調月姉妹とやべー現状
オリと特異現象捜査部、シャーレの先生、先生が招いた対策委員会のホシノに風紀委員のヒナ、元ティーパーティのミカ。
キヴォトス選りすぐりの最強チームは、第二回デカグラマトン特殊作戦を成功に導いた。
……が。
それが第一回デカグラマトン特殊作戦程に十分な成果を出したかと言えば、そうではなく。
預言者ケテルは、その正体を見誤った結果、仕留め切れずに取り逃がしてしまい。
預言者ケセドは、撃破こそしたものの大穴の底へと姿を消し、後日の調査では残骸を発見することができなかったことから、どうやらケテルと同じく逃げ去ったらしく。
その上、不明な敵による襲撃で、オリは気絶させられ、何らかの不明な被害を負ってしまった。
ケテルとケセドからデータを抜くという、最低限の勝利条件こそ達したものの……。
連続する不測の事態と、予測よりも遥かに多い被害状況を見れば、とてもではないが手放しで喜べる戦果とは言えないだろう。
……殊に、この作戦を提案し、なおかつまともな成果も挙げられないどころか、むしろ皆の足を引っ張ってしまったオリにとって。
今回の結果は、枕に顔を埋めたくなる程の失態だった。
「ぬぉおおお、次どんな顔して先生に会えばいいのぉ!?」
……埋めたくなる程の、というか。
彼女は現在、物理的に、枕に顔を埋めていた。
薄い水色に彩られた少女趣味なベッドの上で、ぐりんぐりんと体を捩じって暴れ回っていたのだ。
「私めっちゃ強いよってイキって!? お願~い戦力貸して~って強請って!? その上作戦ではまともに役に立たず足引っ張って!? 完っ全に三下の無能キャラじゃん!!
私恥ずかしかっ! 生きておられんご~~~っ!! いや死なないけどまだ! 死ねないけどさァ!!」
今日もどったんばったん大騒ぎ、調月姉妹のセーフルームに騒音と衝撃と埃をまき散らす破壊神。
彼女が起こす喧噪は、ビッグシスター謹製の100人乗っても大丈夫な最強ベッドをすら軋ませる程だ。
そして、そんな彼女がいる部屋の対面側。
1人の少女が、ため息を吐いた。
「……はぁ」
オリの妹(ということになっている)、調月リオ。
彼女はため息を吐き、キーボードを叩いていた手を止める。
彼女は現在、ヒマリとの協同でデカグラマトンのデータを解析している真っ最中。
不可思議な程に厳重に構成されたセキュリティは突破が困難であり、ビッグシスターたる彼女を以てしても、これは時間と集中力を要する作業だった。
そんな中、同じ部屋で元気いっぱいごろごろばったん暴れ回っている残念にすぎる姉の出す音は、彼女が必要とするものをその脳内から蹴り出してしまう。
有り体に言えば、どちゃくそ邪魔だった。
調月リオは、ミレニアムの至高の頭脳の1つ。
特にその集中力は、キヴォトス中の生徒を並べても群を抜く程だ。
故に、もしも暴れ回っているのが顔も知らない誰かであれば、「気に掛けるのは時間の無駄ね」と意識の外へ締め出すこともできただろう。
が、現在無様に悲鳴を上げて壁にゴツゴツ頭をぶつけているのは、こともあろうに彼女の自称姉。
であれば……残念なことに、非常に残念なことに、リオとしてはそれを無視するわけにもいかない。
無情で非人間的とすら言われることのあるリオだが、それにだって例外というものが存在する。
ただ1人の姉妹であり、今までに何度も自分を助けてくれた、調月オリ。
彼女が泣き喚いているのなら、彼女には無視するという選択肢はない。
「……そうして悩むことは時間の無駄よ。
ミスを犯したのならば、然るべき謝罪をし、働きによって失った信頼を取り戻すしかないでしょう」
彼女が投げかけたのは、極めてリオらしい、理屈に沿って情の籠らない、けれど建設的な訴えだった。
失ったものは、立て直さねば戻らない。惜しんだり悔やんだりすることに意味がない。
それは一面の真実であり……けれど、オリの求めているものとは少し違ったらしい。
オリは、呆れた様子でデスクに座っている自らの妹に、チラリと涙目を向けた。
「…………無理だよ。だって私、全然仕事できないもん」
調月オリは、書類仕事ができない。
いや、別に全くできないわけではないが、その効率は並みの生徒より少し下、というのが正確なところだ。
リオや部の手伝いをしてきた経験から、完全にできないというわけではないが……。
そもそも性格が向いていないのだろう、そういった事務処理を得意とする生徒の多いミレニアムの中では駄目な部類に入るだろう。
一方で、単純な力仕事や武力による解決は並ぶ者がないと言っても過言ではないため、主にシャーレの当番になった際には、そちらを担当することが多い。
……の、だが。
キヴォトスには、いるのだ。
実戦もこなせ、なおかつ書類仕事もこなせる生徒。
即ち、ゲヘナの風紀委員長のような人材が。
であれば実戦能力しかないオリは、いつもデスクワークの多さに頭を悩ませている先生を、本当の意味で助けられるとは言い辛い。
それどころか、他の生徒を担当にした方が楽だろう場面も多いくらいだ。
同時に担当になったヴェリタスのチヒロに「オリもさ、こういうのは覚えておいた方がいいよ」と言われ、自分が担当すべき仕事を受け持たれたりする現実は、着実に彼女の自尊心を蝕んでいたのである。
「どうせ私、落ちこぼれだもん……。唯一の長所だった武力でも負けちゃう、駄目生徒だもん……」
すさまじい暴れっぷりから一転、ベッドの上で三角座りになって身を縮こめるオリ。
情緒不安定な姉の姿を見て、リオはほんの僅か、眉を寄せる。
「……想定していたより酷い状態ね」
これは調月リオや飛鳥馬トキ、オリの中に住む『あの子』、そして長い付き合いであるヒマリやホシノくらいしか知らないことではあるが……。
実のところ、調月オリは、そこまで自己肯定感の強い生徒ではない。
オリの持つ不条理な程の暴力は、理性や合理性を重んじるこのミレニアム自治区において、おおよそ最も評価されない項目だ。
故に、生まれて以来ずっとリオと比べられ、殆ど高く評価されることのなかった彼女の心に、強い自尊心が芽生えるわけもなく。
普段の強気なオリの態度は、『あの子』によって補強されたみんなを守る強い姉としての精神性……「お姉ちゃんという仮面」に他ならない。
常に勝ち続け、その意志を貫くことを条件とした、好戦的で強固な仮面だ。
故にこそ、今回のように言い訳のしようもない敗北に陥れば……真に気の許せる一部の相手に対してだけではあるが、時にその仮面が剥がれてしまうことがある。
「だって無理だもん。無理なものは無理なんだもん。
難しい言い回しばっかり見てると、前の文脈思い出せなくなっちゃうし……一々辞書引いてられる程の暇もないし……数字合わせも全然合わないし……ユウカには怒られるし、コユキには煽られるし……。
私だって頑張ってるけど、そもそもリオちゃんの真逆の私がそっちの仕事なんてできるわけないし……」
いよいよウジウジ度がマックスになってしまったオリに、仕方がないかと、リオは使用中のPCウィンドウへ向き直りながら声をかける。
本当ならば、完全に作業が終了してから声をかけるつもりだったが……。
今の姉の様子は、妹として見ていられない。
「それなら、今回の作戦の成果でも持っていけばいいわ。それである程度面目は立つでしょう。
丁度、ある程度データの修復が終わったところよ」
「ほんとっ!?」
オリはガバッと立ち上がり、リオの椅子の後ろへと飛びついた。
ちらりと横目で窺えば、その表情には驚きと同時、前向きな感情が垣間見える。
その様子に内心で安堵しつつ、リオは画面にいくつかのテキストファイルを並べた。
「デカグラマトンの預言者、ケテル、ケセド。
ヒマリがこの両者から抜き出したデータは、高度に暗号化された上で大部分が破損していた。だから、全てを完全に復元することはできなかったけれど……それでも、いくつかは部分的に復旧できたものがある。
ただし、恐らくは固有名詞なのでしょう、意味不明な単語が多いわ。これだけでデカグラマトンの真意を読み取るのは難しいでしょうね」
「なるほど……」
確かに、リオの後ろからマウスを握り、軽くファイルを覗いてみても、よくわからない単語が多い。
預言者、ロゴス、絶対性の証明、絶対者、セフィロト、神名。
それらは等身大の学生であるオリからすれば、少しばかり縁遠い言葉ばかりだ。
ただし、彼女の夢に現れる存在が時たま語る単語が混じっていることも事実。
特に「絶対者」や「神名」といった単語には聞き覚えがあった。
「あー……これ、『あの子』が何か言ってた気がする。
確か、『絶対者』は……シャーレの先生のこと? いや、先生を含む、一部の選ばれた人の称号? 運命を変え得る存在? みたいな感じだったかな。
で、『神名』は、えーっと……なんかこう、私たちの持つ神秘の……なんかこう、アレ」
「……余りにも曖昧ね」
「ご、ごめん、正直よく分からない話だから聞き流しちゃってて……」
夢の電車で『あの子』の語る物語は楽しく面白いものが多かったが、時々思案顔で語る『世界観考察』というヤツは、ハッキリ言ってオリの好みから外れていた。
なにせ、小難しくて意味深で、そのくせ全くと言っていい程役に立たないのだ。
子供であった彼女が興味を持てないのもむべなるかな。それらは本質的に、大人のたしなみなのだろう。
……だが、それでも当然、引っかかる単語はあるわけで。
ふと目を滑らせた文書の中の表記に、オリは首を傾げた。
「『000』? トリプルオー……ネルちゃん?」
「たしかに数字のゼロではあるけれど、文脈の不明瞭さからして、恐らくネルは無関係ね。トリプルゼロ……これも何の意味を持つ単語かは不明」
「ん?」
リオの指摘に言葉に、オリの脳内で発想の火花が光る。
その言葉、トリプルゼロという響きを、どこかで聞いたような気がして……。
数秒考え込み、ようやく思い出した。
「トリプルゼロ……無限、光……っ、そうだ思い出した! アイン・ソフ・オウル!」
『あの子』の語った物語の1つに登場する、先生に敵対する存在。
デカグラマトンを敬愛すると称する、少女の形をしたモノ。
その名は、尽きることのない光、あるいは非実在の次元を意味し。
そして、それらが結集したものこそが、始原の王冠たる『ケテル』なのだ、と。
そんなよくわからない話の中で、確かに3つのゼロ、トリプルゼロという単語が出ていた。
「アインソフオウル?」
聞き覚えのない単語に首を傾げるリオ。
古き神話は忘れ去られ、現在の
それはいかなミレニアムの頂点たるリオもまた例外ではなく、既に崩壊してしまった文明の痕跡から僅かに窺い知る程度。
勿論、オリとてそれは例外ではなく、その言葉の真の意味を知るわけではない。
が、今大事になるのは、それらが何を意味しているかではなく、これから何を為すかだ。
「簡単に言うと、デカグラマトンの……あー、崇拝者? みたいな。
預言者たちと似たような存在なんだけど、非実在存在だかで直接叩けない面倒な輩で、もうちょっと先の未来でデカグラマトンが……」
彼女たちのことを説明しようとしたオリは、しかし言葉に詰まる。
それを正確に説明するには、あまりにも存在への理解が足りないこともそうだったが……。
何より。
それは、調月オリにとって、どうしようもない話であることに思い至って。
一瞬の胸の疼きと共に、言葉を止めてしまったのだ。
「……? オリ?」
姉の様子に首を傾げたリオに、オリは誤魔化すように笑う。
「いや、ごめんごめん! まぁあの子たちの話はもうちょっと先になるし……駄目だね、ちょっと文字化けが多すぎて、内容の推察はできないわ、これ」
アイン・ソフ・オウルについての文書であれば目を通しておく価値はあっただろうが、それは余りに破損が多く、とてもではないが読み進めることはできない。
オリはひとまず、この時点でその名前が出てきたことだけを頭に残し、次の文書へと目を走らせた。
「えーと、『光の終わり』……『ケルビム』? 辺りはちょっとわかんないなコレ。
あ、この『マルクト』は、最後の預言者、デカグラマトンという存在を証明する最後の一手。この辺りはかなり先のことになるし……ぶっちゃけ結局は先生が救ってくれるはずだから、今はスルーするとして。
で、こっちの……ん?」
意味のわからない単語の中から、『あの子』との話で出て来たものを探すオリ。
けれど、彼女の目は、ある点でふと止まった。
それは、リオがまとめた文書の中でも、特に強調されたもの。
ケテルから奪取されたデータの一部。
あの預言者が、廃墟で警戒にあたるようになった直前の、ケセドからの通信ログだ。
それは元々、独自の言語を介した通信であったのだろうが……リオによって、人の言葉へと訳されていた。
『偽性神名:アンファン・ディファンについて』
『現在、当該存在は機体と鍵に分かたれ、機能不全を起こしている』
『鍵は当方が担う。機体との接触を以って喪失の補填を行う』
『彼の存在の正常な成立、及び我等への感化を以て、絶対性の証明の一助とする』
『哨戒戦力の不足につき、協力を求む』
……たった5つの文章で構成された、意味深ながら何を示しているか不明瞭なメッセージ。
眉をひそめるオリを横目に、リオは言葉を添える。
「恐らくこれが、あの預言者たちの目的に関わる、唯一サルベージできた文書。
偽性神名:アンファン・ディファン。それが何を意味するかがわかれば、あるいはアレらの目的も推し量れるのだけれど……」
残念ながら、リオの知る限り、そのような名前の存在は現在のキヴォトスに確認できない。
それどころか、その不可思議な名の意味すらも見当が付かない状態だ。
これに関してはヒマリも同じく、心当たりがないようだった。
ミレニアムを統べる2人が心当たりがない以上、その正体を探ることは難しいと思われる。
故に、このデータログは他のものと同じく、大きな意味を持たない。
預言者2体の不可思議な協同の意図は不明のまま。
今回の調査で得られた最も大きな成果は、いくらか覗けたデカグラマトンの活動履歴となる。
……そう、リオは思っていたが。
「…………」
オリはじっと、その一文を注視している。
その姿にどこか深刻な様子を感じ取ったリオは、オリに尋ねる。
「アンファン・ディファンという存在について、『あの子』が何か言っていたの?」
「いや、そっちは全く聞き覚えないけど……」
オリの中で引っかかったのは、そこではない。
彼女の胸中にざわめきを生んだのは、『機体と鍵に分かたれ、機能不全を起こしている』『鍵は当方が担う』という部分。
その中でも……特に『
それに、オリは聞き覚えがあった。
「鍵って、もしかして、KEY……ケイちゃん? 確かに、『Divi:Sion』はケセドが掌握済み。
……とすると、機体はアリスで、アンファン・ディファンっていうのは、『名もなき神々の王女』のこと?
それを正常化させて感化……ああ、いや、そういうことか……!」
オリの顔が、苦々しく歪む。
察しが付いてしまった。
デカグラマトンの預言者が廃墟にいた理由。
ケセドが『無名の守護者』を製造していた理由。
そして、デカグラマトンの、自らの絶対性を証明するための、計画に。
「……デカグラマトン。
アリスの中の『名もなき神々の王女』を目覚めさせた上で、それを感化させて、預言者にするつもりか」
造られた知能。
創られた神秘。
現存するどのAIよりも優れた、世界を滅ぼし得る兵器……。
名も
それを超えることで、デカグラマトンは自らの絶対性を、並ぶ者なきことを証明しようとしている。
それに思い至ったオリは、そしてオリの言葉から答えに辿り着いたリオは。
揃って、その端正な顔を、憎々し気に歪める。
……ミレニアムの地に立つ、平穏という名の砂上の楼閣。
それは、今まさに、崩れ去ろうとしていた。
KEYちゃんを取り巻くこれまでの経緯
KEY(Divi:sion)「いつか休眠中の王女目覚めさせてキヴォトス滅亡させるぞ~! 頑張りましょうね王女!」
先生「誰か知らないけど偶然見つけたし不完全に目覚めさせて記憶と目的喪失させるね」
KEY「は?」
デカグラ「ほなその動揺の隙にシステム感化させるんで……」
本体から離れてかろうじて感化から逃れたKEY「は?」
ケセド(元Divi:Sion)「やっぱキヴォトスとかどうでもええわ! そんなことよりデカグラマトン様の証明完遂させっぞ~!」
KEY「は?」
デカグラ「てか王女完全に目覚めさせて感化させれば我が一番強いってことじゃね?」
KEY「は?」
KEY「こうなったら王女が目覚めるのに乗じて、デカグラマトンに感化される前にさっさとキヴォトス滅亡させるしかない……! 今は頑張れデカグラマトン!」
オリ「うーんよくわからんしデカグラ殴って情報抜くか!w」
KEY「は???」
先生「キヴォトス最強のメンツを連れて来たよ!」
KEY「は??????」
ケセド「ぐえー負けたンゴ」
KEY「」
全勢力からフルボッコにされるKEYちゃんの明日はどっちだ?