調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉のやべー服

 

 

 

 調月オリがミレニアムに帰還してから、おおよそ半月。

 その頃には彼女の扱いやこれからの指針もおおよそ決まって、オリもようやく地に足付いた状態でミレニアムでの暮らしを送ることができるようになった。

 

 ……しかし、その分、途轍もない多忙っぷりに悩まされることにもなったのだが。

 

 

 

 エリドゥでの一件、そこで発生する負を全て背負ったことにより、現在オリのミレニアム内での評価は、著しく悪いと言っていい。

 ……もう少し言葉を尽くせば、「ああアイツ本当に行くとこまで行ったな」と白い眼で見られている、というのが正確だろうが。

 

 調月姉妹の片割れとして、そんな状況を放置できるわけもなく。

 対外的にこれを取り繕うため、先の一件の罰として、オリにはセミナーとC&Cという首輪が付くこととなった。

 

 元々、オリが不条理に暴れ回ることができていたのは、彼女が特定勢力に与さない個人だったから、という理由が大きい。

 どの組織の一員でもないため、時に味方となり時に敵となる、なんてことが叶ったのだ。

 セミナーやC&Cというミレニアム中核の組織の一員となれば、行動に対して相応の責任を問われるようになるし、上層部による掌握も容易になる。

 外部から見れば、オリの奔放な行動を抑制するのに効果的な一手のように思えただろう。

 

 勿論、事情を知る生徒たちにとってはそれだけではない。

 セミナーとしては、エリドゥでの一件は長たるリオとのコミュニケーション不足によって発生した問題であると認識しており、この問題改善のための窓口としての意味合いもあったし。

 C&Cとしては、その圧倒的な戦力を内部に取り込むと同時、いたずらに外部へとそれが振るわれないように抑止でき……そして何より、エリドゥで本気のオリを破った、部長たるネルの強い要望もあっての配属だ。

 

 

 

 ただでさえ、2つの部活を兼部することになったオリだが、状況はそれだけに留まらず。

 彼女は他にも、多くの活動を並行して行う必要があった。

 

 改めてその名を刻み所属することとなった、連邦捜査部シャーレでの先生の手伝い。

 リオや対策委員会と協調しての、3年前にある程度打ち切りにしていた、アビドス自治区の復興支援再開と経営戦略の立て直し。

 特異現象捜査部との、「廃墟」から消えたデカグラマトンの預言者たちの再調査。

 ゲーム開発部を筆頭とする各部への顔出しと部活動の手伝い、リオへの橋渡し。

 大きく性質を変えた自分の崇高を上手く使いこなすためのデータ採取と実践演習。

 調査に協力してくれた各学園への挨拶回りと感謝、謝罪。

 更には、ミレニアムへの贖罪という意味で申し付けられた、計2,000時間の奉仕活動。

 

 帰還から1か月の間、オリにはおおよそ暇というものがなく。

 わざわざトキが付き添って調整する、分単位の精密な予定表が組まれていた。

 

 そんな状態でも、ある程度オリの意向や意志も組んでのスケジューリングが行われているのは、やはりリオの抱く想いが故の慈悲だったのだろうが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして、そんなある日のこと。

 

「んあ~~~っ!! こんな服着れるかぁ~~~っ!!!」

 

 オリは渡された制服を投げ出し、顔を真っ赤にして地団太を踏んでいた。

 

 

 

 ミレニアムの精鋭組織、C&Cの部室。

 オリの立場上何かと縁のある、ネル、アカネ、アスナにカリンという部員たちに囲まれて、逃げ場を封じられた状態で。

 オリは持たされたC&Cの制服を……つまりはメイド服を、ずびしとネルに突き付ける。

 

「馬鹿!? 馬鹿なの!? いつも思ってたけど、何このっ……恥ずかしいメイド服!?

 いやまあアカネとトキはいいよ、由緒正しきクラシカルスタイルの美しさは私も評価するところさ。性的なニュアンスを含まない労働力としての従事であれば私も受け入れましょうとも。

 ネルパイも、まぁ、いいよ。ファイトスタイルからして跳び回るし、まあ改造制服と思えば受け入れられないこともない。チビだし」

「おいぶっ殺されてぇか」

「でもさ! 何!? カリンとアスナのそれは何!?

 カリンは派手に動き回らないのになんでミニスカなの!? ちゃんと履こうよ丈の長いスカート!!

 アスナに至ってはなんで胸元オープン!? 汚れるでしょうがよ何のための服なんだよファッション楽しんでんじゃないよ仕事着で!!」

 

 そう。

 これからC&Cの部員になるということで渡された、C&Cの制服であるメイド服。

 それを、オリは受け入れられないのだ。

 

 いいや、仮に、アスナやカリンの制服であれば受け入れられたかもしれない。

 昔、オリがネルと交わした、「全力の自分に勝てたらC&Cに入る」という約束。

 エリドゥでそれを達成された以上、オリとしても入部するという約束を果たすしかない。

 であれば、その制服も受け入れるのが道理というものだろう。

 

 が、しかし……。

 

 

 

「そして!! なんで!!

 私の制服は、胸元オープンスカートミニミニのフリフリフリルもりもりスタイルなのさ!?!?」

 

 ……彼女に渡された制服は、もはやメイド服と言うより、フレンチとかジャパニーズとかゴスロリとか、そう装飾されるようなものだった。

 

 胸元はアスナのそれと同じくらいに上部がオープンになり、どころか左右の布地が分かたれ、数本の紐で結ばれているばかりで。

 ふわりと広がったスカートなど、少し覗き込めば簡単に内側が見えてしまいかねない短さ。

 その上、全身を無駄にフリルで装飾され、給仕服と言うよりはドレスにすら近いような状態だ。

 

 それは仕事着と言うより、明らかに見た目を重視された衣装だった。

 

「無理! 無理でしょこれは!! 人前でするような格好じゃないんですけど!?

 え、常識とかない感じかC&Cって組織は! これ着て歩いてたら普通に痴女だよ痴女!

 悪いけどリオちゃんに報告させてもらいますよ!? ミレニアムの治安に関わるからねェ!!」

 

 オリは奔放な言動こそするが、羞恥心はむしろ人一倍強い方だ。

 それこそ、自分の本音や素直な感情を人に見せることを躊躇するくらいに。

 

 故に強く拒絶し、突っぱねようとしたが……。

 

 

 

「……いや、そりゃあちょっと悪ふざけはしたが、痴女って程じゃなくね?」

 

 ネルは心底不思議そうに首を傾げた。

 

「この前トリニティ行ったら、シャツ一枚羽織ったヤツとかそれよりスカート短いヤツとか、あととんでもねぇスリット入ったヤツとかいたぞ」

「それ多分浦和ハナコと静山マシロと若葉ヒナタァ! 例外オブ例外ィ!」

「いや、仮にも正義実現委員会とシスターフッドが認めてんだし、あの程度は問題ねぇだろ。

 ミレニアムだってコトリとかエイミとかやべーし、アレに比べりゃ、コレでもだいぶマシだぞ」

「キヴォトスの基準が狂ってるってェ!! 普通女の子ってあんまり足とか胸とか晒さないんだってェ!!」

「大丈夫、可愛いよオリ!」

「可愛い可愛くないの問題ではない! あとアスナの判断基準はちょっとアテにならない!」

「オリ先輩の機動力を活かすには、やはり布の重量を落とす必要がありますし、軽装になるのは自然なことだと思うのですが……」

「うん、私のためを思ってくれてありがとうアカネ、もうちょっとその気遣いを羞恥心方面に動かしてくれてたらお姉ちゃん嬉しかったなァ!」

 

 オリは必死に頭を抱えて、現実を認めまいとしていたが……。

 

「こう言うのは失礼かもしれないけど……露出度で言えば、オリ先輩のバトルドレスの方が酷いよ」

「ウ゛ッ゛」

 

 最終的には、申し訳なさそうな顔をしたカリンの言葉に、現実を直視することとなった。

 

 エリドゥで身に纏っていた、もはや下着レベルの被覆面積しかないバトルドレスに比べれば、このメイド服の方が遥かに健全である。

 オリとしては、あちらはあくまで効率を最重視した戦闘用の外装であり、恥ずかしがる対象ではないのだが……確かにハレンチと言われてしまえば、どうしても言葉に詰まる。

 

「うっ……ううぅ……」

「観念しろ。ほら新人、コイツの着替えはテメェの領分だろ。手伝ってやれ」

「……申し訳ありません、オリ様」

 

 最終的には、オリを詰めることなく隅の方で待機していたトキが、申し訳なさそうな表情でオリにそれを着せることと相成ったのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「…………」

 

 いざメイド服を纏ってみれば、オリはぷしゅーと湯気を噴き出し、部屋の隅のソファに座ったまま動かなくなってしまった。

 

 かつては「みんなのお姉ちゃん」としての仮面を被り演じることで、色々と厚顔無恥な行動を叶えていたオリではあったが……。

 「あの子」との別れを契機として、親しい人相手には仮面を外して素顔を晒すことも増えた。

 

 そんなオリの素は、自己肯定感がドン底で、自分の本音を晒すことに怯え、多くの人から視線を向けられると落ち着かなくなるような、繊細な少女そのもの。

 そんな彼女がドスケベフレンチメイド服など着れば、CPU100%で凍り付いてしまうのも致し方ない話であった。

 

 

 

「……あー、オイ、アイツどうすんだ。やりすぎたか?」

 

 ネルは後ろ首に手をやり、少しばかり後ろめたそうにアカネにそう言った。

 

 この衣装がふざけてのものかと言われれば、肯定半分否定半分といったところ。

 実に2年間、長らく勧誘に応えなかったオリへの叱咤激励や洗礼の意味もあったが、同時オリにとって戦術的な長所を活かすための衣装という話も嘘ではない。

 

 とはいえ、やや悪ふざけが過ぎたかと、ネルは想定外に過敏な反応に戸惑っていたのだが……。

 アカネは動揺の1つも見せず、応えた。

 

「問題ありません。オリ先輩への特効薬を予約していますので」

「特効薬?」

「先生をお呼びしています」

「……いや、それ、駄目じゃね?

 コイツ、先生に気があんだろ? ただでさえ恥ずかしがってんのに、見られたらいよいよじゃねーか」

 

 ネルはジト目で尋ねたが、対してアカネは薄っすらと笑みを浮かべて首を振る。

 

「いえ。恐らく、オリ先輩であれば……」

 

 

 

 と、その時。

 

“こんにちは。みんな、いる?”

 

 ドアのノックと共に、先生の声が少しくぐもって聞こえて来る。

 

「いるよー、ご主人様っ!」

「あっおい!」

 

 制止しようとしたネルより早く、アスナがドアに駆け寄って行った。

 

 あるいは、直感的に問題ないと判断できたのか。

 彼女は何の躊躇もなく引き戸を開き……。

 

“やあ、アスナ、みんな。今日はオリが来てるって聞いたけど……”

「せっ、先生!?」

 

 室内から声が聞こえて、ようやくその存在に気付いたのだろう。

 ソファに座っていたオリは、きゅうりを見た猫のようにがばっと立ち上がり。

 

“あ、オリ。……うん、メイド服、似合ってるね!”

 

 視線を合わせた先生の言葉に、真っ赤になって固まっていた表情が……でろりと、溶けた。

 

「え、そ、そう? 似合う? えへへ、似合うかな? へへへへ。

 いや、まあ? リオちゃんと同じくらいのわがままぼでぃーだし? ふふん、へへ、似合う? 似合っちゃうかー! いやはや、私も捨てたもんじゃないなー!」

 

 恥ずかしそうにてれりてれりと身をよじり、それとなく先生の方へ近寄って行き……。

 オリはその長身を活かし、先生にだけ聞こえるように、ぽそぽそと耳打ちする。

 

「今ならぁ……リオちゃんと私、調月姉妹がせんせー専用メイドになってあげたり、とか? してもいいかなー、って思ったり?」

“オリ”

「ん、はーい。改めていらっしゃい、先生っ!」

 

 嗜めるような口調で言われれば、ぱっとその体を放し、オリは赤らんだ笑顔で先生を室内へと迎え入れる。

 

 

 

「……アイツ、あんな変わり身速いキャラだったか?」

 

 呆れたネルの言葉に、アカネは首を横に振った。

 

「いえ。今も恥ずかしいと思ってはいるんでしょう」

 

 アカネの視線の先、大げさな身振り手振りで先生をエスコートするように導くオリの耳は、未だ真っ赤に染まったまま。

 今でもオリは、フリーズしかねない程の羞恥に襲われている。……むしろ先生に見られたことで、更に酷くなっているはずだ。

 

 けれど……。

 

「恥や恐怖は、それ以上に強い感情に掻き消されるものですから」

 

 その耳の、そして頬の赤みは、きっと羞恥によるものだけではないだろう。

 それは彼女の、他の誰にも向けないような、蕩け切った表情を見てもわかるというもので。

 

「……ふふ、全く。調月オリは、やっぱり、普通の女の子なんですね」

 

 いつか、アカネの骨髄にまで刻まれた恐怖の主、調月オリ。

 しかし彼女も、あくまでも一人の生徒に過ぎないのだと、そう知って。

 

 アカネは、穏やかな笑みを浮かべながら、7人分の紅茶を淹れ始めた。

 

 

 







 リオレベルのグラマラスな生徒の着るドスケベフレンチメイド服、林檎君に通してもらえるかなぁ……。
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