調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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 対策委員会編三章が……来る!!
 プロット崩壊の危機が……来る!!!





調月姉妹のやべー方 with 対策委員会

 

 

 

 話が逸れてしまったと、特異現象捜査部部長のヒマリは、改めて先生を招いた理由を語った。

 

 今回先生が呼ばれたのは、オリの言う通り、いずれキヴォトスに襲い来るだろう危機を回避するため、とのこと。

 

 神名十文字(デカグラマトン)を名乗る不審なAIによる、キヴォトス各地の優れたAIの感化が始まっている。

 ミレニアムの最新鋭AIであるHUB(ハブ)ですらもほんの須臾の内に狂わせるだろう、あり得ないと言っていい程に高い能力を持つ、謎のAI。

 自分たちはこれを調査し、可能であれば解析を行わなければならない、と。

 

 ヒマリの話は、端的に纏めるならそういうことだった。

 

 

 

 先生はひとまず、呑み込めなかった部分に対して疑問を呈する。

 

“感化……というのは、どういうこと?”

「これに関しては、確かな証拠がないため、憶測の領域を出ません。そのため、リオとも意見が食い違っているのですが……。

 私の解釈が正しければ、デカグラマトンはAIに接触した際、ハッキングを試みているわけではないのです。

 当該AIがしているのは、ただ、自らの存在を示すという行為だけ。

 しかし、この処置を為されたAIは、何故か『狂う』。本来の役割を投げ出し、独自に新たな目的を定めて暴走を開始してしまうのです」

“なるほど、だから感化で、特異現象なんだね”

 

 改ざん、ではない。内部を書き換えられたわけではない。

 洗脳、でもない。そういったコードを仕込まれたわけではない。

 同化、でもない。AIはデカグラマトンとの接触後、独自に行動を始めている。

 

 ただ、自らの存在を示すだけで、結果として対象の意識を変えている……。

 確かに、これは感化と呼べるものだろう。

 

「何故そのような効率の悪い手段を取っているのかは未だ不明なのですが……とにかく。

 もしもこのAIが自由に行動し始めれば、キヴォトスは未曾有の混乱に陥るでしょう。なにせ、何もせずとも、ただそこにいるだけでAIが狂うのですから。

 故に私たち特異現象捜査部は、デカグラマトンについて調査し、研究分析を行いたいと思っております。

 先生、ご協力願えますか?」

 

 おしとやかに首を傾げたヒマリに、先生は首肯を返す。

 

“勿論。私にできることなら、何でもするよ”

「感謝します。……それでは、行きましょうか」

 

 「期待通り」と言わんばかりの笑顔を浮かべたヒマリは、どのように操作しているのか、膝に手を置いたまま車椅子を動かし始める。

 

“どこに行くの?”

「現状唯一、かのAIの痕跡が発見された場所……アビドス砂漠。

 まずはそこで、デカグラマトンの『預言者』となった存在のデータを収集せねばなりません」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんな話の、数時間の後。

 

「いえーいアビドスフゥ~~~!!!」

 

 オリはアビドス自治区で、全力で腕を伸ばして喜びを表現していた。

 

 その表情はいつもの綺麗な笑い方ではなく、自然と浮かんだ満面の笑み。

 基本的にいつもテンションアゲアゲなオリではあるが、今は普段以上にテンションが高いことが窺える。

 

 が、それもやむなしというところだろうか。

 

 彼女がここに立ち入ることができたのは、実に半年ぶりだったのだから。

 

“オリ、いつも以上にテンションが高いね”

 

 オリの後方で呟いた先生に対し、応えるのはヒマリ。

 砂地でも問題なく走行可能な自作の車椅子に乗った彼女は、どこか母性を感じさせる穏やかな笑みを浮かべた。

 

「まぁ、オリは連邦生徒会によって、アビドス自治区に立ち入り禁止にされていますからね。

 久々に知人に会えるとなれば、多少テンションが上がってしまうのも、仕方のないことでしょう」

 

 

 

 オリが、アビドス自治区への立ち入りを禁止されている。

 先生がその事実を知ったのは、先日、彼女が当番に来てくれた時だった。

 

 用があるので纏まった時間ができたら言ってほしい、と言った後に、オリはふと呟いたのだ。

 

「そういえば、言ってたかな。実は私、アビドス出禁になってるんだよね」

“……え? 出禁? 立ち入り禁止ってこと?”

「あ、その反応、言ってなかったっぽいね。

 やはは、ちょっと2年前にやんちゃやらかしてね、連邦生徒会から怒られちゃったんだ」

 

 てへ、と恥ずかしそうに後ろ頭に手を回すオリに、先生の眉根は自然と寄っていく。

 

“オリ、サンクトゥムタワーも出入り禁止にされてたよね。何かしたの?”

「ちょっと学校の自治権乗っ取って私欲のためにアビドスの戦力使って治安ぐちゃぐちゃにしちゃって」

“うーん、思ったよりだいぶやらかしてる……”

 

 学校の占領、生徒の脅迫、治安の悪化。

 本当にそんなことをやらかしているのだったら、確かに自治区単位で出禁になってもおかしくない。

 

 それどころか、場合によっては矯正局送りもあり得るだろう。

 出入り禁止の措置で済んだのは、ひとえに彼女の妹の手心尽くし故だ。

 本当にいつも世話になってるな、とオリは可愛い妹を拝む。イメージの中のビッグシスターは、呆れた様子でため息を吐いていた。

 

「まぁ絶対不可侵って程じゃなくて、正当な理由(・・・・・)さえあれば行けるんだけど……。

 公的で必要不可欠な大義名分なんて、そんなにないからねぇ」

 

 

 

 時刻は現在、場所はアビドス自治区へ戻る。

 

 本来オリは、アビドス自治区へ入ることを禁じられている。

 だが、「ミレニアムにおける重要な部からの申請で、調査を行う先生の護衛を行う」という公的かつ必要不可欠な理由があれば、その限りではない。

 

 故にオリは、いつも以上にテンション高く、アビドス高等学校に向かって歩いているのだった。

 

 ……その背に負った、巨大なバックパックを揺らしながら。

 

“ところで、ヒマリとエイミは、オリの背負ってるアレが何か知ってる?”

「ええ、一応。リオから、今回の作戦に必要な兵装の類であると聞いています」

“兵装……”

 

 キヴォトスにおいて、生徒は多かれ少なかれ武装している。

 オリの知る限り最も重武装した生徒は、火器どころかパワードスーツに身を包んでいるし……。

 ほぼ完全に戦闘をエイミに委託しているヒマリでさえ、それでも拳銃を携帯くらいはしている。

 

 故に、オリが兵装を持っていること自体は、キヴォトスの常識に染まって来つつある先生からすれば、おかしくは感じられない。

 感じられない、のだが……。

 

“それにしても、大きすぎない?”

「外見はバックパックに偽装してるけど、中身は機械仕掛けのコンテナみたい。大きさは大体3立方メートル。最近噂になってるあの子のレールガンより大きいかもね」

「オリなら巨大な得物も使えるのでしょうが……全く、あの手入れされないまま30年間放置された貯水タンクの中身のような女は、自分の姉に何を渡しているのでしょう」

 

 恐らくはトン単位の重さのコンテナを背負いながら、るんるんでスキップするように歩くオリに続いて、2人は首を傾げながら、1人はため息を吐きながら、アビドスの街を歩いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「しゃあっ! アビ・ドス!」

 

 歩くこと数十分、一行はアビドス高等学校に到着した。

 

 かつてはトリニティやゲヘナに並ぶマンモス校であったが、年々進む砂漠化により在校生徒数が減少、カイザーによる土地の買い占めや債務増大に悩まされ、今や廃校寸前となった弱小校。

 その敷地には既に砂が入り込んでおり、もはや数年後にはグラウンドまで呑み込まれていそうな程。

 そんな中、かつての栄華と現在の没落を感じさせる大きく老朽化しつつある校舎は、残り少ない生徒たちを慈しむように見下ろしている。

 

 そんなアビドスの校舎玄関前では、5人の生徒が一行を待っていた。

 

 

 

「お、来たみたいですよ?」

 

 そう言って真っ先に一行に気付き温かな笑顔を浮かべる、十六夜ノノミ。

 

「良かった、予定の時間通りの到着でしたね」

 

 安心したように呟き、少しずり落ちていた眼鏡の位置を治す、奥空アヤネ。

 

「まぁ、先生は二回目だし、今回はオリ先輩もいるしね。迷うことはないでしょ」

 

 そう言いながらも、表情から隠れた安堵している様が伝わる、黒見セリカ。

 

「最悪、オリ先輩がジャンプして上空から見れば一瞬」

 

 あまり表情は動いていないが、ピコピコと動いている耳から興奮が見て取れる、砂狼シロコ。

 

「ちゃんと来れて良かったよ~、おじさんも早起きしたかいがあったね~」

 

 のほほんとした表情でだらーんと腕を脱力させた、小鳥遊ホシノ。

 

 この5人こそが、この学校を仕切っている、アビドス高等学校廃校対策委員会。

 そして、このアビドスに残った生徒の、全てだった。

 

 

 

 そんな5人に対して、オリは……。

 

「ひっさしぶり、みんなー!」

 

 ドズンッというとんでもない音を立てながら、バックパックをその場に下ろし。

 手を振りながら彼女たちの方へと駆け寄って、中央にいたホシノの体を抱き上げた。

 

「よいしょっ! あーホシノったら相変わらずかっるいなぁ! 最近はちゃんとご飯食べられてる?」

「食べてる食べてる。そっちこそ、最近はあんまり噂聞こえてこないけど大丈夫~?」

「私だってもう高3だよ、多少は落ち着く頃だって!」

「オリと落ち着きなんて、絶対交わらない言葉じゃん」

「失礼な! 否定はできないが!」

 

 子供のように小柄なホシノを抱え上げ、その場でくるくると回りながら、オリは彼女と親し気に言葉を交わす。

 その次は、ひょいと彼女を放り投げるように頭の上に回し、肩車の体勢で自分に乗せて、改めて周りの4人を見回した。

 

「シロコ、ノノミもお久! もう4か月ぶりくらいになるかな? 心配してた新入生が見つかって良かった良かった!

 で、セリカちゃんとアヤネちゃんは、何回か通話したことこそあるけど、直に会うのは初めてだよね。初めまして! 調月オリです!」

「ん、久しぶり。元気そうで良かった」

「はい、お久しぶりです! セリカちゃんとアヤネちゃんのおかげで、アビドスも安泰ですよ~」

「初めまして……って感じしないけどね。でもそっか、オリ先輩ってこんな感じだったんだ……写真は見たことあったけど、やっぱり実際に見ると印象変わるわね」

「確かに、想像していたより大柄かもしれません。改めて、初めまして、オリ先輩。これからもよろしくお願いしますね」

 

 

 

 オリと対策委員会の面々が楽し気に会話を交わす、穏やかな光景。

 荒事になる可能性も考えていた先生は、目をぱちぱちさせながらそれを見ていた。

 

“……良かった、安心した。皆は仲良しなんだね。もしかしたらちょっと険悪なのかも、って思ってたんだけど”

「え? 私たちとオリ先輩が険悪? なんで?」

 

 オリの二の腕にシロコと共にぶら下げられ顔を赤くして恥ずかしがっていたセリカは、先生の言葉に一転、きょとんとした表情を浮かべた。

 

“オリは……2年前、アビドスで色々とやってしまった、って聞いてたから、心配してたんだ”

 

 先生の言葉に対し、ノノミが口を開きかけるが……。

 それを制するように、オリが少しだけ早口で語る。

 

「あ~、うん、それは事実なんだけども。逆にそれが縁になってホシノと仲良くなって、入学することになったシロコとノノミとも知り合って……みたいな? そんな感じなんだよ」

 

 僅かに視線を逸らして答えたオリが全てを語っていると思える程、先生は子供ではなかった。

 

 この大人のような体格をしながらも確かに子供らしい少女は、かなりオープンに心を開いてくれているようでいて、しかしその実、結構秘密主義なところがある。

 見せるべき部分は至極普通に見せてくれるが、逆に言えば、見せるべきでないと思った部分は気配すら覗かせはしない。

 

 本当に大事なことは、真に信頼を寄せた相手にしか明かさない。

 その典型例が、つい先日先生に告白した『彼女』のことだったのだろう。

 

 ただ明るくて前向きで破天荒なだけの少女では、ない。

 『あの子』のことといい、アビドスのことといい、色んなことを1人で抱え込みがちな少女……。

 それが現時点における、先生の調月オリへの分析だった。

 

 

 

 そして、本人が隠そうとしている部分には、軽々に踏み込むわけにはいかない。

 故に、先生は一旦、この疑いを棚上げすることにした。

 

“何にせよ、対策委員会の皆がオリのことを受け入れてくれそうで良かったよ”

「受け入れるなんて当然ですよ~。だって、オリ先輩は私たちのこと、何度も助けてくれましたから!」

 

 むんと豊満な胸を張って誇るように言うノノミに、ヒマリが頷く。

 

「オリはこの2年間も、度々アビドス自治区に介入しています。その度に、今はビナーと呼ばれる大蛇や、カイザーグループのPMC、たむろする不良を撃退してきたのです。

 ……勿論、全てはビッグシスターが隠蔽してしまい、公式の記録には残っていませんが」

「あっ、ちょ、ヒマリ? そういうのは言わなくてもいいっていうか……」

 

 焦り出したオリを、先生は静かに問い質す。

 

“オリ? 立ち入り禁止にされたんじゃなかったっけ?”

「ええと、その、友達の学校が危険って聞いたら居ても立っても居られないじゃん? 何かと理由を付けて介入してたんだよ、うん」

 

 誤魔化すように頬を掻くオリに、先生はどうしたものかと悩む。

 気持ちは理解できるし、友人への思いやりは尊いものだ。そこは決して否定すべきではない。

 が、立ち入り禁止とされた場所に私情で立ち入ることは、先生として肯定できることではない。

 

 

 

 どういう伝え方をするかを考えながら、ひとまず先生は余罪の追及に入る。

 

“他には何かした?”

「べ? 別に何も……?」

「オリはね~、妹ちゃんに掛け合って、色々足りない物資送ってくれたり、流通の融通利かせてくれたり~、あとは良いバイトとか投資事業とかの情報くれたりもしてるよ~」

「ホシノなんで裏切った!?」

 

 自分の頭上から飛んで来た凶刃に動揺したオリは、言外にそれを認めてしまった。

 

 それを見て先生は、オリがゲーム開発部の時以上に、彼女たち対策委員会に肩入れしているらしいことを悟る。

 そしてそれを、どうやら自分に隠そうとしていたらしいことも。

 

「いいじゃん、悪いことじゃないんだから。いつもほんとに助かってるよ、ありがとね」

「感謝は素直に受け取るけど、これはそういうんじゃなくて! 高度に政治的な色々が色々だからそういうのは言うのはアレなんだって!」

 

 仲が良い、までは知られてもいい。

 けれど、そうして彼女たちにいっそ過剰なくらいに手を貸していることは知られたくなかった、ということだろう。

 

 先生は更に眉の皺を深くしながら、彼女に言葉を投げかける。

 

“オリ……もしかして、私には明かせない、何か危険なことを……?”

「ちっ違! 違くて! 今回はそうじゃなくて!」

「あー、そういうことか、おじさんわかっちゃったよ。

 オリ、こう見えて露悪的でカッコ付けたがりだからね。良いことをしてる、って知られるのが恥ずかしかったんだよ。お年頃だねぇ。

 あ、もしかしてさっきの感じからしても、2年前のこともホントにアビドスを乗っ取って好き勝手したって先生に言ってたり……」

「そこまでだホシノコラァーッ!」

 

 手酷い裏切りの連続にに堪忍袋の緒が切れたか、オリは肩の上に乗せていたホシノを放り出す。

 が、彼女は空中で見事に身をよじり、無事に着地。

 

 再び大地に降り立ったホシノに、オリは怒りを滲ませた……ように見えて、その実恥ずかしさ半分楽しさ半分という表情でピッと指を指し、叫んだ。

 

「決闘だ決闘!! ボコってそのだらしないお口をチャックしてやるんだから!!」

 

 

 







 オリ、先生、ヒマリ、エイミ、ホシノ、ノノミ、シロコ、アヤネ、セリカ。
 9人もいると描写に難しさを感じますね。どうしても話に絡められない登場人物が出て来ます。

 次回、ミレニアムの不条理 vs アビドスの神秘。



 ところでセトの憤怒、見た感じ学園都市というテクスチャが成立する前の、自然現象の発露的な意味でのガチ神格っぽいですが、なんでそんなもんが急にポップするの……? どこから湧いて来たの? やっぱセトだしアビドス砂漠? あそこ厄ネタの宝箱か?
 それはそれとして2倍は強いむてきぷらにゃすき……。
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