調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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夏の終わりのエトセトラ!
調月姉妹とやべー奴


 

 

 

 エデン条約に纏わる事件が終わりを遂げ、先生がついに『あの子』と邂逅した、その翌日。

 

 その日もキヴォトスは、忙しなく回り続けている。

 

 事件の中心となったトリニティ自治区。

 ここでは、事件によってもたらされた被害の収束のため、各勢力が忙しなく動いていた。

 

 先生の声明により、この一件が相手による画策ではないと発覚した後、トリニティとゲヘナは緊急事態を前にして手を取り合い、古聖堂を占拠したアリウス分校と戦った。

 その後は事件収束に合わせ、再び緩い緊張状態に戻るものかと思われたが……。

 

 トリニティとの融和否定派である万魔殿(パンデモニウムソサエティー)のマコトが入院中であることもあって、事件後のゲヘナの主導権は、風紀委員長のヒナが握った。

 元よりエデン条約及びトリニティとの融和に肯定的だったヒナは、「この件はゲヘナにも一定の責任がある」と、トリニティに事態収拾の協力を申し出た。

 意識を取り戻したナギサがこれを了承したことで、トリニティとゲヘナは一時的な協力体制を敷くことができたのだった。

 

 

 

 エデン条約は破綻した。

 政治的な問題もあり、恐らく、もう一度結び直すことは難しいだろう。 

 

 けれど、それでも双方の関係は、少しずつ良好になってきている。

 

 すぐさま交友を深めることはできなくとも、一歩ずつ、着実に、光ある未来へと進む。

 あるいはそれこそが、アズサが夢見た明日だったのかもしれない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……さて、そんな風に、トリニティが待ちわびた明日を迎えている一方で。

 事件の渦中にはおらず、しかし同時複雑に絡んでもいたオリが、何をしていたかというと。

 

「…………」

「あのぅ、リオちゃん……?」

 

 自らの妹の前で、正座させられていた。

 

 

 

 調月姉妹の、ミレニアムにいくつか点在するセーフルームの1つ。

 昨日使った質素なものとは違う、リオとオリ、そしてトキのそれぞれの生活感が溢れる、普段使い用の一室。

 

 その向かって右半分、自らのスペースにいるリオはオフィスチェアに座り、不安げに見上げて来る自らの姉を、特有の温度のない瞳で見下ろしている。

 何かを言うこともなく、ただただ無言で、見下ろしているのだった。

 

 

 

 調月姉妹は、まるで鏡合わせのように真逆の性質を持っている部分がある。

 

 その最たる例として挙げられるのが、それぞれの表情や雰囲気だろう。

 

 自称姉である調月オリが、明るく開放的な雰囲気を持ち、他者を安心させるような明るい表情を浮かべるのなら……。

 妹と言われる調月リオは、冷たく排他的な雰囲気を持ち、他者を不安にさせるような表情の薄さを誇る。

 

 故に、リオの無言の圧力は、これがどうして凄まじい。

 

 自称姉であり、妹の持つ威圧感に慣れ切っているオリからしても、本気で怒っている時のリオの圧はなかなかのものがある。

 

 オリはその圧に、思わず視線を逸らしたり戻したりを繰り返しながら、ひとまず言い繕おうと試みる。

 

「いやその、えーっと、ごめんなさい。ハイ、若干無理したかもしれません。

 いやでもこれ言い訳なんだけど、今回ばかりは仕方なかったんです。私が動かないとトリニティがぐちゃぐちゃになって、先生が傷つく可能性があってぇ……」

「オリ」

「すみませんでしたぁ!」

 

 

 

 叫んで土下座するオリを、リオはしばらくじっと見つめ……。

 その冷たく重い雰囲気を収めて、ため息を吐いた。

 

「あなたに独自の行動指針があること、『あの子』による独自の情報網があることは理解している。あなたにもあなたで、そう動いた理由があったのでしょう。

 あなたが()()()()を守ってくれるのなら、私はそこに干渉しない。

 けれど……何故、私に報告しなかったの?」

「え?」

「私にその情報を伝えれば、少なからぬ戦力を使えたでしょう。

 トキや()()()は出せないにしても、AMASは出せる。何かしらの理由を付けてC&Cを行かせることもできたでしょう」

 

 椅子の上から無表情のまま疑問を投げかけたリオに対し……。

 正座したオリは、きょとんとした表情を浮かべる。

 

「いや、それは無理でしょ。

 キヴォトス三大校の内二校の一大事であるエデン条約調印式でテロが起きて、まるでそれがわかってるようにラスト一校のミレニアムが戦力を派遣なんてすれば、明らかに犯人側だって疑われる。

 ただでさえ二大校が戦争を起こす可能性があるのに、そこにさらに爆弾を追加したら収集が付かないでしょ?」

 

 オリの意外な言葉を聞いて、リオはほんのわずか、表情に驚愕の色を載せる。

 

「……あなたがそういった政治的な事柄を考慮して行動を止めるとは思わなかったわ」

「失礼な! 私そういうのわからないってわけじゃないからね!?

 リオちゃんの隣にいれば自然とそういう経験増えるし、やっちゃいけないことくらいは理解できます~! ただ理解した上でやってるだけです~~~!!」

「余計に性質が悪いと思うのだけれど……」

 

 リオは合理性の極致であるが故に、人の感情の機微に疎い。

 すべきならばする、すべきでないならしない。

 それがリオの行動原理であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 対し、オリは……言うならば、非合理の極致というか、感情的というか。

 どうすべきかよりどうしたいかを軸に物事を判断する彼女が、他者への迷惑を考慮して行動を止めるのは、双子の姉妹であり、彼女を最もよく知るリオからしても、少しばかり意外だった。

 

 

 

 ……が。

 それは単に、彼女が自身に向けられる想いに対し、鈍感すぎるというだけなのだが。

 

「何故今回はそれを考慮したの?」

「いや、企業敵に回す程度だったらともかく、今回のは自治区規模の戦争に発展しかねない案件。リオちゃんとかミレニアムの子たちに迷惑かかっちゃうじゃん?

 駄目駄目とはいえ私も一応お姉ちゃんだし、妹に迷惑かけられないからさ」

 

 理不尽の極致だの何だのと言われることの多いオリではあるが、それだって行動を止めるために必要な動機が他者よりずっと多いだけのこと。

 黒服がいくつも挙げた条件を以て、彼女がエデン条約に纏わる事件への干渉をやめたことからしても、ただ常人よりもずっとハードルが高いだけで、それができないというわけではない。

 

 そして、オリにとってリオに多大な迷惑をかけることは、オリにとって行動を止める……どころか、起こさないに値するだけの理由なのだ。

 

 ……勿論そこに、「リオちゃんに話したら無理にでも止められそうで面倒だなぁ」という思いがあったことも、また事実ではあるのだが。

 

 

 

 オリの言葉に、リオは一度目を見開いた後……。

 まぶたを閉じ、呆れるように……どこか誤魔化すように、言った。

 

「……まるで、いつもは迷惑をかけていないかのような言い方ね」

「いやまぁうん、それはそう! いつもご迷惑おかけしてます! ありがとうございます!」

 

 どこかふざけたように謝り、頭を下げたオリは……。

 しかし、頭を上げた時には一転、本当に申し訳なく思うように眉を垂らしていた。

 

「リオちゃんには、今回だいぶ心配かけちゃったよね。何も説明とかせずいきなりエデン条約に乗り込んじゃったし。

 ごめんね、いつもさ」

「誤解のないよう言っておくと、シャーレの先生が関わる以上、あなたが出ることは予期していたわ。

 それに合わせて、あなたの存在がトリニティとゲヘナ、ひいてはキヴォトスに露見してもいいよう体制も整えていた」

「うーん妹からの理解度が高い。申し訳ないと同時めちゃ嬉しいこの気持ちよ」

「……まぁ、あなたが大っぴらには手を出さなかったことで、それらの施策は無意味どころか無意味にあなたの存在を外に知らせる結果に終わったのだけれど」

「す、すみません……いつも暴走してばっかですみません……」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 恐縮しきりで頭を下げるオリに、リオは「こちらに気を遣ったのだから、その点に関して謝る必要はないわ」と返した後……。

 ほんのわずか、その目を細める。

 

「……あの古聖堂の下に現れたモノ。特異現象、仮称ヒエロニムス。

 あの存在をあなたに教えたのは、『あの子』ね?」

 

 それこそ、今日リオが姉に尋ねたかった本題だった。

 

 このセーフルームにオリを呼び出したリオの目的。

 それは、『あの子』という、リオからは未だ正体の覗けない存在に対する情報収集……。

 及び、その存在がオリにどう影響するのか、どうすれば排除できるのかの調査。

 

 彼女はミレニアムの全ての生徒の安穏を守る生徒会長であり、同時調月オリという少女の双子の姉妹だ。

 

 多大かつ不可解な程の知識を持ち、頻繁にオリを戦場へと追いやる『あの子』。

 それがもしミレニアムの、あるいはオリの脅威となるならば、排除せねばならないのだから。

 

 

 

 そう覚悟を決め、少なからぬ緊張感と共に尋ねたリオに対し……。

 

 オリはけろっとした表情で、平然と答えた。

 

「そうだよ。というか、教えてもらってた、って表現が正しいと思うんだけど。

 最近はあんまり話してくれないんだけど……昔あんまりみんなに構ってもらえなかった頃は、『あの子』から先生のお話ばっかり聞いてたからね。

 エデン条約の調印式の日に襲撃があって、地下で先生が無茶をしちゃうってのはよく覚えてた」

「……そう、わかった」

 

 詳しく話を聞こうとしていたリオは、しかしそこで言葉を止める。

 

 オリの言葉の端々から、あまり詳しくは聞かれたくないという想いが垣間見えたというのが理由の一つ。

 

 そしてもう一つは……。

 自身の、思い出すのも苦々しい過去の話が、彼女の出鼻を挫いてしまった。

 

 リオは一度言葉を止め、再び続きを口にしようとして……。

 けれど結局、彼女が話題に挙げたのは、別の件になった。

 

 

 

「それでは、この前あなたに渡した『あの子』への質問表はどうなってるの? もう答えてくれた?」

「あ、それ忘れてた! そうそう、一応答えもらったよ! 答えてくれないのもあったけど」

 

 リオは当初、マインドダイブの装置を使用し、オリの精神世界の中に住む『あの子』と会話を交わそうというプランを立てていた。

 が、オリには「多分それは無理」と首を振られ、『あの子』にも拒否されるという結果に終わる。

 

 それでもリオは『あの子』について情報を集めねばならず、せめてこれをと、10個のみという制限を設け、オリを通して質問状を送った。

 間にアビドス砂漠での蛇退治やエデン条約に関連する事件を挟んだため、少なからず時間はかかってしまったが、ようやく答えが返って来た形になる。

 

 「そうだったそうだった」と呟きながら、オリは懐からスマホを取り出し、ロックを解除してメモ帳の該当ページを表示。

 それを「はいどーぞ」とリオに手渡す。

 

 リオはその赤い視線を、10の質問に投げかけた。

 

 

 

 Q.1 いつからオリの中にいるのか?

 A.1 調月オリがキヴォトスに生まれついた瞬間から。

 

 Q.2 何故調月オリに情報を与えるのか? 

 A.2 必要だと判断したから。

 

 Q.3 何故宿るのが調月オリだったのか。

 A.3 その必要があったから。

 

 Q.4 調月オリである必要はあるのか。

 A.4 ある。

 

 Q.5 他の体(リオが作る高性能な義体等)に移る方法、及びその意思はあるか。

 A.5 ない。

 

 Q.6 望みは何か。

 A.6 不解答

 

 Q.7 調月リオ及び飛鳥馬トキに求めることはあるか。

 A.7 ない。強いて言えば平穏無事に日々を過ごすこと。ただし対価は払えない。

 

 Q.8 調月オリのことをどう思っているか。

 A.8 不解答

 

 Q.9 シャーレの先生のことをどう思っているか。

 A.9 不解答

 

 Q.10 調月リオとの面会を拒む理由は何か。

 A.10 必要性がないから

 

 

 

 

 オリから見て、その答えは不明瞭で、おおよそ役に立つとは思えないものだった。

 

 10の質問の内3つには返答すら返って来ておらず、残りの7つにしても何か意味があるのかと疑いたくなるような半端な返答。

 夢の中で、もうちょっとちゃんと答えてあげて欲しいとお願いもしたのだが、「あなたの妹は油断できない相手なので」とつれない返事をもらってしまった。

 

 オリからすると、「リオちゃん大丈夫かな、また怒ったりしないかな」とハラハラしていたのだが……。

 

 リオは手早く自分の端末にデータを移送し、1つ頷きながら、デスクの上にあったキーボードを叩く。

 そうして付箋アプリを起動し、手に入れた情報を並べながら、独り言のように呟き始めた。

 

「なるほど、想定していたよりもかなり多くの情報が落ちているわね。

 既存情報との矛盾なし。極度の悪性、なし。しかし、ミスリードの気配がある。悪意がない……どちらかと言えば善意に寄った無関心。ミレニアムの生徒会長である私に……つまりは『キヴォトス全体の行く末には興味がない』?

 情報の秘匿は二重……いえ、三重? 誰に? 今この瞬間、私たちの情報を収集できる存在はいないはず……いえ、特異現象の可能性は考慮すべきね。

 となると、『あの子』の敵対対象は特異現象? いえ、違う。大まかに言えば特異現象かもしれないけれど……大枠はそうだとしても、その中の具体的な一部か。

 不解答の傾向からして、思考経路も隠そうとしている。けれど、やはり根本にあるのは、自らの動機と……現在のキヴォトスの中心……シャーレの先生。

 しかし何故オリをそこに? オリに対する屈折した……この意思、感情は……」

 

 顎に手を当てて考察を続けるリオを前にして、オリはぱちくりと目を瞬かせる。

 

「……えっと、いやはや、すごいな。

 リオちゃんがすっごい頭良いのは知ってたけど……これだけの文字数でそんなに考えられることある?」

「今回の質問にはいくつか狙いがあって、どう答えるかで思考方針を測るつもりだったのよ。

 けれどこの解答からは、その罠を抜けようという意思を感じない。自らの一貫した目的意識からもたらされた、いっそ純朴なまでの意思を感じる。

 『あの子』はそこまで話術に秀でるわけではないのね。あるいは、それすらも私から何かを引き出すための罠、という可能性もあるけれど」

「ひ、ひえぇ~……」

 

 未だ子供ながら、海千山千。

 幼い頃から、頭脳面で極めて優秀だった自身と、肉体面で飛び抜けて優れていた姉。

 大人たちの悪意から、自分たちの身の安全を守り抜いて来たリオは、こういう化かし合いにおいて非常に強い。

 

 口が減らないと自負するオリではあるが、それでもリオ相手に口喧嘩で勝ったことは一度もない。

 いつだって自分から謝るように、あるいは歯向かう意思がなくなるように、自然に誘導されてしまう。

 

 そして今、その弁舌の力が、惜しみなく振るわれているのだ。

 

 

 

 『あの子』もかなり口が上手い印象はあるけど、リオちゃん相手には流石に負けちゃうかなぁ、と。

 そう思って苦笑いするオリに対し、ふと思い出したように、リオは視線を向け直す。

 

「……そうだ。今回の件のペナルティとして、あなたに1つ依頼を出すわ」

「ういうい、素直に承ります。で、今回は何? 新兵器のデータ取り?」

 

 リオがオリの尻拭いの対価として仕事を要求をしてくるのは、決して珍しい話ではない。

 ある時は新兵器の試用実験、ある時は廃墟でのデータ回収、ある時は秘密裏の破壊工作と、これまでに数えきれない程の任務をこなしてきた。

 ……それと同じ数のやらかしをしてきた、とも言えるが。

 

 今回もそういう類の話かと、そう思ったオリだったが……。

 

 しかし、リオが言ってきたのは、予想外の案件だった。

 

 

 

「二週間後、シャーレ主導での、ミレニアムとゲヘナでの学園交流戦が開催されるわ。

 オリ、あなたはそこで勝利してきなさい。ある程度なら実力を披露しても構わないわ」

 

 

 







 ブルアカのメインストーリーはエデン条約編3章で第一部(青春編)完、エデン条約編4章からは色彩やゲマトリアの話が本格化してくる第二部に突入するイメージ。
 そんなわけで、本作も第二部突入……の前に、イベントストーリーのターンです。しばらくは平穏? な青春の物語を送ります。

 ……まぁ、トリニティのとある生徒の審問会前日までの、短い間になりますが。



 それと、対策委員会編part.2配信に合わせ、特殊作戦デカグラマトン アビドス砂漠編の内容を一部書き換えています。読み込みが足りなかったのと、ちょっと情報補完しました。
 ネタバレになるから細かくは言えないけども、part.2、めっちゃ良かった……!
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