調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のやべー方のやべー過去

 

 

 

 ミレニアム自治区、その中枢にそびえ立つミレニアムタワーから、徒歩で10分程。

 青々しい街路樹と街灯の下に、4人の少女がいた。

 

 ベンチに座って比較的落ち着いているのは、ゲヘナ学園、便利屋68のアル、ムツキ、カヨコ。

 激情を滲ませながらその前に立っているのが、同じく便利屋のハルカ。

 そして、ハルカによって頭にショットガンを当てられながら、真面目な顔で正座させられているのが、オリだった。

 

 アルは顎に手を当て──何度も鏡の前で練習し続けたポーズだ──、オリが語ったことを纏める。

 

「……つまり、こういうこと?

 あなたは、私たちと敵対する気はない。こちらが時間稼ぎをしたいと望むなら、戦闘なしで話し合いに付き合ってもいい、と」

「というか、付き合わせてほしい、かな。罪滅ぼしも兼ねて」

 

 コクリと頷いたオリは、非常に珍しいことに、彼女の妹を思わせるような真面目な表情だった。

 

 ……ただし、便利屋の4人は、それを見ることは叶わなかったのだが。

 

 

 

 オリはちらりとハルカの方を見上げた後、便利屋3人に視線を戻し、言う。

 

「改めて、襲いかかっちゃってごめん。

 言い訳になっちゃうけど、さっきフラグレ食らって視界が戻り切ってなかった上、土煙がすごくて相手のこと見えなくて……というか、見る余裕もなかったんだよね。

 相手が君たちだとわかっていれば、まず手を出さなかった。勿論、今はもう全く以て戦意はない」

 

 そんなオリの言葉を聞いても、便利屋の間にある張り詰めた空気は解けない。

 

 なにせつい先程、ハルカを気絶させられ、アルを人質に取られて、組織としては半壊滅状態に追い込まれてしまったのだ。

 相手の意図を理解しない限り、とてもではないが安心はできない。

 

 

 

「何故、私たち相手には戦えないっていうの?」

 

 代表して疑問を口にしたのは、便利屋68の頭脳である鬼方カヨコ。

 

 彼女からすれば、オリの行動は極めて不可解だった。

 

 先程の戦闘で、カヨコは痛感した。

 目の前で正座をしている不審人物は、間違いなく強い。

 恐らくは空崎ヒナや剣先ツルギ、このミレニアムで言うなら美甘ネルと同格以上の力を持つ、桁違いの身体能力と戦闘センスを持っている。

 

 その圧倒的な実力にしては、カヨコの情報網には名前が挙がることが少なかったのだが……。

 あるいは、ミレニアムの抱える秘密戦力なのかもしれないと、カヨコは一度これを呑み込む。

 

 カヨコがその名前を殆ど知らないということは当然、便利屋68は少なくとも直接的にはオリと接点を持ったことはないわけで。

 そしてそんな状態で、明らかな強者であるオリが、自分たちのような零細企業を特別に気をかけるとは思えなかった。

 

 

 

 カヨコの言葉に、便利屋一同はより疑念を深めるが……。

 

 それに対しオリは、懐かしい思い出を想起するような表情で答えた。

 

「端的に言うと、便利屋の皆には、昔馴染みを助けてもらったんだよ」

「昔馴染み?」

「うん。知ってるでしょ、アビドス高等学校のこと」

「アビドス……」

 

 言われて、便利屋の4人が思い出したのは、数か月前のこと。

 

 カイザーの系列企業に雇われ、自分たちが傭兵として襲った、砂と借金に塗れた寂れた学校。

 それこそが、アビドス高等学校だった。

 

 まぁその後は、アビドスの生徒たちに受けた借りやら恩やらを返すため、彼女たちの銀行強襲作戦を手助けしたり、その結果カイザーから本格的に敵対視されてしまったり、最後はハルカがしかけた爆弾で全てが滅茶苦茶になってしまったりもしたのだが……。

 

 オリの言う「助けた」というのはその時のことだろうかと、カヨコは察しを付ける。

 

 

 

「アビドスのホシノとは……まぁ、ちょっと色々あってね。

 あの子やアビドスを助けてくれたっていうんなら、私にとっても恩人だ。

 そんな恩人に、手を貸すっていうんならともかく、手を上げるなんてことはあっちゃいけない。

 そういうわけで、ほんっとーに! 今回はごめんなさいでした!」

 

 そう言って頭を下げるオリに……。

 

 アルは、軽く首を振ることで応える。

 

「頭を上げて頂戴。

 そもそも今回、先に手を出したのはこちらよ。あなたはあくまで、突然の奇襲に対して然るべき反撃を取っただけ。

 こちらの正体に気付き、すぐさま自分から頭を下げて停戦を申し入れたあなたの誠意を信じて、その提案を受け入れましょう。

 ……勿論! あなたが私たちの仕事を妨害するというのなら? 便利屋68の刃は再びあなたを捉えるでしょうけれどね!!」

 

 「アル様、流石です……!」「刃じゃなくて銃弾だけどね」「でも銃弾じゃあのスピード捉える自信なくない?」などという仲間の呟きもどこ吹く風。

 アルはドヤ顔で、オリにそう言った。

 

 オリはそれを見て、一度目を見開いた後……。

 

「……ふふ。やっぱり聞いてた通り、人望がすごいタイプだね。

 いやまぁあの狙撃精度とか判断の速さとか圧とかからして、普通にスペックも優秀っぽいけど。なんでキヴォトス準最強級の戦力がギャグキャラやってるんだっての」

 

 クスリと笑い、小声でそう呟いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 調月オリと便利屋68は、休戦協定を結んだ。

 

 便利屋の今回の依頼は、「所定の位置を通った生徒を狙撃し、時間を稼ぐこと」。

 その内、既に狙撃を完了させている彼女たちとしては、その後の時間稼ぎの方法は、何も戦闘に限る必要はない。

 というか、弾丸なり傷なりで多少なりとも消耗してしまう戦闘は、可能ならば避けたいところだった。

 平和裏に話し合いで時間を稼げるのなら、それ以上のことはない。

 

 一方で、オリの方は……。

 

「ええと……今更な上、こんなことを私たちが言うのもなんだけど、良かったのかしら。

 何の意味もなく屋上を飛んだりはしないでしょう? あなた、何か目的があったんじゃないの?」

 

 『こうなれば対等な関係よ。相手だけを下に置くのは仁義にもとるわ』とのアルの言葉で、ハルカの銃口から逃れ、彼女たちの対面のベンチに座ることを許されたオリ。

 

 彼女はアルの気遣わし気な言葉に、『うーん』と考え込む。

 

「まぁ、あったと言えばあったんだけど……」

「けど?」

「そこまで優先度が高いものじゃないんだ。

 ……いや、私情を挟むんなら最優先なんだけど、他の最優先目標と干渉しちゃってて、結果的に優先度が落ちちゃってるんだよね。ぶっちゃけ私がいなくともなんとかなる案件だし、私の趣味が大半みたいなもんだし」

「えぇと……つまりどういうこと?」

「期間限定売り切れ続出のめちゃうまプリンが食べたくなってコンビニに走ってたくらいのヤツだよ」

「なるほど……?」

 

 アルはわかっているのかいないのか、首を傾げる。

 

 オリにはオリで考えていることはあるが、それをそのまま彼女たちに伝えることはできない。

 今ミレニアムの頭脳たちが遥か古代のオーパーツ(?)が安全かどうかチェックするための試練をやってて、そこにシャーレの先生も巻き込まれてて、私は個人的な理由で先生に肩入れするためにC&Cと殴り合ってたんだよね……と。

 そんなことを正直に言ってしまえば、とんでもない情報漏洩に繋がってしまう。そもそも信じてもらえるかも怪しいが。

 

 

 

 そんなわけで、オリは話を変えようと、からからと笑って言った。

 

「とにかく気遣い無用! 大丈夫!

 ……それにまぁ、こんなこと言っちゃなんだけど、私がこう判断することも、ぜーんぶあの子の想定通りなんだろうしね!」

「想定通り?」

 

 首を傾げるカヨコに目をやり、オリは尋ねた。

 

「ね、話に付き合うんだから聞いておきたいんだけどさ。便利屋の皆は、私に対してどれくらいの時間稼ぎを依頼されたの?」

「……20分だよ。20分間、釘付けにするか気を引いて欲しい、っていうのが今回の依頼だった」

 

 オリはそれを聞いて、腕を組んでこくこくと頷く。

 

「あー、うん、やっぱりそうか。大体事情が呑み込めた。

 まずさ、手前味噌な話だけど、私相手に20分稼ぐなんて並大抵の生徒には不可能だよ。それこそ自治区最強格の生徒をぶつけるか、常に兵器群による全方位からの飽和攻撃でもするしかないと思う。

 生徒が4人しか所属してない便利屋に頼むには、あまりにも難易度が高い……というか、ミレニアムの内情を知ってる人からすれば、あまりにも無意味な依頼だ。数を揃えたってわけでもないみたいだしね」

 

 

 

 オリの実力や事件についての情報は、リオによって連邦生徒会以外の自治会やミレニアムを除く自治区にはほぼ完全に秘匿されているが……。

 逆に言えば、ミレニアムに住む者にとって、彼女の不条理な暴力は周知の事実だ。

 というか、定期的にオリが問題を起こすので、もはや日常のようなものと言ってもいい。ゲヘナ学園における美食研究会や温泉開発部のようなもの、と言えば伝わりやすいだろうか。

 

 そして、今回の便利屋への依頼、リスクヘッジのため中間に人を挟んではいるだろうが、今回便利屋に依頼を出したのは十中八九自分の妹だろうことは、流石のオリにも察しが付いていた。

 

 リオにとって、今回天童アリス……AL-1Sの試しを妨害してくるオリの存在は、障害と呼んでいいものだったはず。

 それを排除しようと、時間稼ぎの依頼を出すのは、決して想像に難くない展開だった。

 

 ただ、問題はそれに充てる戦力。

 下手な戦力をぶつけても、オリは止めることはできない。

 だからと言ってそちらにリソースを割きすぎれば、ゲーム開発部に向けられる戦力が減ってしまう。

 

 オリとしては、ネルという最大戦力をミレニアムに残してくる程度だと思っていたが……。

 どうやらそれもなかったらしく、何をして来るかと思っていたら、まさか自治区外から傭兵を……便利屋68を招くとは。

 やっぱり私の頭じゃ、リオちゃんには勝てそうにないなぁ、とオリはため息を吐く。

 

 

 

「あなたたちに依頼した……まぁ、今は仮に黒幕とでも呼ぼうか。

 今回の黒幕は、私の性格も、あなたたちのアビドスでの活躍も、全部知ってたんだよ。

 その上で、私があなたたちのことを無下にできないから時間稼ぎに付き合うだろうなって判断して、あなたたちをよこしたわけだ。いやーいもう……黒幕からの理解度が高いのって参っちゃうね!」

 

 何故かてれてれと頬を掻いて笑うオリに、アルはこてんと首を傾げたが……。

 横に座るカヨコは、ある程度の事情を察する。

 

 彼女程の強い存在には覚えがなかったカヨコだが、改めて見た彼女の容姿には覚えがあった。

 高身長で人間離れしたメリハリの付いた体もそうだが、何よりの特徴は頭の上に浮かぶヘイローの形状。

 それは色こそ違うが、ミレニアムのビッグシスター、調月リオとそっくりだった。

 

 察するに、彼女は調月リオの縁者。

 よく似た外見から察するに、恐らくは姉妹、双子だろう。

 

 あるいは、今回の件は少々……いや、とんでもなくはた迷惑な規模の、姉妹喧嘩だったのかもしれない。

 

 

 

 一方で、そんな事情を全く理解できていないアルは、その形の良い眉をきゅっと寄せた。

 

「なるほど……裏社会のフィクサーが、私たちを使ったというわけね」

「ん? いや別に裏社会のとかそういんじゃ……」

「いえ、言わずともわかっているわ! あなたの正体もね!」

「え?」

 

 オリは思わず、その目を丸くする。

 

 彼女は自分の正体に関して、殊更に隠そうとはしていないが、だからと言って開けっぴろげに話しているわけでもない。

 実際、便利屋に対しても、彼女は自分の名前すら打ち明けていないのだ。

 

 それなのにどこから正体を悟れたのかと、疑問に思ったのだが……。

 

 

 

「当然、知っているし、理解できるわよ。

 あなたが覆面水着団の一員であり、裏社会から狙われている身ということはね!!」

 

 

 

 ……あぁ、そうだった、と。

 オリは、目出し帽の中で「あちゃー」という表情を浮かべた。

 

 そう、今のオリは、額に「6」と印字されている目出し帽を被っている。

 元は遠くに住む友人が「オリだけが仲間外れっていうのも違うじゃ~ん? そんなわけで、おじさんからのプレゼントだよ~」と送り付けてきた、親愛の証のジョークグッズ。

 それを今回、オリは自分の正体を隠すために──より正確には、怒られた時「私じゃなくて覆面水着団6号が」と言い訳にするために──被っていたわけだが……。

 

 どうやら、アルはそれを見て、ものの見事に誤解してしまったらしい。

 

「流石は覆面水着団、アウトローの中のアウトロー! あの強さにも納得ね!」

「いや私は……あー、うん、まぁでも、ある意味私も覆面水着団なのかなぁ。

 でも、今年入った子たちとは面識ないし、仲間として迎えられたわけじゃないんだけど……」

 

 オリは、ホシノやノノミ、シロコとは交友を持つものの、今年入ったというセリカやアヤネとは、通話越しに話したことはあれど、会ったことがない。

 覆面水着団の長……ということになっているファウストこと阿慈谷ヒフミに至っては、全く面識がない状態だ。

 

 そもそも覆面水着団は割とその場のノリでできてしまった(らしい)グループ。

 覆面を送ってもらったとはいえ、彼女たちの仲間だと言えるかは微妙なところだろう。

 

 というか、シャーレ以外の特定のグループに所属する気がないオリからすれば、覆面水着団に所属するわけにはいかない、というのが本音なのだが……。

 ホシノの好意を無下にするわけにもいかないので、思い切り否定することもできないのが難しいところだった。

 

 

 

「……まぁ、うん。私の正体についてはご想像にお任せするってことで。

 話を戻すけど、そんなわけで私の都合についてはひとまず気にしないで大丈夫だよ。存分にお話して時間潰しましょー」

 

 オリはそう言って覆面の奥で笑い、ゆったりと指を組んで便利屋の面々を眺める。

 

 「アル様が許すのなら」とショットガンを膝の上に置いたハルカは、おどおどとオリとアルの間で視線を行ったり来たりさせ。

 今聞いた話を吟味しているのか、カヨコはじっとオリに視線を投げながら何かを考え。

 色々と勘違いしまくっているアルは、「やっぱり一流のアウトローになると狙われるものなのね」とその目をキラキラ輝かせ。

 そして、「ふーん?」と面白そうに話を聞いていたムツキは、オリに向かって疑問を投げかけて来た。

 

「ね、話っていうなら聞かせてほしいんだけど、あのアビドスの子たちとはどういう関係なの?」

「ん? ……うーん、2年前にちょっとね」

「話せないことなの~? 恩があるっていうんなら話せるよね~?」

 

 オリの見せた苦笑いと歯切れの悪さにニヤリと笑い、ここぞとばかりに追及するムツキ。

 

 彼女にとっては、つい先程してやられた仕返しだったのかもしれない。

 ……けれど、恐らく彼女も、その回答は想定していなかっただろう。

 

 

 

「うんまぁ、別に話してもいいんだけどね。

 2年前、私欲であそこの学園乗っ取って、自治区で好き勝手暴れてね。それで縁ができたんだ。

 まぁその結果、私はアビドス自治区に立ち入り禁止になっちゃったんだけどねー」

 

 

 

「……へぇ」

 

 そのあまりに破天荒な答えに、ムツキは目を細め、アルは唖然とし、カヨコは眉をひそめ、ハルカはきょとんとして。

 

 そんな彼女たちに苦笑しながら、オリは再び口を開いた。

 

「こっちも話したんだから、今度はそっちの番だよ

 ちょっと前にアビドスの子たちに会ったんでしょ? その時のこと、聞かせてよ!」

 

 

 







 リオ(追い詰められたら逃げることを許容したはずのに、アカネが想定以上に奮闘してオリが負傷した……?)

 アカネ(決死の覚悟……万全の策……それでもなお……)

 オリ(やっべ、思ったよりC&Cが最高だったしテンション上がってちょっと本気出そうと思ったら手を上げちゃいけない相手だった……!)

 アル(美味しい依頼と思って受けたら相手めちゃくちゃ強いし覆面水着団の新メンバーだしアビドス乗っ取ったとか言ってるし、どうなってるのよ~~~!?!?)

 アリス「やりました! なんだかんだ『鏡』入手です!」



 想定通りに事を運べたのゲーム開発部だけってマジ?
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