調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のやべー方 vs. 災厄の狐 Ⅱ

 

 

 

 要塞都市エリドゥ、その中央タワー前。

 そこで今、2人の生徒が向き合っていた。

 

 片や天童アリス誘拐の主犯であり、現在は先生のことも攫って中央タワーに軟禁しようとしていた、ミレニアムの不条理、調月オリ。

 片や七囚人と呼ばれる生徒たちの1人であり、現在はシャーレの部員の1人として先生を救助に駆けつけた、災厄の狐、狐坂ワカモ。

 

 先生がキヴォトスに現れた日に同盟を結んだ2人はしかし、今やその意志を決裂させていた。

 

 

 

「……はぁ。部外者(エクストラ)には部外者(エクストラ)を、か。まさかあの日に言った言葉が自分に返って来るとは。

 本当は、この物語にあなたは関与しないはずなんだけどね、ワカモ」

 

 そう言いながら、オリはワカモから視線を外すことはなく、けれど視界の端で先生の安否を確かめる。

 

 咄嗟にその体を投げ出したために、先生のダメージにならないかを心配していたのだが……。

 

“ワカモ!? どうしてここに……!?”

 

 どうやらオリの咄嗟の力加減は十全に機能していたらしい。

 先生はむくりと立ち上がり、ワカモを見て驚いていた。

 

 血も流れていないし、そこまで痛そうにもしていない。

 取り敢えず、傷は負っていないらしい。

 ……あるいは、先生の持つタブレットから溢れる燐光が「そうさせた」のかもしれないが。

 

 

 

 内心で胸を撫で下ろしながら、オリはワカモに対して言葉を投げかけた。

 

「さて……それで、ワカモ。君はなんでここに来たのかな?

 いや、大体は理解はしているけどね。君が動くのなんて、先生を助けるため以外にないし」

 

 オリの言葉に、けれどワカモは答えることなく。

 堂々とオリから視線を外し、先生の方へと向けた。

 

「あなた様、どうぞ先へお進みください。ここは私が受け持ちましょう」

“ワカモ……”

「為すべきこと、為したいことを果たしてくださいませ。そのためならば、ワカモはいくらでもあなた様の力になりますわ」

“……うん、ありがとう。任せるね”

 

 そう先生は頷き、中央タワーの中に走って行く。

 

「ちょいちょいちょい、何言ってんの先生! この事件の主犯、倒すべきラスボスを前にしてどこに行こうって……」

 

 当然オリは先生を止めようとするが……。

 

“オリは私の敵じゃないよ。今回、私はここに、アリスを助けに来たんだから”

 

 その言葉に心を揺さぶられ、また動こうとした先にワカモの銃弾が突き刺さって、その動きを制されて。

 そのまま、先生は中央タワーの中へと入って行ってしまった。

 

 

 

 2人きりになったタワー前で、オリは後ろ頭を掻く。

 

「……はぁ、もう、やられた。

 トキちゃんの防衛ライン下げたらこのザマだよ、結局運命は覆らないってことね」

 

 少しだけ視線を落として、そう言った後。

 オリは改めて目線を上げ、その愛銃を下に向けるワカモを見やる。

 

「で。綺麗に先生を逃がされちゃったわけだけど……ワカモ、あなたはこれからどうする?

 目標達成ってことで帰る? それとも密かに先生の援護? あるいは……今こうして先生と敵対している私をぶち殺そうとするのかな?」

 

 「もしそうなら全力で相手するけど」と言い添えて、オリは腰からハンドガンとスタンバトンを抜き、その場で軽く構えるが……。

 

 ワカモは変わらず、その愛銃を構えることなく、下に向けたまま。

 コクリと首を傾げ、心底不思議だというように、オリに疑問の声を投げかけた。

 

「再度問いますが。……あなた、何をしているのです?」

「何って? 私は悪~い生徒だから、先生と敵対してるんだけど?」

 

 挑発するようなオリの言葉にも、ワカモは動じない。

 

 むしろ……珍しいことに、彼女は困惑しているのだ。

 

「面白くない冗談ですね。あなたがあのお方と敵対する? そんなことがあるわけがないでしょう」

「は?」

 

 困惑に眉を寄せるオリに、ワカモは言う。

 全く以て、彼女らしくない言葉を。

 

 

 

「あなたの先生への愛は、私も認めたもの。それが嘘である可能性はなく、であれば敵対などするはずもない。

 それなのに何故、先生と敵対するようなフリをしているのですか?」

 

 

 

 ……オリは、唖然と口を開けた。

 

 『あの子』から聞いていた狐坂ワカモの人物像は、独善的で混沌としたもの。

 まさか彼女から他者を評価するような言葉が聞けるとは思っていなかったし……特に、彼女が最も大切にする「愛」について、他者を認めるとは思っていなかった。

 

「…………」

 

 だからこそ、オリは咄嗟に言葉を返せず。

 ワカモの言葉は続く。

 

「理解できません。あなたは今、何のために動いているのです?

 この行動があのお方のためになるとは、到底思えませんが……それとも、これが最終的にあのお方のためになるとでも?」

 

 仮面越しでくぐもってはいたが、ワカモの言葉には確かな確信が込められていた。

 オリは、依然として先生の敵ではない、と。

 

 ……一瞬虚を突かれちゃったし、こりゃあ言い訳なんてできないか、と。

 オリは諦め、構えを解いて脱力した。

 

「はぁ……全く、先生といいあなたといい、目が良すぎるったら。

 そうだね、まぁ、あなたの言葉は間違ってない。私は確かに先生のことが好き。昔はひたすらに憧れてたし、今は親愛的にも恋愛的にも好きだよ。うん、そこは間違ってない」

 

 中央タワーの入り口、先生が消えていった方向を見て、オリは小さく笑う。

 

 先生は、この世界の主人公だと聞いていた。

 あらゆる生徒を助け、あらゆる生徒に好感を持たれる、この世界の中心。

 

 正直に言えば、オリは正しい意味ではそれを理解できていなかったが……。

 こうして付き合っている内に、やはり『あの子』の言葉は正しかったのだと理解できた。

 そりゃあ好きになるわ、こんな人、と。

 

 誰より大人で、生徒たちを導いて。

 けれどまるで子供のように、私たちの隣にいてくれる。

 

 特に、幼少から悪い大人とばかり接触していたオリにとって、その強すぎる善性は救いですらあったのだ。

 

 だからこそ、先生のことが好きである、という部分は間違っていない。

 

 

 

「けどね。ワカモちゃんには理解できないだろうけど……どうしたって、その人の味方をできないような場合だってあるのさ」

「……ほう?」

 

 オリは興味深げに相槌を打つワカモから視線を逸らし、空を……中央タワーを見上げる。

 そこにいる、大切な妹を。

 オリが愛する、もう1人の人を。

 

「……愛している人が、もう1人いれば。

 先生と同じくらいに、愛している人がいれば。

 その人と「絶対に裏切らない、お互いに姉妹として味方し続ける」って、ずっと昔に約束していれば。

 ……愛している人と、愛している人が、敵対してしまえば。あなたならどうする?」

 

 それはオリにとって、禅問答にも等しい問いだった。

 どうすればいいか、確かな答えなどない、けれど自分で選ぶしかない問題。

 

 妹と、恩師。そのどちらに味方をすればいいのか。

 オリは悩んだ末に……リオの味方として、先生と敵対することを選んだ。

 

 ……いいや、違う。

 結局、彼女は先生に対し、本格的には敵対できなかった。

 

 自分から先生に敵意や害意は向けられず、だからあちらから向けてほしいと、冷たい仮面を被り、「自分は先生の敵だ」と言い続けた。

 結局、先生が先生であるが故に、それは無意味に終わってしまったが。

 

 

 

 オリがずっと胸を締め付けられていた、難題。

 

 けれどそれに、狐坂ワカモは即答する。

 

「意味のない仮定です。私に、あの人以上に愛する相手など現れるはずがない。

 どれだけ好きになろうと、あの人への愛には劣る。であれば、ただより大きな愛を遂げるのみ」

 

 ワカモの言葉には、躊躇も迷いもなかった。

 狂愛が、狂おしい程の愛が、彼女の方向性を固く固く定めているが故に。

 その意志も判断も、決して揺らぐことはない。

 

 

 

 ……結局のところ、それがオリとワカモの、決定的な違いだ。

 

 ワカモはただ1人の相手だけを極限にまで愛する、狂気じみた心の強さがあり。

 オリは多くの人を愛してしまう、ただの凡人でしかない。

 

 だからこそ、オリの苦悩は、ワカモは理解できず。

 ワカモの狂気を、オリは共感できない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……うん。まぁ、想像通りだね。

 やっぱり私たちは、同盟は組めても、理解者にはなれない。お互いの精神性が決定的に違い過ぎる。

 だから……やろうか」

 

 改めてバトンと銃を構え直し……その視線を鋭く尖らせ、オリは告げる。

 

「私は今から、先生を害するよ。

 である以上、ワカモ。私が何を考えて居ようと、あなたはそれを止めなきゃいけない。でしょう?」

 

 戦いは避けられない。避ける必要もない。

 オリにとってワカモは、姉妹の計画の邪魔になる存在であり。

 ワカモにとってオリは、所詮はただの同盟関係であり、先生とは比べるべくもないのだから。

 

 

 

「私は構いませんが。……まさか、このワカモに勝つおつもりですか?」

 

 愛銃をくるりと回して構えたワカモは、自信露わにそう尋ねる。

 

 彼女は七囚人の中でも、またこのキヴォトスにおいても、トップレベルの武闘派だ。

 特にゲリラ的戦法、一方的に被害を与えて戦線を離脱することにおいて、彼女の横に並ぶ生徒はいない。

 それこそ各自治区の治安維持組織や最強と戦っても、十分に被害を与えることが可能だろう程に。

 

 そして、これまでにワカモは、一度たりとも「負けたことがない」。

 

 FOX小隊に捕らえられた時を筆頭に、戦術・戦略上わざと敗北することはあれど……。

 ワカモはその後、必ず拘束を脱し、目的と復讐を果たしてきた。

 

 故にこそ、絶対の自信を持って、彼女は災厄をもたらすのだ。

 

 

 

 ……しかし。

 あるいは、その強烈すぎる自信が故だろうか。

 

 ワカモは、理解できていなかった。

 

「ああ、うん。勝つつもりだよ。

 ────手段を選ばず、不条理にね」

 

 目の前にいるのも、また、キヴォトスにおける頂点に立つ1人であり……。

 

 

 

 今、彼女は、ただ1人で戦っているわけではない、ということに。

 

 

 

「それな、」

 

 それならば、あなたはここで終わりです……と。

 

 そう言いかけたワカモは、咄嗟に、その身を躍らせる。

 

 彼女の野性的な直感が、「その場にいれば確実に自分は負ける」と理解させ。

 余計な思考の尽くを捨て去らせ、全身全霊の力で後先考えることすらなく、その場から離れようと全力で跳躍させて……。

 

 

 

 ……けれど。

 マッハ58にも届く破壊を、完全に回避するには至らなかった。

 

 

 

 ぶちぶちぶち、と。

 ワカモは、自身の筋肉と繊維、骨が「千切れる」音を聞く。

 

 もはや視認も感知もできないそれは、凄まじい、けれど指向性を持った衝撃波を伴い……。

 

 ワカモの左半身を、容赦なく穿った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……ふざけてんでしょ、ワカモ」

 

 オリはワカモが身を躍らせた瞬間、瞬間移動でビルの屋上に逃れ、その光景を見ていた。

 

 遠方から凄まじい勢いで飛来した凶弾の被害を……。

 

 ワカモが、最低限に収めるところを。

 

 

 

 彼女はその弾丸に左半身を呑まれ、衝撃波によって跳ね飛ばされて、ビルに突っ込んだ……。

 ……ように見えた。

 

 けれど、実態は違う。

 彼女は全力で横に跳ぶことで、体のごく一部以外の全てを、全てを弾丸の射線から逃し切っていた。

 

 弾丸が命中したのは、左手の薬指の先端だけ。

 そこを中心に左腕は持って行ったが……直後の衝撃波は完全に受け流し、ビルに突っ込みつつも受け身を取ってダメージを減らしていた。

 

 ……つまるところ。

 

「注意引き付けて不意打ち、超音速の一撃で……潰せたの、左腕の肘から先だけ?

 もう、それじゃどうしろっていうんだよ。ホシノといいネルパイといい、トップ勢は理不尽すぎるったら」

 

 自分もそのトップ勢の一員であることは棚に上げ、オリは渋い顔をした。

 

 

 

 本来なら、今の一撃でワカモを戦闘不能にするはずだった。

 

 この砲撃の威力は、既に()()()()

 ()()段階よりも更に威力を高めたそれは、どれほど強力な神秘を持つ生徒であれど、一撃でその戦闘能力を……下手をすればそのヘイローすらも奪いかねないもの。

 それこそ()()()()の装甲すらも貫き得る、調月姉妹の持つ最大火力である。

 

 更に言えば、カタログスペック上の最大速度をマッハ60とするそれは、おおよそ回避できない。

 射程は理論上、直線1600キロメートル。勿論世界が球状である以上地上への砲撃距離は制限されるが、それでも生徒の視界の外から攻撃を行うには十分。

 そして、発射のタイミングも場所も射角もわからない状態からでは、秒速20キロメートルを超える速度の攻撃を回避することなど、できようはずもない。

 

 だからこそ、その不意打ちは必殺の一撃となるはずだったのだ。

 

 ……それなのに。

 ワカモは、回避できないはずのそれを、回避した。

 

 勿論、その射撃が自分に迫っていることを認識してからでは間に合わない。

 外界から情報を得て、それを正しく理解し、対抗策を考え、それを体に実行させる。

 どれだけ鍛え上げようと、人間はそれらの思考に0.1秒以上の時間を使ってしまうし……。

 それだけの時間があれば、この砲撃は対象を貫くことができる。

 

 では、どうやってワカモはそれを回避したのか?

 答えは簡単だ。

 

 ()()が砲撃を開始する1秒前から、彼女は動き出していた。

 

「ネルパイみたいな戦闘センス、実戦経験に基づく理屈詰めの直感じゃない。

 本当に一切の理屈を含まない……完全なる第六感か。クソ、一番厄介なヤツじゃんね、それ」

 

 

 

 ぼやきながら、屋上で待ち構えるオリ。

 

 十数秒後。

 まるで彼女の期待に応えるように、壁を蹴って登って来た少女が、そこに降り立つ。

 

「……なかなか、面白いことをしてくれますね」

 

 底冷えする声で、狐坂ワカモはそう言った。

 

 無事、ではない。

 彼女の身を包む衣服の内、左半身はボロボロになってしまっており、特に左腕の部分は跡形も残らず千切れ飛んでしまった。

 当然ながら、彼女の肉体も無事では済んでいない。

 骨も折れ、肉も千切れかけているのだろう、ぶらりと垂らされたそれはもはや真っ当に機能しないはずだ。

 この上なく優れた彼女の神秘であれば、あるいはいずれ後遺症もなく完治するかもしれないが……少なくとも、その「いずれ」は「今」ではない。

 

 けれど、そのような手傷を負っておきながら、彼女の圧は全く衰えることがない。

 いいや、むしろ、その冷たさと鋭さ、あるいは燃え上がるような熱を増していた。

 

 仮にも同盟を組んだ相手であり、本質的には()()()()()のであろう相手を前にして、先程までのワカモはギアが入っていなかった。

 謂わば「どうにもやる気が出ない」状態だった。

 

 けれど、今の攻撃による痛みと衝撃が、彼女の獣性を呼び起こした。

 今この瞬間、調月オリは、狐坂ワカモの敵となったのだ。

 

 

 

「今のは?」

 

 ちらりと、自分を貫いた弾丸が飛んで来た方向へと視線をやりながら、ワカモは尋ねる。

 

 相手が答えて当然と思っている、むしろ答えさせてやると言わんばかりの、上位者としての圧を孕んだ声音。

 それに対し、オリは平然と、いつも通りの口調で答える。

 

「今のはって、ワカモ、あの時も私たちのこと見てたじゃん。それならあなたも知ってるでしょ」

 

 そうしてオリは……この都市を支配する調月姉妹の姉の方は、自慢そうに語った。

 

 

 

「リオちゃんが私に創ってくれた『武装』……その名を、『サムス・イルナ』。

 いつぞやビナーの鱗さえもぶち抜いた、私の妹の作った最強の兵器。そのロールアウト版だよ」

 

 

 







 tips
 「試製サムス・イルナ」は、デカグラマトン特殊作戦・アビドス砂漠編でオリが持ち出したクソデカレールガン。ビナーのカチカチ装甲を貫いた一品。



(雑記)
 デカグラマトン・コクマー追加!
 メインストーリー化!
 新章開放!
 イベントも開催!
 あーもう二次創作めちゃくちゃだよ! 設定に矛盾が出ないことを伏して祈るばかり。
 炎の剣は旧約聖書的にはケルビムとか楽園関係になると思いますが、果たして。
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