調月姉妹のくれー方
「ゲー開部?」
“あ、そういう略し方するの?”
「いや、これは私が勝手に呼んでるだけだけど……ゲーム開発部を知ってるかって?」
ある日、ミレニアムサイエンススクールを訪れた先生の問いかけに、オリは首を傾げた。
「知ってるかと言われれば、そりゃあ知ってるよ。
言ったっけ、私色んな部活の助っ人みたいなことしててさ、ゲー開部にも時々出入りしてるから」
「とは言っても、殆どは協力プレイとか対戦プレイの申し入れなんだけど」と付け加えながら、オリは先生の横を歩く。
昨夜、珍しく先生の方から連絡をもらい、平静を装いつつもけっこう舞い上がっていたオリだったが、話を聞いてみるに、どうやらミレニアムに行く用事ができたから案内してもらいたいとのこと。
一も二もなく承諾したオリは、改めて今日、こうしてミレニアムサイエンススクールを共に歩いていたのだが……。
“実は、ゲーム開発部の子たちから連絡をもらってね。ちょっと詳しくはわからなかったんだけど、廃部の危機だから助けてほしいって”
「あぁうん、なるほど。大体理解した。そっか……始まったんだね、これ」
“始まった? 何が?”
「先生の新しい冒険……あるいは新しい物語、みたいな?」
ちょっとふざけたようにそう言ったオリは、続けてゲーム開発部について説明しようとし……。
しかし、次の瞬間。
ぬるりと、流れるような、そして目にも留まらぬ動きで、先生の右側に回り込む。
そして、すさまじい勢いで飛んできた細長く四角く重い未確認飛行物体をバシッと掴み、勢いそのまま投げ返した。
殆ど同じ勢いで投げ返された物体は、そのまま飛んできた元の方向に返っていき……。
開けられていた窓の中へと突っ込み、中から「ぎゃふん!」という声を響かせた。
“……オリ? え、今何したの?”
あまりに流麗で自然な動きに、先生は何が起こったかわからず目をパチクリさせている。
一方でオリは、軽くこめかみを押さえてため息を吐いた。
「……まぁ、うん。取り敢えず、当人たちに話を聞こうか」
* * *
先生とオリの向かった先、ゲーム開発部の部室には、2人の少女が待っていた。
頭を抱えて涙目でうずくまる、桃色の瞳をした少女。
そんな少女に呆れた目を向ける、緑色の瞳をした少女。
2人の少女は、その瞳や一部の装飾品を除けば、これ以上ない程似通っている。
金の髪に小柄な体格、まだ子供らしさが抜けきらない童顔。
その類似性からもわかるように、彼女たちはミレニアムサイエンススクールに所属する、調月姉妹以外のもう一組の双子。
ゲーム開発部所属、才羽モモイと才羽ミドリだった。
「ハロー、モモイ、ミドリ。元気……じゃなさそうだね」
「あ、オリ先輩……ごめんなさい、お姉ちゃん、ちょっとバチが当たっちゃって」
「バチってなんだよぅ! ちょっとプライステーション投げただけでしょ!」
「物に当たるのは十分悪いことだと思うけど」
ため息を吐いた才羽姉妹の妹の方であるミドリは、改めてオリの後ろにいる大人に目をやった。
「……あれ、お客さんですか?」
「そうだよ、私が今日来たのは、この人の案内。この人こそ、お待ちかねのシャーレの先生だよ」
「えっ、シャーレの先生!?」
頭を抱えていたモモイはガバっと立ち上がり、オリと先生の元に走り寄る。
痛みが消えたというよりも、必死さに痛みを忘れたといった様子で、彼女は先生の袖を握りしめた。
「お願い、先生! ゲーム開発部を助けて!!」
それから、部室を訪れたユウカとの会話も合わせて、先生とオリはゲーム開発部の現状を知る。
とはいえ、オリは元より知っていた情報ではあったのだが。
「えー、整理すると、ゲー開部は現在存続の危機にある。
問題点は大きく分けて2つ。1つが部員の不足で、もう1つが実績の不足。
このどちらか解決しないと廃部にするってセミナーから何度か勧告されてて、ついに先日廃部が決定した、と」
「そーなんだよ! 酷いと思わない!?」
“うーん……”
「いや、酷くはないかな。規則は規則だしね」
言葉に詰まる先生の代わりに、オリはすぱっと切り捨てた。
そもそもゲーム開発部が廃部するというのは、ミレニアムの公認の部活ではなくなるという意味だ。
非公認の同窓会としてなら、問題なく活動は続けられる。
その場合、状況的に今と変わるのは、セミナーから部活動の予算が下りるかどうかと、公認で使える部室があるかどうか。
つまるところ、モモイたちが困っているのは、部活の予算や部室がなくなることなのだ。
そして、部活の予算や活動拠点をミレニアムからもらう以上、規則はきちんと守らねばならない。
部員や実績が不足している団体全てに乞われるだけ予算を下ろしていれば、セミナーは破産秒読みだ。
今回の廃部決定は、決して非情なものではない。むしろ再三通告したり猶予を与えているだけ有情な対処と言えよう。
が、そんなことはモモイたちには関係ない。
彼女たちも彼女たちで、引くに引けない理由がある。
だからこそ、なんとかこのセミナーの決定を覆そうと、駄目元でシャーレの先生にまでコンタクトを取ったのだ。
「もうっ、ていうかそもそも、オリがウチに来てくれれば問題なかったんだからね! なんなら今からでもいいから来てよ! そうすれば廃部の話はなくなるんだし!」
「いや、私はシャーレ部員だし、ゲー開部には入らないよ。……ていうか、確かこの前の会議で……」
部員数が十分でも実績がないと駄目になったはず、と続けようとするオリの言葉を遮り、モモイは頬を膨らませた。
「いいじゃん、入ってよう! ミドリもユズも歓迎だよ! ね?」
「あ、はい。私もオリ先輩なら」
ミドリの頷きに続き、部室の隅に寄せられたロッカーの扉が少しだけ開く。
そしてその中から、赤髪の少女が顔を覗かせた。
「私もっ、あっ!」
しかし、その薄い青の瞳が先生と視線を合わせると、彼女は慌ててロッカーの中にこもってしまう。
呆気に取られる先生に、オリはロッカーを手で示し、紹介。
「あ、先生、あの子がユズだよ。ゲー開部の部長さん。でもちょっと恥ずかしがり屋さんだから、無理に顔を見ようとかはしないであげてね」
“そっか……うん、よろしくね、ユズ”
先生の言葉に、カタリとロッカーが震える。
いくら肯定の意思を表したかったとしても、初対面の相手がいる時に、ユズがロッカーから顔を出すのは珍しい。
モモイとミドリは驚きに目を見開いたが……。
しかし、モモイは直後に思い直し、オリに迫った。
「いや、そうじゃなくて! 別にシャーレと兼部でもいいからさ、お願いオリ!」
そう言い手を合わせるモモイに、オリはそれでも緩く首を振る。
「ごめんね、モモイ。ちょっと悪いとは思うけど、それはできないんだ」
「なんで!? ウチに入ったらゲームし放題だよ!?」
「それは魅力的だけど……うーん、理由かぁ。
私、シャーレの活動に集中したいし、それ以外の時間は色々とやることもあるんだよ。
それと、名前貸しじゃなく、ちゃんとした部員を迎えた方がいい。その方がゲー開部のためにもなるはずだよ」
「うーっ、そんな正論聞きたくなーいっ!!」
むきーっと爆発しかけたモモイを、ミドリが手慣れた様子で抑える。
「お姉ちゃん、オリ先輩の勧誘はもう諦めたでしょ。それに、今回はプランがあるんでしょ? そっちの話はしなくてもいいの?」
「あっ、そうだった!」
ミドリの言葉に本来の作戦を思い出し、先程までの怒りはどこへやら、どやりと胸を張って言った。
「よし、それじゃ先生! 『廃墟』に行こう!!」
* * *
ゲーム開発部の部室で、モモイが高らかにこれからのことを宣言してから1時間。
ロッカーから出られないユズを除いたゲーム開発部2人と先生、そして先生のボディガードを兼ねるオリは、ミレニアムの廃墟に来ていた。
モモイ曰く、ゲーム開発部の最大の打開策は、ミレニアム中の新たな開発と発明が発表され評価される、ミレニアムプライス。
自分たちが作ったゲームがここで賞を獲れば、セミナーだって認めざるを得ない十分な実績になるだろう、とモモイは語った。
とは言っても、これはどちらかと言えば消去法での選択。
友人が多い訳ではないモモイとミドリ、そして人とのコミュニケーションが得意ではないユズにとって、新たな部員確保は困難。
であれば、部員ではなく実績作りで攻めるしかない、という判断であったのだが……。
続けてモモイは、ミレニアムプライスで評価されるようなゲームを作るためには、「G.Bible」なるモノが必要だと主張する。
「G.Bible」とは、かつてミレニアムにいたとされる天才的ゲームクリエイターが作ったとされるナニカ。
その中には、「最高のゲームを作れる秘密の方法」が入っているとのことだ。
そしてモモイがヴェリタスに頼って「G.bible」の最終稼働座標を割り出した結果、それは現在、どうやらこの廃墟にあるらしいとの結論が出た。
そんなわけで、一行はその正体もわからなければ形や形式も定かではないモノを探しに、はるばる廃墟にまでやってきたのだった。
「……廃墟って、こんな簡単に来るべき場所じゃないんだけどねぇ」
オリはため息を吐きながら、一行の最後尾を歩き、隙なく周りを見回している。
その手に握られているのは、彼女がいつも使っている拳銃ではなく、かなり物々しいショットガンだ。
廃墟に行くと決まった後、彼女が一度ミレニアムタワーに赴いて回収してきた、サブの武装である。
オリの横隣を歩いていた先生は、しげしげとそれを眺め、声をかける。
“オリ、拳銃以外も使うんだね”
「私としては、むしろみんな場所を選ばず1つの武器しか使わないのが『なんで?』って感じだけどね。
この廃墟では小柄の拳銃なんか使ってられないんだよ。相手は基本人じゃなくてロボットだし」
それを聞いた先生は、コクリと小首を傾げる。
“ここってそんな危険な場所なの?”
オリは先生の呑気すぎる言葉に一瞬呆気に取られた後、先生が外から来た人間であることを思い出して、知らないのも仕方ないかと肩を落とした。
「……ここはミレニアムが『管理するにはコストとリターンが釣り合わない』って判断して放棄した都市区画なんだよ。私の知人なんかは『時代から忘れられたものが流れ着く下水道』とか言ってた。
一度迷ったら生きては帰れないとまで言われる複雑で迷宮化した地下構造、どこで生産されてるかもわからず侵入者に敵対的な兵器群、極めつけには時折見つかる明らかに異常なオーバーテクノロジー。
ミレニアムで危険地帯を3つ選ぶのなら、エンジニア部の部室とC&Cの周り、そしてここが挙げられるくらいだ」
先生はそれを聞いて“困ったなぁ”と言いたげな表情を浮かべる。
知らなかったとはいえ、大事な生徒をそんな危険地帯に連れて来てしまったことを、失態と感じているのだろう。
“……ちなみに、モモイとミドリってどれくらい戦える?”
「そこは大丈夫、2人一緒なら結構戦える方だと思うよ。ゲーム感覚っていうか、連帯感がすごいっていうか、ちょっと不思議な感じではあるけど、2人セットなら私相手でも数十秒は持つくらい。
今回は私もいるし、先生の指揮もあれば戦力は十分かな。……ヤバいところに足を踏み入れない限りは、だけども。
不意打ちは私が警戒するから、先生は会敵した時の指揮をお願いね」
“わかった。よろしくお願いするよ、オリ”
「シャーレの部員として、先生に監督不行き届きの汚名を着せるわけにはいかないからねぇ」
キシシといたずらっぽく笑った後、オリは改めて前の方を見やる。
元気いっぱいに突っ込んでいこうとするモモイと、それをなんとか抑えようとするミドリ。
それを眺めて、オリはどこか優し気な表情を浮かべた。
「……それに、あの子たちのことも、放ってはおけないしね」
“やっぱり、あの2人とは仲が良いの?”
「あはは、まぁね! 同じ双子の親近感ってヤツかな? あの2人……というか、ゲー開部とは結構仲良くさせてもらってる。
先生も、目をかけてあげてくれたら嬉しいよ。今回もそうだけど、何かと危なっかしい子たちだからさ」
“勿論。あの子たちも、私の生徒だからね”
「先生ならそう言うと思った」
クスリと笑い、オリは周りに視界をやりながら、尋ねる。
「……ところで先生は、『G.Bible』って何だと思う?」
“うーん……あまり詳しくないけど、すごく汎用性が高くて使いやすいソースコードとか?”
「そういう類のものなら、忘れ去られてこんな場所に埋もれるとは思えないんだよね。
ゲームメーカーの企業も馬鹿じゃないし、多少お金使っても確保してそうじゃない?」
“なるほど、確かに。だとすると、直接的に、あるいは即座に役に立つものじゃないってこと?”
「かもねぇ。ま、単純に何かしらの事情で使えなかったのかもしれないけど」
“うーん……”
もしも「G.Bible」が役に立たないもの、あるいは使えないものだった場合、ゲーム開発部の目論見は大きく外れてしまうことになる。
その場合は、部活メンバーを募集する方向になるかもしれないが……。
「ま、いいじゃん、駄目なら駄目で。
もしどうにもならなくなった時は、私がなんとかするよ。リオちゃん私には比較的甘いし、死ぬ気で拝み倒せば1週間くらいは延命してもらえると思う」
“死ぬ気でやって1週間なんだ……”
「なはは、リオちゃんから1週間の譲歩を引き出すのってなかなかすごいことなんだよ? いつもなら1秒すら妥協しない性格だからさ。
それに、1週間あればなんとかなるよ。私こう見えて交友範囲広いし、あの子たちと合うゲーム好きな子を探し出すくらいはなんとかなると思う。
だから今は、あの子たちの頑張りを応援してあげようかなーって」
穏やかな笑顔で、事が終わる前から始末の計画を立てているオリに、先生は自然と笑顔を浮かべた。
“……オリは、みんなより少しだけ大人なんだね”
「え、どしたのいきなり、ちょっとビックリ。
てか、誇ることじゃないけど、私すっごい子供だよ? 聞いたでしょ、プリン欲しさに座り込みしたとか、ゲームのクオリティに納得できずに会社に殴り込んだとかって。
あんまり詳しくないけど、大人ってそういうことしないんでしょ?」
“そうだね。だから、少しだけ大人。
みんなより少しだけ先を見て、みんなの意思を尊重しながら、その責任を取る……。ゲーム開発部の3人のために頑張ってくれてるんだよね”
「あは、そう言われると私、なんだか聖人君子みたいだね?
あの子たちを応援してるのだって、ただ自分のやりたいようにやってるだけなんだけどなぁ〜?」
少しふざけたようなオリの言葉に、それでも先生は真摯に応える。
“そっか。……じゃあやっぱり、オリはお姉ちゃんなんだね。自分から進んで誰かの面倒を見ることのできるお姉ちゃんだ”
その言葉に、オリは青い瞳を皿のように見開いて……。
数瞬の後に、俯きがちに、呟く。
「そっか。……私、リオちゃんとかゲー開部のお姉ちゃん、やれてるのかな」
“少なくとも、ゲーム開発部のお姉ちゃんはやれてると思うよ。そういう意味で、やっぱりオリは少しだけ大人だ”
「先生。……あー、まったくもう。この人、ホント人たらしだなぁ」
後半は半ば独り言のように言い、先生の顔から視線を逸らすオリ。
その顔には、いつもの明るく朗らかなものではない、少しばかり恥ずかし気な色が浮かんでいた。
少しばかり気まずく、あるいは良い雰囲気になりかけた2人。
しかし、オリはすぐに表情を取り繕い、先生にいつもの笑顔を向けた。
ただし、それはいささか照れ隠しの混じったものではあったが。
「ピコーン! 調月オリちゃんの絆ランクが上がった! 特典として、先生に1つ、私の秘密を教えてあげるね!」
“お、嬉しいな。どんな秘密?”
訊いた先生に、オリはショットガンを構えていた片手を離し、自分の胸に当てる。
「……結構アレな話だけど、あんまり重く捉えないでね? でも私のとっておきの秘密の1つだから、あんまり軽く流しすぎないで。
難しいだろうけど、空気読み100点の、程々な反応を期待します」
明るい笑顔のままに、オリは先生に向かって、秘密を打ち明ける。
未だ、知る者が両手の指よりも少ない、彼女の出生の秘密を。
「私、この世界に生まれるはずじゃなかったんだ。死産になる
“……それはどういう、”
先生がその真意を問い質そうとした、その瞬間。
オリが真後ろに向かって、咄嗟に構え直したショットガンの引き金を引いた。
先生が身を竦ませる程の轟音と共に、いつの間にか彼女たちの背後を取っていたアタックドローンは撃ち落とされ、煙を上げながら残骸と共に墜落。
それを契機として、ビルの陰からわらわらとオートマタやドローンが一斉に顔を出し始めた。
オリはゆったりと振り向き、苦笑しながら頭を掻いた。
「これまたすっごいタイミング、めちゃくちゃ焦らすような感じになっちゃったね。
ま、勢いで変なこと言っちゃったなって思ってたところだったし、この話の続きは次の機会に。今は邪魔者を蹴散らすとしましょう!」
銃声で後方の異変に気付き、慌てて駆け寄って来たモモイやミドリと並んで、オリはその銃を構える。
ミレニアム有数の危険地帯「廃墟」の洗礼が、先生率いる生徒たちに襲い掛かった。
対策委員会編3章来たら最高に嬉しいな~と思ってたら対策委員会編3章が来たので最高に嬉しかったです(小並感)。
アリ夏もほぼ確定したし、あまりにも幸せな2024年が始まった。