調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のやべー方と百鬼夜行の停学中の奴とゲヘナの常識人な奴

 

 

 

 D.U.地区、そのあまり人通りの多くないとある一角。

 アンティークな内装で固められたカフェで、3人の生徒がテーブルを囲んでいた。

 

 1人は、さっぱりと切った黒髪、青い瞳とヘイローを持ち、綺麗な微笑をたたえた少女。

 1人は、長い黒髪に狐の面、美しい和装が非常に目立つ、風変りな少女。

 そして最後の1人は、赤髪の中から角を生やし、立派なロングコートを羽織った……何故かプルプルと体を震わせている少女だった。

 

 そんな3人の間には、そこそこ重い雰囲気が漂っているように窺えた。

 それこそカフェの店員がオーダーを取りに行く時、襲われないかと冷や汗をかいていた程に。

 

 ……実際には、狐面の少女が無意識に強い威圧感を放っているだけで、青い少女はニコニコ笑顔だし、赤い少女に至ってはその威圧感にガクブル震えているだけなのだが。

 

 

 

 そんな中で、青い少女が口火を切って沈黙を破った。

 

「さて……まずは、今日招集に応じて集まってくれたことに感謝するよ。

 私は2人を知ってるけど、2人は初対面かな?」

「そ、そうね……そう、よね?」

 

 少なからぬ緊張と共に恐る恐る尋ねた赤い少女に、狐面の少女はコクリと頷いた。

 

「ええ、私はそちらの方は存じ上げません」

「そっか、じゃあそれぞれの紹介からかな」

 

 そう言って青い少女は立ち上がり、その豊満な胸に手を当てて、朗々と語った。

 

「改めて自己紹介を。私の名前は調月オリ、ミレニアムの三年生。

 先生の身を案ずる者の1人であり、今日こうして『先生救出作戦会議』を設けた主催でもある」

 

 「先生救出作戦会議」。

 その言葉に、赤い少女は首を傾げる。

 仕事があると聞いてほいほい付いて来た彼女だが、それに先生が関わっているとは思っていなかったらしい。

 その上、「救出」だ。なかなかに不穏な言葉であった。

 

 

 

 一方で狐面の少女の方は、オリの言葉は予想通りのものだったか、一切の動揺も反応も見せない。

 オリはそんな少女を指し示し、紹介を始める。

 

「次に、彼女の名前は狐坂ワカモ。百鬼夜行の……停学中だっけ?」

「ええ」

「百鬼夜行の停学中の生徒だね。

 彼女もまた、先生の身を案ずる者であり、私の同盟相手。そして私と同等に近い力を持つワンマンアーミーでもある。

 あとついでに、矯正局から脱獄した七囚人の一人でもあるかな」

 

 赤い生徒はそれを聞き、ついには内心で白目を剥く。

 

 意味がわからなかった。

 「頼みたい仕事あるんだよね。お金はこっちで持つからカフェでミーティングどう?」と割と軽い口調で誘われ……。

 「タダで食べられるなんて最高ね!何食べようかしら?」とワクワクしながらついて来たら、いきなりこんなヤバ女と引き合わされたのである。

 

 あの日に体感したオリと同等の力というだけで頭がパンクしそうなのに、矯正局から脱走するというとんでもないヤンチャっぷり。

 ハッキリ言って、赤い生徒の許容量を遥かに超えている。

 

 故に彼女は、かろうじて外面こそ取り繕っているものの、内心では「どういうことなのよ~!?」と叫び散らかしているのだった。

 

 

 

 オリは最後に、動揺のあまり怜悧っぽく見える目のまま固まってしまった赤い少女の方を指す。

 

「最後に、彼女は陸八魔アル。ゲヘナ学園の2年生、便利屋68所属。

 ワカモのために言っておくと、私は彼女を、同志じゃなく傭兵として招いた。

 彼女は私たちとは違って、先生の身を案じる者、同盟を組める相手ってわけじゃないから注意ね」

「ちょ、わ、私だって……!」

 

 その言葉に、赤い少女……アルは正気を取り戻し、反射的に口を挟みかける。

 

 彼女とて、シャーレの先生との付き合いはそこそこ長い。

 アビドスでの一件以来、かなりの頻度で便利屋の面倒を見てくれるようになった先生に、彼女は恩義と敬愛を感じていた。

 

 故にこそ、先生に外部経営顧問としての立場を与え、便利屋の一員として認めたのだ。

 今や先生は、便利屋のメンバーと同じ、アルにとっての大事な仲間。その想いはかなりのものだと自負までしている。

 故にこそ、その身を案じていないと言われると、どうしても反感が生まれてしまう。

 

 

 

 けれど、そんなアルの反発に対し、オリは穏やかに笑うばかりで……。

 まるで今日の天気を尋ねるように、静かに尋ねる。

 

「じゃあさ、アルちゃんは先生のために、人を殺さなくちゃいけなくなったら殺せる?」

「…………え?」

 

 その疑問の余りの突飛さに、アルは思考が硬直した。

 

 キヴォトスにおいて、死は縁遠いもの。

 生徒たちは銃弾を受けても死にはせず、それどころか迫撃砲が直撃したって一発なら気絶する程度。

 だからこそ、アルを含む大多数の生徒にとって、「死ぬ」「殺す」といった単語はあまりにも現実感がないもの。

 脅しや罵詈雑言として吐き捨てることはあっても……実際に「そう」なることは想像すらもしていないのだった。

 

 

 

 そして、そんなアルの表情が、思った通りのものだったからか。

 オリは苦笑を漏らす。

 

「ま、そうだよね。普通の人はそんな想像もしないものだと思う」

 

 ……でも、と。

 

 笑顔の形を取りつつも、僅かに開いたまぶたの奥に冷たい光を宿し、少女は語った。

 

「でも、私とワカモは、普通とは違う。

 可能な限り避けるべきとは思うけど……先生を守るために必要なら、やる。……でしょ?」

「当然です。あの御方を守るためなら、他がどうなろうと知ったことではありませんから」

 

 オリとワカモはそれぞれ、この件に関して異なる向き合い方をしている。

 オリは既に、その道を選ぶ覚悟を決めており。

 ワカモは元より、胸の内に宿るただ1つの熱に、全ての薪をくべるつもりでいる。

 

 しかしそれでも、2人に共通することとして……。

 彼女たちの最優先目標として、「先生を守ること」がある。

 

 故にこそ、オリは危険を承知でワカモと接触し、その力を試して、同盟を申し出た。

 故にこそ、ワカモは己の信条を歪めてでも、有用であると判断してオリを使っている。

 

 

 

 ……一方で、アルはと言えば。

 目の前の2人のイカれっぷりに、思いっきり怯えていた。

 

 彼女はアウトローに憧れている。

 その理由は単に「カッコ良いから」であり、それが彼女の理想の生き様だからだ。

 つまるところ深い理由はなく、「アウトローになるためならどんな犠牲も厭わない」みたいな覚悟をキメているわけでもない。

 

 そして、彼女が憧れているのはあくまでアウトロー。

 無頼でありながら人情家で、面倒見が良くなんだかんだ人助けもする……そういった、いわゆる仕事人や義賊のような存在だ。

 決して、決して目の前の2人のような、覚悟がガン決まったやべー奴らではないのである。

 

 故に、いざ本当にやべー奴らを前にして震えてしまうのは、残念ながら当然と言うべきかもしれない。

 

 

 

 が、それはそれとして。

 

 彼女の理想のアウトローは、そういったやべー奴らとも対等に渡り合える存在だ。

 故に、アルは必死に平静を装って声を出す。

 

「ひ、……ひとまず、私がその同盟? というものに入れないことは理解したわ。

 その上で、もし、今回の私たちの依頼が、その、殺人ということであれば……便利屋68がその仕事を受けることはないと言っておくわ!」

 

 その時アルの脳内に浮かんでいたのは、部下であり仲間である、3人の顔。

 ムツキ、カヨコ、ハルカ。自分を慕ってくれる者たち。

 

 3人に、殺人の咎など、負わせられるわけがない。

 たとえこの2人に今からどれだけ痛い目に合わされようと、徹底して拒否するつもりだった。

 

 自分1人なんかより、あの3人の方がずっとずっと大切だ、と。

 本心から、一切の翳りなくそう想えるのが、陸八魔アルという生徒だった。

 

 

 

 ……と、悲壮な覚悟を決めていたアルだったが。

 

 対するオリは半笑いで「いやいや」と片手を振った。

 

「殺せるかどうかってのはものの例え。あくまで私たちの決意であり信条だよ。

 本当に危なくなったら、まぁ、そうせざるを得ないかもしれないけどさ。たとえそうなっても、そういう信条のないアルちゃんに協力してもらおうとか思わないって」

「そ、そう、なの?」

「とーぜんとーぜん。というかさ、ぶっちゃけ誰かをぶん殴るだけなら、私とワカモの2人がいれば大抵勝てるからね。わざわざ他人の手を借りるまでもないよ。

 アルちゃんたちにお願いしたいのは、人手だよ。せっかく4人もいるんだもん、それを活かさない手はないからね」

 

 アルはひとまず、ほっと溜息を吐く。

 

 ……だが同時、それならば、と疑問も湧いてきた。

 

「人手、って何の? 私たちに何をさせるの?」

「うん、そうだね。そろそろ本題に入ろうか」

 

 オリはアルの言葉に、一度頷き……。

 

 

 

 

 

 

 今まで浮かべていた笑顔を消し去って、言った。

 

「一週間後、トリニティ自治区の古聖堂で行われる、エデン条約調停式。

 そこで、先生は撃たれる」

 

 

 

 

 

 

 「ガタン」という音は、アルが反射的に立ち上がった時に倒れた椅子の音であり。

 「バキッ!」という音は、ワカモが振り下ろした拳がテーブルを割る音だった。

 

「…………今、何と?」

 

 尋ねたのは、テーブルの手元の部分を割った、ワカモ。

 響いた嫌な音に、店内の各所から恐怖と動揺の視線を向けられるも、彼女にそれを気にする様子は見られない。

 声には深い深い憤怒と憎悪が滲み、仮面の奥から覗く瞳の光は人の心を殺し得るのではないかと思う程に赫々と輝く。

 まさしく、怒髪天を衝くという様子だった。

 

 けれど、オリがそれに怯むことはない。

 彼女たちはあくまで対等の立場であり、今回の件はれっきとした未来の事実なのだから。

 

「一週間後、エデン条約調停式で、先生は撃たれる。

 これは多分、私が……私たちが介入しない限り、避けられない未来だ」

「証拠は」

「ないよ、いつも通り。信用できない?」

「……いいえ、信用しましょう。

 これまでにあなたが言った予言は、その尽くが的中した。今回も、その特異性故の予言なのでしょう」

「うん」

「私に何を求めますか?」

「ざっと当日の流れから言うね。

 まず古聖堂に巡航ミサイルが撃ち込まれる。先生は古聖堂内にいるけど、この段階では危険はない。

 問題はそこからで、その直後、地下から軍勢が上がって来て、無数の幽鬼みたいなヤツも現れる。

 後者はトリニティ・ゲヘナの学生を無差別に襲うんだけど、前者に関しては特定のターゲットを狙おうとする。その最優先ターゲットこそ、先生だ。

 コイツらに共通するのはマスクをしてること。エデン条約調停式に顔を隠して出席する馬鹿は他にいない。つまり顔を一部でも隠してたら全部敵だ。

 ワカモ。あなたにはコイツらをひたすら狙い撃ってもらう。

 ただし、肌が異常なくらい白かったり青かったりするヤツより、普通の肌色のヤツを優先して。異常なヤツはいくら撃ち殺しても無限湧きする」

「あなたは何をするのです?」

「巡航ミサイル着弾直後に地下に突入して、間引いてくる。最低でも軍勢の7割はこっちで潰すよ。

 それから……優先して処理しなきゃいけないことが2つあって、そっちもやるつもり」

「私もそちらに向かう方が良いのでは?」

「駄目。先生の安全が最優先だから。先生さえ無事ならどうとでもなる。私がするのはその始末をしやすくするってだけで、そっちを優先して先生が傷つくのは本末転倒」

「……いいでしょう、話は理解しました。後で仔細な情報を送りなさい、こちらから訂正案を挙げるかもしれません」

「うん、よろしくね」

 

 

 

 思考が硬直して動けないアルの前で、オリとワカモは手早く情報共有を済ませる。

 

 アルがようやく口を出せたのは、彼女たちの打ち合わせが終わった頃だった。

 

「ちょ……ちょ、ちょっと待ってちょうだい!?

 何、なんで、エデン条約の調停式で、先生が撃たれる!? 巡航ミサイル!? マスク!? 何を言っているの!?

 誰が何を……何の目的で!? あれって平和条約でしょう!? それになんで先生が!?」

 

 混乱の余り、思考が口から駄々洩れになるアルに対し……。

 オリはその顔に笑いを浮かべることなく、無表情で淡々と答えた。

 

「犯人はアリウス。正確にはそのバックにいる、黒幕かな」

 

 アリウス。

 その名前を、アルは聞いたことがあった。

 

 様々な分派が手を取り合って生まれたトリニティ総合学園。

 しかし、最後までその統合に反対し続け、その結果他の分派から激しい弾圧を受けて、ついには「トリニティ」に所属することを許されなかった者たち。

 その派閥名こそが「アリウス派」だったはずだ。

 

 だが、彼女の説明は、完全にアルの予想の外にあった。

 

「アリウスのバックにいるフィクサーは、自分の目的のためにアリウスたちの憎悪を利用する。

 トリニティを、そして当時から既に争っていたゲヘナを許さない。その和平交渉をぐちゃぐちゃにする……っていうのが表側の動機だ。

 まぁ実際にはその後、トリニティの秘儀を盗み出すことが本命の目的なんだけど」

「な……いや、え……?」

 

 オリの説明は、わかりやすいはずのものだった。

 ただしそれは、相手が混乱の中にある場合を除いた話。

 アルの脳内は今混乱の真っただ中にあり、オリの言葉もろくに入って来てくれない。

 

 

 

 彼女のそんな様子を見て、オリは軽く首を振る。

 

「……まぁ、あなたたちが深く理解する必要はないよ。どうせ意味ないし。

 言ったでしょ? アルちゃんたちは傭兵として使わせてもらう。

 こっちの言った通りの仕事をしてくれれば、報酬は支払う。それでいいでしょ?

 成功報酬1300。他に経費があれば上げてくれて構わないよ。値段交渉にも付き合う」

 

 それは、破格の報酬だった。

 以前の、カヨコ曰くミレニアムのトップからだろう依頼よりもなお多大なリターン。

 

 それに心を躍らせないわけではなかったが……むしろ、高すぎるから、というのもあるだろう。

 あるいは、目の前で、あまりにも濃い血の匂いをさせた少女たちの会話を聞いたからかもしれない。

 もしくは、オリの姿が、本当に同一人物か疑わしい程に以前と異なっていたからかもしれない。

 

 アルの心には、再び、疑念が立ち込めていた。

 

「…………私たちに、何をさせる気なの?」

「ん?」

 

 オリはそこで何かに気付いたように片眉を上げ……。

 

「……あー、はいはい、ごめん、ちょっと血気盛んすぎたね。戻す戻す」

 

 一度まぶたを閉じて、ぱんぱんと軽く両の頬を叩く。

 

 

 

 再び彼女がまぶたを開いた時、そこにいたのは……。

 

 明るく無邪気な笑顔を浮かべ……だからこそ、何を考えているのかよくわからない少女。

 あの日、楽しく言葉を交わした、調月オリその人だった。

 

「いやーごめんごめん! やっぱシリアスは似合わないよねー私には。

 だいじょーぶ、さっきも言った通り、アタッカーは私とワカモで十分だ!」

 

 そう言って、パチリとウインクをしてみせた後。

 オリは、ぴっとアルの方を指差し、言った。

 

「便利屋68にお願いするのは敵を倒すことじゃない、先生を守ることだよーん!」

 

 

 







 エデン条約編3章への助走はこれで終了。
 本来はいなかったはずの者たちの先生救出作戦が始まります。


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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