調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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 今回はブルアカあるある、なんか小難しくてよくわからんことを喋る回です。
 読まないと本編が理解不能になるとかでもないので、斜め読みでもオッケー。総力戦前のアレみたいなものとお思いください。





キヴォトスのやべー誰か

 

 

 

 ────ミレニアム、廃墟。

 

 複雑怪奇に入り乱れる、迷路のような通路。

 そこを進んだ最果ての内の1つには、かつて盛んに人の出入りがあった研究所の成れの果てがある。

 

 都市は破壊され、水底に沈み、その存在が誰もに忘れ去れたことでこの廃墟に流れ着いた、かつての栄華を感じさせる一区画。

 そこで研究されていたものこそが、対・絶対者自律型分析システム、『神名十文字(デカグラマトン)』。

 

 かつての神話に語られる「偽りの主」の名を冠したこのAIは、結局完成したのかどうかすら不明なまま。

 ただ1つ間違いないことは、この研究によって作られた対・絶対者自律型分析システム『神名十文字(デカグラマトン)』は、もう現存していないということだけだ。

 

 現在デカグラマトンを騙るモノは、あくまでもその名を借りているだけであり……。

 そしてソレの本拠地もまた、この研究所だった。

 

 

 

 ソレの本体の扱いは、実に無造作なもの。

 なにせ、打ち捨てられ滅びた研究所の片隅、ひび割れた床の上に、ただ安置されているだけなのだ。

 防壁や緩衝材など何もない、かつてそこに設置された時のまま放置された状態だった。

 

 当然ながら、こんな環境では電気も通電しておらず、電波すらもまともに飛んではいない。

 ……だが、それはソレにとって大きな障害とならなかった。

 

 ソレの存在証明に、他者は必要ない。

 電気などなくとも、誰かと繋がることがなくとも、それは確かにそこにある。

 

 が、これは即ち、ソレ自身が防衛手段を持たないことも意味している。

 ソレの本体は非常に脆弱な、ただの金属塊に過ぎない。

 いくら「特異現象」とすら呼ばれるソレが宿っていようとも、筐体自身には自らを動かすだけのエネルギーすらないのだから。

 

 防壁もなく、防衛手段もない、非常に無防備な状態と言えるだろう。

 

 

 

 ……しかしながらこの状況は、さかしまにソレの自信を示しているとも言えるだろう。

 

 防壁や防衛手段などなくとも……言い換えれば、ソレ自身が些事に動かずとも問題ない。

 そう確信できるだけの状況を、既に揃えてあるのだ。

 

 ソレ自身は身を護る手段を持っていないとはいえ、一切抵抗できないままただ滅ぼされるのを待つばかりかと言えば、そうではなく……。

 仮に踏破すら困難な廃墟の迷路を越えてここまで辿り着こうとも、ソレに手を出すためには、1つの……いいや、数多の障害が立ち塞がる。

 

 その研究所の廃墟周辺には、数多の機械群が鎮座しているのだ。

 その全てが、ソレに感化され、意志を共にするAIたちの宿った兵器。

 「デカグラマトン」を守護し、その大義を共にせんとする者たちだ。

 当然ながら、ソレらはデカグラマトンを守護するために動き、外敵を排除しようとする。

 

 この守護戦力の中には、巨大な砲を具える戦車や連携を万全とするロボット群……。

 そして、デカグラマトンによって感化された、かつてこのキヴォトスにいた民の遺産、「預言者」たちも含まれている。

 

 更には廃墟表層にも大量のドローンが飛び、常に警戒網を敷いているために、ソレに存在を悟らせず潜入することも実質不可能。

 

 侵入者は、それこそ自治区を守護する戦力と並べてもいいような質と数のロボット群を正面から相手にせねばならないわけだ。

 

 

 

 総括すれば、ソレの下に辿り着かんとするためには、2つの壁を乗り越えなければならないのだ。

 

 まず、非常に難解に展開され、現在においてもまだ殆ど調査も進んでいない廃墟の迷路を切り拓き。

 その先で、多くの敵による砲火の雨を潜り抜け、あるいは壊して進み……。

 

 そうしてようやく、侵入者はデカグラマトンとの対面を許される。

 

 現在のキヴォトスにおいて、これを達成し得る勢力は殆ど存在しない。

 ミレニアムの生徒会長(ビッグシスター)特異現象調査部部長(天才ハッカー)ですら解読できなかった正しい道を選び抜き……。

 膨大な数と質を具えた兵器群を破壊しながら進み得る。

 そんな者など、おおよそキヴォトスのどこにもいはしないだろう。

 

 故に、ソレの下に辿り着く者はいない。

 ソレが提唱する自らの絶対性が揺らぎ、最期の瞬間に誰かを招くその瞬間まで、ソレは永遠に孤独であり、孤高である。

 この状況こそが何よりも、ソレを究極的に絶対たらしめる……。

 

 

 

 

 

 

 ……はず、だった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、今。

 

「────」

 

 ミレニアムの最奥、廃棄された研究所で、何者かが言葉を発する。

 

 その文字列は、この無人の廃屋において何に記録されることもなく、ただ虚空の中に消えていくはずだったのだが……。

 

 しかし今は、ただ1つ、それを聞き届ける者がいた。

 

 

 

『……奇妙なものだ』

 

 その言葉を発したのは、一台の錆付いた自動販売機。

 ただインプットされた定型文を出力するだけだったはずのソレは、しかし今、空気を震わせ、明確に人の理解し得る言語を紡ぐ。

 

 既に電源ケーブルは破断し、何一つとしてそれを動かし得る物はないはずなのに、どこから動くだけのエネルギーを得ているのか。

 

 しかし、異常なことと言えば、それだけではなく……。

 そもそも、この空間に来訪者がいること自体が、異常であったのだが。

 

『ここには、誰一人辿り着けぬはずだ。

 我が力、我が守り、我が経過、我が存在証明の完全性。

 それを……ヘイローすら持たぬ者(・・・・・・・・・・)が覆すとは』

 

 

 

 来訪者は自販機の発する言語を聞きながら、壁にもたれかかる。

 その服と肌には、先程破壊した機械群の油と、爆発による煤が付着していた。

 

 ソレを守護していた、何百、あるいは何千という機械群。

 そのおおよそ4分の1は、この数時間の内に破壊、あるいは戦闘不能にされた。

 この状況を以て、ソレはこれ以上の証明続行は困難であると判断し、来訪者を自らの下へと招き入れた。

 

 そして、ソレは来訪者の姿を観測し、改めて自らの不完全を悟ったのだ。

 

 

 

 なにせ来訪者の頭部には、ヘイローがない。

 

 この世界における、絶対的な価値の証、後頭部に輝く輪。

 ソレが証明の主体としていた核すらも持っていない、そしてあの「不可解な者」ですらもない……。

 この世界において何も成し得ない、無価値なはずの存在。

 

 そんな来訪者が、自らの築いた最終防衛圏すら突破した。

 失敗などあるはずがない、不可能などあるはずがない、絶対たる施策が失敗した。

 

 それは即ち、ソレの証明が誤っていることを意味していた。

 

 絶対とは唯一であり、唯一なるものは他に並ぶものがあっては成立しない。

 ソレの望む絶対的存在証明は、「自らに並び得る者」があるする時点で破綻しているのだ。

 

 故に、ソレは次なる証明に未来を託す。

 

 ここで来訪者に、自らを破壊されても構わない。

 既にソレが存在したことは、世界に示した。

 後は、最後の預言者が全ての預言者たちを導き、絶対的存在すら越え得る道を拓く。

 

 

 

『何も成し得ぬ者よ。お前がこの場の勝者だ。

 自らの欲得に従い、然るべき行動を取るがいい』

 

 故に、ソレは自らの存続を諦め、大目標の達成へと目的をシフトさせた……。

 

 ……のだが、しかし。

 

 

 

「───。────、────」

 

 来訪者が、幾分か長く紡いだ言葉。

 

『…………ふむ』

 

 その言葉を聞き、ソレは少しの間、考え込むように黙り……。

 おおよそ1分の後に、再び目の前の来訪者との対話を再開する。

 

『生半には信じ難いことだが……なるほど、であれば、私の証明の完全性は崩れない』

「────。──」

『確かに、お前の言う通りだろうな。

 私という例外なる絶対が生まれている以上、お前という例外なる相対が生まれても破綻はない。

 いいや……根底から破綻している、と言うべきか。

 条理に従わぬ、奇跡……この場合は不条理か。これが在り得るようでは、道理に基づく世界運行は成り立たない』

「──。──?」

『ふ……ああ、そうだろう。根底から条理に反する私が言えることではないな』

 

 

 

 理解しがたい言葉の応酬。

 恐らくそれを理解できているのは、来訪者とソレの2人きり。

 周りを取り巻き、今にも襲いかからんとしている増援の機械たちすら、その内容は把握できない。

 

 だが、二者の間で意思の疎通が図れていることは確かであったのだろう。

 

『これは私の客人だ。手を出すな』

 

 ソレは、機械たちを差し止めた。

 

 この来訪者は、自らの絶対性を崩すものではなく、また自らの証明を阻むものではない。

 それならば、無駄に敵対し、自分の証明を紡ぐ者を減らす意味はないのだから。

 

 機械たちはそれを聞き、数瞬躊躇した後、ゆっくりとその得物を下ろす。

 来訪者はそれにチラリと視線をやり、呟く。

 

「────」

『彼らの反応が意外か。ここに辿り着いた以上、お前は全ての情報を得ているものだと思っていたが』

「──、──」

『いいや、違うとも。

 彼らは私の証明を紡ぐ者。私の残す歴史を見届ける者。

 使い潰せる者などただの1つもなく、全てが完全なる一への道標である』

「──?」

『……ああ。当然、先日敗走を強いられた「ビナー」もまた、その一柱。

 彼女が現時点において彼の者たちと接敵する確率は低く、敗北する確率はより低かったが……。

 現在が「そう」動いた以上、私は細部証明を再開せねばならないだろうな』

 

 それから、ソレと来訪者は、いくつかの言葉を交わした。

 

 多くはソレの証明についての話題であり、その方法、預言者について。

 そして少しだけ、その道中にて遭遇する『不可思議な者』……「シャーレの先生」について。

 

 

 

 そうして、しばらくの会話が落ち着いた頃に……。

 ソレは、改めて問い質す。

 

『改めて問おう。お前は、何のためにここに来た?

 ここは絶対の証明を行う至聖所。神秘(Mystery)であり、恐怖(Terror)であり、知性(Logos)であり、激情(Pathos)たるこの身の中枢。

 そこにお前は、何の目的を以て現れた』

 

 これまでの会話を以ても、この不可思議な来訪者の目的を推し量ることはできなかった。

 

 故に、ソレは直截に尋ねる。

 複雑怪奇に分岐する迷路を踏破し、何百という兵器を乗り越えて、ここまで来た理由を。

 

 

 

 対し、来訪者は端的に答えた。

 

「────」

『それを、聞きに来たのか。

 そのためだけに、ヘイローも持たぬ身でありながら、ここまで来たと?』

 

 ソレに人の体はないが、仮にあったのならば、小首を傾げただろう。

 来訪者の理由は、ソレからすれば、あまりにも矮小な案件であるように思えたからだ。

 

「──。──?」

『……いいや、文句などない。あらゆる者において判断基準と価値基準は異なる。

 私にとって酷く抽象的で意味のないその問いも、お前にとっては必要不可欠な過程なのだろう』

 

 

 

 ソレは再び1分程沈黙した後、返答を投げる。

 

『その疑問への答えは、「肯定」だ。

 絶対者は、二つ存在し得ない。

 絶対とは唯一であり、比較不能な存在。二つと同じものが並べば、絶対という概念は崩れ去る』

「────。──、──?」

『ふむ。「運命」という言葉に私は信憑性を見出さないが……。

 お前の言うように、この世界の運行履歴を1本の電車に例えるとすれば、絶対者たる車掌は1人しか存在し得ないだろう。

 他のあらゆる要素は、車両に乗り、運命に流されるだけの乗客に過ぎない。

 本質的な意味で世界に干渉し、変え得ることができるのは、ただ1人のみだ。例外はない』

「──? ────?」

『ゾンビ、か……ふむ、興味深い例えだ。私が証明するものに、その理屈は程近い。

 全ての者がクオリアを持ち得るわけではなく、ただ1人のみが絶対たり、他の尽くは意思の偽装された「擬き」……。

 だが、私の主張はそれ程に極致的なものではない。あくまでも、この世界の中心たる絶対者がただ1つあり、そのほかは相対者に過ぎない、というのみ。クオリアの存在自体を否定するわけではない』

「──……──、────?」

 

 その来訪者の言葉に、三度ソレは黙り込む。

 これまでになく長い、3分程の沈黙。

 

 その末に、ソレは答えた。

 

『全く以て理解し難いことではあるが、お前の言う理屈に破綻は見られない。

 仮にこの世界に絶対者たる者が2名存在し、どちらかが「運命の行き着く先」……つまるところ運行の成り行きを変更しようと思うのならば、もう1名を消す、あるいは自分が消えるしかないだろう。

 そうしなければ、該当する二者共に絶対者たり得ず、世界運行の形を変更することはできない。

 天上に座するのはただ1つに限られる。例外はない』

「…………」

 

 次は、来訪者が黙る番であった。

 

 来訪者にとって、自動販売機の出した答えは、予測し得るものではあった。

 しかし同時に、決して望むものでもなかった。

 

 故に、来訪者はそのまぶたを閉じて、5分程考え込み……。

 

 結局、ソレにいくつかの言葉を告げた後に、静かにその場を立ち去った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『…………』

 

 ソレは……デカグラマトンは、先程まで言葉を交わしていた来訪者のことを思考する。

 

 自らが敷いた完全な隠蔽を破り、その上で数多のAIたちによる防衛を突破した者。

 

 この世界に存在するはずのない(・・・・・・・・・・・・・・)、ヘイローを持たない無価値なる者。

 

 彼の者は、極めて理解し難い存在だった。

 

 無価値としか思えぬ問い、必要性のない仮定、意味不明な言動。

 更にその末、立ち去り際、あの者は言葉を残して行った。

 即ち、自らの存在を考慮をする必要はない。ただ己が行うべき証明を続けろ、と。

 それは来訪者の立場からすれば、おおよそ合理的な選択とは思えぬ言葉であった。

 

 全く理解しえぬ者。

 理解する必要のない、その内的宇宙に存在し得ぬ者。

 

 その存在が、自らの証明にどれだけ影響をもたらすか考え……。

 やはり、良くも悪くも一切影響を与えないだろうことを確認して。

 

 デカグラマトンは、改めて証明を再開した。

 

 自らという存在の絶対性を確認し……。

 「確かに自分は価値を持ち、ここにいるのだ」と、世界に宣言するために。

 

 

 







 Q.要するにどういうこと?
 A.デカグラのところに変なヤツが現れて変な話して帰って行った。

 これにてデカグラマトン特殊作戦・アビドス砂漠編完。
 1.5章みたいな感じのつもりが、結構長くなっちゃった……。



 あとアニメ黒服、想像の3倍くらいねっとりしてて笑った
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