調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のフリーダムな方

 

 

 

 天童アリス。

 シャーレとゲーム開発部に導かれるように突如としてミレニアムに現れた、遥か古代のオーパーツ。

 あるいは、新たに生を受けミレニアムで生活を始めた、可愛らしいキヴォトスの生徒の1人。

 彼女がそのどちらに属するのかを探るため、ミレニアムの頭脳たちの間で、1つの計画が動く。

 

 不意に騒乱に巻き込まれ、自分や仲間が危険に置かれた時、天童アリスがどのような行動を取るか。

 キヴォトスの生徒に対し、積極的な加害性を見せるか?

 一度仲間とした者たちを、どの程度まで優先するのか?

 その身体能力、戦闘能力、思考の回転速度は如何ほどか?

 そして何より……彼女は『名もなき神々の王女』となり得るのか?

 大まかに言えば、これらが今回の計画で観察される、肝要な部分となる。

 

 

 

 この計画の概要は、端的に言えば、ゲーム開発部を攻め手、C&Cを守り手とした襲撃イベントだ。

 現在ゲーム開発部が『G.Bible』を求めるために欲しているのは、「鏡」と呼ばれるハッキングツール。

 これはヒマリが作成し、彼女の所属部の1つであるヴェリタスに安置してあるのだが……。

 これを、リオがセミナーを動かして回収し、保管する。

 

 部の存続のため、つまりはアリスやユズの居場所を守るため、ゲーム開発部は必ず「鏡」を手に入れなければならない。

 故に、多少無理を言ってでも……というか保管庫を襲撃してでも、ゲーム開発部は『G.Bible』を得ようとするだろう。

 

 この際、彼女たちだけでは戦力も技術も足りないため、ゲーム開発部はモモイが懇意にしているエンジニア部やヴェリタスに協力を要請するはずだ。

 今回の作戦の開始日や時刻も、仲間内で共有するだろう。

 その情報は、ヴェリタスの長であるヒマリの元にも入って来る。

 

 ヒマリはあくまで「部員たちの少し過ぎたおいたを気にして」という形で、セミナーにこの情報を流す。

 違法なものも含めた多数の押収品を保管しているここに、むざむざ生徒を侵入させるわけにもいかず、セミナーはお抱えの傭兵集団に近い存在であるC&Cに防衛の依頼を出さざるを得なくなる。

 

 こうして、ゲーム開発部やその仲間たち対C&Cの構図を作る、というわけだ。

 

 

 

 さて、そんな計画の実行当日。

 オリはセーフルームで1人きり、ぼんやりしていた。

 

 妹であるリオと親友であるヒマリが立案したこの計画において、彼女がどのような役割を負っていたかと言えば……。

 実のところ、これといった役割は持ってはいない。

 

 リオからもヒマリからも、特に「こう動いてほしい」といった話は来ていない。

 強いて言えば、リオから「オリ、今回の計画の意図はわかっているわね? あなたが彼女たちに味方をすれば、AL-1Sの危険性を測るというこの試作は無意味になるわ。それはあなたにとっても本意ではないでしょう?」と言われたくらいで……。

 

「……いや、ガッツリ『動かないでほしい』って言われてるな、これ」

 

 「ただ、そこまで強く止められていないことも事実なんだよなー」と考えながら、オリは腕を組む。

 

 リオがオリの行動を抑制しようとする時は、オリがその武力を向けられないトキを使うことが多い。

 けれど今回、計画の日にこっそりとセーフルームを抜け出そうとするオリを止めようと傍で控えるメイドはいなかった。

 

 それはつまるところ、好きに動くことの黙認であると、オリは非常に都合の良い解釈を行うことにしたのであった。

 

 

 

 そして勿論、最も熱心なシャーレの部員を自称するオリが、この計画に対してただ傍観者を気取るわけもなく。

 

「……さて、そろそろ行くかね」

 

 ミレニアムの中枢、ミレニアムタワー。

 五重程に施錠されていたセーフルームを抜け出して1時間程、セミナーの本拠であるその高い塔を見ながら、オリは……。

 

 その手に持っていた、額に「6」と印字された目出し帽を、頭に被るのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 シャーレの先生擁する、ゲーム開発部とヴェリタス、エンジニア部による「鏡」奪還チーム。

 彼女たちが立てた作戦は、典型的な陽動だった。

 

 まず、アリスがその高出力レールガンを振り回し暴れ回って相手の冷静さを奪いつつ、わざと捕まって虎穴に入る。

 次いでヴェリタスのハッキングにより、コトリとマキのことをモモイとミドリであると誤認させ、そちらにC&Cの人員を割かせて、チタン製のシャッターを下ろして時間を稼ぐ。

 恐らくは遠距離から狙撃してくるだろうカリンは、大量のターレットを引き連れたウタハが引き受けて時間稼ぎ。

 その間に、残るモモイとミドリがこっそりと保管庫に向かい……。

 ……それでも駄目ならば、既に無力化したと思われているアリスが拘禁を脱し、不意打ちのレールガンでまとめて敵を撃破する。

 

 二重三重と、徹底的に陽動をかけた策だ。

 逆に言えば、こうでもしなければ鏡の奪還などできない程に、C&Cは強いのである。

 

 なにせ、他自治区では大量の部員や委員を招聘して初めて可能な治安維持、その殆どを彼女たち4人きりで取り仕切っているのだ。

 その恐ろしさは、あの無謀という言葉に手足が生えたようなモモイが「諦めよう!」と泣き出すレベルなのである。

 

 極め付けに、彼女たちにとってこういう時にヴェリタスやエンジニア部と並んで頼れる相手であり、おおよそミレニアムで唯一C&Cに対抗できる力を持つオリは、流石に真正面から手を貸すと妹に怒られると思い、「本当にごめん、今回はちょっと予定があって……」と不参加を表明。

 戦力的にはかなり不利な状態で作戦を始めることになってしまった。

 

 今回の策はかなり練りに練ったものではあるが、それだって確実なものとは言い難い。

 C&Cという途轍もない戦力を相手取れば、力で策を粉砕されてしまう可能性も出てくるだろう。

 

 

 

「つまり、先生たちが確実に勝つには、謎の第三勢力の通り魔がC&Cを片っ端からぶっ倒していけばいいのよね」

 

 独り言を呟きながら、オリはミレニアムタワーの中を突き進む。

 

 その手には、つい先程までこちらにグレネードランチャーを向けていた大型戦闘ドローンの残骸が握られており、強引に引き千切られた断面からは物悲しくチューブが垂れている。

 彼女はつまらなそうにそれを投げ捨て、改めて左手に握った拳銃を持ち直した。

 

 そして、改めて考える。

 

 メイドたちの中で、最も危険なのは誰か? と。

 

 

 

 メイド部、もといC&Cの構成員は5人。

 ただし、今回はトキが作戦に参加しないため、実質4人と捉えていいだろう。

 

 コールサイン00、近接銃撃戦に特化した最大戦力のリーダー、美甘ネル。

 コールサイン01、鋭すぎる野生の勘と自由気ままな行動で敵を翻弄するアタッカー、一之瀬アスナ。

 コールサイン02、遠方から精密な狙撃を行い敵を無力化するスナイパー、角楯カリン。

 コールサイン03、大胆な破壊工作でこちらの策を押し通すブレイン、室笠アカネ。

 

 内、オリと真正面からやり合えるネルは、別任務に出ているため、今現在はミレニアムにいない。

 次点で危険なのは、第六感で正解を引き当ててくるアスナだが……。

 彼女はその直感の鋭さ故に、作戦時は決してオリの前に現れない。戦っても何もできず負けるだけだと理解できてしまうからだ。

 

 となれば、その次に危険な相手……。

 即ち、C&Cの頭脳であるアカネを潰そうというのは、少なくともオリからすれば、非常に理知的な思考なのであった。

 

 

 

「C&Cとバチバチにやり合う機会ってあんまりないからなぁ~。

 ネルちゃんパイセンがいないのはちょい残念ではあるけど、残ったみんながどこまで強くなったのかチェックといきますか」

 

 そう言うオリの口角は、いつもより邪悪に吊り上がり、普段は隠れている犬歯がむき出しになっている。

 

 オリは、強者相手の戦いが好きだ。

 自分の技が、銃が、暴力が、どこまで強者に通じるかを試すのは、彼女の趣味の内の1つ。

 彼女のミスディレクションや近接戦闘技術は、そういった日々の内に磨かれたものだ。

 

 彼女のその特異な嗜好は、彼女が生まれつき強い体を持っていたからかもしれないし、あるいはそうでなくとも生粋の精神的バトルマニアであったのかもしれないし、もしくは何かしらそうなった事情があったのかもしれないが……。

 

 とにかく、彼女は戦いというものを好んでいるのだ。

 ……まぁ流石に、最初にワカモと会った時のように、命のやり取りまでいくと話が別にはなってくるが。

 

 

 

 とはいえ、一応の法が敷かれているキヴォトスにおいて、自由に暴れ回れる機会は少ない。

 かといって、自分から誰彼構わず喧嘩を売っていれば矯正局送りを免れない。

 効率を考えれば荒事に対処するのが仕事であるC&Cに所属するのが一番だったかもしれないが、将来シャーレで先生のために働きたいこと、そしてついでにあのメイド服を着るのは恥ずかしすぎるという理由から、それも選べず。

 

 故にこそ、彼女は、いつも戦端を開く理由を探していた。

 ちょっとしたことでも火種があれば、首を突っ込んで爆発させる。

 争いがあればすぐさま飛んでいき、その時の気分で仲裁orどちらかの味方に付いて暴れ散らかす。

 

 そんな荒れた中等部を過ごした結果付けられたあだ名が、気まぐれな暴力の化身だの、極まった不条理だの、下水道で蠢くミュータントラットだのといったものだった。

 

 

 

 とはいえ、そういった暴力的な行動は高等部に入ってから多少落ち着きを見せ、シャーレの先生が現れてからは殆ど絶無と言っていい程に減ったのだが……。

 それは何も、オリの中の趣味嗜好が変わったというわけではなかった。

 

「最近は先生からの好感度とかリオちゃんの機嫌とかこれからのこととか気にして、ずっと大人しくしてたからなぁ。

 でも、今回は先生のためにもなるし、ゲー開部の物語も手伝えるし、まさしく一石三鳥! 久々に羽を伸ばして戦えるってものだぜ!」

 

 ……彼女はただ、待っていたのだ。

 

 先生のためにもなる、強者との戦いを。

 空腹に染み渡るような、C&Cとの本気の戦闘を。

 

 要するにこれは、「強者との戦闘」という趣味と「先生のお助け」という実益を合わせた行動なのだ。

 

 

 

 今にも鼻歌を歌い出しそうなくらいにハイテンションで、けれど同時、目にも留まらぬ速度でミレニアムタワーを駆けるオリ。

 

 ヒマリから流してもらった情報で、コトリとマキによって下ろされたシャッターにアカネが囚われていることはわかっている。

 そこに辿り着くまでに、まさか(リオの使うAMASを除けば)最先端であるドローンを50機近く配置しているとは思いもしなかったが……。

 結局のところ、オリにとってそれは、ほんの数秒の時間稼ぎにしかならず。

 

 彼女がここを登り始めて10分程、目的地に到着した。

 

 

 

 

「着いた着いた」

 

 人が横に並んで8人は歩ける広い通路に、ガッツリと下ろされたチタン製のシャッター。

 向こうから小さく声が聞こえることからしても、間違いないだろう。

 ここが、アカネの囚われている場所だ。

 

 それを確認した後、オリはそのシャッターの下に右手を回し……ぐっ、と、力を込める。

 

「よい、しょおっ!!」

 

 セミナーによって完全に管理され、中に入った者を決して逃さないはずのシャッターは、しかし今。

 バキバキと、明らかに内部の何かが壊れる音と共に、ゆっくりと持ち上がっていく。

 

「んー、重い重い! 戦車とどっちが重いかなぁ、っと!!」

 

 半ば愚痴るように言いながら、オリはシャッターを持ち上げ続け……。

 そうして、ついに胸程にまで持ち上げた頃、急にその感触が軽くなった。

 どうやら、シャッターの閉鎖機能が完全に壊れてしまったらしい。

 

 「ヨシ!」と言わんばかりの笑顔を覆面の奥に隠し、オリは一気にシャッターを叩き上げる。

 鼠一匹通さないはずのチタン製の障壁は破れ去る。

 派手に曲がって修復不可能な様子が窺えるそれは、ガツンと天井に叩きつけられ、変に歪んでしまったのか降りてこなくなってしまった。

 

 

 

「さて、と」

 

 手に付いた煤を払いながら、オリは改めて、シャッターのあった先を見る。

 

「えっ、シャッターが!?」

「これは……!」

「……!」

 

 そこには、3人の生徒がいた。

 「鏡」奪還チーム側の、ヴェリタスのマキ、エンジニア部のコトリ。

 そして彼女たちと敵対している、C&Cのアカネ。

 

 オリは目出し帽の穴から、3人の様子を観察する。

 

 既にそこそこの戦闘が行われたのだろう、マキとコトリは少なからず傷を負っている。

 その一方でアカネは、2対1という苦境に立たされているというのに、ほぼ無傷のままだ。

 C&Cの4人の中では直接的な戦闘力に秀でる方ではないというのに、それでもなおこの結果。

 流石は精鋭の中の精鋭、C&Cのエージェントといったところだろうか。

 

 

 

 が、そんなことに今更動じるオリではない。

 

 左手に持つ銃はそのまま、オリに驚愕と困惑の視線を投げる3人に向かって、高らかに告げた。

 

 

 

「ハロー、マキ、コトリ、それにアカネ。

 目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……。

 ブラックマーケットを統べる真なるフィクサー『ファウスト』が傘下、覆面水着団、幻の6号。

 ここに推参仕ったよ」

 

 

 

「? オリ先輩だよね?」

「ええと……どう反応すればよいのでしょう?」

「説明しましょう! 覆面水着団とはこの3か月で主にブラックマーケットやトリニティを中心として急速に広まっている噂もしくは怪談の類であり、5人から6人の水着を着用し覆面を付けた生徒の集団であるとされています。その構成としては、内4人は目出し帽を被った一団であり、ショットガン持ちの背の低い1号、アサルトライフル持ちの獣耳の2号、ミニガン持ちの豊満な3号、アサルトライフル持ちのツッコミ役の4号。そしてただ1人紙袋を被った少女はその唯一性からリーダーと目され、凶悪無比かつ冷酷無惨な性格を持つ恐るべき存在として知られています! 更にそこにオペレーターとして眼鏡をかけた0号も加わるという説もありますが、しかし0号に関しては確かと言えるだけの回数現れたとは言えず、臨時参加メンバーであったという説もありますね! 彼女たちはブラックマーケットにおいて悪がなされる時に現れ武力を以て悪を糺す、というのが現在主流の言説ではありますが、これは初めてその姿を現したカイザー系列の銀行の強盗事件に関して、その後この銀行から多額の違法な取引が見つかったことにより形成された噂であると思われます。いわゆるピカレスク小説に代表されるダークヒーロー的な偶像によって形作られた偶像に近いものと思われますが、本格的な変装や仮装をせず目出し帽、リーダーに至っては紙袋を被るだけで済ませているのは、清貧な行いのためという説、形式美として隠してはいるが本質的には正しい行いであるために自らの正体を過度に隠すつもりはないという説、ただ単にそこら辺にあったもの被っただけ説など、纏まった仮説が立っていないという点には注意が必要でしょう! またその戦闘能力についてはカイザーPMCの追撃を振り切って逃走に成功しているという点から非常に高く評価されており、現在ミレニアムでは『覆面水着団とメイド部が戦ったらどちらが強いか?』という議論がまことしやかに行われていたりもします。その正体に関しては当然謎に包まれていますが、一説にはゲヘナ学園の便利屋68所属陸八魔アルさんがこの事件の直後に大きなアタッシュケースを持っていたという目撃談があり、覆面水着団は便利屋68が危険な仕事を請け負う際の姿なのではないかという説もありますね。他で言えば興味深いのは、少数精鋭かつ特殊な思想を持つ過激派集団という繋がりで、連邦生徒会によって指名手配されている『無限回転寿司戦隊・カイテンジャー』という別の集団との関連しているという噂ですね。あ、更に解説が必要ですね! 無限回転寿司戦隊・カイテンジャーというのは……

 

 

 







 コトリとかレイサが理解困難な高速言語を喋るMADすき


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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