「……え、私の放課後の過ごし方が見たい?」
困惑してぱちくりと目を瞬かせるのは、オリ。
アカネとのシャーレ当番を無事に終えた後、シャーレ以外無所属の特権として、彼女は暗くなるまで先生との雑談を楽しんでいたのだが……。
その中で、先生が“オリが放課後どう過ごしてるかを見てみたいな”と言ってきたのだ。
それはオリからすると、少なからず予想外な言葉だった。
先生は、困っている生徒を助けようとすることは多いが、実のところ自分から生徒の事情に介入してくることは案外少ない。
あくまでも請われた時に応える。困っている時に助ける。
そういった受動的なスタイルが、先生のやり方だった。
それを知っていたからこそ、自分の私生活に少なからず踏み入って来ようとする先生に、オリは驚きを覚えた。
「えーと……何が狙いかな?」
“狙いって程でもないけど……オリって結構暴れたりしてるから”
“普段はどんな風に過ごしてるか知りたくて”
「あー、監視的な? でもそれなら、こっそり見張るとかで良かったんじゃない?」
“生徒を黙って監視なんてできないよ。最低限許可は取らないと”
「変に真面目だね!? 別にこっちは気にしないのに」
勿論、先生に「オリを監視する」などという目的はない。
ただ、ホシノとの「オリから目を離さない」という約束を守るためにも、もっと彼女のことを知らねばならないと思っての判断だった。
オリはその性格上、自分のことを嬉々として他人に語ることはない。
その必要があれば口を開くことはあるが、それだって茶化しが入る冗談半分のもの。
2年前のアビドスの件からしても、嘘は言わないにしろ、真実を全て語るかだって怪しいところだ。
彼女が先生の前で一切おふざけの入っていない話をしたのは、アビドス遠征の感想を聞いて来た時、廃墟でゲーム開発部を見守ってほしいと語った時と、『あの子』や妹のリオに危害や侮辱が加えられそうになった時くらい。
つまるところ、調月オリという少女は……。
他人のために真剣になることはあっても、自分のことを真剣に知ってもらおうとはしないのだろう。
故に、彼女のことを知るには、こちらから彼女と触れ合いに行かなければならない。
……と、そう判断したが故に、先生は自分からオリの様子を見に行くことに決めたのだった。
ただし、そういった事情は大人の分厚い仮面の奥に隠して、ではあったが。
ただの子供、ただの生徒に過ぎないオリには、その奥を窺い知ることはできない。
故に顎に手を当て少し考え込み、結局は頷いた。
「んー、まぁいっか! あっちも先生なら断らないでしょ。
それじゃ先生、明日の16時から一緒に行く?」
“何か予定があるの?”
「うん。部活の助っ人依頼が来てて、エンジニア部に行く予定になってるんだ」
* * *
エンジニア部。
これはミレニアムサイエンススクールでは、かなり有名な部活だ。
……ただし、決して「良い意味で有名」ではないのだが。
エンジニア部の最大の特徴は、その危険性。
この部の部室、なんと3日に1日、多い時は1日1度、爆発事件が起きる。
中からチリチリに髪を焦がした部員たちが「いや~失敗してしまいましたね!」「理論的に破綻はなかったはずだが」「やっぱり安い素材だから駄目だったのかな」などとほざきながら出て来て、駆け付けたセミナーの会計にガミガミと怒られるのはもはや日常風景だった。
ミレニアム三大危険地帯(報道部による非公式情報)では、C&Cの近辺や廃墟と並べてエンジニア部部室が挙げられるくらい、その恐ろしさは周知の事実であった。
さて、あくる日。
そんなエンジニア部を訪れた先生は……。
「先生、いらっしゃい」
「ようこそ、エンジニア部の実験へ!」
「久しぶり、先生。今日はよろしくね」
部長のウタハ、部員のコトリとヒビキによる歓迎を受けた。
既に先生は、エンジニア部と友誼を結んでいる。
先日のゲーム開発部の『鏡』奪還作戦の際に顔を合わせ、そこから彼女たちと個人的に交友を持つことになったのだ。
色々と危険な噂の絶えないエンジニア部ではあったが、いざ付き合ってみればそれぞれ己の矜持を持ってマシンに向き合う、至極普通の生徒たちだった。
……いや、しょっちゅう爆発事故を起こしたり、絶対にいらない機能を依頼者にも伝えず付け足すことで事件を起こす彼女たちを「普通」と言うのは、少し語弊があるかもしれないが……。
“こちらこそ、今日はよろしくね、エンジニア部のみんな”
それでも、彼女たちも確かに、先生の大事な生徒なのであった。
「ついでに私もいるよーん。ウタハ、エンジニア部のみんな、ハロー!」
挨拶を交わす先生の横から、ひょっこりとオリが顔を出す。
「私も」と言うが、実際にエンジニア部に用があるのはオリの方だ。
彼女はシャーレ以外の特定の部に所属していないが、その代わり定期的にミレニアムの様々な部の助っ人に入っている。
そんな中で、本日はこのエンジニア部に呼ばれ、助っ人に入ることになったのだった。
ウタハはその綺麗な顔に微笑を浮かべ、オリを迎え入れる。
「オリもいらっしゃい。今日も実験に付き合ってくれること、感謝するよ」
「かまへんかまへん! 私もエンジニア部の開発は楽しみにしてるしね!」
笑顔でパチリとウインクしたオリは、「お邪魔しまーす」と部室に入っていく。
先生はそれに続き、様々な機械のパーツやジャンク……らしきものが積み上がる部室の中を歩いた。
“そういえば、今日はオリとエンジニア部で実験をするって聞いたけど、何の実験なの?”
「私はまだ聞いてなーい。いつものことだけど」
「オリはそんなことをしないだろうけど、変に対策をされたりすると、実験におかしな変数が入るかもしれないからね。基本的に実験内容は直前に伝えるようにしているんだ」
エンジニア部の部室は頻繁に爆発などの事故を起こす。
これまでにも何度もセミナーからやらかし、怒られ、やらかし、怒られを繰り返してきたため、既にその部室には然るべき処置が取られている。
具体的に言えば、他の部室に被害が出ないよう、広大なミレニアムの校舎の中でも、かなりの僻地に追いやられているのだった。
しかし、怪我の功名と言うべきだろうか。
その立地と危険性、そして挙げる成果といった観点から、エンジニア部には軍艦のドックにも等しい、非常に広い部室が与えられている。
要するに、セミナーに「この中でなら好き勝手していいから他のところに迷惑かけるんじゃねぇぞ」と言われているわけだ。
そして、そんな部室の一角には、ミレニアムの技術の粋を集めて作られた、凄まじい強度を誇るガラスに覆われた一室がある。
部員たちからは「実験室」と呼ばれている、危険性のある実験を行うための隔離施設だ。
並大抵のことは「危険」などと考えないエンジニア部の一同が考える「危険性のある実験」。それが果たしてどれだけのものかは推して知るべしである。
そして本日のオリは、ウタハに促され、その実験室に入れられた。
……左手に、1本のバットを握らされて。
「バット? ……しかも、なんか普通のバットよりだいぶ重いね?」
『私たちが作った特性の特殊合金バットだよ。強度は折り紙付きだ』
『ちなみに遠方に連絡するための通信機能付き』
「なんでバットにそこまでの機能持たせようとした? そしてその通信機能外して軽量化すべきって思うのは私だけですかね?」
分厚いガラスの向こうから届く、通信機を通した声にオリは肩をすくめる。
彼女の持ったバットの重さは、キヴォトスの生徒基準で見てもかなりのものだ。体を鍛えている人であっても使いこなせるかはわからない程。
……とはいえ、つよつよフィジカルのオリからすれば、悠々と振り回せる範疇でしかない。
彼女は何度かそれを振って、十分に使えることを確認し、再びガラスの向こうに声を投げかける。
「で、私は何すればいいのかな?」
『バットを持ってやることと言えば、1つだろう?』
ウタハの言葉と共に、実験室の床の一部がスライドして開き、床下から一台の機械がせり上がって来る。
その機械の、見た目は……。
「……艦砲? いや、対空砲かな?」
かなり巨大な火器。
それこそ、火砲と呼んでいいようなものだった。
先日オリが使った試製『サムス・イルナ』程に先進的な技術を使っているわけではないが……。
それでも、ミレニアムで培われた技術を存分に使っていると思われる一品。
弾丸を……球体を高速で射出する機能を持った機械だ。
それに対し、オリは数メートルの距離を空けて、左手にバットを持って向き合っている。
この状況が指すところは、即ち……。
『実は先日、ミレニアムの野球部から「誰も打てないような最強のピッチングマシーンを作ってほしい」と依頼されてね。
私たちの持つあらゆる技術と予算を使って、考え得る限り最強のピッチングマシーンを作ったわけだ。
オリには今回、このピッチングマシーンがどこまで通用するか、試してもらうつもりだよ』
“…………ピッチングマシーンの修飾語に、『最強』って言葉が使われることってあるんだ”
強化ガラスの外から実験室を眺めていた先生は、そう言って頭を抱える。
最強。
まぁ確かに、最強かもしれない。
なにせアレは明らかに、火薬を使って対象物を打ち出すものだ。
ただその砲弾を野球ボールにしただけ。その威力も速度も、恐らくは他のピッチングマシーンの比ではないだろう。
ただ、先生の視線の先にいる生徒は、その程度で怯むような子ではない。
というか、多分何かに怯むなんてことはないだろう、彼女は。
「へぇ、面白い! よっしゃかかってこいやオラーッ!」
オリはすっかり乗り気で、バットを構え腰を落としている。
先生の前では比較的緩くなるが、彼女は基本的に積極的かつ好戦的な生徒だ。
目の前に難易度の高い挑戦が立ち塞がれば、奮わずにはいられないのだろう。
『オーケー。それでは実験を始めよう。……「バッターバッタバタ君6式」、起動!』
ウタハの宣言とコトリの操作によって、下を向いていた銃口……もといピッチングマシーンの発射口が、ゆっくりとオリの方を向く。
そうして、「ガコン!」という明らかに重い音と共に、一つのボールが装填され……。
目を焼くようなマズルフラッシュと轟音と共に、射出。
コンマ一秒以下の交差の後……。
殆どラグがなかったために射出の音と混ざってしまった衝撃音と共に。
実験室の壁に、焼き切れ割れかけたボールがめり込んだ。
『ヒット確認。この角度、速度……余裕の場外ホームランだね』
『ふむ、やはり恐ろしい反応速度と筋力だね。想定内とはいえ驚異的だ』
『データは取った。これは7式に活かそう』
「……ありゃ?」
冷静に頷き合うエンジニア部をよそに、思いの外簡単に打ててしまったことにオリは首を傾げる。
無論、ボールの速度はえげつなかった。
音速とはいかないまでも、時速1000km弱という恐るべき速度、威力。
木製のバットであれば打つ前に折れ千切れ、ただの金属バットでも大きく曲がってしまいまともに打てないだろう。
更に、並大抵の反応速度では目視すら叶わず見逃していた。
仮に打てたとしても、ひ弱な生徒であれば手首にかかる負荷に耐えきれず、打ち返すことに失敗する可能性が高い。
そう簡単に打てるものではなかった。
……けれど今、オリはこうして、割と簡単に打ち返せてしまった。
エンジニア部はいつだって、こちらの発想の一歩斜め上を行く。
今回も今回で、例えばショットガンのように何十発のボールが射出されるとか、あるいはボールの軌道が電磁的に操作され急激に変化するとか、そういった何らかのギミックがあるものだと思っていたが……。
困惑しているオリに、スピーカーから声がかかる。
『それでは、実験の第二フェーズに入る。「バッターバッタバタ君6式」、フォームチェンジ!』
オリの耳に、その言葉が入ると同時……。
ガチャン、ガチャガチャン、と。
ピッチングマシーンの機体から、脚が生えて来た。
「は?」
脚だけでなく、更には腕にあたる物が。
腕だけでなく、更には頭らしき物も。
それは20秒程かけて変形を繰り返し続け……。
ついには、胸部に巨大な火砲が生えたような、人間の形態を取った。
「…………は?」
つまるところ、トランスフォーム。
兵器の、人間状への変形だった。
驚き呆れ、パチパチと目を瞬かせるオリを前にして……。
ピッチングマシーンの形をしていたロボットは、金属音を響かせながら身を捻る。
そうして、実験室の外から聞こえて来る、声。
『私たちは今回の依頼を受けて考えた。「誰も撃てない最強のピッチングマシーン」とは何かを』
『ただ速い球を打ち出すだけのピッチングマシーンでは、オリ先輩やネル先輩のようなフィジカルに優れる生徒には撃たれてしまうでしょう! 実際打たれてしまいましたしね!
バッターボックスに相手がいる以上、どうしても打たれてしまうリスクが発生します!』
『それなら……バッターを制圧して、その条件を満たせなくしてしまえばいい』
『そう、これこそが我々の作り上げた最強のピッチングマシーン……「バッターをバッタバタと打倒してノーリスクでストライクを取る君6式」、略して「バッターバッタバタ君6式」だ!!』
“いや、野球で暴行は駄目だからね!?”
思わずツッコむ先生に対して、実験室内のオリはと言えば、むしろニヤリと口端を歪めている。
そうそう、エンジニア部はこうでないと、と。
決して悪気があるわけではないが、依頼の内容を突き詰めて考える内、明らかに依頼者の求めていたものではない機能を付け足してしまう。
極端で、真面目で、お節介で、破天荒。
それがエンジニア部の、そこに所属するマイスターたちの性だ。
そして、彼女たちの起こす混沌の中には、多くの場合楽しい展開と強敵が生まれるのだ。
それはオリが心の底で望んでいるものだった。
故に。
「いいねェ……」
そう、舌なめずりしてしまうのも、仕方のないことだろう。
『さぁ行け、バッターバッタバタ君6式! 今こそミレニアムの不条理から(ノック)アウトを奪う時!』
ウタハの号令と共にロボットは構えを取り……。
瞬間、かなりの高速で突進してくる。
オリは左手に持っていたバットを振りかぶり、それを迎撃しようとして……。
……しかし。
「おわ!?」
バットがロボットの横っ腹(にあたる部分)に直撃した、その時。
「と、特殊合金バット君!?!?」
バギン! と。
耳に障る音を立てて、バットが面白いくらいにひん曲がり
突っ込んで来たロボットの直線軌道を逸らし、壁に激突させることはできたが……。
こうなってしまえば、もはやバットは使い物にならないだろう。
しかし、それ以上の問題は……。
オリをして「結構頑丈そうだ」と思っていたバットが、こうもバキバキに折れてしまったこと。
その光景を前に、スピーカーからは自慢げな声が聞こえて来る。
『ふ……バッターをバッタバタする前に負けてしまってはいけないからね。6式の装甲にはとっておきの素材を使ってあるんだ』
『説明が必要ですね! バッターバッタバタ君6式の装甲には、非常に強いダイラタンシーを持った特殊な液体金属の膜が張られています! さらに解説すると、ダイラタンシーとはせん断増粘性とも呼ばれ、与えられた刺激に対して特殊な反応を示す性質のことであり、受けた刺激が強力であればある程にその硬度と強度を増すことが特徴として挙げられます!』
『つまり、一定以上のダメージはこの特殊装甲が遮断・無効化する。むしろ強く打てば打つ程に反作用が強くなって、カウンターとして相手への強烈な自傷を強いる、無敵の装甲だよ』
ただのピッチングマシーンに積むには、とんでもないオーバーテクノロジーであった。
なんならいかなミレニアムとはいえ、まだ軍事兵器にすら実装されていない、途轍もない装甲。
それが今、オリの目の前に立ち塞がっている。
“オリ”
「だいじょーぶ、先生! この程度どうとでもなる!」
やや心配そうな先生の声にそう返したオリは、もう使いようもないバットを投げ捨てる。
埋まった壁から飛び出してきたロボットの、突きだす拳や頭に装着された機銃を受けながら、彼女は強く地面を踏みしめ……。
「……おいしょッ!!」
右脚を軸に、強烈な回し蹴りを放った。
神速の左足は、過たずロボットの腹部を捉え……。
ガァアン!! と。
すさまじい音と共に、呆気なくそれを破断せしめた。
* * *
実験室に、がらんと、ロボットの残骸が転がる。
上と下で綺麗に半分になったそれを見て、実験室の外のウタハは初めて余裕を崩し、目を見開いた。
『! バッターバッタバタ君6式の特殊装甲を、こうも簡単に……!』
「ふふーん、当然当然! これでも私、結構強いつもりだもんね!」
そう言って、ドヤ顔で豊満な胸を張るオリ。
先生が胸を撫で下ろす一方で、ヒビキは首を傾げた。
『……理論上、どれだけ強い負荷がかかっても、絶対に壊れないはずだったんだけどな。
どうやって壊したの?』
「あー、うん。そこは……まぁいいか、言っちゃっても」
彼女はまぶたを下ろして腕を組んで悩む様子を見せたが、片目を開け、一本指を立てて語り始める。
「そもそもさ、私たちの肌って異常じゃん?
別に硬いってわけでもないのに銃弾を逸らして弾く。もうこの時点で理屈に合ってないってわけよ。
『あの子』……私の知り合いの子曰く、それは私たちの持つ『神秘』ってヤツの仕業なんだって」
『神秘……?』
聞き覚えのない言葉に、エンジニア部のメンバーは一様に首を傾げる。
……そして、彼女たちの後ろで、先生は一瞬だけ固まった。
何故なら、『神秘』という言葉は……。
つい先日に接触した、スーツ姿の
何故それを、『あの子』が知っているのか。
ゲマトリアと繋がっているのか。
あるいはその不可思議な力で知り得たのか。
後者ならばいい。だが前者なら……。
ゲマトリアと繋がっている存在がオリの近くにいるのは、あまりよろしくない。
先生が眉をひそめている間にも、オリの話は続く。
「そ。私たちは神秘ってヤツの影響で、ある程度外界からの衝撃を軽減、無効化できるんだ。
で、この神秘は生徒それぞれ違うものを持ってて、強さとか性質とかに違いがある。例えば私の神秘はめっちゃ強くて速度に寄ってるから、フィジカルが強いんだってさ」
生徒によって、一発の銃弾から受けるダメージは変わる。
その辺りのミレニアム生なら意識を奪われるようなスナイパーライフルの一撃も、オリが受ければ「ちょっと痛い」くらいで済んでしまうのだ。
それは生徒それぞれが持つ神秘の違いによるものである、と。
『あの子』はそう言っていた。
そして、神秘による特異な現象は、守りだけに留まらない。
「更に言えば、神秘ってのはいわゆる特異現象みたいなもので、道理とか理屈を超越して働く。だから私も、ちょっと本気を出せば、本来は絶対破れないはずのものでさえ蹴破ることができるってわけだ。
オカルトみたいな話だし、嘘か真か、判断はみんなに任せるけど……。
要するに、ただ『理論上打たれない』だけのピッチングマシーンなら、私とかネルパイ級の理不尽級の子が出て来たら普通に打たれちゃうってことでーす!」
おどけたように肩をすくめるオリに、エンジニア部の部長、ウタハは深く頷いた。
『……なるほど、その意見は、今後の開発の参考にしよう。
ところでオリ……打たなくていいのかい?』
「へ?」
バン! バン! バン!
3度続く異音に、オリが振り返ると……。
半分にされたロボットの上半身に付いた発射口から、3連続のボールが放たれ。
完全に油断していたオリの真横を飛んで、後ろの壁にめり込んでいた。
「は?」
『バッターアウト、チェンジ!!』
『ぃよし! 調月オリ、討ち取ったり!』
「ちょ、待った待った待った! それは卑怯じゃない!? これ倒したら勝ちの流れじゃないの!?」
『最初から言ってたはず……私たちの目的は「誰も打てないピッチングマシーン」を作ること。相手の油断を誘うのも作戦の内だよ』
「どっちかって言うとエンジニア部の皆に油断させられたんだが!?」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ4人を微笑ましく見守りながら、先生は静かに考える。
オリのことを知るためには……。
やはり、『あの子』の話題を避けては通れない。
どこかの機会で、もっと『あの子』の話を聞かなくては、と。
この幕間は3話構成なので、次回が終わればエデン条約編です。
1章2章は裏で終わっているので、いきなり3章。青春の主人公である彼女たちのものとは違う、暗部のお話になる予定。
できるだけ頑張るけど、未プレイの人にはちょっとわかりにくい話になっちゃうかもです。今更か。
次回はその助走。
(追記)
誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!