調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹の下水道の方

 

 

 

 ミレニアムの自治区は、他の学園の自治区に比べて、インフラが整っている傾向にある。

 その外周を走るモノレールや、自治区中央にそびえ立つミレニムタワーを中心として地下を細かく張り巡らされた地下の鉄道、各所で借りることのできるレンタルのキックボード、ロードバイク。

 時に大きく、時に細かく。合理を何よりも重視する校風に基づいて、あらゆる場所に短い時間で到着できるよう、蜘蛛の巣のようにインフラの糸が伸びているのだ。

 

 けれど、この世界の大抵の事柄がそうであるように、このインフラの整備もまた、完璧なものではない。

 諸問題によって廃棄された地区「廃墟」を筆頭に、ミレニアムに敷かれた統制や管理は完全ではなく、どうしようもなく行き届かない部分が存在するのだ。

 

 ……ただし。

 それらは、このミレニアムの支配者により、故意に空けられた穴なのだが。

 

 

 

「いてて……ちょ、リオちゃん、痛いって」

「自分で付けた傷でしょう、我慢しなさい」

 

 今、2人の少女が向かい合っている場所も、ミレニアムの管制にポッカリと空いた穴の1つだ。

 

 ミレニアムタワーから地下鉄で19分、更にモノレールで7分。

 辿り着くのは、居住区から離れた工業エリア。

 全自動かつ無人で管理され、ほぼ常時工業製品が産出されている場所だ。

 

 人の手を介さず管理されているため、ここを通る人間は非常に少なく、特に夜間は人の出入りが絶無。

 そのため、広大な割にはインフラが殆ど整っておらず……。

 個人で交通手段を持っていない殆どのミレニアムの生徒にとって、張り巡らされた監視網に引っかからずにそこに侵入するのはおおよそ不可能だ。

 

 そんな場所だからこそ、合理と効率を追い求める彼女は、ここをセーフハウスに選んだのだが。

 

 

 

「……全く。何度言っても道理に合わない無理をして」

「ごめん、ごめんて」

 

 そのセーフハウスは、大きく分けて3つの領域に分かれている。

 

 1つは、少女の片割れのいる、非常に効率的で無駄のない空間。

 その7割をミレニアムの統制に必要な各種機器や資料を収めたラックに占められ、2割を医療機器に、そして残り1割に小さなベッドを押し込めた領域だった。

 実に質素で遊びもなく、しかし効率よく移動や作業することは考えられた配置。

 使用者の人となりを全く醸し出さないこの空間を見ただけでは、使用者の性別や年齢を察することは難しいだろう。

 

 そしてもう1つが、同じく1人の少女がいる、それとは対極の空間。

 明るいクロスやフローリング、可愛らしいデスクやルームフレグランス、壁掛けの中のアバンギャルド君(1/66スケール)とこの部屋の使用者3人のぬいぐるみなどによって彩られた、年頃の女の子らしい領域だ。

 また、十全な片付けがされているとは到底言えず、隅にぎゅっと押し込められたレジ袋や空の弾倉は、主やメイドの怠慢を細々と主張していた。

 

 最後の1つが、前2つと比べるとかなり手狭な、生活に必要な施設のスペース。

 ユニットバスやトイレ、キッチンに洗面所などが並び、ここだけでも十全に生活できるように各種設備が整えられている。

 また、もう1人の住人のためのベッドや作業台も設けられていた。

 

 

 

 そして今、領域の1つである効率的な空間と、もう1つの非効率的な空間の間で、2人の少女が向き合っていた。

 

 2人の少女は、非常に似通った見た目をしている。

 艶やかな黒髪、整った顔貌、少女としては大柄で豊満な体格。

 

 違いがあるとすれば、それはいくつか。

 まず、ヘイローと瞳の色が、赤と青で異なること。

 髪の長さが、膝までのロングと、肩までのミディアムで異なること。

 片方が僅かに呆れと心配を含む薄い感情を、そして片方が痛みに耐えるように顔をしかめつつも楽し気な感情を、その表情から覗かせていること。

 

 逆に言えば、それ以外は鏡合わせのように似通った2人だ。

 キヴォトス広しと言えど、ここまで近しい容姿を持つ2人組はそういないだろう。

 

 そしてそれは、決しておかしな話ではない。

 一卵性双生児であり、殆ど同じ環境で育ち、殆ど同じものを与えられてきた2人だ。

 その容姿が似通うのは、当然のことと言えただろう。

 

 

 

 ……とはいえ、その性格は、真逆と言っていい程に違うものなのだが。

 

 少女の片割れ、ミレニアムサイエンススクールの現生徒会長である調月リオは、ため息を吐いた。

 

「2か月前にはサンクトゥムタワーの前で座り込みをして、その前は発売されたゲームのクオリティが低いと言って会社に殴り込み。

 そうして不必要に強さをひけらかすのは、あなたの悪い癖よ、オリ」

 

 しかし、それを聞いたオリはいやいやと首を振る。

 

「無駄じゃないよぅ! もっとプリンいっぱい食べたいし、何よりあのドラゴンテスト、待ちに待った外伝テスターズシリーズの最新作のくせに、モンスター数は過去作より減ったし無駄なシステムでストレスフルだし何より卵ガチャがあまりにも酷いし! 個人的に大好きだったスネイルゴッデスとかはぐれメタルスネイルキングもリストラされたし! 怒って当然だよぅ!!」

 

 やいやい言って不満げに頬を膨らませるオリに、リオは思わず眉間を抑える。

 

「……菓子やゲーム程度に、そこまで向きになることが、不必要だと言っているのだけれど」

「よよよ、可愛い妹に大事な趣味を理解されないとは悲しいことだ……あいたっ」

「これだけ負傷してふざけられる元気が残っているのは、幸いではあるけれどね」

 

 リオは淡々と、次なる洗浄済みの傷口に消毒液を吹きかけながら、思う。

 

 元よりこの、自分によく似ているけれど、その実真逆に近しい相手……双子である調月オリは、リオの思考では理解しきれない存在だった。

 いつだって、彼女の行動によるリスクとリターンの天秤は、吊り合ってはいない。

 その価値基準を誰より理解するリオをしてすら、1本の理屈が通っているようには思えなかった。

 

 突発的な思い付きによる、衝動的で不条理な行動。

 オリのそんな在り方は、合理と効率を追求するリオの姿勢とは、根本的に食い違っている。

 

 

 

 ……ただ、だからと言って姉妹仲が悪いかと言えば、そんなことはなく。

 オリは妹(と彼女が呼んでいる双子の少女)に、自然と浮かんだ笑顔を向けた。

 

「リオちゃんの方はどんな1日だった? 何かあった?」

「いいえ、特には。……強いて言えば、北北東のフィットネスセンターの資金繰りに僅かな異常があった。ユウカにその調査に行かせたくらいね」

「そうなんだ。どうだったの?」

「ただの引き継ぎのミスね。既に修正は済んでいるわ」

「そっか、良かったね」

「良かった? 何が?」

 

 微かに眉をひそめたリオに対し、オリは穏やかな表情で足をぷらぷらと揺らしながら答える。

 

「リオちゃん、誤謬を正すのは好きでも、人の悪事を責めるのは別に好きじゃないものね。

 変な悪事を働いてて罰則付けるなり監査入るなりするより、ただの勧告で済むのは良かったじゃん」

「…………」

「えへへ、そういうリオちゃんの優しいところは私がよく知ってるよ。なんてったって姉だもん!」

 

 自慢げに、そして嬉しそうにそう語るオリに対し、リオは……。

 その目を細め、もう何度繰り返したかもわからない否定の言葉を告げる。

 

「何度も言うけれど、あなたと私は一卵性双生児で、発生のタイミングにラグは殆どないわ。歳の差のある『姉妹』という概念を当てはめること自体が若干の誤謬を含む解釈で……」

「私がお姉ちゃんじゃ嫌なの~? 私はリオちゃんのお姉ちゃんになれたこと、すっごく嬉しいと思ってるんだけどな~?」

「……勝手にするといい」

 

 オリの少しふざけたような質問に対し、リオは明確には答えることなく、その手に持っていた消毒スプレーをロックして几帳面に整理された救急ボックスに収める。

 そしてその中から、代わりに包帯とガーゼを取り出した。

 

 オリは胴にそれを巻きつけられながら、自分の体に走るリオの白く長い指を見て、少しだけ目を細める。

 

「……いつも迷惑をかけてごめんね、リオちゃん」

「迷惑をかけられるのは、もう慣れているから構わないわ。予算や余暇も、あなたの突発的な行動に対応できるだけのバッファを持たせている。先週発生した赤も、今月分の予算の余白でペイできる予定よ」

「そっちじゃないよ」

 

 オリは調子の変わらないリオの言葉に苦笑を漏らしながら、静かに呟いた。

 

「心配かけてばっかりの、駄目なお姉ちゃんでごめんね」

 

 リオは、その言葉には答えず、淡々と包帯を巻いていったが……。

 

「あいたっ」

 

 最後に、ぴしゃりと。

 少しだけ強めに、包帯の上から彼女の体を叩いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「処置は終了よ。この程度の傷なら、オリの体質も考慮して、一晩眠る内に治るでしょう」

 

 「ただし今日は安静にしているように」と言い添えて、リオはシェルフに救急ボックスを仕舞い直す。

 

 オリは自分のベッドに座って、その後ろ姿を見ながら「我が妹ながらすごいスタイルの良さだなー。私もだけど」などとぼんやり思っていたのだが……。

 

 そんな彼女に背を向けたまま、リオはボソリと呟いた。

 

「……シャーレ」

「え?」

「あなたが連邦捜査部シャーレに所属した、という情報が入って来たのだけれど」

「ああ、うん。言ってなかったっけ?」

「聞いていない」

 

 その言葉に、怒り……とまでは言えないまでも、若干の不機嫌があるのを察し、「やばっ」と呟いたオリは、ぱたぱたとその腕を振った。

 

「いや、ほら、リオちゃんミレニアムの生徒会長じゃん!? 色々お仕事も多いし、忙しいかなーって思ってさ! 落ち着いた時に言おうかなって!」

「『言ってなかったっけ』と聞こえたけれど」

「ごめんなさい言い忘れてました!!」

 

 オリは自身のベッドの上で、シュバっと土下座を始める。

 もはや誇りも尊厳も捨て去ったそれは、とてもではないが、姉としての尊厳があるとは言えなかっただろう。

 

 

 

 情けない自称姉の行動に、再びため息を吐いたリオは、デスクに添えられた椅子に腰を下ろし、振り返った。

 その目に込められているのは、軽蔑……ではなく、冷静な探求心と好奇心だ。

 

「けれど、今回はいつもの思い付きではないのでしょう?

 あなたはネルを含む複数人から部活に勧誘されても、等しく『入りたい部活ができるから』と断った。

 それなのに、シャーレの人員募集には自ら、それも最速で応募した。

 つまるところ、あなたは元よりこのシャーレに参加し活動するために、他の部活動に入らなかった。……そう思っていいのかしら」

 

 淡々と推理を進めるリオに、オリは「流石は双子というか、思考が筒抜けだなぁ」と思いながら頷いた。

 

「それに加え、あなたは極秘とされていたはずのシャーレの先生の来訪に合わせて、サンクトゥムタワーに襲撃をしかけた」

「いや、待った待った。別に襲撃はしてないからね? あくまでちょっと訪ねただけで……」

「先日連邦生徒会からミレニアムにあてて、多額の請求書が届いたのだけれど。見たい?」

「すみません、いつもご迷惑おかけします、生徒会長」

 

 調月オリという少女がキヴォトスで好き勝手できる理由は、彼女自身の強さもさることながら、想いの通じた双子の妹がミレニアムの生徒会長であるという部分も大きい。

 確かな権力を持っているので多少のことはもみ消せるし、リオ自身資金繰りが非常に上手く、暴れ散らかしても弁償や賠償が容易なのだ。

 

 そういう意味で、オリは妹のリオに頼り切り。

 基本的にいつも頭が上がらない、なんとも格好の付かない、情けない姉なのであった。

 

 

 

 ……しかし。

 彼女は、ただの残念な自称お姉さんでは終わらない。

 

 このキヴォトスにいる生徒たちが皆、それぞれの個性、それぞれの神秘を抱えているように……。

 彼女にもまた、ちょっとした秘密があった。

 

 

 

「以上のことから推察するに……オリ。

 あなたは、未来が見えているのね」

 

 

 

 リオの言葉と共に、シン、とその場が静まり返る。

 

 ベッドの上に座り、全身にガーゼを貼り包帯を巻いて、じっと妹を見つめる自称姉と……。

 椅子の上から、相手の出方を見るように、黙って無感情な視線を向ける少女。

 

 彼女たちの無言のやり取りは、おおよそ10秒に渡って続き。

 ふふっと、オリが漏らした笑いで終わった。

 

「未来……未来が見えるて! ミレニアムが誇るセミナーの生徒会長が、なんともスピリチュアルなことを言うねぇ!」

「全てを理解せねばならないからこそ、時に理屈で片付かない特異現象があることも認めなければならないのよ。

 それとも、違うと言うの? あなたは未来が見えていないの?」

「いや、大体あってる(・・・・)。……とはいえ、見えてるわけじゃないけどね。聞いただけだし」

 

 リオはそれを聞いて、数秒考え込み……。

 これまでにオリから聞いたことを元に、1つの仮説を立てる。

 

 それは、合理に生きるリオをしてみれば、あまりにも認め難いことではあったが……。

 現実に並んでいる情報を繋ぎ合わせると、それとしか考えられなかった。

 

 

 

「……あなたが時々言っていた、『あの子』から聞いた、ということ?」

 

 

 

 それを聞いたオリは、数秒間溜めに溜めた後、満面の笑みを浮かべる。

 

「イグザクトリー! ……どう? そろそろあの子のこと、認めてくれるかな?」

 

 どこか面白がるように、腕を組んでリオを見やるオリ。

 対してリオは、そのまぶたを閉じて数秒考え……頷く。

 

「……ええ、認めるわ。あなたの言う『あの子』は、高い確率で実在するようね。

 あなたの夢の中に現れる、未来を知る存在。セーフルームで確かに守られているはずのあなたの精神に、如何なる方法を以てかダイブすることのできる、特異現象としか言いようのないモノ。

 どうやらヒマリに頼んで、調べてもらわなければならないようね」

「いや、あの子は危ない存在じゃないし、というか私の友達なんだから、そんなに警戒しないでほしいんだけどね……」

 

 オリはパタパタと手を振ってアピールするが、対しリオは首を振った。

 

「危険かどうかではなく、本来存在し得ないはず、またはあり得ないはずの事象が発生すれば、それについて比較実験と検討を繰り返すのは当然のことよ。

 オリ、今週の日曜日、あなたの精神にダイブさせて。トキを同伴して『彼女』と話すわ。その時間の分、埋め合わせはするから」

 

 リオは次々に予定を立て、脳内でスケジュールの調整をしていくが……。

 対し、オリは少し考え込み、首を振った。

 

「うん、ごめん、それ無理!」

「……何故?」

「いや、彼女、結構人見知りっていうか。特にリオちゃんとかトキちゃんは……」

「私たちは?」

「……うーん、なんというか、引っ込んじゃうかも。

 私だって時々ちょっとビビられる時あるんだよね。多分リオちゃんに似てるからだと思うんだけど」

 

 寝ている時、夢の中で邂逅する少女のことを思い出し、オリは考える。

 

 もしもトキを引き連れたリオが夢の中に現れ、「あなたと話があるの」なんて言えばどうなるか。

 

 ……多分、爆発してしまうのではないだろうか。

 あるいはビビって逃げ出し、オリに対応を代わってもらおうとするか。

 

「あの子って、結構繊細なんだよね。ナーバスというかなんというか……めんどくさいオタク? って言うのかな、ああいうの」

 

 色々と恩のある……というか、命の恩人である彼女を裏切るようなことはできない。

 可愛い妹のリオちゃんといえど、ただの研究目的で彼女に会わせるのは、ちょっと難しいかな。

 

 オリがそんな風に考えていると、その表情を伺ったリオが再び口を開く。

 

「……とはいえ、そのような危険因子になり得る存在を放置はしていられないわ。せめて、毎日少しずつでいいから、質問に応じるよう説得してちょうだい」

「うーん、まぁ、それくらいなら大丈夫……かな? 今夜言ってみるね」

 

 どうせ眠ればあの子には会うことになるんだし、時間はたっぷりあるしね、と。

 オリはそう言って、ベッドにごろんと横になる。

 

 これ以上、この件に関して妥協はできない、という彼女なりのポーズだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 2人の話がひと段落し、会話が途切れた頃合いに……。

 セーフハウスの入り口に、来客が現れたことを示すアラームが、けたたましく響く。

 リオは監視カメラの映像を確認し、それが自らの知己であることを確認した上で、ここへと続く隔壁を1つずつ解除した。

 

 そうして待つことしばらく、2人のいる部屋に現れたのは……。

 

「補給物資確保任務、完了しました」

 

 その手にコンビニのビニール袋を提げた、飛鳥馬トキという生徒だった。

 

 

 

 ベージュの髪を後ろで纏めた、リオやオリよりはいくつか年下であろうと伺える少女。

 その体に纏う本格的なクラシカルスタイルのメイド服は、突飛な格好をした生徒も珍しくないキヴォトスにおいてもなお、強い非現実感を醸し出している。

 とはいえ、その背にリオの買い与えたアサルトライフルを無造作に背負っているあたり、やはり彼女もキヴォトスの学生の例には漏れないのだが。

 

 そんな彼女が、無表情のままにその手に持ったビニール袋を前に突き出すと、ベッドに寝転がっていたオリは跳び上がり、「きゃーっ!」と黄色い声を上げた。

 

「ありがとトキちゃーんっ! 何買って来てくれた?」

「栄養の付くもの数点と、オリ様のお好きなスナック、サンドイッチ、ショートケーキもあります」

「やーんっトキちゃんわかってるーっ!! すきすきトキちゃんありがとーっ!!」

 

 左側からオリに抱き着かれ、その頭をなでりこなでりこされるトキ。

 彼女は無表情のままながら、突き上げた手は下がることなく、またその鼻息はむふんと少し荒かった。

 

 

 

 そんな2人の様子を見ながら、リオはその目を細めた。

 

 その、あまりにも緊張感のない光景に呆れながら……。

 

 ……同時。

 オリとのやり取りが、少しでもトキの心の清涼剤になることを願いながら。

 

 

 

 リオにとってのトキは、唯一絶対に信じられる手勢だ。

 数年前に拾い上げ、任務遂行能力と自分のアシストを徹底的に叩き込んだ。

 いずれ来たる破滅への対策、そしてミレニアムが抱える千年難題の回答のためには、リオの指示に忠実に従う兵士が必要だったが故に。

 

 だが、それは同時……。

 飛鳥馬トキという少女から、「普通」の生活を奪い取ってしまったことも意味している。

 

 本来、飛鳥馬トキという少女は、無限の可能性を持っているはずだった。

 ミレニアムサイエンススクールの一学生として、どこかの部活動や委員会に所属し、非凡だが平穏な日常を送るという未来もあったはずだ。

 

 リオの、ミレニアムの未来を想っての選択が、彼女の未来を奪ってしまった。

 全てを客観的、かつ理論的に捉えようとするリオだからこそ、その事実から目を背けることはできない。

 

 故に、彼女も自身と同じく、少数の必要な犠牲として数えるつもりではあったが……。

 

 

 

「ほらトキちゃんもお食べ~? 最近またちょっと痩せてきてるよ、激務だったんでしょ? ここで糖分一気に補充しときな!」

「ありが、あむっ……あり、むっ……もご、んっ、あり、もっ……」

 

 オリと触れ合う時。

 トキは、ほんの僅かではあったが……その無表情を、和らげている。

 

 それはきっと、リオにはもたらせないもの。

 合理の極致にあるリオには、どうしたってトキにその表情をさせられない。

 

 

 

「…………」

 

 リオには権力も財力もあり、実務能力も備えているが、実動的な戦力に欠け、こういった場面で人の感情への配慮に欠ける部分がある。

 対してオリは単体戦力として秀で、他人のメンタルケアもできるが、書類仕事を苦手とし、公的な力を殆ど持たない。

 

 まるで、2人が合わさってようやく完成するような……。

 ……あるいは、完結していたものが、2つに分かたれたような。

 

 「一卵性双生児が能力や実力を分かち合う」など、とても合理的思考とは呼べない。

 呼べないが……現実として、リオが持っていないものはオリが持ち、オリが持っていないものをリオが持っている。

 

 だから……。

 

 

 

「私の分を頂戴」

「むんっ……けほっ、けほっ。はい、リオ様にはこちらを」

「いやいやちょっと、ゼリーとエネルギーバーってのはないでしょ! ほらリオちゃん、メロンクリームパンだよ、美味しいよ~?」

「今はその栄養素は必要ないわ」

「必要なくても食べなさーい! お姉ちゃん命令です!!」

「もごっ……く、口におしつけるのはやめなさい。食べる。食べるから」

 

 ……だから、リオは。

 

 非合理で、不条理で、迷惑ばかりかけてくる駄目な姉を、いつだって必要としているのだ。

 

 

 







 実装から1年が経過してある程度インフレが進み、全員が確定改心で強みを奪われた上トリニティ90%デバフを入れられてなお大活躍するお姫様がいるらしい。
 流石に最強すぎませんか、ミカさん……?


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
 ちなみに向き(ムキ)は誤字ではないです。リオなら漢字表記で言ってくれるかなって……。
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