調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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歪んだ運命、その続き

 

 

 

 先生とヒナは、便利屋68によって救出された。

 

 便利屋所属部員のハルカ曰く、これは「とある人からの依頼」らしく。

 2人の手を引いて赤い地獄から連れ出した彼女は、傍に停まっていたゲヘナの救急医学部の緊急車両へと案内し、護衛として共に乗り込んだ。

 

 当然と言えば当然だが、救急医学部の所有する車両である以上、ここにはある程度の医療品が積み込んである。

 満身創痍だったヒナは車に乗り込むと同時、運転席に座る救急医学部の部長、顔馴染みである氷室セナの顔を見て緊張感が解けたのか、倒れ込むように意識を失ってしまったが……。

 決して軽傷ではなかった先生と併せて、乗り込んでいた数名の部員たちの手当を受けることとなった。

 

 

 

 だが、先生からすれば、自分の傷などよりも優先すべきことがあるわけで。

 処置を受けるヒナから目を逸らしながら、車の中の生徒たちに声をかける。

 

“ハルカ、セナ、救急医学部のみんな、ありがとう。本当に助かったよ”

「いっ、いえっ! 勿体ないです、そんなお言葉……!」

「当然のことをしているまでです。……それより、この状況の説明をいただければ、と」

 

 慌てて手を振るハルカと違い、ハンドルを握るセナの表情は、あまり明るいものとは言えなかった。

 死体……もとい負傷者が増えていくこの戦場を、快く思っていないことは明白。

 先生はそれにコクリと頷き、同意と肯定を示した。

 

“そうだね。それじゃあ、それぞれの持ってる情報のすり合わせをしようか”

 

 「あまり元気に喋られると傷に障ります!」という救急医学部の生徒の言葉には「ごめんね」と笑顔を向けて、先生は情報共有を始める。

 

 

 

 救急医学部、便利屋68、シャーレの持ち寄った情報は以下の通りだ。

 

 まず第一に、便利屋68から。

 今日の依頼を出した『依頼人』は、どうやらエデン条約の調印式で事件が発生することがわかっていたようで、事前に「シャーレの先生」と「空崎ヒナ」の現場からの救出を依頼していた。

 便利屋は古聖堂の程近くで待機し、逃げ出してくるだろう2人を保護する予定だったが……。

 当日になって「予定が変わった」と連絡があり、協力者からの情報を元に2人の居場所を割り出して直接する救出する方針に切り替えたらしい。

 

 この際、可能な限り早く治療を行い、なおかつ犯人たちと古聖堂から急速に距離を取る必要があったため、便利屋は「怪我人が出そうだから来て欲しい」と言って救急医学部を頼った。

 セナとしても、切羽詰まった表情で駆けこんで来た生徒の訴えを無視するつもりはない。要請に応じ、少数の部員を乗せて出立。

 道中でいざ詳しい事情を聞いてみたらイタズラかとすら思えるようなものだったが、先生や風紀委員長が危険に陥る可能性を無視するわけにもいかず、半信半疑で待機していた。

 

 そうして便利屋が『依頼人』から伝えられた位置で待つことしばらく。

 先生とヒナ、そしてアリウスの生徒たちが現れたため、乱入して救出を行い、成功。

 

 そうして現在に至る、というわけだった。

 

 

 

“……その『依頼人』を教えてもらうことは、できないかな”

「すっ、すみません! 今回の依頼人はアル様しか知らなくて……トップシークレットと仰っていたので、多分アル様からも、教えてはもらえないかと……」

“そっか、わかったよ”

 

 ビクリと震え、おどおどとそう語るハルカ。

 先生は気にしていないというように軽く微笑む。

 

 この事件の発生を予見していた『依頼人』の正体は、あるいは肝要になるかもしれなかったが……。

 先生としては、生徒を無理に詰めることはできない。

 

 『依頼人』の追求は即座に諦め、意識を切り替える。

 

 

 

“じゃあ、次に考えるべきは、ここからどう動くかだね”

 

 先生の言葉に、かなり荒くハンドルを切って爆走中のセナの声が届く。

 

「先生、ヒナ委員長、共にゲヘナの救急医学部本部にお越しください。ヒナ委員長は重症ですし、先生の傷も決して小さなものではありません。両者共に今すぐ治療すべき状態です」

“気持ちは嬉しいけど……そうもいかないかな”

 

 先生は苦笑いを浮かべ、首を振る。

 

“今は事態の収拾に動かないと。ヒナを送り届けるのは確定としても、私は休んでいられる余裕はない。

 ゲヘナでトリニティへの誤解を解いたら……うん、今度はトリニティに行って事態を収拾しないといけないかな”

 

 なにせ、先生を古聖堂から逃がしてくれた生徒たちの願いだ。

 それを果たし、最低限生徒たちが憎み合う状況を覆すまで、先生は立ち止まることはできない。

 

「救急医学部部長としては、受け入れがたい意見です」

“ごめんね、私は先生だから、生徒たちを支えないといけないんだ”

「……ふぅ。では、仕方ありませんね」

 

 呆れたように、仕方なさそうに、あるいはこうなることはわかっていたというようにため息を吐き。

 救急医学部部長であると同時、シャーレの部員でもあるセナは、言った。

 

「では、少々危険は伴いますが、トリニティへの足はこちらで請け負います。護衛は……」

「ごっ、護衛は私が! 事が片付くまでの先生の身の安全は私が守るようにとアル様から言われていますし、先生を危険に晒すことはできませんので……!」

 

 次いでハルカが手を挙げ、役目を請け負う。

 彼女もまたシャーレの部員であり、先生に頻繁に世話になる身だ。

 崇拝するアルの指示もあり、先生を守ることに否はなかった。

 

“わかった。それじゃみんな、よろしく頼むよ”

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それから、先生はしばらくの間、ゲヘナ学園の中を奔走した。

 

 まずは、暴走しつつあった風紀委員の生徒たちに説明を行い。

 風紀委員長空崎ヒナが意識を失っていることを良いことに暴れ回る生徒たちを止めるため、彼女たちの力を借りて制圧・拘束していった。

 

 ゲヘナは非常に自由な校風*1であり、こういう非常時でさえ生徒たちは皆元気いっぱい*2だ。

 先生としては、それを喜べばいいやら嘆けばいいやら、微妙なところだった。

 

 が、そんな生徒たちも、ゲヘナにヒナが帰って来たという噂と、先生による指揮を受けた風紀委員の活躍により、少しずつその勢いを落としていき……。

 

 ちょうどそれが一段落した頃。

 

 ヒナが目を覚ましたという連絡が届き、先生は救急医学部の病室に向かった。

 

 

 

 先生が病室を訪ねた時、既にヒナは上体を起こしていた。

 傷だらけだった体はしかし、この数時間である程度既に治ってしまったようで、キヴォトスの生徒の神秘を感じさせるが……。

 

 どうやらその治癒も、精神にまでは及ばないらしい。

 彼女は病室に入ってきた先生を見ると、申し訳なさそうに俯いてしまった。

 

「……ごめんなさい、先生。先生に傷も負わせてしまって、追い詰められて……私がもっとしっかりしていれば、こんなことには」

 

 ヒナの精神は、未だ戦場にある。

 いつ命が潰えるか、いつ隣にる大切な人が殺されるかわからない。

 そんな極限状態の体験を、引きずってしまっているらしい。

 

 そう察した先生は、努めて柔らかく笑いかけた。

 

“いいや、ヒナは十分に頑張ってくれたよ。ヒナのおかげで、私は無事で、ここにいる”

 

 そう言って頭を撫でてくれる手に、できたばかりのかさぶたと同時、確かな人肌の温かさを感じて……。

 

 知らず強張っていた肩から、力が抜け。

 ほぅと、ヒナはため息を吐く。

 

「……ああ、なんだか、安心できた。

 エデン条約は破談になって、あんなテロを許してしまったけど……それでも、最低限先生は、守るべきものは守れたのね」

“うん、今回もすごく助けられたよ。ありがとう、ヒナ”

「それを言ったら……」

 

 私だって助けられた、と。

 そう言おうとして、お姫様抱っこされたことを思い出し、顔を赤くして。

 ぶんぶんと顔を振って記憶と羞恥を振り払い、誤魔化すように言う。

 

「こ、これでもゲヘナの風紀委員長だもの。先生も……もっと頼ってもいいのよ」

“そうだね、頼らせてもらうよ。そしてその分、ヒナに頼ってもらえるよう頑張る!”

 

 少しおどけた先生の言葉に、ヒナはくすくすと笑う。

 

 

 

 未だその傷は治り切ることなく、事件も解決したわけでなくむしろその渦中。

 しかし、そんな状態にありながら、ヒナの心はむしろどこか晴れやかだった。

 

 自分の頑張りを認め、頼ってくれる人。

 そして同時、自分が疲れてしまった時に、寄りかからせてくれる人。

 そんな相手を見つけることができたのだ。

 

 例えるのなら、空を飛ぼうとする鳥の(ヒナ)が止まり木を見つけたようなもので。

 不謹慎とも言えるかもしれないが、彼女の心は安心感と充実感で満ちていた。

 

 

 

 その後、数分の雑談を挟んで。

 改めて先生はヒナに現状を説明し、これからの予定を伝える。

 

 それを聞いた彼女の反応は早かった。

 

「わかった。それなら、ゲヘナのことは私に任せて」

 

 そう言ってベッドから抜け出し、立ち上がろうとするヒナを、先生は反射的に止めようとして……。

 しかし、その手を止め、下ろす。

 

“体は大丈夫?”

「大丈夫、しっかり休んだから、十分動ける範疇よ。

 それに、先生やみんなが動いてる時に一人だけ休んでるのは気が引けるし」

 

 多少精神的に脆い部分はあれど、空崎ヒナは本質的に、強力な神秘を持つ強者だ。

 この数時間の内に死に体だった体は全力戦闘が可能なレベルにまで治っている。

 

 故に彼女は、風紀委員の制服の上に、コートかけにあった自らの上着を羽織り。

 僅か一瞬、まぶたを閉じて、切り替える。

 

 再びそれが開き、彼女の紫の瞳が世界を捉えた時。

 そこにいるのは、空崎ヒナという一人の女の子ではなく……。

 

 ゲヘナの中枢を担う風紀委員、委員長、空崎ヒナ。

 まごうことなき、キヴォトスの最高戦力の一人だった。

 

「仕事の時間ね。さっさと片付けましょう」

“うん。よろしく頼むよ、ヒナ”

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ヒナ委員長、調子が良さそうでしたね。体の方はまだまだ治療が足りていないのですが」

 

 不満そうな、しかしどこか安堵したようにも聞こえるセナの声音に、先生は苦笑いを浮かべる。

 

 今のヒナに任せれば、ゲヘナは大丈夫だろう。

 幸い先生の出立直前になって、風紀委員たちによって古聖堂から救助されていた、彼女の副官であるアコも意識を取り戻した。

 あの2人がいれば手が回らないことはない……とは言えないのがゲヘナの怖いところだが、それでも情勢はずっと落ち着くに違いない。

 

 そんなわけで、事態の収拾をヒナに任せ、先生はゲヘナを発った。

 セナの運転する車両にハルカと共に乗り込み、向かうはトリニティである。

 

「でも、その、トリニティって、ゲヘナと仲が悪いですよね……この車で行っても大丈夫なんでしょうか」

“まぁ、囲まれたりはするかもしれないけど、大丈夫なはずだよ”

「そ、それって、襲われかねないってことでは……?」

 

 不安げに言ってぎゅっとショットガンを握りしめるハルカを安心させるように、先生は笑みを向ける。

 

“大丈夫大丈夫。ゲヘナで充電させてもらったから、トリニティの顔見知りの生徒に連絡は取ってるんだ”

 

 先生の手には、タブレット状のオーパーツ、『シッテムの箱』が握られている。

 ミサイルの直撃から先生の身を護るためにバッテリーを全て使ってしまいダウンしていたが、ゲヘナの風紀委員本部で充電させてもらうことで復活を遂げ、当然今も稼働状態。

 

 電源を付けるや否や、内部に宿る相棒のスーパーAIには涙まで浮かべて心配されてしまったが、先生が用件を伝えると、彼女はすぐに応じてくれた。

 

 既に彼女の手引きでトリニティの生徒たち何人かには連絡を取っているし、中でもこの手の話に強い少女には受け入れ体制を作るお願いもしている。

 

 こういった話はあまり好きではないだろうに、二つ返事で受けてくれた。

 後日何らかのお返しをしなければ、と脳内のメモ帳に記入する。

 

 ……今度は気まずい話題を振られないといいなぁと、先生は状況には馴染まない苦笑を浮かべた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 混乱の中にありながらも、普段より遥かに厳重に警備されたトリニティ総合学園。

 セナによる豪快な運転でそこに辿り着いた先生たちは、数多の銃口と罵声に出迎えられた。

 

「せ、先生……! 先生に銃を向けるなんて……ッッ!!」

“駄目だからね、ハルカ、もうちょっと抑えてね!”

 

 いつ銃弾が跳んでもおかしくない以上、先生も窓に顔を出すことができず、今にも暴走しそうなハルカを抑えるので精いっぱいだったが……。

 

 その時。

 

「退いてください!」

 

 先生にとっては聞き覚えのある、しかし記憶のそれより凛と引き締まった声が響き。

 群衆を割って、ピンク髪の生徒がシスターフッドを引き連れて現れたことで、状況は沈静化する。

 

 「シスターフッドがなんでゲヘナを」「あの子、補習授業部の……」と混乱した声が響く中。

 一団を連れた少女……浦和ハナコは、救急医学部の車両に歩み寄り、少し距離を空けて呼びかけた。

 

「先生、すみません、手間取ってしまってどうにも間に合わず……」

“大丈夫。むしろ助かったよ、ありがとう、ハナコ”

 

 そんな言葉と共に、先生はドアを開け、車両から降り立った。

 そしてそれを見て、車両を取り囲んでいた一団は更に困惑を深めることになる。

 

 先生の姿は、既にトリニティには広く知られている。

 先日ティーパーティの暴走によるクーデターを防いだ、大恩ある大人。

 そんな人がゲヘナの車から先生が降りてきたこと、そしてそれをシスターフッドが迎え入れたことに驚き、戸惑い……皆が怒りの感情を忘れかけた、その瞬間。

 

 狙いすましたように、いいや、実際に狙っていたのだろう。

 運転席の窓を開けたセナに向かって、ハナコは声を大きくして言う。

 

「ゲヘナ学園、救急医学部と便利屋68の方々ですね。先生よりお話は伺っております。

 先生の安全圏への護衛、そしてトリニティへの護送、お疲れ様でした。

 今回、トリニティでもゲヘナでもない第三勢力によって引き起こされた、エデン条約調印式での爆破テロ。その解決へのご尽力、シスターフッドの長を代理し、感謝申し上げます」

「いえ、私たちもこの望まぬ事態の収拾に向け、すべきことをしたまでです」

「先生も、お疲れ様でした。この後は、トリニティで事態の収拾に手を貸してくれると伺っております」

“うん。生徒の皆も混乱してるだろうし、頑張るよ”

 

 ハナコの口から滔々と紡がれる言葉と、それを否定しないゲヘナ生と先生の姿。

 それがトリニティの生徒たちに疑惑を投げかける。

 

 即ち、「ゲヘナの仕業」と断定していたこの件は、実際には別の誰かが起こした事件なのではないか。

 

 シスターフッドの長の代理だというハナコの言葉が、彼女の背後に控えるシスターたちが、そして彼女たちと対等に言葉を交わすゲヘナ学園の生徒が、その説得力を限りなく強める。

 結果として、喧嘩っ早い生徒でさえもその銃口を下に下ろし、戸惑いながらもゲヘナへの敵意を解いている状態にあった。

 

 

 

 その状況を見て、先生はにこやかに笑う。

 

“うん、やっぱりハナコにお願いして良かった。ありがとう”

 

 ハナコはそれに対し、一瞬だけ凛とした雰囲気を和らげ、笑って応えた。

 

「まったく、人遣いが荒いですねぇ、先生? けれど……ええ、無事で何よりです」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それからしばらく。

 やにわに降り出した雨の中、先生は今度はトリニティでの事態の収拾に動いた。

 

 混乱する正義実現委員会とシスターフッドに、事の顛末を説明したり。

 ティーパーティの生徒たちに呼び出され、事件の犯人とナギサの安否について詰問されたり。

 未だ意識を取り戻していないらしいナギサのお見舞いに行ったり。

 

 そして……ミカの様子を見に行って、コハルと共に、ティーパーティの生徒たちに暴行を受けているミカを開放したりも、した。

 

 

 

「先生っ! 良かった、無事で……!」

“ごめんね、コハル、心配かけて。私はこの通り大丈夫だから”

“それと、見てたよ。偉いね、流石は正義実現委員会のエリート”

「うんっ!」

 

 涙目で抱き着き、安全を喜んでくれるコハルを支えながら……。

 

 先生は、目を白黒させているミカと向き合う。

 

“ミカ、大丈夫?”

「えっと……うん。なんて言うか、久しぶり……だね?」

 

 先生の言葉に、ミカはどこか気まずそうに、目を逸らしながら応えた。

 

 

 

 聖園ミカ。

 トリニティの生徒会、ティーパーティの長の一人であり。

 同時、先日アリウス分校の生徒たちをトリニティに招き、クーデターを起こしかけた問題児。

 

 しかし、今回は別に、ミカの方から騒ぎを起こしたというわけではなく。

 ミカを擁していた派閥の内でも過激派の生徒たちが、ゲヘナとの戦争を始めるため代表として彼女を担ごうとして……。

 ミカに手酷く拒否され、激昂して手を上げてしまった、という流れだったらしい。

 

 つまるところ、ミカは今回、完全に被害者の立場にあった。

 

 

 

“ミカ、君はなんで、さっき……”

 

 ミカが先日クーデターを起こしたのは、ゲヘナ憎しの感情からだったはずだ。

 ゲヘナとの和平条約を結ぼうとするナギサのやり方を受け入れられない。だからアリウスという兵力を用いて自身が頂点に立つんだ、と。

 少なくとも、本人はそう語っていた。

 

 それなのに、彼女はゲヘナとの戦争を否定した。

 少なくとも、その旗頭に立ち、戦いを始めることを拒否したのだ。

 

 

 

 その理由を訊いた先生に、ミカは……。

 

「え? あー、それは……なんでだろ。

 絶好のチャンスだし、今立ち上がればってわかってはいるんだけど……ゲヘナのことは今でも嫌い、なんだけど……どうしてだろ……」

 

 自分の心に目を向け、語る内。

 ぽとりと、彼女の瞳から、雫が落ちた。

 

「……私にも、よくわかんないな」

 

 

 

 ミカの内心で何があったのか、先生にはわからない。

 

 自分の派閥、自分の味方だったはずの生徒から攻撃されたことが、彼女の心を抉ったのか。

 ……あるいは、既に彼女の心は、限界に近かったのか。

 

 ミカは嗚咽を漏らし、かつて自分の決断で傷つけてしまったセイアへの謝罪の言葉を口にする。

 何度も、何度も。

 まるで、これまで余計なものに邪魔されて言えなかった分を、全て吐き出すように。

 

「先生……私、セイアちゃんに会いたい……。ナギちゃんにも、もう一度会いたい……。

 こんな私じゃ、もう駄目かもしれないけど……」

 

 ついにはその場に崩れ落ち、床に直接涙を落とすようになったミカ。

 

 先生は、彼女の前に膝を付いて、頷いた。

 

“任せて、ミカ”

 

 先生の脳裏に浮かんだのは、いつも綺麗な笑顔を浮かべている少女の顔。

 

 彼女なら……あるいは彼女の夢に現れる『あの子』なら、セイアのことを知っているかもしれない。

 この件が終わったら相談しよう。

 

 そして、願わくば。

 

 セイアと、ナギサと、ミカ。

 この3人に再び、笑顔で同じテーブルを囲む機会を。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして、ゲヘナに残ったヒナや、健在を確認する連邦生徒会と連絡を取りながらも、先生はトリニティの混乱を収めるために走り回り……。

 

 しかし、時は待たず。

 その間にも、忙しなく状況は動き続けて。

 

 

 

「先生っ! 先生、アズサちゃんがっ!!」

 

 ……いよいよ先生の下に、この事件の決着のタイムリミットが迫って来た。

 

 

 

*1
分厚いオブラートに包んだ表現

*2
分厚いオブラートに包んだ表現







 ダイジェスト気味になるとどうしても中身スカスカになって書いてて気持ち良くないのがつらあじ。
 
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