調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のやべー方 with シャーレの先生

 

 

 

 サンクトゥムタワーの行政執行権が回復し、連邦生徒会長の失踪から続く、一連の混乱がある程度収まった頃のある日。

 

 D.U.外郭にある、シャーレのオフィスビル。

 そこに今、1人の少女が乗り込んだ。

 

「~♪」

 

 ご機嫌に鼻歌を奏でるのは、ミレニアムサイエンススクールに所属する1人の少女。

 肩までで切った黒髪の上で、青色の瞳とヘイローを揺らしながら歩く、調月オリだった。

 

 彼女はエントランスホールで、つい最近発行されたばかりの入館パスをかざし、カコンという音と共にゲートが開くのをにこやかに見やる。

 

「……ふふふ。これで私もシャーレの部員かぁ」

 

 感慨深そうにパスを掲げ、どこか眩しそうにそれを眺めるオリ。

 

 これが1年後であれば、「あぁ、新人さんなんだなぁ」と温かい視線を向けてくるシャーレ部員がいたかもしれないが……。

 まだ開設直後で、殆ど部員のいない現在のシャーレのエントランスホールは、寒々しく広いスペースだけをその場に提供していた。

 

 が、オリからすると、それがむしろ嬉しいのだった。

 

「初期勢、初期勢~♪ 古参、イキり、マウンティングぅ~♪ いざとなれば『私の方が先生との付き合い長いよ?』って言える~♪ まぁ実際には言わないけど~♪ というか言えるわけないんだけど~♪」

 

 割と性格が最悪なことを口ずさみながら、彼女はてくてくと、ほぼ無人のシャーレを歩いた。

 

 

 

 そうしてエレベーターに乗り、しばらく歩いた先。

 彼女はようやく、目的地に到着した。

 

 このオフィスビルの中枢。

 連邦捜査部シャーレの、「部室」。

 そのドアの前に立ち止まって何度か深呼吸し、意を決した風に頷き1つ、彼女はドアをノックした。

 

“どうぞ”

 

 向こう側から聞こえてきたのは、紛うことなく、先生の声。

 彼女はその目を見開き、咄嗟に胸に手を当てて再び深呼吸をした後、コクリと頷いて表情を作る。

 故意のそれとはとても思えない、精巧な笑顔を。

 

「おはようございま~す! 調月オリ、参りましたよ~!」

 

 軽快な声と共にドアを押し開けると、その向こうには……。

 何十人と滞在できそうな広い空間の中に所せましと並ぶラックと、デスクが1つ。

 

 そしてそこには、椅子に座ってタブレットを触っている、先生の姿があった。

 

“いらっしゃい、オリ。久しぶりだね”

 

 そう言いながら、先生の視線がオリの方へと動いた。

 

 先生の視線が、自分のことを捉えた。

 先生の思考が、自分のことを想起した。

 

 それらの事実にゾクゾクと背筋を揺らしながらも、オリは表面上の笑顔を保って言う。

 

「うん、久しぶり! ありがとね、私のこと呼んでくれて」

“むしろ私としては、手伝ってくれてありがとう、なんだけどね”

「えへへ、いいんだって。この前は殆ど話せなかったし、改めて先生と話してみたかったしね」

 

 それから「あ、銃はガンラック? 了解了解」などとやり取りをしながら、持って来た荷を下ろし。

 

 彼女は、改めてといった様子で、先生の横に立った。

 

 

 

「さて……えっと、当番って何をすればいいのかな? お茶汲みとか? お酌?」

“生徒にそんなことはさせられないよ。……とは言っても、仕事は手伝ってもらうことになるけど”

 

 先生は苦笑しながら、傍にあった椅子にオリを座らせる。

 そうして、デスクの上の書類の処理を手伝ってもらおうとしたが……。

 その前に、オリが声を上げた。

 

「あ、待った! あのね、1つ言っておきたいことがあるんだけど、いい?」

“どうぞ”

「昨日聞いたんだけど、ユウカはもう当番に呼んだんだよね?」

“そうだね。領収書の整理を手伝ってもらって……ちょっと怒られちゃった”

「あ、やっぱり? ユウカって几帳面だから……って、そうじゃなくて」

 

 彼女は軽く頭を振って、話を戻す。

 

「誤解しないでほしいんだけど、みんながユウカみたいにデスクワーク出来るわけじゃないんだよ。

 ミレニアムにはそういうのができる子も多いけど、例外もいるっていうか……」

 

 椅子の上で、少女としては少し大柄な体を縮こませるオリ。

 それを見て、先生は粗方の事情を悟った。

 

“大丈夫だよ。人にはそれぞれ得手不得手があるし、長所を活かせばいいと思う”

「う……はい。お察しの通り、私、あんまりデスクワーク得意じゃなくて。

 ユウカみたいに先生の助けになれるかは微妙というか」

“できる範囲で手伝ってくれればいいんだけど……”

 

 

 

 先生は考える。

 

 確かに、先日来てもらったユウカは、とても仕事のできる生徒だった。

 なんなら大人である先生よりも効率的に、領収書の束を整理・処理していたのだ。

 それと比べられると……というオリの気持ちは、決して理解できないものではない。

 

 であれば、そんなことを気にする必要はない、得意なことを頑張ればいいんだと、そう伝えるにはどうすればいいか……。

 

 先生の脳内に、1つの解法が浮かんだ。

 

 

 

“そうだ! じゃあ、オリの得意なことは何?”

 

 訊かれたオリは、殆ど悩むこともなく即答した。

 

「戦闘、運搬、力仕事だね! 私、これでも結構力持ちなので!」

“うん、知ってる”

 

 笑顔で力こぶを作るオリに、先生は苦笑する。

 先日このシャーレビルを奪還する際、何十トンという重さの戦車をぶん投げていた姿は、先生のまぶたの裏にしっかりと刻まれていた。

 というか、あんなショッキングな映像は、そうそう簡単には消えてくれそうにない。

 

 そして、そんな彼女の長所を活かさないという選択肢はなかった。

 

“うん、それじゃ、模様替えの手伝いをお願いできるかな?”

 

 

 

 先生に導かれてオリが赴いたのは、シャーレビルの階下。

 このビルの本部となる部室から、2つ階段を下った先にあるスペースだった。

 

“このビルは私が自由に使っていいって言われてるんだけど、それなら暇な生徒たちがのんびりできるスペースを作りたいって思ってさ。この階を使いたいと思ってるんだけど……”

「了解。つまり、ここがカフェってことだね!」

“え? ……あぁ、なるほど、カフェか。いいね、それ。

 みんなには申し訳ないけど、自動販売機を置いたりすればシャーレの財源にもつながるし「お金を払った」という自覚があれば、ここにいやすくもなるかな”

 

 オリの少し突飛に思える発言に、先生は少し考え込む。

 しかし、オリはむしろ、先生の言葉にこそ首を傾げた。

 

「え、お金取るの? カフェなのに?」

“え? カフェなのにお金取らないの?”

「……あ、えーっと……あー、そっか、なるほど。確かクレジットの収入もある? って話だったっけ。あれ、でもクレジットって先生のタブレット内での通貨で、キヴォトスで流通してるのはあくまで円だし……んー?

 

 先生とオリは、微妙に噛み合わない話に、しばらく首を傾げていたが……。

 

 まぁそれはともかく、と先生は仕切り直すことにした。

 

“リンちゃんにお願いしたりして、いくつか備品を揃えてるんだ。ただ、どれも結構重くてなかなか搬入作業が進まなくてね。もしよかったら、手伝ってもらっていいかな”

「オッケー! 任せて任せて、どんな重いものでも運んじゃうよ~!!」

 

 

 

 それからオリは、先生の指示の元、インテリアをその広い部屋に運び込びながら、和やかに談笑して時間を過ごした。

 

「よっこいせ。……カーペットにデスクに椅子。こういうのがあると、それだけで雰囲気出るねぇ」

“最初からカフェって発想があれば、もっとらしいものを頼んだんだけどね”

「いいんじゃない? 先生がたまに寄った時に、ここで教鞭を取ったりすれば素敵だよ」

“あぁ、なるほど、それはいいね。……まぁ、ユウカみたいな生徒相手には、むしろこっちが教わる側になるかもしれないけど”

 

 苦笑しながらの先生の言葉に、オリは腕を組んで唸る。

 

「ユウカはねぇ、まさしくミレニアムの校風の化身みたいなとこあるから。あとノアとかコユキちゃんとか、ヴェリタスにエンジニア部とか。この辺りは、分野によってはめちゃくちゃに博識だから注意ね。

 あと、誰より私の妹。リオちゃんは知識量だけなら誰にも負けないレベルだから」

 

 彼女の言葉に、先生は先日リンが言っていたことを思い出した。

 

 調月オリには、よく似た名前の姉妹がいる。

 それが、調月リオという少女。

 

“リオ……確か、ミレニアムの生徒会長で、「ビッグシスター」って呼ばれてる子だよね。

 オリの妹さんなんだよね?”

「そうだよ、一卵性双生児なんだ! 私のヘイローと目の色を赤にして、膝辺りまで髪を伸ばした感じの子なんだけど、これがすっごい可愛いんだよ!」

 

 先生はオリを見て、僅かにその目を見開く。

 リオのことを語るオリの表情は、ほんのわずかな違いではあったが、これまでに見たことがない程にリラックスしていて、何より楽しそうだった。

 

 思わずそれに微笑みを浮かべる先生に気付かず、オリは話し続ける。

 

「まぁ、ちょっと抱え込み過ぎたり、合理主義が行き過ぎて少数の犠牲を当然と思っちゃったり、他人の感情を重視してない困ったところはあるんだけど……それでもね、とっても良い子なんだ。

 私の大事な大事な、可愛い妹だよ!」

“そっか。オリが言うんなら、きっと良い子なんだろうね”

「うん!」

 

 無邪気な笑顔を見せるオリに、先生はどこか安心を覚えていた。

 どことなく不思議な、底知れない生徒ではあったけれど、少なくとも姉妹への想いは本物なのだろう。

 

 彼女ともっと打ち解けるには、この辺りの話題がいいのかもしれない。

 それに何より、彼女たちのことには興味もあるし……と。

 先生は改めて、口を開いた。

 

“一卵性双生児の妹……ってことは、オリの方が先に生まれたんだね?”

「いや、リオちゃんの方が先だよ」

“え? それなら、リオの方が姉なんじゃ……”

「うん、第一子第二子で言うなら、リオちゃんが第一子で私が第二子だね。

 それでも、私の方がお姉ちゃんだよ」

 

 どやりとその豊満な胸を張り、何故か自慢げな笑顔を浮かべるオリを見ながら、先生は再びリンの言葉を思い出した。

 

『あのビッグシスターの双子の「自称」姉、調月オリさん。……先生のシャーレ着任のために、あなたの力が必要です』

 

 ……なるほど、自称か。

 まぁ、双子なら実際には年齢の差は殆どないだろう。

 当人たちが納得しているのなら、どちらが姉を名乗るかは自由なんだろう。

 

「まぁ、リオちゃんは未だに私がお姉ちゃんだって認めてくれないんだけどね。

 あの子ったら理屈屋だからさー、『一卵性双生児には発生の瞬間のタイムラグがないから、年上や年下という概念を当てはめるのは、誤謬を犯した定義よ』とか言ってくるんだよね。

 ま、そういう真面目なところも可愛いんだけどさ!」

 

 …………やっぱりこの子と、それから双子のリオという生徒は、ちょっと変わった子なのかもしれない。

 先生は、そう思い直した。

 

「先生がシャーレの顧問を長く続けていけば、その内リオちゃんにも会うことになると思うよ。なにせあの子、現ミレニアムの生徒会長だし。

 その時は……なんというか、優しくしてあげてね?」

“もちろん。楽しみにしてるよ”

 

 

 

 それから数十分。

 空っぽだった空間にはいくつものインテリアが運び込まれ、寂しかった部屋はある程度の快適度を獲得した。

 とはいえ、まだ使い始めたばかりの一室。

 生徒たちが好んで立ち寄るようになるまでは、暫く時間がかかるかもしれないが。

 

「……しかし、先生。これは何?」

“シャワーブースだね”

「いやこの施設の名称を答えてほしいわけじゃなくて、なんでカフェにするはずの部屋にシャワー一式を持ち込んだのか、なんで仕切りとかカーテンもなしでポンと置かれてるのかを訊きたいんだけど……」

“うーん……せっかくできちゃったし、使わないのは勿体ないかなって”

「いや、その……まぁいいか。変な噂とか流れても知らないからね?」

 

 ただでさえ、シャーレの先生はキヴォトス中で不審がられている。

 

 超越的な権力を持つポジションに、突然現れた大人が座ったのだ。

 これから先生が何をするのか、キヴォトスにどんな影響をもたらすのか、様々な学園や企業が注目を集めている状態だ。

 

 そんな中で、シャーレのカフェ(とは名ばかりのたまり場)に、まるで羞恥プレイを強いるようなスポットがあるというのは……。

 少しばかり、いや大いに、誤解を招いてしまいかねない。

 

 オリはため息を吐き、未来の先生の評判を思って、肩をすくめるのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それから、先生とオリが梱包材や段ボールの始末をしていると……。

 先生のスマホに、着信が来る。

 

“ごめん、いいかな”

「もちろん。どうぞ」

 

 大事な連絡だったのか、部屋の外に出て通話に応じる先生を見送り、オリは改めて段ボールを畳み続けたが……。

 数分後、戻って来た先生は、その表情に苦笑を滲ませていた。

 

“オリ。ちょっと急ぎの要件ができて……お手伝い、お願いできるかな?”

「はい? ええ、私にできることなら」

 

 キョトンとした表情で、オリは何事かと首を傾げた。

 

 

 

 ……そうして、その5分後。

 

「こんなマンパワー足りない時期から総力戦ですかぁ!?」

 

 電車の中でこれからのことを聞かされた彼女は、たまらず叫んでしまったのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 先生とオリが赴いたのは、キヴォトスでも有名な指名手配犯たちの本拠地だ。

 

 「無限回転寿司戦隊・カイテンジャー」と名乗り、全身タイツにスカート、仮面の上には寿司(の食品サンプル)をのっけた、だいぶ酔狂なやべー奴ら。

 彼女たちは普段から、よくわからない文言と共に住居への立てこもりや物資の盗難、強盗、一般には許可されていない火器の使用など、数多くの犯罪行為に勤しんでいる。

 有体に言えば、変な仮装をしてるだけのテロリストグループだった。

 

 そんな彼女たちが最近妙な動きを見せているとのことで、先生は連邦生徒会の交通室長に調査兼強襲を依頼されたらしい。

 

 しかし、現在先生が保有する戦力は、オリ1人きり。

 ユウカを呼ぼうにも、今日はセミナーの方で用事があるとのことで来れず。

 

 よって、オリと先生、2人きりの大捕り物が始まってしまったのだ。

 

 

 

 どこから情報が漏れたのか襲撃を予見し、本拠地でこちらを待ち構えていたカイテンジャーの5人。

 ふざけた格好に反し、明らかに火力の高い違法火器を用い、驚く程連携の取れた戦いによって、何故かキヴォトスでもトップレベルの戦力を持つ彼女たちではあったが……。

 

 オリはそもそも撃ち合いに付き合うことはなく、持ち前のフィジカルと極悪初見殺しによってそれぞれの愛銃を奪い去り、無力化を試みた。

 練度が高く、不利になればすぐに逃走する相手に多少苦戦をしつつも、先生を守りながら1時間程でカイテンジャー全員の制圧に成功した……。

 

 

 

 ……と、思われたのだが。

 

 

 

「回り続けるレールはやがて……正義の未来へと、繋がる!!」

 

 ボロボロになり、地に伏せたカイテンジャーたちの中で、レッド(トロ)がよくわからないことを言って立ち上がる。

 それを契機として、カイテンジャー全員がビシッとポーズを決め、上を指差した。

 

 すると、次の瞬間……。

 

 

 

 降って来たのだ。

 

 巨大ロボが。

 

 

 

“えっ!?!?”

「……マジ?」

 

 全長、おおよそ15メートル強。

 

 赤と白に彩られたトロのボディに、ピンクの海老の右腕、緑のアボカドの左腕。

 右脚は黄色のたまごで、左脚は黒を基調としたアナゴ。

 それらのパーツは空中で合体しながら落下し、着地すると同時、豪快にポーズを決めた。

 

 それは、言うならば回転寿司の化身。

 皆が一度は憧れる、美味しいお寿司の巨大ロボットであった。

 

 オリと先生の唖然とする一瞬の隙に乗じ、カイテンジャーたちは脱兎のごとく駆け出し、この巨大ロボットに搭乗。

 

 仕切り直しの第二ラウンド、または、たった2人の最終決戦が始まってしまった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「せんせーっ! 流石にアレはちょっと……うわっ!」

 

 巨大ロボット……その正式名称を、KAITEN FX Mk.0。

 

 その右腕(海老)から放たれるバルカンの掃射から逃げ回っていたオリは、不意に飛んで来た左脚(アナゴ)の蹴りをかろうじて回避する。

 

 ふざけた風貌でありながら、その体は数メートルの巨大な金属塊。

 もしも蹴り上げられれば、それこそダンプカーに撥ねられるようなダメージを負うことになるだろう。

 キヴォトスの住人であればひき肉ルートは回避できるものの、流石にダメージなしとはいかない。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に腰のホルダーから抜いた拳銃の照準を合わせ、引き金を引くが……。

 しかし小口径の銃弾は、恐らくはミレニアム製であろう、ロボット表面の強固なアーマーによっていともたやすく弾かれてしまった。

 貫通どころか、凹みすらしていない。仮にダメージ表記を出せば、無情にゼロの表記が出ただろう。

 

「デカい! 速い! その上攻撃が通らない!!

 ユズとモモイ見てる!? アルテリオス式じゃマズい理由がここにあるよ!! これぞクソゲー!!!」

 

 半ばヤケクソのように叫びながら、オリは体を躍らせ続ける。

 

 ……とはいえ。

 そんなことを言いながら、絶え間なく降り続ける攻撃を殆ど被弾していないあたり、彼女の方も大概のものではあったが。

 

 

 

 とにかく、このままじゃラチが空かないと、オリはもはや瓦礫の山になりつつあるカイテンジャーの本拠地、その塹壕の中に逃げ込む。

 そこでは、先んじて退避させた先生が、目をキラキラとさせて巨大ロボの方を見ていた。

 

“キヴォトスって……やっぱりすごい!”

「言ってる場合かなぁ!? 先生どうする、逃げる!? 単純に先生を連れて逃げるだけならなんとかしてみせるけど!」

“いや、流石にアレは危険だし、放置できないね”

「情緒の上がり下がりすごいね先生! ……でも真面目な話、このままじゃ勝てないよ。私の銃弾は通らないし、流石にあの大きさを持ち上げるのは無理だ。どうする?」

 

 拳銃のリロードをしながらそう問うオリに、先生は1つ頷き、言った。

 

“オリ。私の指示に従ってくれる?”

 

 その言葉と共に、先生の持っていたタブレットから、薄く青い粒子が漏れ出した。

 

 オリは目を見開き、ピクリと身を震わせ……。

 隠し切れない歓喜と共に、先生の提案を受け入れた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 塹壕の中に潜んでいたオリが、穴の中から飛び出す。

 その瞬間、待ち構えていたロボの右手からバルカンが放たれた。

 

“気持ち大きめに避けて”

 

 右耳のイヤホンから聞こえる先生の声に従い、オリはそれまで以上の速度で走って攻撃を回避する。

 ぐねぐねと蛇のように不規則に曲がりながらの回避行動に、バルカンの偏差照準は追い付かない。

 

 となればと言わんばかりに、ロボの胸パーツがパカリと開き、何故か魚型をしたミサイルハッチが露わになる。

 次の瞬間、装填された8匹の鰯は、あり得べからざることに空を飛んだ。

 

 単純な銃弾の掃射であればともかく、爆発する弾頭であれば、完全な回避は難しいだろうという判断。

 しかし……。

 

“今は緑だから最悪被弾して大丈夫。最速で行こう”

 

 オリは無理な回避を行わず、それよりも目的地への接近を目指す。

 背後で多数の炸裂、いくつかの破片がその身を掠めるが、しかし大きな損傷にはならない。

 

 ダメージを受け入れてまでオリが走り寄るのは、ロボの足元。

 先程までは、その質量を警戒して近寄らなかった部位だ。

 

 それを見て、カイテンジャーたちは彼女の覚悟を察し、彼女らもまたそれを固める。

 

 先程までとは明らかに違う、確かな決着を付けようとする、一気呵成な攻めの姿勢。

 相手は今、明らかに勝ちに来ている。

 であれば自分たちも、全力の一撃を以てこれに抗し、勝利を刻むべし、と。

 

 ロボが、後ろの地面に突き刺さっていた大きな大きな剣の柄を握る。

 そしてそれを、決して回避することを許さぬとばかりに、大きく振りかぶって……。

 

 横一文字、薙ぎ払った。

 

 乾坤一擲の一撃。

 オリ単体であれば、回避しようとして失敗し、手傷を負ってしまったかもしれないが……。

 

“8時方向、岩壁に隠れて”

 

 聞こえて来た言葉に反射的に従い、彼女は跳ぶ。

 そうして、剣が振るわれる瞬間、彼女の身体は綺麗に障害物に隠れ切り……。

 斬撃は、壁を打ち壊すに留まり、オリにまでは届かない。

 

 カイテンジャーたちは、この戦場における最適解と言ってもいい回避行動に、驚く以上に感心した。

 今の一撃は、彼女の取ったもの以外の手段では、間違いなく大きなダメージを与える一手のはずだった。

 まるで戦場を俯瞰的に眺め、次に何が起こるかを理解しているかのような動作。

 その流麗なまでの動きは、一種の芸術のようですらあった。

 

 そして、その大技を放った直後の放心は、致命的な隙となる。

 

 次の瞬間、オリは再び走り出した。

 全力の一撃を放った相手は、完全に無防備な状態。

 労もなく、巨大ロボの足元に辿り着き……。

 

“手榴弾、右膝の関節に……今!”

 

 たまごの装甲によって守られている、脚部関節の内側に向かって、手榴弾を投げつける。

 

 数瞬の後……ズガンと、重い音。

 

 ロボはバランスを崩し、右に倒れ込んだ。

 

 

 

 オリはその崩落に巻き込まれないように数歩下がりながら、イヤホンを通して先生に語り掛ける。

 

「すごい! あんな非殺傷用の手榴弾1発だけでダウンしちゃったよ!」

“ロボはどうしたって関節が脆くなるからね。ネタを模した装甲で正面からは守ってたけど、真下から攻撃されるって想定はしないんだ”

「そうなんだ! やっぱり先生ってすごいんだね、戦略も指示も的確で、格段に戦いやすい!」

 

 まだ軽傷と言っていいオリに対して、右脚が潰れて歩行が不可能になってしまったロボット。

 色々とロマンを詰め込みすぎた破綻した設計の妥当な末路と言うべきか、片足が潰れてしまった時点で、KAITEN FX Mk.0は殆ど身動きが取れなくなってしまう。

 

 趨勢は、致命的と言っていいレベルで傾いた。

 興奮を隠しきれないオリに対し、先生は落ち着いて語る。

 

“ありがとう。……さぁ、カイテンジャーのみんなには悪いけど、このまま解体といこうか”

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふー、つっかれたぁ~……」

 

 ロボットが崩れ落ちた時には、勝負は付いたと思われたが……。

 結局、カイテンジャーとの決着が付いたのは、日も暮れて真っ暗になった頃だった。

 

 先生の手引きの元KAITEN FX Mk.0を破壊したオリだったが、カイテンジャーたちはその爆散に巻き込まれることもなく華麗なジャンプでロボを脱出。

 (先生の賞賛を受けながら)カッコ良くヒーロー着地を決めた彼女たちは、それでもなお諦めることなく、オリに対して勝負を申し込む。

 

 あれだけ大暴れしておきながら疲れも覗かせない彼女らに呆れながら、オリは相手の心が折れるまで付き合おうと思ったのだが……。

 

『しまった! これ以上はネタが乾いてしまう!! みんな、ここは一旦撤退だ!!』

 

 カイテンジャーのリーダー格・レッドがそう言い出したのは、実に4時間後。

 それまでは連携と逃走、隠密からの奇襲とゲリラ戦法を活かして、粘りに粘りに粘られてしまった。

 

 

 

“本当に大変だったね。お疲れ様、そしてありがとう、オリ”

 

 オリと隣り合って帰路に付きながら、先生は彼女を労う。

 実に数時間に及ぶ戦闘は流石のオリすらも消耗させたようで、彼女のいつもの溌剌とした様子は影をひそめ、現在は全身から力を抜いてとぼとぼと歩いていた。

 

「ホント大変だったよぉ~……。先生、次回アイツらが暴れ出す時までには、ちゃんと生徒さん募集して、戦力集めててね? いつだって私がいるわけじゃないんだしさ」

“そうだね。今日は無理をさせてごめん”

「ま、いいっていいって。先生のためだもん! これからも、何かあったら頼ってよね!」

 

 少し無理にニコリと笑った後、オリは十字路に入ったところで、急に立ち止まった。

 

「……ごめん、先生。ここまででいいかな? そろそろ帰らないと、心配かけちゃうからさ」

“あぁ、そうか。ここまでずっと戦闘詰めで、妹さんに連絡も入れられなかったもんね。

 わかった、じゃあここで現地解散ということで。今日1日、怒涛な展開だったけど、改めて当番をしてくれてありがとう、オリ”

「うん、こっちこそありがとう! 大変だったけど楽しかったよ、それじゃまたね!」

 

 そう言って、オリは先生とは別の方向へ、笑顔で駆け出して行く。

 

 あの激闘を経てもなお走る元気を残したオリに、先生は呆れ半分、感心半分の息を吐き、手を振って見送るのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 先生から見えなくなるだろう角まで走り、そこを曲がってから……。

 オリは、ゆっくりと足を止めた。

 

 ぽとりと、その足元に、血が滴る。

 

「……はぁ、くそ。あんなカッコしておいて、しっかり強いんだから。

 インサネ、ってヤツ? それとも、トマトってヤツ? ……今夜、訊いてみないと」

 

 銃弾や破片が掠め、傷だらけになってしまったミレニアム指定のセーター。

 彼女の大きな胸によって押し上げられている、その下には……。

 

 いくつか、大きく裂けて、出血する傷があった。

 

「い、ったた……」

 

 合計して、実に6時間弱。

 いくら先生が指揮するオリとはいえど、確かな実力者に対して、傷1つなく立ち回ることはできない。

 

 経過していく時間と戦闘への慣れは集中力を低下させ、削られた体力の分体は動きにくくなり。

 結果として、時間と共に被弾は増え、いくつか明確に怪我と言える傷を残してしまった。

 

 先生の前では気を張って隠していたが、1人になった途端、殊更にジクジクと傷み出す。

 歩けないという程ではないが、決して無視できない傷み。

 これを抱えたまま、平静を装って先生と一緒に帰るのは、彼女をしてもなかなかの難行だったのだ。

 

 

 

「さて、ここからセーフハウスまで……30分か。

 でも、こんな状態で電車に乗るの、迷惑だろうなぁ……」

 

 歩いて帰らなきゃかなぁと、壁に寄りかかりながら考えるオリを……。

 

 パッと、眩しいライトが照らし出す。

 

「っ!」

 

 反射的に拳銃を抜くオリはしかし、そのライトの発生源である大型ドローンと、その上に乗っていた人物を見て、安心したようにそれをホルダーに仕舞い直した。

 

 

 

「お迎えに上がりました、オリ様」

「……もう。リオちゃんもトキちゃんも、過保護なんだから」

 

 

 







 Q.なんでカイテンジャーってヒエロニムスとかワカモwithホバークラフトとかと同格扱い(総力戦)されてるの?
 A.わからん……多分強いからじゃないですかね……?
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