調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のやべー方と過去の超人、今の野良兎

 

 

 

「ふんふんふふーん♪ 今日はシャーレの担当日~♪ 私はリオちゃんズビッグシスター~♪」

 

 てきとうに即興の鼻歌を奏でながら、オリはD.U.地区をてこてこ歩く。

 

 本日は1週間ぶりになるシャーレの当番日。

 雑務をこなしたりお使いをしたりせねばならないので本来は喜ぶ要素などないのだが、先生大好きを自称するオリからすれば、心躍る楽しい日である。

 

 ……が、直後に一転、彼女はほぅとため息を吐いた。

 

「でも、最近は呼ばれる頻度も減ってきたなぁ。先生の交友範囲の広がりを喜ぶべきなんだろうけど、やっぱりちょっと寂しい気持ちもある乙女心。

 ま、この後のこと考えたら、このまま地味ぃにフェードアウトした方がいいんだろうけども……うーん、自制心との戦いだねこりゃ」

 

 シャーレ近郊があまり人気がないのをいいことに、ブツブツ呟くオリ。

 真剣な顔で顔を傾げたと思えば、次は腕を組んで顔をしかめる。

 

「うーん……聖園ミカの聴聞会もあるし、それまでにトリニティに潜入してカタコンベの下見しなきゃ。

 あとケイのこともあるし、2日後には守護者ぶっ壊し遠征もあるし、廃墟の調査もあるし、デカグラ調査もあるし、砂漠の船と谷の調査資金出さなきゃだし、そのためにリオちゃんの依頼もこなさなきゃだし、一応ゲーム開発部の様子も見て、それにトキちゃんのケアもいるし、そういうのが先生にバレないよう情報工作お願いしなきゃだし、となるとヴェリタスともコンタクトを取って、あとトレ部からも招集依頼が……クソ忙しい、地獄かここは!

 リオちゃんと先生と『あの子』と触れ合ってる時間だけが癒しだし、減らすとメンタルがキツいし……んあーっもう、ままならない!」

 

 これからのスケジュールと、そしておそらくは明るくない未来を思い、彼女は軽く頭を抱え。

 そして、ほとんど無意識に、ボソリと呟いた。

 

「私があの人みたいな超人だったら、この程度らっくらくこなせたんだろうけどなぁ……」

 

 ふと、独り言の弾みで出た人物との出会いが、オリの脳裏によぎった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 2年前、アビドスでの生徒会長失踪事件の直後。

 

 オリは諸々の事件の主犯として、連邦生徒会に呼び出された。

 

 アビドスの自治権の無法な奪取、生徒たちへの脅迫と犯罪教唆、特定企業への攻撃と複数の書類の奪取および破棄。

 彼女にかけられていた容疑は数多く、それらはキヴォトスの法に照らし合わせれば、矯正局送りはおろかミレニアムの退学すらあり得るものだ。

 

 けれど、実際にはそうはならない。

 既にミレニアムのとある生徒が、この件に手を回しているからだ。

 

 この事件を担当する防衛室の室長の買収は完了しているし、各方面のメディアへの情報操作やコネ回しも終わっている。

 今回の件は、「1人の名もなき生徒のちょっとしたやらかし」として非常に小さな規模で報道され、オリは1か月前後矯正局に入ることで名目上の禊を済ませる……。

 

 ……というのが、調月リオの組んだプランだったのだが。

 

 結局、そのプランは良くも悪くも、崩れた。

 

 

 

 連邦生徒会本部、サンクトゥムタワー地下の取調室。

 そこで防衛室所属の生徒の、形だけの取り調べをぼんやり受け流していたオリは……。

 

 唐突に扉を開けて入って来た、その生徒に出会った。

 

「……連邦生徒会長? 何故ここに」

 

 1年生の時点で連邦生徒会を掌握していた、現連邦生徒会長。

 

 『あの子』という超常の存在が付いている自分よりもずっとずっと非現実的に感じる、戦闘も勉強も政治もコミュニケーションも、その全てを完璧にこなせる、超人。

 彼女は薄い青の髪を揺らし、オリの方へ歩み寄ると、ニコリと微笑んだ。

 

「まったく、仕方ない子ですね。

 私の権限で、今回の件は不問にしてあげます。今回だけですよ?」

 

 ……当時、梔子ユメを救えなかったことで精神的余裕を欠いていたオリは、彼女のふざけているとすら感じられる態度に、むしろ苛立ちを募らせた。

 そして「今回の件は不問にする」という言葉に、梔子ユメの死を軽んじられたように感じ、また半端な憐みを受けたようにも思って、激昂。

 

 当時のオリの全力を以て、連邦生徒会長に襲い掛かったが……。

 

 

 

 ……結果から言えば。

 この2人の戦いは、痛み分けで終わった。

 

 奇襲による武器の奪取は、平然と対応されて失敗。

 スタン・ノックバックによる打撃のループは、初撃から全て捌かれてむしろ反撃を受けることに終わり。

 オリの持つ最後の、そして彼女自身が最も厭う戦術を取って、サンクトゥムタワーから飛び出、D.U.地区で数十分と暴れまわり。

 

 そうして、ある程度お互いに消耗した頃。

 

 

 

「ふぅ、良い汗かきましたね!

 それで、どうです、そろそろ落ち着きましたか?」

 

 頬を煤で汚した連邦生徒会長に、けれど笑顔でそう言われたことで。

 

 むしゃくしゃした気持ちが、多少なりとも収まっていること。

 好きに暴れさせることで、多少なりともストレスを発散させるのが、彼女の思惑であったこと。

 自分が彼女の掌の上で転がされたことを、察して。

 

「……私、あなたのこと嫌い」

 

 オリはそう言い、唇を尖らせることしかできなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「今思っても、連邦生徒会長ってあの頃からよくわかんない人だったよなぁ……。

 『あの子』もあんまり語りたがらないし、結局のところリオちゃんみたいに頭が良いわけじゃない私にゃ、あんな変人を理解することなんてできないか」

 

 オリが連邦生徒会長に向ける想いは、なかなかに複雑だった。

 

 矯正局行きを撤回してくれた、ある意味では恩人とも言えるだろう存在ではあったが……。

 けれど同時、誰より賢い妹であるリオの立てた計画を崩した存在でもある。

 

 あの「全ては私の掌の上」とでも言わんばかりの不敵な笑み。

 それを、どうにもオリは好きになれなかった。

 

 悪い人ではないだろう。絶対に。

 多忙な連邦生徒会に勤めながら、たまの休日に知りもしないロボットの相談に乗り、迷子のペットの猫探しをしたり、夕方までかけて見つけた猫とうにゃうにゃ言いながらじゃれあったり。

 そんなことをする人間が悪いヤツだとは、さすがのオリにも思えない。

 むしろ、人柄は良い、と断言すらできる。

 

 リーダーとして優れ、戦士としても際立ち、それでいて人柄も良く、どこか隙もあって嫌味なく親しみやすく、誰もに好かれる連邦生徒会長。

 

 けれど……。

 理屈でなく本能的なものなのか、あるいは単にファーストインプレッションのせいか。

 どうしても、オリは彼女のことを受け入れられなかった。

 

 あるいはそれは、ただの嫉妬だったのかもしれないが。

 

「あの人なら、私の諸々の問題とかも解決できるんだろうな。……何の犠牲も出すことなく。

 ……なーんて! はーやだやだ、妬みそうになっちゃうよ思わず。柄じゃないったら。

 よし、そろそろ切り替えなきゃ。なにせ今日はシャーレの当番の日なんだし」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 オリは軽く後ろ頭を撫でながら、いつしか到着していたシャーレの門を潜る。

 

 シャーレが本格的に始動して、早数か月。

 オリが初めて訪れた時とは打って変わり、シャーレには相談に来た、あるいは遊びに来た生徒も多い。

 

 ロビーに入ったオリは、自然と複数の生徒の視線に晒された。

 そしてその中には、好奇と畏怖の視線も含まれている。

 

「ねぇ、あの子って……」

「もしかして……そうだよね……」

 

 先日のシャーレ主催の学園交流会以来。

 オリは、以前までとは違った意味で、注目を集めるようになった。

 

 以前までは、リオがあまり表に出ないこともあって、ビッグシスターと結び付けられることは少なく、ただシャーレの古参部員として時々仲裁などに駆り出される程度だったが……。

 

 エデン条約に際して彼女の情報は各自治区に伝わり、交流会の代表戦でその実在と実力が証明された。

 今や「ミレニアムのビッグシスターの姉」であり、「空崎ヒナを単騎で制圧できる特級戦力」は確かにそこに存在することを、シャーレに所属する全ての生徒が認識することとなった。

 

 結果としてこのように、珍獣でも見るような目を向けられることも増えてしまったのだが……。

 これに関しては、元よりミレニアム自治区でこういった視線を向けられるのに慣れていたため、余程多くなりでもしなければ、オリとしては殊更強い不満はなかった。

 

 

 

 ……というか、不満どころの話ではなく。

 

「はいはーい、調月オリだよ~。私に何かご用?」

 

 むしろ自分から絡みに行くまである。

 元よりオリは、空気は読めても敢えてそれを無視するタイプ。居心地の悪い空気に従って俯いて過ごすわけもない。

 

 しかしそうなると、困るのは噂をしていた生徒たちの方で。

 

「あっ、す、すみません! そういうつもりじゃ!」

「目、目に入っちゃってつい!」

 

 恐縮しきりになる、恐らくはトリニティ所属だろう、どこか気品のある生徒2人に、オリは努めて綺麗に笑いかけた。

 

「だいじょーぶ、気にしてないからさ。

 それよりさ、今日は私、シャーレの当番なんだよね。もし何か困ったことがあったら気軽に言ってほしいなって!」

「えっと、それは……」

「あはは、いきなりでビックリかもだけど、私もフツーにシャーレの部員だからさ。少しでもみんなとか先生の役に立ちたいんだよ。

 ……っとと、先生待たせてるんだった。そんなわけで、もし何かあればよろしくね~!」

 

 そう言って手を振り、オリはシャーレの部室に向かう。

 

 取り残されたトリニティの生徒たちは、嵐のような強者の襲来にぱちくりと目を合わせた。

 トリニティという政争の激しい魔窟に住む彼女たちが、オリの言葉に何を思ったのかは不明だが……。

 

「あんまり……怖い人じゃない?」

「うーん、確かにナギサ様みたいな威圧感はない、かも。ミカ様に近いタイプかな」

「……今のタイミングでミカ様に近いって、あんまり褒め言葉じゃないよ」

「でも、なんとなくそうっぽくない? なんというか、フランク? なところとか」

「確かにそうかも?」

 

 ……少なくとも、オリに向ける畏怖の感情が減ったことは間違いなかっただろう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 2人の生徒との会話を切り上げたオリは、急いでシャーレの部室に向かう。

 

 まだシャーレの当番が始まるには早い時間ではあったが、その前にしたいことがある。

 先生とゆっくりと話をすることもそうだが、もう1つ。

 

「今日の同時当番の子は誰かなーっと」

 

 最近のシャーレの当番は、2から3人が同時に請け負うことになっている。

 

 これに関して、誰と一緒に当番をするかは事前の通告がなく、当日にシャーレ部室に赴いた時に初めて知ることができる。

 先生曰く、あまり仲の良くない生徒やライバル関係の学校の生徒とでも、仕事をやる中で互いを理解できるかもしれないし、可能な限り事前に先入観を持ってほしくない、という理由があるらしい。

 

 そして、究極の個人主義である妹と違い、オリはこう見えて他者とのコミュニケーションを重視する。

 この制度には喜ぶことはあれ、頭を悩ませることはない。

 

 知己であれば楽しく話ができるし、初見の人なら交友範囲がもっと広がる。

 そう思い、誰がいるかなと、割とるんるん気分で部室に入ったオリだったが……。

 

「失礼しまー…………あ?」

 

 

 

 ……そんな彼女の前に、広がっていたのは。

 

 床に引き倒されたシャーレの先生の頭に、サブマシンガンが突き付けられている光景だった。

 

 

 

 頭が凍てつくように冷え、同時にカッと血が昇る感覚。

 咄嗟に片手を握り、片手をハンドガンに伸ばしたオリに、声がかかる。

 

“オリ、大丈……”

「この大人が大切ならば、投降しなさい、調月オリ。

 武器を床に置き、腕を頭の後ろに回し、うつ伏せで這いなさい」

 

 冷たく、しかし同時、少なからぬ緊張感を孕んだ声。

 オリがギラつく瞳を向けると、そこにいたのは、1人の少女だった。

 

 ロングにまで伸ばした白髪、一房のサイドテール、それから頭上にあるインカムと繋がったウサ耳型のヘッドセットが特徴的な生徒。

 その青白い目は緊張に輝き、開いた瞳孔がオリの方を見つめ……彼女の怒気に、一瞬震える。

 

 そして、彼女の容姿を確認したオリは……。

 

 

 

「あーもう、ビックリした。ミヤコちゃんじゃんか」

 

 臨戦態勢を解いて、ハンドガンから手を離し、笑顔を浮かべた。

 

「なっ、わ、私だから何だと言うのですか!?

 それより、早く武装を解除して伏せないと……!」

「伏せないと、どうするって?」

 

 次の瞬間、ミヤコの視界からオリの姿は消え、その声は耳元から届いた。

 

 咄嗟に先生の体を放し、声の主から距離を取ろうとするミヤコだったが……。

 

 それよりもなお早く、オリは彼女を引き倒し、腕を背中に回して拘束した。

 

「なっ、そんな馬鹿な……」

 

 一瞬も注意を逸らさなかったミヤコの視界から一瞬で消え去り、気配すら感じさせず回り込まれた。

 その事実に目を見開き、拘束を脱しようと抵抗しながらも驚くミヤコ。

 

 

 

 そんな彼女の頭に。

 

「こらっ」

「あいたっ!」

 

 オリの拳が振り下ろされた。

 

「ったくもー、変わんないなぁミヤコちゃんは。

 先生って権力を持ってるとはいえ一般市民よ? 市民を人質に取る正義の味方がどこにいるのよ」

「そっ、あ、あなたが言えることですかっ! あれだけ暴れて先輩たちを傷つけて……!」

「いや、私は正義の味方とかじゃないし、ぶっちゃけFOX小隊にはこっちもそこそこやられたし。

 1年半前とかさ、私オトギに口の中に狙撃ぶち込まれたのよ? アレ今まで生きてた中で一番痛かったんだから」

「それだって! あなたが暴れたから先輩たちが鎮圧に入ったんでしょう!?」

「いやまぁそれはそう。あっちは連邦生徒会長に指示されて、自分のお仕事しただけなんだろうけどさ」

 

 まぁ、あの連邦生徒会長のことだし、どうせあの時もFOX小隊の実戦演習くらいの気持ちで私に向かわせて来たんだろうけど、と。

 そんな内心はおくびにも出さず、オリは更にミヤコの腕を引く。

 

「ぐっ……!」

「私が悪いのは間違いない。なにせ調月姉妹のやべー方だし。

 過去にやることやってるし、なんなら自治権乗っ取りとかしたし。だから私を捕まえようとか罰しようっていうのは否定しない。

 でも、先生は何も悪くないじゃん。むしろこのキヴォトスでおおよそ唯一、生徒のために身を擲ってまで行動してくれる良い大人でしょ?

 そんな人を人質に取ってちゃ正義は名乗れないよ。目的は良いとしても、手段は選ばなきゃ」

「くっ、何を、テロリストが……! シャーレの部室に侵入して、何が目的ですか!?」

「は、侵入? 私は……」

 

 

 

“オリ、その辺りで”

 

 立ち上がった先生の言葉で、オリはミヤコの拘束を解く。

 

 バッとオリから離れたミヤコは、取り落とした彼女のサブマシンガンを拾い、先生を背に庇うように立ち、改めてオリの方へと銃口を向けようとするが……。

 

“ミヤコも、そこまで。……そろそろ時間だし、2人とも、仕事をお願いするよ”

「へ?」

「あー、こう来るか先生……」

 

 ミヤコは呆気にとられたような声を上げ、オリは軽く頭を抱えて。

 

 自分を人質に取った生徒と、そんな彼女を叱りつけた生徒。

 2人に対して、先生は人差し指を立てた。

 

“調月オリ、月雪ミヤコ”

“今日はこの2人で当番をしてもらうから”

 

「はっ……はい!?」

「わぁ、これは大変なことになっちゃったなぁ」

 

 

 







 ミヤコはまだ新人なので、オリがシャーレ部員ということすら知りませんでした。
 監視カメラでオリがシャーレビルに入って来たのを見たミヤコは「テロリストが攻め込んで来た」と認識。
 シャーレに来たということは十中八九先生の身柄目的だろうと、慌てて先生に人質の演技をするよう言っただけで、本気で人質にする気はなし。
 ……というのが事の真相です。

 いやそれでもミヤコが人質なんて取ることを選ぶか? と言うことに関しては、また次回に。



 余談ですが、皆さまアビドス対策委員会編三章part.3は読まれましたでしょうか。
 自分はラストの展開で「まさか○○か!? ○○なのか!?!?」と大盛り上がりした上それが的中し、バチクソテンションが上がりました。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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