調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

2 / 144
 続きました。





調月姉妹のつえー方

 

 

 

 普段はD.U.地区外れの廃墟にたむろする、不良の一団。

 彼女たちの中には、1つの共通した意識があった。

 

 それ即ち、連邦生徒会が悪い。

 

 自分たちが学校を退学することになったのも。

 まともに日常生活を送れないのも。

 毎日毎日、たまらないくらいにイライラするのも。

 

 全てはつまらないルールを敷き、キヴォトスの支配者面している、連邦生徒会が悪い。

 

 

 

 勿論、ドロップアウトした当時から、そう思い込んでいたわけではなかった。

 本当はルールを破った自分たちが悪いのだと、薄々理解していたはずだった。

 

 しかし、群れて集団化した彼女たちの、表面上の思想は過激化していき……。

 いつしかそれが共通認識となってしまっていた。

 

 そうなれば、もはや引くに引けない。

 馬鹿真面目に「おかしいんじゃないか」なんて言い出せば、この心地良いグループから追い出されるんじゃないか。

 あるいは、より過激な思想を示すことが、このグループでのカーストを上げる手段なのではないか。

 そう思った彼女たちは、いつしか口々に言い合うようになっていたのだ。

 

 これも全て、連邦生徒会のせいだ、と。

 

 故に、派手なテロなどはさておくとして、何かあればアイツらを痛い目に合わせてやろうと、それくらいの意思はあるわけだ。

 自分たちが本格的に潰されない程度に、しかし可能な限り厄介な嫌がらせをしてやろうと。

 

 

 

 つまるところ、彼女たちはただの、よくいる小悪党。

 キヴォトスの至るところに割と頻繁に発生する、ただの名無しの不良の集団にすぎない。

 

 故に彼女たちは、良くも悪くも、大したことはできないのだ。

 最低限の保身を考えるだけの賢しさがある以上、このキヴォトスに致命的なまでのダメージを与えることは在り得ない。

 

 

 

 ……ただし。

 

「あら、あなたたち。……使えそうですね?」

 

 それは、外から何らかの力がかからない場合に限るのだが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「D.U.外郭にあるとある建物に、連邦生徒会は何か大切なものを隠している」

「これからそれを破壊しにいく」

 

 怪しげな狐の面を被る少女にそう言われ、不良たちは奮い立ってしまった。

 

 より正確には、奮い立ったとは少し違うか。

 彼女たちの中にもある程度、嫌な予感というものはあった。

 やけにざわつくキヴォトス、正体を隠した謎の少女から感じる威圧感、連邦生徒会に正面から喧嘩を売るという行為に、何人かは「これはマズい案件なんじゃないか」という察しが付いていた。

 

 しかし、彼女たちの内の誰もが、それを口に出さなかった。

 口に出せば、恐れていることになるからだ。

 

 自分たちは連邦生徒会に張り合っている、誇り高い反乱分子。

 たとえ誇大妄想だとしても、それが彼女たちの矜持であり、プライドだった。

 故に、それを曲げるわけにはいかない。

 

 やってやるよと、誰かが言った。

 それに呼応するように次から次へと声が上がり、それは多数派となって、一部の心配の声を塗りつぶす。

 

 そうやって彼女たちは、いつも通りその場の流れで行動を決定し……。

 

 

 

 ……そうして、数時間後の今。

 

 その決定を、猛烈に後悔していた。

 

 

 

 狐面の少女が用意した、巡航戦車クルセイダー。

 この中にいれば相手が相当な火力でも持ってこない限り大丈夫だと、我先にと乗り込んだ不良たちのリーダー格の少女は、今。

 

 不自然な傾き(・・)を感じていた。

 

「んあーっもう! 重いよねぇ戦車ってさ! この、おでぶさんがぁ~!!」

 

 外から、恐らくは戦車のすぐそこから発される、くぐもった声。

 それと同時に……。

 

 揺れる。

 傾く。

 

 ……持ち上げられている?

 

 信じられない。

 何が起こっている? 

 持ち上げられているのか?

 この、20トンを優に越える、クルセイダーが?

 

 キヴォトスの住民は、外の世界の人間と比べて、身体的に優れている傾向がある。

 銃弾を受けても大抵は肌が弾くし、多少の爆発にだって耐える。

 筋力や体力の面でも、鍛えればフルマラソンさえそこまで苦にならないようになる程だ。

 

 だが、だからと言って……。

 戦車を、持ち上げる?

 なんだそれは。どんなゴリゴリのゴリラならそんなことができる?

 

 いや、できるわけがない。

 できていいわけがないでしょ!?

 

 

 

 名もなき不良が鉄の箱の中で現実逃避している間にも、状況は動く。

 

「もー、ホント戦車嫌い! 私の銃弾全然通らないし、殴ってもイマイチ効果薄いし! 攻略する側のことも考えろって話でしょ!?」

 

 勝手なご意見を吐き捨てながら、そして数多の銃による弾丸の雨を浴びながら、下手人……調月オリは、戦車を持ち上げようと試みていた。

 潰したキャタピラの下に手を回し、ぐっと力を入れると……。

 

 ゆっくりと、車体の高度が、上がる。

 

「おまけに重いし、大きいから……っとと、持ち上げにくいし!

 ちょっと暴れたらいっぱい出てくる雑魚にしては、厄介すぎるでしょうが、よッ!!」

 

 そうしてついには、その巨体を自分の真上にまで持ち上げ……。

 

 それを、いよいよ銃を下げて戦意喪失しつつあった不良たちに向かって、放り投げた。

 

 総重量22トンの巨大な金属の塊は、その勢いと重量に基づいて、すさまじい轟音を上げながら彼女たちに向かって転がり……。

 悲鳴を上げながらかろうじて回避した者の後ろ髪を掠めて、コンクリートを破壊しながら直進。

 3度程派手に回転した後、中途半端にひっくり返ったまま、沈黙する。

 

 一拍空けて、中の装薬が発火したのか、車体から火の手が上がった。

 

 

 

「ふぅ、これでよし、と」

 

 オリは両手を叩いて付いた煤を払いながら、無力化した戦車から目を離して、自分を取り巻く不良たちの方を見やる。

 既に彼女たちの目には覇気はなく、むしろ怖気がその心を蝕んでいるようだった。

 

 それも当然だろう。

 目の前で何十トンもの戦車を持ち上げる少女。

 その膂力が自分たちに向けば、流石にただで済むとは思えない。

 

 それを確認して、オリは内心でヨシ! と指差し確認。

 こーいう子たちは1回叩き折らないと面倒だからなー、などと思いながら、彼女は努めて冷たい声で彼女たちの方に話しかけた。

 

「で、残りの人たちはどうするの?

 まだやるって言うんなら相手するけどさ、早くあの戦車の中の人助けないと、700度の蒸し焼き地獄だよ。よっぽど頑丈じゃないとヘイローも壊れちゃいかねない。

 それでもまだ武器を持って抵抗してきちゃう? 私の仕事増やしちゃう?

 ……わかんないかな? 今なら見逃してやるから、さっさと武器捨てて仲間助けて撤退しろって言ってるんだけど」

 

 その言葉を聞くや否や、不良たちはすぐさま武器を捨て、燃え盛る戦車の方へと走って行く。

 

 この状況で、我先にと逃げるわけでもなく、燃える戦車を前にあたふたするでもなく、仲間を助けようと動ける。

 それは、たとえ歪んでいたとしても、彼女たちには彼女たちなりのコミュニティがあり、絆を育んでいるであろうことを思わせた。

 

「……仲間を思いやる気持ちはあるわけね。ま、根っからの悪人はキヴォトス(ここ)には殆どいないってことかな。

 それなら最初からやるなって話だけど……ま、これも青春の1ページってわけかね」

 

 誰にも届かない声で一人呟き、オリは面倒臭そうな表情で肩をすくめた。

 

「じゃ、これで戦闘終了ってことで」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 改めてため息を吐いた後、オリはその表情を一転、喜色に染める。

 そうして振り返り、そこそこ遠方からこちらを見ている一団に声をかけ、手を振った。

 

「先生、みんな! 行きましょう!」

 

 彼女の様子を見た一団……先生と5人の生徒は、オリの方に歩み寄る。

 

 その表情から読み取れる感情は、大きく分けて3種類。

 先生は、驚き。

 ハスミとチナツは、感嘆。

 そしてユウカとリンが、今にも頭を抱えそうな苦悩だった。

 

 

 

“キヴォトスの人たちって、すごいんだね”

 

 先生は歩きながら、先程見たオリの行動を思い出して、思わずそう漏らす。

 

 道を塞いで足止めしようとしてきた不良たちを見るや否や、「私が片付けてくるから、みんなは先生を守ってて!」と言って、1人突貫。

 目にもとまらぬスピードで戦車へと駆け寄り、不良たちから何百発という弾丸を受けながら全く動じる様子もなく、何十トンという巨体を投げ飛ばす。

 

 ちょっと人間業とは思えない、ダイナミックな行動。

 少なくとも、先生が元いた場所で、そんな芸当が可能な人間はいなかったはずだ。

 

 しかし、先生を守るように前後左右を固めた生徒たちは、それに首を振る。

 

「先生、勘違いしないでください、皆が皆ああじゃありません。というか、あんなことできるのは少数派ですからね? ミレニアム全体で見ても、彼女以外に1人いるかどうか……」

「ゲヘナは……どうでしょう。委員長ならばできるかもしれませんけど」

「トリニティには2人、心当たりはいますが。……どちらにしろ、彼女がキヴォトスでも例外的な力を持っていることは間違いありません」

“できる子がいないわけじゃないんだね……”

 

 やっぱりキヴォトスの人ってすごい。

 もはや世界観がアメコミのそれだ。

 

 そんな感想を抱く先生に、しかしリンはため息を吐いた。

 

「……その力を、治安維持や風紀の正常化など、正しいことに使ってくれればいいのですが」

“治安維持に、風紀の正常化か……”

 

 先生の常識に照らし合わせれば、それらは本来、大人がすべきことだ。

 しかしここキヴォトスは「学園都市」。

 それぞれの学園とそこに所属する生徒こそが、この都市を経営しているらしい。

 

 生徒の自主性を重んじるという意味でも、それは賞賛することでこそあれ、止めるべきものではないのだろう。

 

 

 

 ……と。

 そこまで思考を進めた時、ふと先生の脳裏に疑問が生じる。

 

“そう言えば、リンは連邦生徒会で、ユウカはセミナー、チナツは風紀委員、ハスミは正義実現委員会、そしてスズミはトリニティ自警団の所属だったよね。

 じゃあ、オリはどこに所属してるの? ユウカと同じセミナー?”

 

 訊かれたユウカは、眉をひそめ、歯切れ悪く答える。

 

「いえ、オリは……なんというか、強いて言えば帰宅部にあたるんでしょうか」

“部活とか委員会に所属してないってこと?”

「はい。……本当はこっちからお願いしてでも入ってもらいたい部活があるんですけど、『もうちょっとしたら入りたい部活ができるから』とかなんとかてきとうなこと言って断られてるんです。

 時々色んな部活の手伝いに入ったりしてるから、こっちで無理やり事を進めようとするとそういう方面からの反感も強いですし、困ったものです」

 

 ユウカがぷんすこ怒るのを聞きながら、先生は首を傾けた。

 「入りたい部活ができる」……何かしら、友人が部を設立するアテでもあったのだろうか。

 

 更に言えばそれに加えて、初対面の時の登場の仕方や、やけに距離感の近い言動……。

 先生の青色の脳細胞に、閃くものがあった。

 

“……もしかして、オリって、ちょっと変わった子だったりする?”

 

 ユウカは「え、今更?」と少しだけ眉をひそめながら頷いた。

 

「ええ、それはもう。我がミレニアムが抱える、超の付く問題児の1人ですよ。……正直に言うと、初対面の先生にはあまり会わせたくはありませんでしたね」

“私としては、個性のある生徒と出会えて嬉しいけどね”

 

 それは、先生の本心だった。

 

 確かに、リンやユウカの語り口からして、色々と問題のある子ではあるんだろうけど……。

 それでも、どのような問題児であろうとも、可愛い生徒の1人であることに変わりはないのだから。

 

 

 

「いいではありませんか、頼れる戦力があるのは良いことです」

 

 口を挟んだのは、チナツだった。

 

 彼女の所属するゲヘナ学園は、その治安の終わり具合……もとい自由な校風から、風紀を守る側の戦力が慢性的に不足している。

 「委員長さえいなければ風紀委員なんて」と言われてしまうくらいに、その戦力不足は著しいのだ。

 

 そういう意味で、確かな戦力になるであろうオリの存在は、羨ましいものがあったが……。

 

 ユウカは、諦めの表情で首を横に振る。

 

「言っておくけど、オリは風紀を乱す側だからね? この前だって『生塩ノアの余裕を奪え! 傷つけることなく頬赤らめさせたら賞金100万円!』とか言って何百人単位での暴走を扇動したりして大変だったんだから!」

「それは乗る方も乗る方なのでは……?」

「う、ウチは校風的にも研究費用を欲しがる生徒多いから仕方ないのよ!」

 

 ユウカにとっては全く困ったことに、調月オリという生徒は、非常に自由奔放(ゲヘナライク)な性格をしている。

 自分の欲望や思い付きに正直で思いついたら一直線、そのための過程や方法なぞどうでもよいのだと言わんばかりの暴走を見せる。

 それらに周期性や法則性は存在せず、ただ彼女が「そうだ!」と思い付いた時が大混乱の始まりだ。

 

 何故妹がああなのに姉はこうなのかと、ユウカとしては頭を抱えざるを得ない。

 いや、あのビッグシスターが2人になるよりはマシなのかもしれないけど……。

 合理と不条理、何故こうも両極端なのだろう。足して2で割れば丁度良く真人間になってくれるのに、と。

 

「……ミレニアムも、苦労しているんですね」

 

 思わず苦い顔をするユウカに、チナツは同情した。

 その苦労と苦悩に満ちた表情は、ゲヘナ風紀委員の部室でしょっちゅう見るものだったからだ。

 あの万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)はどうしてこうもアレなのかと、そう愚痴る時のアコの表情に本当によく似ていた。

 

「?」

「?」

 

 残念ながら、比較的内情の落ち着いているトリニティの2人にはイマイチ伝わっていないようだった。

 

「…………一番苦労しているのは、彼女が何かするたびに通報や苦情が押し寄せる連邦生徒会なのですが」

 

 そして連邦生徒会の現在の長であるリンは、頭痛を堪えるように頭に手をやっていた。

 

 

 

 そうこう言っている内に、一団に再びオリが合流する。

 

「ちょっとちょっと、私抜きで何をお話してるの~? 私も交ぜてよ~!!」

 

 全く以て負い目など感じてもいない輝かんばかりの笑顔に、ぶちっと脳内で何かが切れる音を聞いたユウカは、ブチブチにブチ切れた笑顔で彼女に詰め寄った。

 

「オリ……あそこ、何が見えます?」

「え、何、頑張ったのに怒られフェーズ? あそこって、そりゃ私がひっくり返した戦車……。

 あ、わかった! 怒られに見せてめーっちゃ褒めてくれるんでしょ! いいよいいよ、私の頑張りにどばどば応えてよ!」

「オリ」

「あ、はい」

「戦車が転がって、アスファルトは剥げて街路樹が折れてるの、見えます?」

「見えますね……」

「アレの補修費、どこが補填するんですか?」

「ミレニアムです……」

「その会計は誰です?」

「ユウカさんです……」

「感想は?」

「ユウカ大変そうでワロタ!w Chu! 迷惑かけてごめん!」

「もっと周りに気を遣って戦ってくださいって言ってるでしょうがーッ!!」

「あっ待ってやめてイヤーッ! サツバツッ!」

 

 とぼけようとする……というかもはやとぼける気すらもないオリに、大魔王ユウカの非情な拳が飛ぶ。

 グリグリと頭を締め付ける両の拳は割と本気の力が込められており、オリは一瞬で涙目になるまで追い詰められた。

 

 

 

 巡航戦車からの砲撃に何十発の銃撃。

 嵐のような攻撃を受けてなお、表情すら変えなかった少女が、ユウカのグリグリで一発で泣きそうになっている……。

 

 先生は、ユウカのことは本気で怒らせないようにしようと、心に刻んだのだった。

 

 

 







 今回でプロローグ終了までいく予定だったんですけど、何故かシャーレ到着にすら行きませんでした。
 これも全てカイザーとゲマトリアのせいです。おのれカイザー!! 許さんゲマトリア!!

 それでは、読者様におかれましては、よいお年を!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。