いないけどね。自殺なのか他殺なのか、あるいは事故なのか。そういう問題で。
本来色彩は、先生に……神秘も恐怖も崇高も持たぬ者には興味を持たず、価値も置かない。
それなのに、色彩は先生を「
何故そんなことが起こったかと言えば……反転した後、再び色彩に接触されて「色彩の嚮導者」になりかけたシロコを庇ったから。
既に反転し、キヴォトスを滅ぼしてしまっていたシロコに対して、奇跡的に意識を取り戻した先生が唯一してあげられることがそれだった。
もはや自分が救えないだろう生徒を、これ以上暗い道へと歩ませないこと。
奇跡が起これば、元の明るい道へと戻れるように、最後の砦となること。
それが、プレナパテスの……いいや、「
そして、その意志は、今なお生きている。
こうして並行世界へと渡って来たのがその証だ。
今の自分は救えずとも、別の自分ならば、シロコを救うことができる。
「先生」ならば必ず、シロコという生徒を見捨てず、救おうとするだろうから。
だからシロコを、大事な生徒を後任へと託すために、この世界に連れて来た。
たとえそれが、キヴォトスを滅亡へと近付ける選択肢だろうと。
結んだ生徒たちとの絆が、それすら跳ね除け、奇跡を起こすと信じて。
……プレナパテスの生命活動は、停止している。
物質的、科学的に見れば、その命は確かに尽きている。
けれど。
私はさっき、倒れ伏したプレナパテスが、もう動けないはずのプレナパテスが、微かにその顔を動かしたのを見たんだ。
シロコを地上へと送り出し、脱出シーケンスで消えようとする先生に対し。
その目を向けて、意志を……あるいは遺志を、託していた。
「プレナパテス」は、死んでいる。
けれど……「先生」の死は、不完全だ。
その既に死した体に、けれどほんの微かに、先生は残っていた。
死体をちょっとだけ動かす、ちっぽけな奇跡。それを為すだけのナニカが、そこには確かにあった。
だから私は、それをよすがに、引き寄せるだけでいい。
その先に確かにいるはずの、自分の役目を終えて安堵しているだろう先生を、体に引っ張り込むだけでいい。
色彩の教導者プレナパテスは、死んだ。
先生の指揮の下、あの主砲に撃ち抜かれ、その役目を終えた。
だから、その体は今、誰のものでもなく。
私がその手を引きさえすれば、本来の持ち主の元へと戻るだろう。
そして、それだけなら……。
私に残った神秘を全部使い切れば、足りる。
* * *
……まあ、だから、なんだ。
幸せな少女の物語のオチは、こんな感じにしよう。
少女は確かに幸せでした。
だから少女は、誰かを幸せにしたかった。
ここに生まれた幸せを、ここに生きられる幸せを、不幸せな誰かに渡したかった。
そうして少女は、見つけました。
どうしても納得できない、物語の終わり。
少女がその存在を賭すに能う、救われるべき人を。
お姫様を庇って命を落とした王子様。
最後の最後まで頑張って、けれど救われない悲劇のヒーロー。
そんな人を、救えたら。
悲劇のお姫様に、再会させてあげられたら。
それはどんなに素晴らしいかと思うのです。
きっと少女にしかできない、満天の星々よりも尊いことだと、そう思えたのです。
だから少女は走りました。
いっぱい悩んで、いっぱい考えて、それでも駆け抜けました。
少女は幸せでした。
世界に生まれて、たくさんの人の中で生きられて。
そうして最期は、本来為せるはずのない奇跡を起こして、この世界をもっと幸せにできて。
少女は幸せだったのです。
……そう。そんなオチにする、つもりだったんだけどね。
はあ……もう。
本当に残酷ったらないよ、先生ったら。
“私が、リオが、トキが、ユウカやノアも、ゲーム開発部の皆も……”
“ホシノやアビドス対策委員会、シャーレの部員の皆も、そして勿論私も”
“皆が、君が帰って来るのを待ってる”
“そのことを、忘れないで”
……そんなことを、言われてしまった。
今更になって、ここまで来て、目標まであと一歩ってところで。
一番欲しかった、頑張って目を逸らしてた事実を、突き付けられた。
「君はもう、
私だって馬鹿じゃない。
いや、馬鹿だけど、別に鈍感ってわけじゃないんだ。
みんなが私に少なからぬ友愛を向けてくれてるってことくらい、当然わかってた。
でも、それでも、この道を貫こうとした。
見て見ぬふりをしてでも、この人を救おうとした。
その理由は……単純じゃない。
これこそが存在証明なんだっていう、思いこみがあった。
本来の運命以上のハッピーエンドを望む、希望があった。
積年の自己嫌悪が形を成した、希死念慮があった。
私よりも先生の方がより多くを救えるって、打算があった。
もう何もかも投げ出して楽になりたい、破滅願望があった。
こうして自己犠牲を為すのが正しいように思う、陶酔があった。
非存在の私はすぐに皆から忘れられるって、確信があった。
頑張った人が報われないなんて駄目だっていう、怒りがあった。
自分はこの世界で何も為せていないって思う、自己否定があった。
……そして、何より。
私は誰とも繋がれてないっていう、盲目的な妄執があった。
自分で言うのもなんだけど、調月オリは駄目人間だ。
普段は軽快な仮面で隠してるけど、中身はどんよりじっとりで自分嫌い、思い込みも激しいし衝動で馬鹿なことをやる、そういう地雷女。
清廉潔白でどこまでも前向き、誰かのために生きられるリオちゃんとは、やっぱり対極の存在だ。
だから、こうして行動するのもおかしなことじゃないよって、そう言い訳して。
みんなの感情を、見ないフリしてた。
……ん、だけど。
それを、このタイミングで、先生に突き付けられてしまった。
私がいなくなれば、悲しむ人がいる。
それを逆に言うのなら……彼女たちを悲しませないことは、私にしかできない。
……たとえ希薄であろうと、泡沫の夢のようなものであろうと。
調月オリは既に誰かと、この世界と、繋がっているのだ。
こうしてちゃんと言われるまで気付かないとか馬鹿だなー、とか。
なんでこんな時になって気づいちゃうのかなー、とか。
色々と思うことはあるんだけども。
でもまあ、とにかく。
気付いちゃった以上は、動かないわけにはいかない。
調月オリは直情的なのだ。やりたいと思ったことを、やるべきと思ったことを、我慢せずにやっちゃうのが私らしさってものでしょう。
だから……最期まで、生き足掻こう。
どうしようもなく詰んだ、あるいは周到に詰ませた、この狭い箱庭で。
どうにかこうにか、生き残る方法でも考えようか。
私は幸せだったのだ。
せっかくなら、本当の本当に完璧な、一切欠けるところのない、みんなが幸せな終わりを目指してみよう。
ま、とは言っても正直、私にできることなんて何もないんだけど……。
諦めないって、約束しちゃったもんね。
割と重度にメンヘラ属性持ちのオリ。
ただし、めちゃくちゃに仲良くならないと、というかオリにとって唯一の存在にならないと、その側面は見せてくれません。
ホシノにすら見せるか見せないか微妙なレベル。明確に見せているのは、リオと先生、「あの子」くらい。