シッテムの箱。
連邦生徒会長がシャーレの先生に託した、この神秘溢れるキヴォトスにおいても特別な意味を持つアーティファクトだ。
これは一見すれば、ただのタブレット端末にしか見えないが……。
内蔵する超高性能なAI──正確に言えば、彼女はただのAIというわけでもないのだが──によって、非常に高い速度と精度の演算を行うことができる。
その演算能力は、もはや仮説上のラプラスの悪魔にすら等しい。
情報収集に分析、ハッキングに偽造工作、末には局所的な物理現象の改ざんや、近しい未来の予測すらも可能とする。
おおよそキヴォトスに存在するあらゆる機器……それこそミレニアム廃墟を拠点とする、偽りの主を自称する者ですら、これには遠く及ばないだろう。
エデン条約調印式の一件でも、その電源を落としながらも、古聖堂に直撃した巡航ミサイルの熱風と破片の尽くから先生の体を守り抜いた。
この箱による加護がなければ、先生はこれまでに何度も命を落としてしまっていたかもしれない程だ。
そして、今。
先生は、この箱を通して、調月オリと聖園ミカの2人を観察していた。
調月オリ。
体力や防御力には優れているわけではないが、その代わり極めて高い移動・回避能力と、そのための技術を持つアタッカー。
主武装はハンドガンではあるが、それは主に牽制と誘導のためのもの。メインの攻撃手段は拳や脚、現在はその手に持つバトンによるもので、リーチは極端に短いがその分火力も高い。
聖園ミカ。
非常に高い体力と攻撃力を持つ、オリとはまた違う、戦車のようなアタッカー。
その手に持つサブマシンガンから発される銃弾は、オリが「神秘」と呼ぶソレによるものか、不可思議な程に敵の急所に突き刺さる。
以上がシッテムの箱の超高性能AI、アロナによる分析だった。
では、この2人を率いて、どう戦うべきか。
その答えは、考えるまでもなく。
二つ目の決戦の舞台、聖歌隊室。
入り口からぞろぞろと入ってくる、バルバラとアンブロジウス、そして40体近い
“ミカ、前へ。オリは後ろで控えて”
「おっけー!」
「了解」
これまでの戦いでは、彼女の並外れた身体能力によってそれを叶えていたが……。
根本的に、調月オリは
彼女は本来、敵の撹乱・確固撃破に長けた
その「本質」は何かを壊す側であり、何かを守る側ではない。
皮肉なことに……。
倫理観や常識、良識を棚に上げて動くことのできるリオこそが、ミレニアムという国を守る者であり。
逆に、それらを持ち合わせるオリは、どこまでいっても秩序を乱し崩す側なのだ。
調月姉妹はいつも、それぞれがそれぞれの役目を果たすべく持つ能力を、半端にしか持ちえない。
それは双子としてのある種の運命、あるいは呪いなのかもしれない。
……ともあれ、話を戻せば。
彼女よりも高い防御能力を持つミカがいる以上、オリをタンクとして運用するのは間違いだ。
彼女の個人的な想いや主義主張はさておいて、シッテムの箱による分析を行った先生の指揮、最適解でのユニット運用としてはそうなる。
問題は、彼女がその方針を呑んでくれるかどうかだったが……。
幸い、オリは先生の言葉に従ってくれた。
前衛をミカに任せ、先生の少し前に出て、ハンドガンでの牽制射撃を行うことで「その場に控えて」くれている。
……まるで、先生の意図するプランを、丁寧に汲んでくれているように。
そして、2人の前方では……。
「2人の元には、行かせないから」
ミカが、そのサブマシンガンの掃射と有り余る力に任せて、前線を支えてくれている。
彼女の身体能力はオリのようにピーキーなものではなく、むしろ一周回ってシンプルな攻防一体型。
集団を蹴散らす攻撃力と同時に、何百発という銃弾を受けてもものともしない、非常に高い耐久力を具えている。
それこそ、ただのユスティナ聖徒会の
……けれど、今はそれも万全なものではなく。
ただ2つ、ミカが相手にしても厳しい、例外がいた。
あの日、マエストロが古聖堂地下に顕現させたヒエロニムス、その試作品として作られた
戦術兵器アンブロジウス。
そして、マダムがヒエロニムスに借り受けた力で複製した、最も偉大なる聖女の「恐怖」の側面……。
聖女バルバラ。
この二者による攻撃だけは、ミカの神秘すら貫通してダメージを与えうる。
その上で。
当然ながら、この場に補給物資もなければ、協力者もいない。
そして既に、ミカもオリも、度重なる戦闘によって少なからず消耗している。
このまま耐久戦を続けるのは、おおよそ不可能だろう。
であれば……。
バルバラやアンブロジウスの壁となる、ユスティナ信徒たちを倒し。
今もその隙間から攻撃を行ってくるアンブロジウスとバルバラを、早急に撃破しなくてはならない。
そして、単体への攻撃に特化したミカには、その集団の壁を超えることは不可能。
となれば、取るべき戦術は1つしかない。
が……そのためにも、今少しの時間が必要だった。
“オリ、もう少し耐えて”
「大丈夫、わかってる。コスト、だよね」
“! ……君は、どこまで”
「ふふっ。本当、『あの子』って物知りなんだよね。ちょっと不可解なくらいに」
“…………”
そう。
先生が待っているのは、コストの充填だ。
生徒たちがそれぞれ持つ、
それらは彼女たちの具える神秘の結晶。ごくごく小さな規模での奇跡。
いくら埒外の力を持ち、生徒の力を引き出すシッテムの箱といえど、それらは「コスト」として数えられる
「ミカちゃんのコストは、6だったかな? だとすると……私が壁を壊すのに使えるのは、4発? こりゃ帰りに使う分は残らないか」
“……そうだね。いけるかな?”
「答えはわかってるでしょ? 大丈夫、必ず期待に応えるよ」
言って、オリはニコリと笑い……。
その時、シッテムの箱から、青い粒子が溢れ。
先生にしか聞こえない声で、相棒が時が迫りつつあることを知らせた。
“オリ、そろそろ”
「ん」
呟き、彼女は腰のホルダーにハンドガンとバトンを収め。
静かに息を吐いて、その場で構えの姿勢を取る。
「どっち?」
“バルバラの方”
「了解」
言葉少なに意思を交換した後。
オリは精神を集中し、先生はインカム越しにミカに指示を送る。
“ミカ。6秒後に……バルバラに、祈りを込めて”
「わかった」
先生の意味深な言葉に、けれどミカは疑いを持たない。
シッテムの箱による介入によって、先生の指示はいっそ不自然な程にスムーズに生徒に伝達される。
それこそ、本来生徒単体では扱うのが難しい力を、綺麗に出力させることだって可能なのだ。
……それが、本人がコントロールし切れる力なら、なおのこと。
“オリ!”
「ッ!」
ほんの、刹那。
オリの姿はその場から掻き消える。
それと時を全く同じくして、ユスティナ信徒たちが一気に蹴散らされ、その壁に大きな穴が開き。
……まるで海を割る奇跡が如く、バルバラへの道が開けた。
ようやくその全容が覗けたバルバラは、まるでそこに道ができると分かり切っていたかのように、先生の方とガトリング砲を向けていて……。
それと同時。
もう1つの銃口が、もたらされた指示に応えた。
「その人に、手は出させないよ」
少女の、あるいは聖女と呼べるかもしれないその生徒の、祈りの込められた銃弾。
それは、過たず、バルバラの急所へと吸い込まれ。
バルバラの頭部が、弾け飛ぶ。
……が。
“まだだ!”
バルバラは、その頭の半ばを消し飛ばされながら。
それでも、先生の方へと構えた銃口を、揺らしすらしなかった。
「……え」
ミカは、呆然と目を見開く。
消えない。
生きている。
バルバラは、未だ、健在だ。
今までの
勿論、バルバラやアンブロジウスも同じく。
恐らくはそれを知っていたからだろう、オリは執拗にソレらの頭を狙っていたし……。
ミカも戦いの中で、それに倣って、頭を狙うようになっていた。
……だからこそ。
その中心から、円形に顔を消し飛ばされ……それでもバルバラが消えない、なんて。
そんな想定は、ミカの中に、これっぽっちも存在してはおらず。
バルバラの、引き金を引く指の動きを、止めることも能わず。
「待っ、」
幾多のマズルフラッシュが、咄嗟に閉ざされた、ミカのまぶたを焼いた。
見なくとも、分かる。分かってしまう。
それらの銃弾は、過たず、先生の元へと飛び去ったのだと。
血の気が引く。
……また、間違えた。
言葉が、ミカの思考を埋め尽くした。
また自分が間違えた。
また自分が不幸を招いた。
油断せず、追い打ちをかけるべき場面で慢心して……。
そうして、また。
自分のせいで、大事な人が喪われるのだ。
その想いが。
意識が、認識が、死の心象が。
何より、彼女の積み重なった「苦しみ」が。
この、
「
瞬間、ミカの脳裏に、チカリと……何かが瞬いた。
黒く、けれど彩られ。
暗く、けれど光り。
見え、けれど無く。
理解できない、共感できない、疎通できない。
ただそこにあり、ただ事を齎すだけの、不可解な観念。
彼女たちの
「駄目だ、ミカ。それを見ては」
けれど。
彼女の目を、小さな手が……誰かが、塞いだ気がした。
聞き慣れた、けれど二度と聞けるとは思えなかった声の、誰かが。
ミカの、ソレの観測を、直前で阻止した。
「先生を守れ、ミカッ!!」
これまでになく鋭い叫び声に耳をつんざかれ、ミカはまぶたを開く。
……まぶたを塞いでいた誰かなど、最初からどこにもいない。
ミカはただ、現実を直視したくないがために、思わずまぶたを閉じてしまっただけ。
脳裏に浮かんだ
ただの、白昼
それだけが、既に過ぎ去ってしまった、確かめることのできない過去への、唯一の解釈だった。
改めて、寸前に聞こえた姉を名乗る生徒の言葉に、ミカは咄嗟に先生の方に駆け。
オリという抑止力が消えたことで、先生の方に殺到しかけていたユスティナ信徒たちを撃ち払い……。
なんとか、
「先生、大丈夫っ!?」
“大丈夫! オリが咄嗟にバトンを投げて、狙いをズラしてくれた!”
「当然っ、妹の不足は姉が補うものですから!
んで、ミカは一々ビビってないで、もうちょい私と先生を信じて!!」
「っ……!」
「信じて」。
その言葉は、ミカの心に突き刺さった。
……そうだ。
全ての間違いは、そこからだった。
アリウスに裏切られ、大事な友達を喪ったと思って以来。
ミカは、ずっと、誰も彼もを信じられなくなった。
今まで当然のように立っていた地面が崩れ去り、果てのない穴の中に堕ちるような、失意。
一度それを知ってしまえば、もはや全てを疑わずにはいられなかった。
当事者であるアリウス分校を疑い、真意を明かさなくなった。
幼馴染であるナギサを疑い、笑顔で嘘を告げた。
仲間である派閥の生徒を疑い、てきとうな誤魔化しを並べた。
スパイであるアズサを疑い、いざという時のプランを用意した。
……良い大人である先生を疑い、ただの一つさえ真実を伝えなかった。
今のミカは、それらが間違いであったことがわかる。
あのエデン条約と同じだ。
最初から全てを疑ってかかっては、未来は開けない。
まずは相手のことを信じ、手を取り合うことでしか、人は前に進むことができない。
……だからこそ。
先生を信じ、その手を取ったサオリは、前に進み始めることができたのだ。
それに倣うように、ミカはまず、あの姉を名乗る謎の少女、調月オリを信じようとしたのだが……。
結局、ミカは信じ切れていなかったらしい。
オリのことも、そして先生の指示も。
「信じる」。
言葉にすれば、たった三文字。
けれど、一度疑い合うのが当然の世界に堕ちれば、そのなんと難しいことか。
……でも、そう。
今は、それをしなければならないのだ。
“オリ、4回でバルバラを仕留めて!”
“ミカ、さっきので敵陣が乱れた! 私の守りはいいから、アンブロジウスに攻撃!”
先生の指示が飛ぶ。
ミカの思考の中で、「お姉ちゃんは、あのバルバラを仕留めきれるかな」「先生の守りはいいって、どうするつもりなの?」と、いくつかの疑問が沸き上がり……。
……けれど、それらを理屈ではなく、理性で無理やりねじ伏せる。
「頼んだからね、お姉ちゃん!」
先生に背を向け、オリの方に視線を投げることもなく。
ミカは、アンブロジウスに向かって走り出した。
信じる。
そう、信じなければならない。
先生自身がそう指示を出したのだから、どうにか護身をする算段はあるのだと。
オリの力ならば、あのバルバラにだってとどめを刺せるはずだと。
だって、今、肩を並べる仲間なんだから。
私を助けてくれようとする、優しすぎる2人なんだから。
だから、背中なんて黙って預けて当然なんだ。
そう思い、ミカは足を前へと伸ばした。
走る。走る。走る。
一歩一歩が、凄まじく遅く感じる。
遠くから、悲鳴が聞こえた気がした。
後ろから、銃声が響いた気がした。
……怖い。
また、大切な人を喪ってしまうのが。
自分のせいで、優しい誰かが死んでしまうのが。
純然たる死の恐怖が、ミカの心に影を落とそうとし……。
「……それでも、私は」
その恐怖すらも振り切る程に、速く。
アンブロジウスや、陣形の乱れたユスティナ信徒の攻撃を掻い潜り。
ミカは自らの愛銃を構えた。
狙いはアンブロジウスの頭部、ではなく胸部。
その大きな図体の中心、決して外さない位置に向かって、ミカは迷いなく引き金を引き……。
「私も、明日に進みたいから」
閃光が、網膜を焼く。
轟音が、耳をつんざく。
ただ一発、ミカは銃弾を発しただけだった。
そしてそれは、アンブロジウスを完全に破壊するには至らない、はずだった。
けれど……。
あるいは、一人の少女の祈りが、天上にまで届いたか。
まるで、彼女の銃弾を目印としたように……。
旧校舎の天井を突き破って降り注いだ、火と硫黄が、悪徳たる敵を撃ち滅ぼす。
「…………ま、マジで隕石呼んだよこの子……妹ちゃん、恐ろしい子……!」
“バルバラ、アンブロジウス、撃破。……今オリが倒したのが、最後の
“戦闘終了。……2人共、本当にありがとう”
ミカが息を落ち着けた時には、戦闘は終わっていた。
振り返れば、軽くバトンを振るうオリの近くで、バルバラと信徒たちが塵のように崩れ去り。
先生は……いつもの、こちらを安心させるような、優し気な笑顔を浮かべている。
あれだけ激しい戦闘でありながら、恩人たる2人は五体満足で。
おおよそ助からないと思っていたミカも、重度に過ぎるような負傷はなく。
「恐怖」の象徴たる
そうして。
薄っすらと、旧校舎の窓から、朝日が差し込んで来る。
「……あれ、もう朝なんだ」
ぼんやりと呟いた言葉に、ミカの元へと歩いて来た2人が言ってくる。
「そりゃあ一晩中戦ってましたからね。改めて、ミカ、お疲れ~!」
“帰ったら身だしなみを整えて、聴聞会の準備をしないとね”
「……そっか、そうだよね。これから……帰るんだ」
トリニティへ。
聖園ミカの居場所、だったところへ。
少なからぬ恐怖に、地面へ視線を落としたミカに……。
オリはゆっくりと歩み寄り、その肩に手を置いた。
「大丈夫。あなたが切り開いた未来は、きっと慈悲と祝福に満ちてるよ。
だから……」
後ろの先生と目線を合わせ、彼女は……。
まるで、本当に妹に語りかけるように、言う。
「帰ろう、ミカ」
“君と、君の友達の居場所へ”
* * *
……それから、しばらく。
旧校舎から出たオリは、2人と別れ、先んじて単独でここを脱出する意思を告げた。
「それじゃあね。お姉ちゃんとしてアドバイスしとくけど、ちゃんと本当の想いを伝えるんだぞ?」
クスリと笑い、そうミカに言い残して。
あれだけの激戦であったというのに、凄まじい速さで走り去り、彼女の後姿はほんの一瞬で見えなくなってしまった。
「……ありがとう、通りすがりのお姉ちゃん」
そう呟いたミカの言葉は、果たして彼女に届いただろうか。
一方でミカは、先生と共にアリウス自治区を脱出しようとして。
すぐにアリウスの生徒たちに見つかり、戦闘になりかけたところで……。
「ハスミ先輩、シャーレの先生とミカ様を発見したっす。
……はいはーい。それじゃ行きましょう、お2人を待ってる人がいるっすよ」
2人を救護すべくアリウス自治区へと侵入した、トリニティの正義実現委員会に保護された。
安全な経路を案内する。そこで自分を待つ生徒がいる。
目が細い正義実現委員にそう言われて、向かった先で……。
「先生、ミカさんっ! ご無事でしたか……!」
ミカは、幼馴染であり、ティーパーティの代表でもあるナギサと再会した。
座っていた携帯用のティーテーブルを蹴倒す勢いで立ち上がったナギサに、ミカは目を白黒させる。
「な、ナギちゃん!? え、どうしてここに……どうやって、だってカタコンベの迷路は……?」
トリニティ自治区とアリウス自治区を分かつカタコンベは、非常に複雑な上一定期間で構造の変わる、厄介な迷路の形状をしている。
何度もアリウス自治区を訪れたミカでさえ、記憶を元にしても強引な突破法に頼らねばならなかった。
何の知識もなく挑んでも、踏破どころか迷って出られなくなるのがオチだ。
どうやって彼女が、彼女たちがここに来たのかと、そう思うミカの耳に……。
コツ、コツ、と。
小さな小さな、足音が届いた。
「私が教えたのだよ」
ミルクの川のように柔らかな金髪に、小柄な体格には見合わない程大きな狐耳。
その頭の上にシマエナガらしき丸っこい小鳥を乗せている、少女。
倒れていたはずの少女が……ミカが二度も傷つけ、もう二度と会えないと思っていた少女が。
百合園セイアが、小さく淡く、ミカに微笑んだ。
「……数多の人の縁と助けが、私たちをここへと導いた。
ティーパーティ、正義実現委員会、シスターフッド、ハナコにアズサたち補習授業部。
君の知る、あるいは知らないかもしれない、たくさんの人が……君たちを救うために動いたんだ」
ベアトリーチェに捕捉され、とある脅威に晒されかけたセイア。
けれど彼女は、夢の中に現れた、2人の人物……。
百鬼夜行の「クズノハ」を名乗る生徒の助力によって、脅威による危機を脱し。
ようやく名を明かした「オリヒメ」なる人物の助言によって、ミカの意識に干渉し、その脅威がミカにまで及ぶことを未然に防いだ。
そうして目を覚ましたセイアは、即座にナギサに相談を持ちかけ。
ティーパーティの代表としての力で、2人は多くの生徒たちに声をかけ、協力を募った。
その結果。
「不健全な状態にあるアリウス自治区に介入し、そこの生徒たちを救う」という名目で、何百人の生徒たちが動員される、トリニティでも有数の大規模作戦が始まったのだった。
未だトリニティには、ミカへの悪意を持つ生徒が多く残っている。
……けれど同時、ミカに死んで欲しくはないと、そう願う生徒も、多く多くいるのだ。
「それに、此処には先生もいる。私たちも常にその力を借り続けるばかりではいられない。
何時であろうと、互いの道先に光を灯してこそ、私たちは理想的な関係足り得るからね」
いつも通りの……ミカの記憶通りの、小憎たらしい程冷静で理知的な物言い。
それを聞いて、ミカはようやく彼女が、セイアが無事にここにいることを理解し……。
「セイアちゃん……相変わらず、何言ってるのか分かんないよ。
本当に偉そうだし、心底ムカつく」
彼女もまた、ミカの記憶通りの、感情的で理屈のない言葉を返し……。
直後。
きっと、この世界で最も眩しい、太陽のような笑顔を浮かべた。
「──それでも、大好きだよ。セイアちゃんも、ナギちゃんも。
2人とも……本当に、ありがとう」
こうして、聖園ミカが二度と迎えられないと思っていた
偶然と呼ぶには、あまりにも奇跡じみて。
奇跡と呼ぶには、あまりにも必然的。
つまるところ、聖園ミカの物語のエンディングは……。
そんな、都合が良いようにすら感じる、完膚なきまでのハッピーエンドだ。
ミカの隕石呼び、改めて考えるとえらいことやってるなこの子……。
まぁ元ネタが元ネタだし、妥当と思えなくもないところがすごいんですが。
次回、長かったエデン条約編エピローグ。
(追記)
誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!