調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のやべー方とアビドス生徒会(1)

 

 

 

 祝勝会をしよう、という声は自然と挙がっていた。

 

 ビナーは強大な敵であり、今回はそれに大きな打撃を与えて撤退させることができた。

 

 修復や補給にはそこそこ長い時間がかかるだろう。これでしばらくの間、アビドス砂漠は平和になる。

 その上、今回の戦闘データはミレニアム・アビドス間で共有されるため、次回遭遇時にはもっと楽に戦えるようになるはずだ。

 

 総合的に言って、従来の目的はこの上なく達成。

 それどころか、想定以上の成果を上げられたと言っていい。

 

 そんなこともあって、アビドスの方からミレニアム・シャーレに対し、美味しいお店を知ってるから一緒に行かないか、という誘いがかかり……。

 

「この砂塵すらも避けて通る砂漠のオアシスのような清楚系天才美少女ハッカーでも、頭脳労働の後にはエネルギー補給が必要ですからね。喜んでお誘いを受けましょう」

「部長はいつも食べなすぎ。今日くらいはいっぱい食べて」

 

 ミレニアムからの反応は、先刻の共闘もあってか、非常に良く。

 

“美味しいお店って言ったら、やっぱりあそこかな”

「アビドスでお祝いって言ったらやっぱりアレだよね」

 

 シャーレの2人は、どちらも既知の仲ということもあって、当然同行。

 

 そんなわけで、その日の夕方からは、ビナーもとい大蛇撃退記念の祝勝会が開かれたのであった。

 

 ……アビドスの面々がよく利用している、柴関ラーメンというラーメン屋の、屋台で。

 

 

 

 当然ながら、屋台で8人の生徒+先生が一度に食事を取ることはできない。

 柴関ラーメンの椅子は4つしかない。過疎化した土地の屋台としてはむしろ多いくらいだが、今回はそれでも追い付かないのだ。

 

 ヒマリは車椅子に乗っているため椅子は使わないとしても、それでもなお4人4人の半々ずつしか同時に食事を取ることができない。

 そのため、前半に先生、ホシノ、ノノミ、アヤネにヒマリ。

 後半にオリ、エイミ、シロコ、そしてセリカが食事を取ることとなった。

 

 このメンバーをキャスティングしたのは、ホシノとヒマリだ。

 集まった生徒たちの中ではかなり頭の周る方である彼女たちとしては、アビドスはこれからの資金繰りとビナーの再出現に向けて、ミレニアムはアビドスという強力な戦力と繋がりを持っておくという意味で、もっと交友を深めておきたいという意図もあっただろう。

 

 更に言えば、ホシノにはもう1つ目的があったのだが……。

 それは、少なくとも後半グループに投入されたオリには、察することのできないものだった。

 

 

 

 そうして、おおよそ1時間後。

 

「せんせ~、おつかれさま~」

 

 前半グループが食べ終わり、後半グループに席を譲った後……。

 

 ノノミやアヤネが、ヒマリからミレニアムのハッキングツールの話を聞いているのを後目に、ホシノは先生に声をかける。

 今日の戦闘データを取っていたのか、タブレット端末を突いて何かをしていた先生は、一旦それにロックをかけて胸元にしまい、声に応じる。

 

“お疲れ様、ホシノ。どうしたの?”

「うん、ちょっと話があってさ」

 

 ホシノは、そのオッドアイをチラリと屋台の方に向ける。

 オリとシロコが大食いに挑戦し、セリカがその食べ方にツッコみ、その横でエイミは淡々とお代わりを注文する……。

 そんな騒々しくも明るい空間を見てから、彼女はその反対、真っ暗になった路地を指差し呟いた。

 

「ちょっとあっちの方で、話、いい?」

 

 

 

「ぷはー、やっぱこれだねぇ。仕事終わりの一杯のために生きてるよぉ」

“あはは。ホシノ、さっきラーメン食べた時も同じこと言ってたよ”

「仕事終わりは空腹に並ぶ最高のスパイスだからねぇ」

 

 自称の通りどこかおじさん臭いことを言いながら、ホシノは先生に買ってもらったジュースをぐいぐいと飲んでいく。

 その様子を微笑ましく見守りながら、先生もまた自販機で買ったジュースを口に含む。

 

“ん、ん……ふぅ。改めて、ホシノ、今日は助けてくれてありがとう。

 アビドスの皆の協力がなかったらそう簡単にはビナーを撃退できなかったと思うし、ホシノがいなかったらエイミの負担が大きくなりすぎてた。すごく助かったよ”

「いやいやぁ~。おじさんだって、先生やオリたちがいてくれて助かったよ。いずれまた、大蛇はアビドスを攻撃しに来たかもしれないし……」

 

 ホシノはそこで一度、言葉を止めた。

 そして、一度手の中のジュース缶に視線を移し……。

 

「……やっぱり、黙ってはおけないなぁ。

 オリは嫌がるだろうけど……絶対に自分からは言わないだろうし、友達として私が言うべきか」

 

 そう、独り言のように呟いた後、再び先生に目を向ける。

 それはとても複雑で、どこか憤ったような、あるいは使命感を帯びたような……あるいは、どこか昏い過去を想うようなものに見えた。

 

「先生はさ、オリが2年前にここに来た時のこと、聞いてる?」

“……武力でアビドスを乗っ取って、大きく治安を乱した……とは聞いてるよ”

「ま、そんな感じだよねー。ほんっと、あの子は……」

 

 ため息を吐いたホシノは……。

 

「オリはさ、救おうとしてくれたんだよ、私たちを」

 

 再びジュース缶にちびちびと口を付けながら、昔話を始めた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 今から、2年前。

 ミレニアムサイエンススクール1年生、調月オリがアビドス自治区を訪れたのは、入学後暫くした頃。

 ちょうど、当時なんとか機能していたアビドスの生徒会の雰囲気が、やや険悪になってきつつあるところだった。

 

 本気でアビドスの復興を考えていた当時のホシノは、膨らみ続ける借金や進む砂漠化、人の戻らない自治区といった、増えるばかりで一向に減らない問題群に追い詰められ、余裕を失っていた。

 生徒会長であった少女は、彼女のことを心配しながらも、けれど彼女の当たりの強さ故に何かを言うことも難しく……。

 

 

 

 そんなところに乗り込んで来たのが、オリだったのだ。

 

『ハロー! アビドスを乗っ取りに来たテロリストでーす!』

 

 一向に進展しない会議に気が立っていたホシノは、このふざけた闖入者に容赦なく愛銃を向けた。

 自分たちが真面目に自治区復興している時にふざけたことを言ってくるヤツに手心はいらない。

 一瞬でぶちのめして、会議を再開しよう、と……。

 

 そう思っていたホシノは、しかし。

 直後に愛銃を奪われ、後頭部を強かに殴打されて、「いっ、たぁ~!!」としゃがみ込むことになった。

 

 「あ、あれ、気絶するくらいには強く打ち込んだはずなんだけど」と困惑する招かれざる客は、仕方ないなぁと再びホシノの銃の銃身を振り上げて……。

 

『や、やめて! ホシノちゃんに手を出すなら……わ、私が相手だよっ!』

 

 大きな盾を構えた、生徒会長の少女に止められたのだった。

 

 

 

 

 

 

“……ええと、ホシノ。現状だとオリは、武力でアビドスを乗っ取ろうとするテロリストに他ならないと思うんだけど……”

「うへ、ここまではそうだね~。

 でも、言ったでしょ? オリって露悪的で、自分のことを悪く見せたがるんだよ。

 実際、オリはただ攻撃されたから反撃したってだけで、私たちを攻撃する意思なんてなかったしね~」

 

 

 

 

 

 

 アビドスにやって来たオリは、自らの目的を「アビドスを乗っ取ること」と言って譲らなかったが……。

 実際に彼女がやったことは、その言葉とは全くと言っていい程別のことだった。

 

 彼女はその有り余る武力で生徒会室にまで乗り込んで来るや否や、バンと机に手を突き……。

 

『オッケー、じゃあひとまずアビドスのビジネスモデル見せてください。

 ……? 何ですかその顔。いや、アビドスだってちゃんと自治区単位の利潤確保のためにビジネスモデルくらい組んでるでしょう? 

 ああ、安心してください、他に漏らす気とか一切ないので。契約書書いてもいいですよ。

 だからほら、早く……は!? 紛失した!? その場のノリでやってる!?』

 

『こんな砂のたまり場に企業の誘致力なんてありませぇええん!! 荒野にはカイザーみたいな弱者にたかるしか能のないカスのハイエナ共しか寄り付かないんだよなぁ!!

 こういうのは先づ隗より始めよって言うでしょうが!! この馬鹿広い土地と無限に広がる砂に何か有用性を見出すんだよぉ!

 砂サウナとか! 星の砂とか! 神秘の砂漠迷宮とか! てきとう言って思い出プライスレスの付加価値ドンッ!! アビドスを救いに来た!!』

 

『あ、リオちゃん? いや違う違う、兵器も脱獄のツテもいらんくて。問題も起こしてないですハイ。

 そうじゃなくて、ちょっとアビドスでマネタイズ図りたいんだけどあんまし良案なくてさ、エンジニア部の部長回してくれない?

 確か去年のミレニアムプライズで「砂をダイヤモンドに変える手の平大の装置」発表したとか言ってたでしょ? 

 ……え、砂じゃなくて炭? しかも同じ量のダイヤモンド買うよりちょっとお金かかる? 全然駄目じゃん!!

 じゃあセミナーの人回して! 開発とかする技術と意気込みある人! あーんもうリソースとか外部とかうるさーい!! お姉ちゃんのお願いです!!

 ……は? ネフティスに委託? 駄目。それは絶対駄目。それ以外で』

 

 生徒会長に対していくつか事情を尋ねたり、資料を引っ張り出したり、どこかへと連絡したり。

 

 そうして走り回った行動は、全て……。

 

『もしかして、アビドスを……私たちを、助けに来てくれたの?』

『ばっ、ばかっ、別にそんなんじゃないんだからねっ! 私はアビドスを乗っ取りに来ただけですぅ~!』

 

 そう叫ぶ彼女の顔は、恥ずかしそうに赤く染まり。

 その資料を捲る手は、動揺から大きくブレていた。

 

 

 

 

 

 

“オリが、アビドスを助けに……”

「あんまり想像できないかな? オリ、ああ見えて結構良い子なんだよ? ……いや、良い子ではないか、色々やらかすし。

 ただ、困った人が目に付けば、良くも悪くも行動を起こさずにはいられない子なんだよね。

 先生が来るちょっと前に、サンクトゥムタワーの前に座り込みしてたって聞いた? アレも、レッドウィンターで起こったクーデターの理由が云々って話だよ」

“だとしても、座り込みは問題なんだけどね……”

「うへへ、そうだねぇ。まぁでも、それがオリのやり方なんだよ。

 誰かが困ってたら介入したり、原因を解消しようとして……ただ、誰かのために動いてるっていう本音は絶対漏らさない。『私が自分勝手にやってるだけだ』って言うんだ。

 結果として、好き勝手に力を振るってる傍若無人な生徒、みたいに見られちゃうんだよ。

 ……まるで、みんなに嫌われることを望んでるみたいなやり方だよね」

“…………”

 

 

 

 

 

 

 生徒会長は、すぐにオリのことを信じ、彼女のやることに協力、あるいは意見するようになった。

 

『砂漠はいいなー右を見ても黄色、左を見ても黄色、あぁ一面のクソ黄色。

 しかも今もどんどん砂の浸食範囲広がってるとかどうしたものかなーホント』

『レジャーパーク建てるとかどう? すっごく楽しい遊園地とか建てたら話題になってみんな戻って来てくれるかも!』

『どこに立てるんですかどこから予算を出すんですか採算はどう取るんですか砂漠に呑まれたらどうするんですか砂嵐で劣化した補修費はどう補うんですか大蛇が現れたらどうするんですかそもそもどうやって人集めるんですか宣伝広告費どこにあるんですか効果の確証はあるんですか企業施設と張り合うだけのマネーパワーはあるんですか長期借入のアテはあるんですか』

『ひぃん……』

『すみませんつい反射で。意見を頭から否定してかかるのは良くないですね。

 ……ふぅ、ツッコミってこんなに疲れるのか。今度リオちゃんに謝ろう』

『あ、じゃあじゃあ、いっそいっぱいお金使って宣伝! 企画は「砂漠の砂を全部抜いてみた」とか!』

『クケェェエエエエーーーッッッ!!』

 

 生徒会長は脇の甘い人物ではあったが、少なくともアビドスの復興には極めて前向きだった。

 そして、同じように全力でアビドス復興を考えているオリに対してもすぐに全幅と言っていい信を置き、翌日から生徒会室は喧々諤々と交わされる議論の場となった。

 その大半は論外な、どうしようもない妄言の類ではあったが。

 

 

 

 ……が。

 それは、生徒会の一員であったホシノからすれば、面白くない変化だった。

 

 彼女とて、アビドスを想う気持ちは強い。

 生徒会長と同じで、本来ならアビドスを強く想う者に反感など覚えるはずがなかった。

 

 が、しかし。

 ホシノは生徒会長に比べてかなり猜疑心が強く、そう易々と他者を信じることはない。

 その上、彼女のオリに対するファーストインプレッションは最悪のものであり、またオリの態度はどこかふざけたようにも感じられるもので、ついでに憎からず思っていた先輩を取られたような状況。

 それらが重なった結果、当時のホシノは、どうしてもオリのことを受け入れられずにいた。

 

『……おい。いつ帰るんだ、お前』

『お前て! 同級生でしょ私たち!』

『お前の名前知らないし』

『オリだよ! 調月オリ! もう名乗るの4度目なんだが!?』

『すぐいなくなるヤツの名前なんて覚える意味ない』

『いなくなりませーん、残念でしたー! 私は用が終わるまでは絶対帰らないもんねー!』

『何の用があるんだ!』

『教えなーい! 教えてほしかったら態度を改めるんだねェクソガキ!』

『あ゛!?』 

 

 売り言葉に買い言葉。

 当時は今よりもっと喧嘩早く、もっと乱暴だったオリは、ホシノの心情を慮ったり、おもねることはなかった。

 

 ……後から考えれば、オリ自身、余裕がなかったのだろう。

 当時の彼女は恐らく、ホシノ以上に差し迫った状態だった。

 こんな無茶苦茶なことをやってでも為したい何かがあり、あるいは避けたい何かがあった。

 そのためにできることをがむしゃらに試している中で、特に理由もなく感情だけで反発するホシノの存在は、酷く邪魔だったに違いない。

 

 けれど、そう思うことができるのは、今のホシノだからであって……。

 当時のホシノは、信頼できない輩が生徒会に介入してきたことに苛立ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

「当時のおじさんは若かったからねぇ、外から来た人には敏感だったんだ」

“まぁ、オリの言動が誤解を招きがちって部分はあるからね。素直じゃないというか、何というか”

「それでも……今思うと、私がもっと早く落ち着いて、オリと色々話しておけば良かったと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 ホシノとオリは、定期的に舌戦を交え、時には実弾も交えて衝突し続け。

 それを生徒会長は、あわあわしながら見守る。

 そんな日々が、しばらく続いた。

 

 オリの持ち込む物資によって若干ながらアビドスの財政は持ち直したが、それでもなかなかに抜本的な解決とはいかなかった。

 カイザーローンに払う利息だけでも数百万円。それが重くのしかかるせいで、そもそもアビドス生徒会は身動きすらできない状態にあったからだ。

 

 それでもなおオリは諦めず、どうにかして経営を健全化しようとする。

 

 最初はただ感情だけで否定していたホシノも、徐々にそれを疑問を持つようになった。

 

 半月以上の間、学校も休んでアビドスに泊まり込み、ずっと働き続けているのだ。

 言葉にも態度にも出さないものの、オリが本気でアビドスをなんとかしようと思っていることは間違いないと思える。

 

 しかし問題は、アビドスで生まれたわけでもない生徒が、何故ここまでアビドスに入れ込むのか?

 

 生徒会長がいくら尋ねても、「は~? 私は一般生徒会乗っ取りテロリストなんだが?」と言い続け、その本心を隠し続けるオリを、どうしてもホシノは信じ切ることができなかった。

 

 

 

 そうして、オリがアビドスに滞在し始めて、1か月。

 

 ヘルメット団の襲撃、二度の財政危機、大蛇の襲来、交通網の破壊と修復。

 生徒会長とホシノ、そしてオリが、そういったいくつかのイベントを乗り越えた辺りで……。

 

 ホシノは、とある、小さな小さな間違いを犯し。

 

 その翌日。

 

 

 

『ユメ先輩……?』

 

 生徒会長が、消えた。

 

 

 







 3章part.1でユメパイの解像度が上がって当初のプロットから結構書き直しました。
 良い人すぎる。救われてほしい。


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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