ざあざあと、音を立てて降り始めた雨の下。
「……そろそろかな」
トリニティ自治区、古聖堂からしばらく離れた場所。
一軒のアパレルショップの屋上で、少女が呟いた。
黒髪に、青い瞳と同色のヘイロー、ミレニアム指定制服のセーター。
左手には一丁のハンドガンを持ち、その視線は古聖堂の方へと向けられている。
少女……調月オリは、隣に立ち彼女の頭上に傘を差す黒服に対し、半ば独り言のような言葉を吐き出した。
「トリニティに出したドローンが捉えた。先生が古聖堂近辺に着いたって。
運命の修正力って言うの? やっぱり『あの子』の言ってた通り、『本来の流れ』に合流したみたい。
まぁ当然か。トリニティにいるのならアズサの失踪は自然と伝わって来る。そうなれば補習授業部の3人と一緒に……ホシノたちや正義実現委員会、ゲヘナの風紀委員も連れて、アズサを連れ戻すために決戦に挑むことになる」
* * *
白洲アズサ。
ついぞ調月オリとは交わることのなかった、トリニティの生徒だ。
彼女の来歴は、なかなかに複雑で、残酷だ。
元はアリウス分校に所属し、サオリを筆頭とするスクワッドと親交を持っていた生徒だったが……。
数年前に発生した聖園ミカとの接触から、彼女はトリニティとの和睦の使者となり。
……「マダム」の指示以降は、百合園セイアを殺害するための刺客となった。
かねてより優秀な戦士であったアズサは、百合園セイア襲撃の際にもただ1人、数多の罠と警備を潜り抜けて彼女の元にまで辿り着き……。
しかし、目の前にいるセイアを殺すことはしなかった。
彼女との会話の中で新たな道を見出したアズサは、セイアの死の偽装を行い、トリニティにスパイとして潜り込んだ。
アリウスを統べる「マダム」は、傀儡となるミカ以外の生徒会長の存在を許さないだろう。セイアの次はナギサを排除しようとするはずだ。
そのため、彼女はナギサの襲撃を企てるアリウス分校のスパイとして活動しながらも、同時にその襲撃を未然に防ごうとする、二重スパイのような立場に身を置いていたのだ。
……そうして、普段の素行がトリニティの生徒として少し問題があったことや、出自がミカによって偽造された不明瞭なものだったことが災いし、ナギサによって補習授業部に入れられ。
先生やヒフミ、コハルにハナコと触れ合う中で、彼女たちとの固い信頼関係を樹立。
補習授業部で、アリウスによるナギサ襲撃作戦を阻止させしめた。
その行動を以て、アズサはトリニティから認められた。
シスターフッドの協力もあり、以前のような偽装した立場でもアリウスのスパイでもなく、正式にトリニティの生徒となることができたのだった。
だが、そのような偉業を為し、自らの居場所を得ても、なお。
彼女がアリウスの出という事実は、そこで受けた教育の結晶は、誰にも消すことができない。
vanitas vanitatum, et omnia vanitas.
『全ては虚しい。どこまで行こうと、全てはただ虚しいだけのものだ。』
これはアズサが頻繁に口にする警句であり……。
アリウス分校において受ける、教育の根幹。
飛び抜けて強い精神力を有するアズサは、その言葉の後に「だが、どれだけ虚しいものであろうと、全力で抗わない理由にはならない」と加え、叩き込まれた退廃的なニヒリズムを乗り越えているが……。
その言葉自体は、トリニティに所属してもなお、彼女の根幹に刻まれたようにふとした瞬間に口を突いて出てくる。
過去というものは、長い時間をかける以外の手段で振り切ることは決してできず。
……そうして今、アズサにとっての過去の清算が、今、迫りつつあった。
ナギサ襲撃を未然に防ぎ、トリニティに、補習授業部に平穏が訪れた。
……少なくとも、あの瞬間、エデン条約調印直前までのアズサの認識では、そうだった。
彼女の知り得た、アリウスの最後の計画は、ナギサ襲撃。
それ以降何をするかは知らされていなかったが……。
彼女の知り得るアリウス分校の力は決して強くない。
この作戦さえ防いでしまえばしばらくトリニティには手を出すことはできないと、そう思っていた。
……けれど。
アリウス分校は、アズサの知らない内に、変貌を遂げていた。
未知の技術を用いた強力なミサイルを保有し、「姫」の血を利用したと思しき謎めいた軍勢の召喚を可能とする。
そんな、不可解で不可思議な変貌を。
更に言えば、直前のナギサ襲撃は失敗した。物資はその大半が無為に失われたのだ。
余程大きな補給のラインがなければ、この頻度で作戦を行うことは不可能なはずだった。
それなのに、アリウスは現在、万全な食料や装備を整えているように窺えた。
今のアリウスには、何かしらの、アズサの知らないコネクションがあるのだろう。
そして、そうとは知らないアズサは、ものの見事に展開を読み間違えた。
その、結果として。
多くの生徒の夢であり、トリニティとゲヘナにとっての未来であったはずのエデン条約は、破綻し。
平和の象徴となるはずだった古聖堂は、血と涙と暴力、硝煙の匂いと不気味な生徒たちによって占拠されてしまった。
アズサはそれに、決して少なからぬ自責の念を覚え……。
それと同時、もう1つの理由からも、計画の主犯であるスクワッドを止めねばならないと決意した。
彼女にとって、アリウススクワッドの4人は、家族に等しい存在だった。
アリウス分校で幾度となく助けてもらったし、助けたし、共に生活し共に生きて来た。
故に、知っている。
アリウス分校の教育や、作戦への使命感を除けば、彼女たちもまた普通の少女であることを。
サオリは真面目で背負い込みがち、あまり空気を読まず天然気味なところがあり。
アツコはああ見えて茶目っ気が強く、サオリを頻繁に揶揄ったりもしていたし。
ミサキは最も深くニヒリズムに浸っているけれど、反面感情も強く可愛いもの好きで。
ヒヨリはスクワッドで最も精神的に打たれ強く、そして最も肝が太い。
そんな、どこにでもいるような少女たちだ。
家族同然の相手だったからこそ、普通の少女たちだからこそ、スクワッドにこれ以上罪を重ねさせるわけにはいかず……。
同時、彼女たちが任務を放り出そうとはしないことも、元アリウス分校生徒のアズサは知っていた。
たとえどれだけ仲が良かろうと、たとえどれだけ相手に理があろうと、アリウス分校の生徒が説得された程度で任務を放棄することはない。
拷問や洗脳については耐性を付けているし、その使命感は歪んだ教育によって強く強く刷り込まれてしまっている。
非常に強い精神力を持っていた例外中の例外であるアズサでさえ、セイアに異なる道を示される瞬間までは、アリウスを裏切るなど発想すらしなかったのだ。
スクワッドのメンバーに、アズサの言葉は届きはしない。
彼女たちは、相手が知己であろうが、敵であれば当然のように撃って来る。
たとえ一時的に打ち倒したとしても、決して諦めることなく、必ず障害となって立ち上がるだろう。
彼女たちを止めるためには、不可逆的にその意思を奪う必要がある。
つまるところ。
その命を、奪わざるを得ないのだ。
アズサは、アリウスのニヒリズムを乗り越えたが……。
だからといって、アリウスで受けた教育を忘れたわけではない。
彼女にとっても、未だ自らの人生全ては虚しいもののまま。
ただその上で、足掻くことはやめるべきではないというだけ。
故にアズサにとって、自分や自分の人生に意味も価値もなく。
足掻くために、自らを犠牲とすることを、一切躊躇しない。
その例は、小さなことであれば、誰かを手助けする際に誤解され攻撃を受けても、それを甘んじて受け入れることであり。
大きなことであれば……大事な人たちを止めるために、今度こそ友達の平穏な日々を取り戻すために、殺人の汚名を被ろうとすることだった。
* * *
まだ一度たりとも会ったことのない少女。
その精神の在り方に想いを馳せながら、オリは呟く。
「白洲アズサ。アズサちゃんは、補習授業部との関係とか、そこに所属していた自分とかを切り捨てて、スクワッドの子たちを殺そうとする。
まともにやっても勝てないから、自分へのイメージも、自分の大切なものも、その全てを利用して非情に勝とうとする。
でも、結局サオリを庇うアツコに止められて……決戦に繋がるわけだ」
オリがそれらを知り得ているのは、『あの子』から聞いていたから。
それも、ただ一度聞いただけではない。
何度も何度も、ずっと小さかった頃から、オリは『あの子』にねだって、話を聞き続けてきた。
頭脳や思考の回転力を重要視されるミレニアムの基準で、リオよりもずっと
それを理不尽だと思ったことはない。
実際、リオに比べて自分の頭が悪いことは自覚していたし、良い子の方が評価されるのは当然の話だ。
だから、不満には思っても、理不尽だとは思わなかった。
せめて、双子であるリオと十全にコミュニケーションが取れていれば、また違ったかもしれないが……。
残念ながら、幼児だった頃のオリは、リオとも話が合わなかった。
IQが20違えば、会話は成立しない。賢い方がそうでない方に気を遣えば話は別だが、当時のリオにそんな非合理な道を選ぶ気はなく。
当時の双子の姉妹の仲は、そして家族の仲は、調月オリを中心に相当に冷えていたのだ。
そして、そんなオリにとっての唯一の逃げ道が、『あの子』だった。
毎晩毎晩、夢の中で見る電車の光景。
そこでオリは、対面に座る『あの子』に、思う存分甘え、話し、接した。
『あの子』はそれを許してくれたし、オリが悩みを話せば、家族との関係改善のアドバイスもくれた。
『そうですね……それでは、「お姉ちゃん」として接してみてはいかがでしょう』
『お姉ちゃん?』
『ええ。お姉ちゃんだから、可愛い妹が多少わがままを言っても、受け入れなければならない。お姉ちゃんだから、可愛い妹が親に優先されても、我慢しなければならない。お姉ちゃんだから、可愛い妹が危ない目に遭う時、守らなければならない。
そう思えば、少しは気持ちが和らぐと思いますよ。理不尽ではなくなりますからね』
『あの子』は、見慣れた笑顔でそう言った。
オリはそれを試して、確かに多少の精神的な余裕が持て、結果として家族仲は改善。
色々あってリオとも和解することができたのだが……。
それはともかく。
そんな『あの子』との夢の中で、彼女はまるで童話の読み聞かせをねだるように、『あの子』に話を聞きたがった。
主人公である「先生」が繰り広げる英雄譚のごとき物語は、幼い少女の心を掴むには十分なものだった。嫌な現実から逃避するという側面もあったかもしれない。
……まぁ、当時はそれが現実のもの、未来で実際に起こり得るものだとは、きちんと認識できていなかったのだが。
そんな幼少期を過ごしたからこそ。
オリは今もなお、『あの子』の語り口調を再現できる程に、「先生の物語」をしっかりと記憶している。
これから何が起きるかも、手に取るように……とまではいかないが、ある程度の察しを付けることができるのだ。
その上で、このエデン条約に関わる一件……『あの子』曰く「エデン条約編三章」。
これは、とても重い意味合いを持っている。
『シッテムの箱』なるもので守られていた先生が、命に響くレベルの重傷を負ってしまう話であり。
暗くて陰鬱でダーティな、これまでの話とは一線を画す、悲しい話であり。
……そして、そんな雰囲気を吹き飛ばす、とある少女の、少女たちのお話でもある。
『あの子』の熱の入った語り口調を思い出しながら、オリは自嘲気味に笑った。
「結局のところ、この話は徹頭徹尾、『彼女たちの』物語なんだ。
私は介入する余地のない……というか、介入する由のない、トリニティとゲヘナ、アリウスのお話。
実際私、リオちゃんに言われて、トリニティとゲヘナには殆ど関わりを持ってないし……この物語からすれば、なんの因縁も持ってない外様に過ぎない」
彼女の隣に立つ黒服は、その独白に言葉を返さない。
黒服に対して語る形でこそあるが、オリがしているのは確認と自制であり、会話ではない。
それを理解しているが故の、そして今はオリのメンタルを保つのが第一であると心得ているが故の、敢えての沈黙だった。
その意図に無意識に甘えるオリは、続けて口を開く。
「まぁ、私が生徒を救えるのなら、他人事じゃなくなるのかもしれないけど……。
結局、生徒を助けられるのは……少なくとも『メインストーリー』においてそれができるのは、先生だけみたいだし。
私がしゃしゃり出ても何の意味もない。どうせあの時みたいに強制的に失敗するし、今回に限っては先生さえいれば死者も出ないしね」
「先生」。より正確には、シャーレの先生。
黒服にとっても『あの子』と並んで興味深く感じる、不可解な存在。
その名前が出たことを機として、黒服は久々に口を開いた。
「先程の連絡、シャーレの先生の救助に人を動かしたようですが、結果は如何でしたか?」
聞かずとも、その答えはわかりきっていた。
彼女が精神的に落ち着いて……それどころか、決して好んでいないし油断するわけにもいかない相手である黒服を相手に、ぺらぺらと言葉を並べている時点で。
もしも先生の救助に失敗したのなら、調月オリはこの場に残らなかっただろう。
黒服との契約も姉の忠言も忘れ、アリウスを強襲、少なからぬ傷を作りながらも、尽くを殺害。それどころか、現在ゲマトリアの一人が支配する領域に踏み入り、命懸けで壊滅させていたかもしれない。
先生の安否は、それだけオリにとって重い、命をかける程の問題だった。
そして今、その問題が解決したからこそ……彼女の人生にとっての最大の問題が解決したからこそ。
実のところ、今の調月オリは、これまでにない程に上機嫌なのだ。
「助けたよ。脚に弾丸が掠ったのと筋肉を傷めたの、軽傷は避けられなかったみたいだけど、本来の運命よりはずっとずっとマシなはず。
ハルカちゃん越しのアルちゃんの報告だと、ゲヘナの救急医学部が応急手当してくれてるらしいし、完治まで3、4日ってところだってさ。今も動き回ってるから、もう少し長くなるかもしれないけど」
そう言いながらも、屋上の縁に座り込む彼女は、ぷらぷらと足を揺らす。
表情も、黒服の前であるが故に笑顔とまではいかないまでも仏頂面とは言えない程に緩く、これがリオやホシノの前であればたまらず躍り出していただろうと思う程。
『あの子』の語った物語において、先生は、サオリの放つ凶弾に撃たれた。
ヒナの咄嗟の体当たりで急所こそ外すものの、脇腹に直撃し……。
その意識を奪い、命までもを脅かやされたのだ。
それに比べれば、先生の意識が健在であり、空元気だろうと走り回れている今の状況は、遥かに良くなっているはずだ。
それが、オリは心から嬉しかった。
ようやく、誰かを救うことができた。
ようやく、世界の運命とでも呼ぶべきものに干渉できた。
ようやく、何かを選んで変えるという、誰もが出来て当然のことができた。
……ようやく、調月オリは、この世界に生きている誰かと同じようになれたのだ。
そんなわけで、オリは現在非常に機嫌が良く。
自分の戦果を誇るように、状況の推移を語る。
「まぁ、『あの子』の言った通り、運命はすぐに本道に戻ったみたいだけど。
先生は本来意識を失ってた時間、ゲヘナでの治安維持をしてたみたい。……ゲヘナの治安なんてやってもやらなくても変わらないと思うんだけど。
けど、最終的には、まるで細い川が本流に合流するみたいに、先生はトリニティに戻った。
そして事態を収拾しながら、アズサちゃんを助けるために古聖堂に向かってる。
ホシノからも『ちょっとトリニティに行ってくる』って連絡があったし……そろそろ宣言だ」
「宣言、ですか」
黒服の相槌に、彼女は「うん」と頷いて続ける。
「そもそも今、先生たちが一番困ってるのは、あのユスティナ聖徒会の
どこぞのカスがスクワッドにその能力を貸し与えやがったせいで、本来は弱小のはずのアリウスが無限の兵力を有してる。
……逆に言えば、あの兵力さえなくなってしまえば、アリウスなんてトリニティとゲヘナの物量に圧し潰される弱小勢力に過ぎなくなる」
差された傘の外に戯れに手を出し、手に当たる雨粒の感触を楽しむオリに、黒服は「なるほど」と頷く。
「エデン条約の、再約……いいえ、この場合は新約と呼ぶべきでしょうか。
確かにあの者は大人であり、結ばれた古き約を歪め、新しきに覆す能力を持っている。
そしてそれは、古き契約の条項との矛盾を生み、契約によって動いている
「キモ、今の言葉でなんでそこまでわかるんだよ。
『あの子』から聞いてるの? 私以外は誰にも言わないって言ってたはずだけど」
「伺っていませんよ。ただ、現在有している情報から推測したのみです」
「尚更キモい」
嫌悪感というより呆れの表情で黒服の方を見やるオリ。
しかし、彼女は直後、片時も目を離せないというように改めて古聖堂の方に目をやった。
「まぁなんにしろ、もう決着だ。
先生が、そしてこの青春の物語の主人公が、条約を捻じ曲げる時は近……いや」
ふと、オリが僅か上に視線を逸らす。
古聖堂の上空、雨粒を落とす分厚く黒い雲。
それが、今。
「来たか、
今、晴れる。
遥か彼方、1人の少女の突き上げた指に呼応するように。
暗く黒い雲が、人を濡らし冷やす雨が、吹き飛ばされるようにかき消えていく。
その先にあったのは、青くどこまでも澄んだ空と、人を温め照らす光。
悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような、それでいてただただ後味だけが苦い。
そんな物語はここでおしまい。
ここから再び、青春の物語が始まる。
* * *
「これは……いやはや、まさかこの規模で神秘の極致を目にするとは」
黒服は思考を整理するように言葉を呟きながら、上空の雲が吹き飛ばされて必要なくなった傘を畳む。
それと同時、オリは言った。
「じゃあ行くから」
「ふむ」
オリと黒服が結んだ契約。
それはオリがいくつかの特典を得る代わり、『調月オリという一人の生徒が』『エデン条約に関連する一連の事件が終結するまで』『直接介入をしない』というものだった。
その上で、オリは先生の下に行こうとしている。
それが示すのは……。
「既に、エデン条約に関連する一連の事件は終結した……と?」
「もう『エデン条約に関係する物語』は終わったよ。補習授業部のやべーハピエン厨の宣言で、『青春を生きる少女たちの物語』に塗り替わった」
詭弁とすら言える、酷い屁理屈。
それを聞いて、しかし黒服は興味深く思うように顎に手をやった。
「なるほど、空……いえ、舞台の色、意味が変わった、と。ゴルコンダが興味を持ちそうな話です。
ええ、構いません。あの契約におけるあなたの義務は果たされました」
「ん」
オリは軽く頷き、一度深呼吸する。
そうして、左手に持つハンドガンを握り直し、その緩んでいた視線を引き締めた。
「……よし。反則破り、行きますか」
ザリ、と。
彼女の靴が、屋上を踏みしめる音がして……。
次の瞬間。
黒服の隣にいた少女は、どこかへと消えていた。
次回、『ミレニアムの理不尽』vs.『完成した教義』