調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹の青春エンジョイしてる方

 

 

 

 ガガガガガガガッ!!

 

 凄まじい轟音が、ミレニアムの廃墟に響く。

 それは1人の生徒の持つ愛銃が銃弾の嵐を発する銃声であり、そしてそれらの銃弾が敵や壁面を削り取る音でもあった。

 

 その手に身長程もあろうかという巨大なマシンガンを握り、無造作に破壊をばら撒くのは、ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナ。

 

 多くの生徒を知る先生をして「対集団戦闘においてこれ以上の適任を知らない」と言わしめるその実力は確かなものであり。

 彼女たちの元に迫ろうとしていた20体強の白いロボット群は、数多の銃弾によって容赦なく削り取られ、1体残らず残骸にまで分解された。

 

 

 

 デカグラマトンの預言者『ケセド』が量産する、ロボットの群れ。

 ヒナから見て、それらは突出して強いとは言えなかった。

 

 数こそ多いが、撃てば十分に響く。

 それこそ、ゲヘナで暴れ回るヘルメット団やスケバン、美食研究会に温泉開発部といった面々方が、余程粘り強く厄介だ。

 

 ゲヘナでの治安維持に慣れ切っているヒナにとって、それらのロボットを相手にするのはもはや苦でも何でもなく。

 むしろ先生の役に立てるというのだから、ホクホクの気分だった。

 

 

 

 ……けれど、今彼女が対面している敵は、それだけではない。

 

“ヒナ、左に跳んで!”

 

 インカムに飛び込んで来た声に、思考や躊躇より速く、その身を躍らせる。

 

 直後、その場に発生した爆風によって、彼女の小さな体は跳ね飛ばされ……。

 咄嗟に翼を広げて勢いを殺しながら、飛ばされた先の塀に足を突き衝撃を受け流し、壁を蹴るようにして着地。

 

 

 

 改めて振り返り、今の攻撃の下手人を視界に捉えようとして……。

 その四脚と巨体を用いて壁を破壊して迫って来る敵、デカグラマトンの預言者『ケテル』が具える巨大な2門の機関銃が、自身に銃口を向け、その銃身を回転させ始めている光景を、見た。

 

「っ」

「ヒナちゃん!」

 

 砲弾と呼んでも差し支えのない、死の嵐が吹き荒れる……その寸前。

 右肩に、僅かな衝撃。

 

 直後、ヒナの視界は、まるでチャンネルを切り替えたように一瞬で塗り替わった。

 

 

 

 視線の先、ケテルによる機関銃の掃射は、見当違いの方向へと向けられている。

 ……より正確に言えば、その掃射先にいたはずのヒナが、いつしか全く別の場所へと移動させられている、というのが正確なのだが。

 

 ヒナが右に視界をやれば、いつの間にか現れ、ヒナの右肩を掴んでいたオリが、あまりに巨大な銃弾の掃射を見て「ひゃー!」とふざけたように笑っていた。

 

「危ない危ない、オリちゃんレスキュー成功! 大丈夫かいヒナちゃん?」

「助かったわ、ありがとう」

 

 調月オリが瞬間移動のような不可思議な技を使うという情報は、既に共有されている。

 故に、オリのメインの仕事は、今のような不測の事態のカバー。戦場を跳び回って、ピンチに陥った仲間を緊急退避させることだ。

 

 ……が、オリのソレは、EXスキルとも呼ばれる小規模な奇跡の行使。

 先生のシッテムの箱を経由しても、使用には制限がかかる。あまり頻繁には使うことができない。

 

 故に、ケテルがその機関銃を掃射しながら自らの上半身を回転させ、彼女たちの方へと向き直った時、彼女たちはその破滅的な威力の攻撃から逃げる術を持たず……。

 

 

 

「させないよ」

 

 その穴を、もう1人のフロントメンバーが埋める。

 

 横っ飛びの状態から、叩き付けるように地面に突き立てられた、見慣れた盾。

 乱入者はその上部に腕を当て、オリは阿吽の呼吸でその下部を少し前へ蹴飛ばし、足で支える。

 

 特殊な傾斜装甲の施されたそれに、数多の砲弾が突き刺さり……。

 しかし、2人の少女に支えられた不屈の盾は、ただの1発すら貫通を許さない。

 

 耳をつんざく轟音の中、盾は衝突した銃弾の尽く、その軌道を捻じ曲げて上方向へと逸らし。

 背後で身を縮める、3人の少女を守り切った。

 

「……ふー、危ない危ない、ギリギリだったね。

 風紀委員長ちゃん、あんまり前に出過ぎないでね~。おじさん、オリと違ってスピードにはそこまで自信ないからさぁ」

 

 どこか茶化すように言ってきたのは、ヒナやオリと共に戦うアビドス高等学校三年、小鳥遊ホシノ。

 ケテルの機関銃の銃身が赤熱し、掃射が止まったことを確認して、彼女は盾を構え直した。

 

「他の人にも頼らないとダメだよ?

 おじさんが守る、風紀委員長ちゃんが蹴散らす、オリがなんとかする。今回はワンマンじゃない、パーティ戦なんだからさ」

「雑! 私の役目の扱い雑!」

「集団を……仲間を頼る戦い方。慣れているのね」

「ま、おじさんはオリとか可愛い後輩たちと一緒に戦うこと、多いからねぇ」

「……頼れる後輩が多いのね。そこは、少し羨ましい」

「あのさお二人さん、呑気に話してないで戦ってくれない!? ほらミサイル、ミサイル来るよ!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 前線で戦う3人から、僅か離れて。

 先生はヒマリの隣で、シッテムの箱を通して戦況を俯瞰していた。

 

 廃墟探索中、まるで先生たちの探索を妨害するように現れた、デカグラマトンの預言者ケセドが派兵してくる数多の軍勢。

 そして同じく、凄まじい速度で滑り込んで来た、デカグラマトンの預言者ケテル。

 この両者を相手取った戦い、その戦端が開けてから、おおよそ1分20秒が経過した。

 

 流石と言うべきか、先生が呼んだヒナとホシノは、オリと共に抜群と言っていい働きをしてくれている。

 あのビナーと同じデカグラマトンの預言者、本来はキヴォトスの生徒とはいえ太刀打ちできないだろうケテルを相手に、3人で互角に張り合えているのだ。

 

 ……実のところ、ケテルには、かつて相対したビナー程の脅威はない。

 貫き難い装甲も単純な質量の暴力もない、ただ高性能なだけの戦車とでも言うべき相手だ。

 

 しかし、ただ高性能であるというだけで、十分な脅威でもある。

 なにせ、全長20メートルという巨体と、それに見合わぬ凄まじい推進力を持った四脚による機動性、艦砲にも等しい巨大な機関銃に破壊的な被害をもたらすミサイル。

 それらに対抗できる生徒は、キヴォトス広しと言えどそうはいないだろう。

 

 ……そう。

 ソレに対抗できる、数少ない生徒こそ、彼女たち。

 

 オリ曰く、「キヴォトスのアヴェンジャーズ」なのだ。

 

 

 

 そして、それは何も、オリやヒナ、ホシノだけではない。

 

“ミカ、そろそろ準備を”

「うん、いつでもいけるよ」

 

 オリとヒマリの隣に立ち、彼女たちを守ってくれているエイミ。

 そして、エイミの隣で時を待つ、ミカ。

 

 彼女たちもまた、ケテルに抗するべく集まった生徒たち。

 特にミカは、その一点特化の突破力を期待されたアタッカー。

 このケテルとの戦闘、彼女の力が勝負を分けると言ってもいい存在だった。

 

“……前へ。10秒後、祈りを”

「了解」

 

 先生の言葉を聞いて、ミカは駆け出す。

 ケセドの軍勢を蹴散らすヒナ、彼女をカバーするホシノ、そして跳び回りながらスタンバトンを叩き付けて来るオリ。

 その3人に気を取られていたケテルは、接近するミカへの対処が数秒遅れ……。

 

 その数秒が、彼女に必殺の一撃を許した。

 

 

 

「みんなの為に、祈るね」

 

 

 

 ミカの言葉と共に放たれた、祈りの銃弾。

 本来は分厚い装甲に阻まれ、あるいは貫通したとしても致命打にはなり得ない小さな凶器は、しかし。

 

 それはただの1発で、ケテルの装甲ごと芯を貫き、中枢の回路を焼き切った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ケテルの巨大な機体は、まるで力が抜けたように、その場に崩れ落ちる。

 

 グロッキー……いいや、その残骸から火花が散り、内部から発火が見られる状況からして、もはや完全に戦闘不能と言っていいだろう。

 

 これで、戦闘状況は終わり。

 彼女たちは勝者として、一瞬の安堵に心を浸す余裕を得る。

 

 ……相手がケテルでなければ、だが。

 

 

 

“オリ!”

 

 先生の声と共にオリの姿が掻き消える。

 

 同時、ケテルを挟んだ先生たちの反対側から、凄まじい勢いで射出された5本のワイヤーが現れ、崩れ落ちたケテルの機体に迫り……。

 

 その内4本は、オリが腰から抜いたナイフで、刹那の内に斬り飛ばし。

 

「ホシノ、ヒナちゃんッ!」

「任せて!」

「ええ」

 

 残った1本を、スライディングでケテルの機体の下を潜り、向こう側へ滑り込んだホシノが撃ち払い。

 

 ヒナはそのマシンガンを、ワイヤーの射出元に向け、乱射。

 崩れたビル群の中に紛れ込んでいた複数の空挺機が撃ち落とされ、墜落する。

 

 

 

 デカグラマトンの預言者、ケテル。

 その脅威は、何よりもこれだった。

 

 ケテルは、たとえひとたび撃破しても、その機体は凄まじい速度で回収される。

 そして内部に蓄積した戦闘データを元に調整された、より戦闘に適した武装を積んで、高速で修復されてしまうのだ。

 

 これを止めるため、オリは機体の回収の阻止を目論んだ。

 そのためにわざわざ、ある程度の余力(コスト)を残した状態でケテルを撃破したのだ。

 

 

 

 先生の指揮もあって、回収阻止は見事に叶った。

 ……が、同時、オリからすればここからは未知のゾーン。

 『あの子』もケテルの機体回収が失敗した時の話はしてくれなかった。

 

 故に彼女は油断なく、ホシノやヒナ、ミカと共に4人でケテルを囲み、周りから新たなワイヤー、機影などが現れないか警戒を行い……。

 

 10秒。

 ……20秒。

 …………30秒。

 

「終わり……かな?」

 

 シンと、静まり返る戦場でオリが呟いた、その時。

 

 先生の声が、インカムに響く。

 

 

 

“上!”

 

 

 

 ……4人がそれに気付くことができなかった理由は、複数あった。

 

 これで終わったのではないかと思う、微かな油断。

 複雑に入り組んだパイプの陰となった合間から、それが射出されたこと。

 その速度が音速を越え、それでありながら一切の無駄なく、完璧な動きで下ろされたこと。

 ワイヤー自体がもはや糸と言っていい程に細く、無色透明であったこと。

 

 故に、先生の言葉がかかるまで、彼女たちはケテル直上から投げ落とされたワイヤーに気付くことが出来ず……。

 

「なっ!?」

 

 機能停止したはずのケテルの、機関銃に挟まれた胴体、その上部がスライドして開き。

 その中から現れた小さな1枚のカードがワイヤーによって抜きとられ、巻き上げられていくことを、阻止することができなかった。

 

 

 

 オリは咄嗟にその場から消え、上空に現れてワイヤーを断ち切ろうとするが……。

 あまりにも咄嗟のことで、なおかつ無色透明なそれに目測を誤ったのか、その手もナイフも空を切り。

 咄嗟に抜いて撃ち込んだハンドガンの弾は、ワイヤーに掠り、けれどただ軌道をズラす程度で切断まではいくことなく。

 

「っ、あーくっそやらかしたぁ! あの子に怒られるうぅー!!」

 

 オリは頭を抱えながら、数十メートル上のパイプ群の中へと消えていくカードを睨み。

 

 ホシノにキャッチされるまで、20メートル近く自由落下したのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 預言者ケテルとの戦いは終わり、ケセドの遣わす軍勢を薙ぎ払い。

 一息吐いた先生たちは、改めて廃墟の探索を再開した。

 

 そして、そんな一団の中。

 

「……はぁ。まさかケテルの本体が、あんなちっちゃなチップだったとは」

 

 オリはしょぼんと肩を落として歩く。

 

 

 

 ケテルとの戦闘終了後、既に機能停止しているならば問題ないだろうと、ヒマリはケテルに対しハッキングを試みた。

 それはどうやら、驚く程簡単に進んだようだが……。

 それもそのはず、ケテルを動かしていたAIは、その体に残ってはいなかったのだ。

 

 そこに残されたのは、やたらと高性能な機械の残骸。

 察するに、透明なワイヤーによって奪取されたデータチップ。あれにこそ、ケテルのAIプログラムや内部データが内蔵してあったのだろう。

 

 つまるところ、あの小さな記憶媒体こそが、預言者ケテルの正体。

 彼の存在は撃破されると同時、その重厚な鎧を脱ぎ捨て、見事にこの作戦領域を脱してしまった……というわけだ。

 

 いくら『あの子』や黒服から聞いていなかった不測の事態とはいえ、「倒すのなら取り逃がさないよう」と注意されていたオリにとっては痛恨のミスだった。

 

 

 

 落ち込むオリを、その少し前を歩く先生が慰める。

 

“オリ、あまり気を落とさないで”

“今回のことで、ケテル戦の時に注意すべき点は見えてきたし……”

“機体まで回収されるより、ケテルの復活はずっと遅くなったはずだよ”

 

 破壊されたケテルの機体は、オリの妹であるビッグシスターが派遣したドローン群が回収していった。

 オリはそれらを「戦うならともかく、デカグラマトンの追っ手からも逃げる程度ならできるよ」と評価していたので、ケテルの機体は完全にデカグラマトンの手を離れたと思っていいだろう。

 

 そして、破壊された機体を修復するよりも、一から組み上げる方が時間がかかることは想像に難くない。

 少なくとも、機体ごと回収されてしまうよりはまともな結末と言えるはずだ。

 

 

 

 けれど、先生の言葉を受けても、オリの表情は晴れない。

 

「それはそうだけど……これからのことも考えると、初戦で撃破したかったんだよね。

 ケテルはゲームの主人公みたいなもん。経験を積ませれば積ませる程、どこまでも厄介になっていく。育成RPGじゃないんだから、変に経験値を与えないのが一番だったのに……」

 

 『あの子』から聞く限り、デカグラマトンとの戦いは、今回だけでは終わらない。

 それどころか、むしろどんどん激しさを増していくはずだ。

 

 その中で、先生たちが何度ケテルとぶつかるかはわからないが……。

 ある程度事情を知るオリが()()()()、せめて1つでも多くの預言者を撃破しておきたかった、というのが偽らざる本音になる。

 

 こう見えて失敗に弱いオリは、「私相変わらず役立たずだな」「やっぱりいてもいなくても変わらない私には、大きな運命を変えるとかできないんだろうな」と割と本気で落ち込んでいたのだが……。

 

 

 

 そんなオリの思考を著しく乱す、声が届く。

 

「それでね~、まだ若かったおじさんはついカッとしちゃってさ、大蛇に突貫しようとしたんだ。

 でも、そこでオリが『馬鹿ホシノ! 今大事なのは大蛇じゃなくて被災者でしょうがっ!!』って怒ってくれてね。おじさんが大蛇を引き付けてる間に、オリが負傷者の救出に行ってくれたんだ~」

「そっか……やっぱり、お姉ちゃんって昔から変わらないんだね」

「オリは本当に変わらないねぇ。どんどん歳を取るおじさんからすると羨ましいよ。

 あ、変わらないで言うと、オリって露悪的ですーぐ悪ぶるんだけど、逆に褒めると面白いくらい焦って否定しようとするんだよ。面白いから今度やってみるといいよ~」

「ホシノこら聞こえてんぞアホ!!」

「そりゃー聞こえるように言ってるからね~」

「あはは、余裕のないお姉ちゃんってちょっと新鮮かも☆」

 

 オリはいらんことをペラペラばらす友人に恥ずかしそうな怒声を飛ばすが、どうにもホシノは話をやめる気配を見せない。

 いつしか仲良くなっていたらしいミカと雑談をしながら、しかし両者共に警戒は怠らず、一団の最前線を歩いている。

 

 警戒を解くことなく、けれどどこか緩い雰囲気で哨戒を行う。

 キヴォトスでも有数の強者故の、つよつよムーブであった。

 

「あとオリの面白情報で言うとね、あの子っていつもお姉ちゃんぶってるけど、本当は甘え」

「それ言ったらガチ絶交だぞ依存症メンヘラロリィ!!!」

「っと、流石にお冠だ。ごめんねミカちゃん、おじさんはここまでみたいだ……」

「じゃあじゃあ、私がお姉ちゃんとの出会いのエピソードを語っちゃおうかな?」

「なんで世界は私を苦しめるの……?」

 

 

 

 脱力し、真っ赤な顔を俯かせてしまったオリ。

 

 それを見て、先生は……小さく、微笑みを浮かべる。

 

 なにも、恥ずかしがるオリが可愛かったから……というだけでもなく。

 やはりオリも、キヴォトスで青春を送る普通の女の子なのだと、そう思うことができたから。

 

 辛いことがあっても、悲しいことがあっても、失敗をしても、落ち込んでも。

 それでも隣に友達がいれば、こうして気を取り直すことができる。

 彼女を支えてくれる友人が、気を遣って突っついてくれる。

 

 それは彼女にとって、無二の宝物だろう。

 ただ、本人がそれに気付くには、今しばらく時間が必要だろうが。

 

 

 

 そして……同時に。

 先生は、心配でもあった。

 

 調月オリは、強い子供だ。

 自分で判断を下し、自分で行動を起こすことができる。

 けれど、それはさかしまに、彼女が孤立してしまうことが多いことも意味している。

 

 いくらオリが大人に入れ知恵されているとは言っても、そして仮にそれらが正しい情報だったとしても、彼女はあくまで子供だ。

 判断を間違い、してはいけないことをしてしまうこともあるだろう。

 

 そんな時に、果たして彼女を止められる誰かは、隣にいるだろうか?

 

 ホシノでもいい。ミカでもいい。ヒナでもいいし、勿論自分でもいい。

 彼女が本当の意味で誰かの助けを必要とした時、手を差し伸べられる人間はいるのだろうか。

 

 いいや、きっといなくてはならない。

 何故なら先生は、そういう生徒に手を差し伸べるべき大人であり、『先生』なのだから。

 

 

 

 ……けれど、そこまで考えた時。

 先生はふと、とある大人からかけられた、悪趣味な呪いの言葉を思い出す。

 

『あなたは、調月オリを救えない』

『あなたは先生だ。審判者でもなく、救済者でもない』

『あなたはただ1人のヒーローではなく、すべての生徒の先生であり続ける』

『だからこそ、あなたには、調月オリを救うことはできないのです』

 

 あの言葉の意味。

 それは、もしかしたら……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その時、その瞬間。

 

 

 

 先生は、オリやオリヒメについて思いを馳せ。

 

 ホシノとミカは、落ち込んだオリを励ますことも兼ねて、雰囲気を明るくしようと話し。

 

 ヒマリは先程得たケテルのデータの解析、及びデカグラマトンの情報収集に勤しみ。

 

 エイミとヒナは、そんな彼女たちをカバーすべく警戒に努めていた。

 

 

 

 ……だからこそ。

 

 ソレに気付くことができたのは、恥ずかしさからあらぬ方向に視線を向けた、オリだけだった。

 

 

 

 廃墟、廃工場にあるハッチから更に下った、地下の工廠内。

 

 チラリ、と。

 

 オリはその視界の端、複雑に通ったパイプや、よくわからない機械の先に……。

 

 見覚えのある後ろ姿を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 綺麗な青色と、薄い赤色の混ざった髪。

 

 その身の潔白を示すかのような、全き純白の制服。

 

 かつかつと小さな音を立てる、これまた真っ白なブーツ。

 

 

 

「…………、は?」

 

 

 

 その後ろ姿を、オリが見間違うはずがない。

 

 その持ち主は、どこまでも気に食わないと思い。

 

 しかし同時、助けてくれたことに感謝もし。

 

 何より……心のどこかで、憧れを抱いていた、人物。

 

 

 

 

 

 

「…………連邦、生徒会長……?」

 

 

 

 







 友達と鉄と硝煙の匂いに包まれて、いい感じに青春エンジョイしてますねぇ!
 そこに不穏を一つまみ、っと……w

 それと、この前すごく丁寧に誤字脱字指摘してくださった方がいて、とてもありがたかったです。ありがとうございました!
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