調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹と破綻の芽

 

 

 

 その日、瞬間。

 調月オリが何をしていたかと言えば……。

 リオの監視下で、健康診断を受けていた。

 

 数週間前の第二次デカグラマトン特殊作戦。

 そこでオリは不明な敵に敗北を喫し、気絶して、恐らくは何かをされた。

 

 その後ミレニアムに帰ってからの精密検査で、外傷もなければおかしな不純物も入っていない、完全な健康体であることがわかったのだが……。

 

 しかし、オリの心配性な妹からすると、むしろそれは良くない兆候に思えたらしい。

 

 例えば、オリの体内から毒でも検出されれば、リオはむしろ安堵できたのかもしれない。

 ミレニアムの技術によって排出できない毒など、キヴォトスには存在しないし……。

 オリの体への影響は、殆ど直接的に敵の目的を示す。オリへ向けられた害意や、ミレニアムの戦力を削ぐ行為から、敵の正体や意図が透けて見えただろう。

 

 けれど、現実にはそれがない。

 つまりは「オリが何をされたかわからない」……「敵が何を目的として動いたかわからない」という現実は、彼女の心に尽きぬ不信感をもたらした。

 

 この検査でも発覚しない、何らかの秘匿や欺瞞があったのではないか。

 遅効性で効果を発揮する何かが仕掛が、オリの体にあるのではないか。

 リオの頭脳はミレニアムでも随一のものであり、だからこそ彼女はリスクの考慮を放棄できない。

 

 故にリオは、オリを襲った敵について調査を進めながらも、その体に何か変化や異常がないかを調べ続ける。

 たとえ、その敵の痕跡が、不自然に思う程に残っていなくても。

 たとえ、いつになっても悪影響が現れずとも。

 調月リオは、調月リオである以上、そう行動するしかない。

 

 

 

 一方。

 当事者であるオリの方は、あの日起こった事態について、ある程度予測を付けていた。

 

 肘の内側にあった注射痕。

 当日のことだと言うのに、精密検査で体に害あるものが一切見いだせなかったこと。

 未だ悪影響らしい悪影響が見られない検査結果からして……。

 

 恐らく、あの日に自分がされたのは、「入れられる」ではなく「抜かれる」だったのだろう、と。

 

 注射器は、何も薬を注入するためだけのものではない。

 それは本質的に言えば、人の体との間で液体をやり取りするものだ。

 典型的なのが採血だろう。注射器は人の体から少量の血を抜き取るためにも使われることがあり……。

 恐らく、今回の件もそうなのだ。

 

 あの襲撃者たちの目的は、あくまでも「調月オリの血を抜き取ること」だったのだろう。

 少なくとも、オリに対する直接的な害意があって襲ってきたわけではなかったはずだ。

 でなければ、気絶して完全に無防備な状態だったオリに一切危害を加えなかったことや、ご丁寧に注射痕にパッチまで貼って行ったことに説明が付かない。

 

 その先の目的は……正直なところ、よくわからない。

 調月リオの姉でもあり、ミレニアム最強の一角でもある、オリの血。

 いくらでも使い道があるようにも思うし、けれどいざ考えれば何にどう使うのか疑問にも思う。

 

 考えても考えても、オリの中でこの答えは出ず……。

 その上、彼女の知恵袋である夢の中の『あの子』も、この件に関して尋ねても返事はなしのつぶて。全くと言っていい程に考えを言ってくれなかった。

 

 いっそ頑なな程、『あの子』はこの件に関して口をつぐむ。

 当日もそんな態度に苛立ったオリが、思わず激昂してしまったりもしたのだが……。

 

 

 ……オリとしても、その態度に思うところがないわけではない。

 

『いけませんよ、オリ。そこまでです』

 

 事件の際に聞こえた、『あの子』の声。

 彼女がこの件について話したがらないことも加味すれば、『あの子』がこの件に関わっているのでは、という疑いを持つのは自然な流れだった。

 

 ……だが、調月オリの思考はそこで止まる。

 何故なら彼女にとって、『あの子』は調月リオや先生と同じ、ギブアンドテイクもウィンウィンもなく、無条件に味方であるはずの存在。

 

 もしかして、自分は彼女に騙されているのではないか、と。

 そんな、あるいは持って当然かもしれない疑いの念を……大人の悪意に慣れているはずのオリは、けれど『あの子』に対してだけは向けられなかった。

 

 

 

 閑話休題。

 まるでオリのみがその仮説に辿り着いたような物言いにはなったが、実のところ彼女の妹たるリオとて、「オリはただ血を採られただけ」という可能性に行き着いていないわけでもない。

 むしろ、数日かけてそれに気付いたオリと違い、事を把握して真っ先にこれを発想したくらいだ。

 

 けれど、「そうでない」可能性があることもまた、彼女は見逃すことができず。

 万一のためにということで、オリに定期的な検査を課している。

 

 ……もしも、自分が何か見落としていたら。気を払っていればオリを救えたのに、なんて展開になったら。

 そんな恐怖を一度でも思い浮かべれば、彼女は行動せざるを得ない。

 

 今にも天が落ちて来るのではないかと、そう疑い続けた男と同じように……。

 調月リオの本質は、疑い、心配して、その上で抜本的な対策を取ることにあるのだから。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうしてその日もまた、オリの体に何も異常が起こっていないことを確認する日であり。

 所有する複数のセーフルームの内の1つ、主に医療目的で使われるそこで、調月姉妹は検査を行っていた。

 

 検査と言えば大仰に聞こえるかもしれないが、器具を操作するリオはともかく、検査対象であるオリは何も特別な事をする必要はない。

 一点の穢れもない真っ白な部屋で、よくわからない大きなポッド状の機器の中に入れられ、壁に体を付けたり腕を上に上げたりと、妹の指示に従いながらじっと終わりを待つだけ。

 

 リオは機械の外の部屋、その更に外から指示を出している形。

 せめて妹と触れ合えれば退屈しないんだけど、とオリは内心でため息を吐く。

 

 

 

 とはいえ、ぼんやりしているだけでは時間の無駄だ。

 頭の中で、これから先のことを考える。

 

 リオの監視網で観察したところ……。

 どうやら、預言者ケセドを打倒したことで、「無名の守護者」の生産は止まったらしい。

 

 しかし、そのAIプログラムを完全に破壊したわけではない以上、ケセドはそう遠からず復旧するはずだ。

 ヒマリの予測では、どれだけ早くとも3か月はかかるとのことだったが……相手は特異現象・デカグラマトン、常識外の相手。

 オリは『あの子』とも相談した上で、復活までにかかるだろう期間を1か月と置いた。

 

 勿論、デカグラマトンがあらゆる物理法則に縛られない特異現象である以上、これを更に越えて来る可能性は十分に考慮に値するはずだが……。

 やけに確信を持って「復活までにかかるのは1カ月です」と断言する『あの子』の様子からして、この期間はおおよそ間違いないものとオリは頷いた。

 『あの子』は曖昧なことを語る時、必ず「これは推測ですが」「恐らくは」などの予防線を張る。それがない以上、彼女は確かにその確信を持っているのだろう、という判断である。

 

 ……とはいえ、最近の『あの子』は予言を外すことが多くなってきている。

 彼女を妄信しているオリはともかく、リオはどうにかして裏取りをしようと試みるだろうが……。

 

 

 

 ともかく、ひとまずある程度信がおける事実として。

 今から1か月の間、「無名の守護者」が生み出されることはなく、また天童アリスへと接触を試みることはないだろう。

 

 これを思うと、オリは肩の力が抜けるような気がした。

 最近荒れがちなキヴォトスの治安と己のメンタルからして、多忙なスケジュールの中にできたほんの僅かなモラトリアムは、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなもの。

 この1か月の間に、やり残したことを片付けなくてはならないだろう。

 

 まずはやはり、この間の任務での失態を取り返すことだ。

 失ってしまった(と本人は思っている)先生からの信頼を少しでも取り返すのだと、オリは拳を握り決意する。

 

 更に言えば、ゲーム開発部の様子を窺う必要もある。

 彼女たちもまた、オリの可愛い妹たちの一員。個人的に仲良くしたいというのもあるが……。

 ないとは思うが、彼女たちが廃墟に向かい、機能停止状態のケセドに接触……なんてことになれば目も当てられない。

 リオに廃墟立ち入りを固く禁じてもらうと同時、オリの方でも彼女たちを地味に誘導する必要があるかもしれない。

 

 更に、いざという時のためのプランをもう少し進めておきたくもある。

 協力者の選定こそ終わったが、詳細な計画の詰めはまだだ。自分がいなくなっても万事恙なく展開するよう、クロノスなどとも足並みを併せる必要がある。

 

 モラトリアムとは言いながらも、やりたいこともやらねばならないこともたくさんある。

 さながら大量の宿題を抱えた夏休みのようだった。

 

 

 

 そして、その1か月が過ぎれば、決戦が始まる可能性がある。

 

 ケセドの修復が終了して完全に復活してしまえば、目を付けられたと理解したあの預言者は、より守りを固めるだろう。

 廃墟の極めて複雑な構造、その更に奥に引きこもってしまうかもしれない。

 更に言えば、今までの様子見を止めて、何千何万という守護者を量産してくるかもしれない。

 

 そうなれば、廃墟から湧き出す軍勢から日々の営みを守るため、ミレニアムを挙げた総力戦が始まるだろう。

 

 ミレニアムの頂点たるビッグシスター調月リオは、その徹底的なやり方が故に恐怖こそ抱かれていても、決して高いカリスマ性を持っているわけではない。

 彼女が声をかけたとして、ミレニアムが私心を捨てて一致団結するかと言えば……難しいかもしれない。精々がそれぞれの利権とミレニアムを守るという目的のために協力する程度だろう。

 リーダーとしてはこの上ない実力を持つ彼女だが、担がれる旗頭としての才能までは持っていない。

 

 が、それを補うのがオリだ。

 日々色んな部の手伝いをすることで、各部部長へのコネ回しは済んでいる。

 リオが宣言するだけならともかく、オリが必死に頭を下げて回れば、皆目の前に迫った危機をある程度は信じてくれるはずだった。

 その上でセミナーから働きかければ、少なくともこれが緊急事態であるという共通認識は生まれる。

 

 その上、リオが『都市』に集めた戦力もある。

 本来は別の目的のために造られたものだが、リオとてミレニアムを守るためならば手段は択ばないだろう。この秘された戦力をミレニアム防衛に回すことは想像に難くない。

 

 

 

 士気を上げる手段も、戦力も十全。

 総力戦に向けた準備は、完璧に整っていると言っていい。

 これを以て預言者ケセドを完全に破壊し、アリスを二度とAL-1Sへと覚醒させず、『名もなき神々の王女』という存在そのものを歴史の陰の中へと葬り去る……。

 

 ……これこそが『あの子』とオリが考案した、状況的に最も望ましいプラン。

 

 天童アリスをC&Cに守らせ、その他のミレニアムの総力を決してケセドを滅ぼすという大作戦を行う。

 そんな、安全性を確保しながら抜本的な解決も図れる、理想的な展開だった。

 

 

 

 ……だが。

 オリは理想を語りながらも、これから先辿る道が、そんな理想的なものになるとは思えなかった。

 

 2年前の事件。梔子ユメを喪った一件。

 オリは彼女を守り救うために、彼女にできる全てをして……。

 けれど、気付けば、全ては手遅れになっていた。

 

 自分は不明な要因で意識を失い、監視カメラもドローンも何故か機能停止し、雇った傭兵たちは何故か揃って席を外しており、リオはこの事態を掴んですらおらず。

 

 ……それを以て、オリは無意識下で理解したのだ。

 

 自分には、誰も救えない。

 「メインストーリー」の大きな流れ、運命とでも呼ぶべきものを、自分は曲げられないのだ、と。

 

 故に今回も、『あの子』とこれからのことについて話しながらも、そこまで順調に計画が進むとは思ってもいなかった。

 できてもせいぜい事態の遅延程度だろう。

 

 だが、だからこそ。

 ケセドを打倒することによって得た猶予を使って、今自分がすべきことをしっかり果たさねばならない。

 

 まだ時間はあるはずだし、先生(えいゆう)ならざる身であれど、できることもある。

 今は落ち着いて目の前のことをこなし続け、可能な限り状況を良くしよう……と。

 

 オリは、そんなことを考えながら、機械の箱の中でじっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう。

 

 調月オリは、事ここに至って、正史というレールからの脱線の難しさ……『あの子』の言葉を使えば「運命の修正力」というものを舐めていた。

 

 かつての自分は駄目だったが、今の自分なら、友達となら、あるいは先生の力を借りさえすれば、状況を変えることができるのではないかと。

 いつしか、そう思ってしまっていた。

 

 あるいは、こう言ってもいいかもしれない。

 

 辛いことや間違いかけることもあれど、尊敬できる恩師や新たな友人ができ、少しずつ精神的にも成長しているような実感のある日々。

 まさしく『あの子』の語ったような、青春と絆の物語の中で……。

 

 かつて舐めた辛酸を、それによって培った冷徹な自己否定を、忘れかけていた、と。

 

 

 

 

 

 

 バツン、と。

 唐突に、オリを取り囲んでいた光が、消えた。

 

 機械の中、暇にあかせて目を閉じていたオリは、まぶたの裏に感じる明るさが減ったことを疑問に思う。

 

 なんで光が消えたんだろう?

 検査が終わった、わけではない。

 いつもはゆっくりと光が弱くなっていって、それと同時がぽんと機械の前面の扉が開いていた。

 

 であれば、検査の一環?

 それにしては、リオちゃんからの指示が来ない。

 ああ見えて姉想いなオリの可愛い妹は、こういう時にはオリのことを心配させまいと頻繁に声をかけてくれるはずなのに……今はそれもない。

 

 すごく急に、電力供給が途絶えたような光の消え方。スピーカーから声が届かなくなったこと。

 まるで停電みたいだ……と。

 

 

 

 そう考えた瞬間、オリの背筋に怖気が走る。

 

 ビッグシスター、あの調月リオが管理する施設で、それも自分の検診を行う場で、停電が起きる?

 おおよそ在り得ることではない。

 

 戦闘時以外のオリは、そこまで頭が回る方ではない。

 故に、これがいつか味わった理不尽、超常的な不条理であるかもしれないとまでは、考えが及ばない。

 

 けれど同時、何か不測の事態が起こっていること……。

 そしてそれは、自らの妹たるリオを巻き込み得るものであるということは、即座に理解し。

 

「リオちゃん、開けて!」

 

 今も2枚の壁の向こうで自分の声を聞いているはずの妹に、声を投げかける。

 

 しかし、帰って来たのは数秒の静寂。

 本来ならばすぐさま声を返してくれるはずの妹は、反応を示さず。

 

 白々しい程に静かな時間が、過ぎた。

 

 

 

 問いかけから3秒。

 カチリと、オリの脳内でスイッチが切り替わる。

 この瞬間、彼女はこの場を「敵がいる可能性のある戦場」として定義した。

 

 戦う者として秀でる彼女の歪な神秘は、急激にその思考力を高め……。

 瞬時に、決断を下させた。

 

「ッ!!」

 

 躊躇いもなく、自らの神秘の力を行使して、機械の外へと転移。

 死角からの攻撃を警戒してトップスピードで部屋の中を駆けながら、状況の把握に努める。

 

 部屋の様子は……。

 電灯が消えて薄暗くはなっているものの、オリが機械に入った時と大きく変わらないように思える。

 銃撃音や戦闘音は聞こえない。硝煙の匂いもしない。

 この部屋は、戦場になってはいない。

 

 であれば、部屋の外は?

 そこにいるはずの、オリの大切な妹は?

 

 

 

「リオちゃん!!」

 

 オリは再び転移で壁を越え、リオがいるはずの場所の近くへと跳び……。

 

 

 

 ……そこで、机に突っ伏すようにして、身動き1つしない妹を見て、目を見開いた。

 

 

 

「っ、リオちゃん……リオちゃん起きて!」

 

 咄嗟に彼女に駆け寄ったオリは、嫌な予感に心を震わせながら、けれどそれから目を逸らし、必死にその肩を揺する。

 そうすれば、妹は当然身を起こすものと信じて。

 

「お願い……リオちゃん!!」

 

 慟哭するように、祈るように、必死にその名前を叫ぶ。

 

 それが意味を持つかどうかや、今何をすればいいか。そんなことを考える余裕は欠片もなく。

 オリはただ、自らの恐怖に突き動かされていた。

 

 自分の姉妹が、何かされたかもしれない。

 ……先の作戦でリオが味わったかもしれない恐怖が、今度はオリの思考を真っ白に染め上げた。

 

 何があったかは、わからない。

 いつ、何が起こったか。何故、誰が、どうやって?

 それらがすべて分からず……。

 

 けれどただ1つ確かなこととして、オリの大事な妹は、何らかの被害にあって……。

 

 

 

「……ん、ん」

「リオちゃ……ん?」

「オリ……? ……何、今、どうして……」

 

 ……被害にあって、いなかった。

 

 呟きながら、薄く目を開き、ゆっくりと上体を起こしたリオ。

 オリにかなり乱暴に揺すられたからか、彼女は混乱したように文章にならない単語をいくつか呟き……。

 

 緩慢な動きで首を回し、周りの状況を確認して。

 どうやら、自身が意識を失っていたらしいことを悟ったらしい。

 

「……気絶……していた、ようね。体に、許容限界を越えた負荷を与えた自覚はなかったのだけれど」

 

 そのリオらしい言い回しに、オリは深く安堵の息を吐いた。

 全身の緊張が解けると同時力も抜けてしまい、妹の座っていた椅子の肘かけにもたれかかる。

 

「はぁ……あぁ、もう、心配したよぉ!」

 

 最悪の事態に陥ったかとも思ったが、リオはどうやら、ただ意識を失っていただけだったらしい。

 

 いや、後でリオにも身体検査を受けてもらった方がいいかもしれないが……。

 ひとまず、軽く体を確かめたところ、すぐに分かるような傷や不調は見られない。精々が覚醒直後の混乱がある程度だ。

 

 

 

 いつの間にか気絶していたという意味では、前回の作戦でのオリを思わせる展開だが……。

 先生たちと合流するまでに20分近くかかったその時と今回は、状況が違う。

 

 リオの言葉が途絶えてから、オリが彼女の元に駆けつけるまで、おおよそ10秒強。

 痕跡も残さずリオに危害を加えるには、あまりにも短い時間だ。

 

 どうやら肘の内に注射を受けたらしいオリとは違い、リオは一切の被害を受けてはいないらしかった。

 

 何故リオが意識を失ったかは謎のままだが……。

 ひとまず、大切な人を喪うことだけは避けられた。

 

 それだけで、オリは心の底から安堵し、気を緩めてしまった。

 

 

 

 そうして、リオの目覚めから少し遅れて、部屋の電灯が灯る。

 

「停電、だったのかな……」

「そんなはずは……いいえ、確率的には起こり得ることではあるけれど」

 

 リオが眉を寄せる様子を見て、オリははっとする。

 

 今最も不安なのは、いつの間にか意識を失っていたリオだろう。

 妹を更に心配させるようでは姉失格である。

 

 故に、オリは彼女を安心させるように、柔らかく笑いかけた。

 

「まあいいや。取り敢えずリオちゃんも無事だし、荒らされたりしてる形跡もないし、なんてことない事故だったんじゃない?

 あ、データ盗まれてたりとかあったり? そっちは私からっきしわからないけど」

「少し待ちなさい。…………いいえ、痕跡は確認できないわ」

「うーん、これまたよくわからない……。前回といい、こういうのが続くねぇ。最近の流行りなのかな」

 

 

 

 それからも、2人はしばらくこの件について話し合っていたが……。

 

 結局、この一瞬の停電は、何らかのシステムの不具合だろうということで決着を付けた。

 

 そもそもビッグシスターのセキュリティを貫いて停電を起こすことなど、おおよそ同じだけの知性とハッキング能力を持つヒマリか、あるいは特異現象たるデカグラマトン程度しか成し得ないだろう。

 そして、前者であるにしては、これはあまりにも悪戯心に欠け。

 後者であるにしては、破壊や侵入の痕跡が一切合切見られない。

 

 勿論、デカグラマトンが痕跡も残さずにこれを行った可能性はある。

 が、それならばそもそも停電などというわかりやすいアクションを起こす必要はない。こっそりと侵入し目的を果たせばいいのだ。

 その上、前回の作戦で鹵獲した預言者ケテルの機体も、預言者たちから得られたデータも、どちらも回収されず無事であったことで、その可能性も比較的低いものと思われた。

 

 であれば、これは人災ではないのかもしれない。

 ただ極々低い確率で、リオの組んだ電力供給システムに不具合が発生し、偶発的な停電が起こった。

 リオの気絶に関しては、心身の負担が重なったことと、照明が落ちたことによる急激な感覚刺激によって、気絶してしまったのだろう……。

 

 ……と。

 当然、これからも原因は追究するとして。

 現段階で、もっとも可能性の高い仮説の1つとして、そう結論を出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 ミレニアム自治区を支配する、調月リオのおおよそ完全な管制システム。

 それに、たった20秒弱ではあれど、確かな隙ができた。

 

 その小さな綻びが、けれど大きな亀裂を生んだのだと……。

 

 オリがその事実に気付いたのは、翌朝。

 ヴェリタスの部室棟が崩壊したと、トキから報告を受けた後のことだった。

 

 







 あーもう(わけわからんこととか特異現象とか発生しすぎて)めちゃくちゃだよ。

 次回、開花。
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