調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉とやべー愛

 

 

 

 アバンギャルド君という謎めいた敵との戦闘を終えた後、調月オリの手によって攫われた先生。

 

 けれど、中央タワーへと軟禁される直前、どちらの陣営にとっても予想外な闖入者の介入によって、先生はオリの拘束を脱することができた。

 

 その後、先生は中央タワーに逃げ込み。

 すぐさま、生徒たちに連絡を取った。

 

 

 

 近況の報告、情報の共有、そして自分の安否と現在地の通達。

 先生からそれを聞いた生徒たちは、口々に驚きや安堵を漏らしながら、先生の元へと……エリドゥ中央タワーへと駆けつけた。

 

 中でも一番早く辿り着いたのは、エンジニア部と別れて先生を捜索していたゲーム開発部。

 聞くに、彼女たちは元々、ユズの提案から中央タワー周辺を探そうとしていたらしい。

 

「先生! 大丈夫!?」

「よかったです、ご無事で……!」

「おっ……オリ、先輩は、どこに……!?」

 

 再会を喜ぶ才羽姉妹と、先程先生を攫われた反省からか、息を切らしながらもオリの姿を探すユズ。

 対して、先生はその疑問に答えようとして……。

 

“オリは……”

 

 その時、遠くの方で、爆音と炎が瞬いた。

 これまでに何度か聞こえて来た砲撃らしい鋭いものではない、キヴォトスに来てから聞き慣れてしまった破壊をもたらす爆発音。

 

 ……どうやら、駆け付けてくれた助っ人は、いつも通りとても強引な手段を使ってしまっているらしい。

 

 先生としては、そのあまりに過激な手段を肯定することはできず……。

 けれど、そういったものは生徒自身がその欠陥に気付くべきだという思考、そして今はそれに助けられているという事情から、積極的に否定することもできず。

 

 曖昧な笑顔と共に、胸中で密かに感謝の言葉を告げて、言った。

 

“今は、私の生徒が引き付けてくれてる”

“今の内に、タワーの中にいるはずのアリスを助けよう”

 

 

 

 そして、それからしばらく。

 

 先生を探してくれていたゲーム開発部、エンジニア部……そして、陽動をこなしてくれていたC&C。

 ハッカー集団ヴェリタスによるナビゲートの元、アリス奪還チームの全員が、中央タワーに集結したのだった。

 

「最悪の事態は避けられたね。先生がいるのなら、まだまだ戦況は五分だ」

「遅れてわりぃ、思ったより厄介な野郎にぶつかってよ。……けど、アイツの動きはもう覚えた。次回はぜってぇにボコボコにしてやる」

 

 アリスを救出するためのメンバーは、揃った。

 アリスは今、先生たちのいる中央タワーの中……セミナーのノアがもたらした情報が正しければ、高確率で最上階にいるとのことだった。

 

 あとは、この塔のような建物を登って、彼女を助け出すだけだ。

 

“……よし、みんな、行こう”

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 そう上手く事が進む程、この都市は……調月姉妹は甘くはない。

 

 

 

 

 

 

 ひとまずは、このタワーの階層間を繋いでいるらしいエレベーターを目指した一向だったが……。

 彼女たちの前に、1人の生徒が立ち塞がる。

 

「お待ちしておりました……先生、そして先輩方」

 

 エレベーターの前に、まるで門番のように立ち塞がる、少女。

 長いベージュの髪を後ろに結い、怜悧な瞳で一行を見つめているのは、調月姉妹が従者として……唯一信頼に足る他人として、認めた少女。

 

 そして先生は、その声に、聞き覚えがあった。

 

“君は……あの時の”

 

 以前、オリヒメと初めて言葉を交わした際、先生をそこへと導いてくれた声。

 そして先日、デカグラマトン特殊作戦で、オリの意識が途絶えたと伝えてくれた声。

 

 それを発した生徒が、今、目の前にいる。

 

「改めて、自己紹介を。

 私の名前は、飛鳥馬トキ。調月リオ様、調月オリ様の侍従をしております。

 ……そして、現在私が仰せつかっている仕事は、皆様の排除とこの場所の封鎖。

 皆様が退かないのであれば……私の持ち得る全力で、お相手させていただきます」

 

 そう言って。

 調月姉妹の従者だと名乗った少女は、ようやく、先生の前に姿を現したのだった。

 

 

 

 それに対し。

 彼女から先生を守るように、C&C部長、美甘ネルが、1歩前に出る。

 

「このタワーは都市の管制を担う、重要な建物って話だったよな? つまりはいくらビッグシスターだからって、このタワーまでぐちゃぐちゃと動かしたりはできねぇはずだ。

 もうてめぇを守ってくれるものはねぇぞ、どのツラ下げてあたしたちの前に顔を出しやがった?」

 

 その威圧的な言葉を聞いて、先生は先程ネルの言っていた「厄介な野郎」が彼女であることを察する。

 

 けれどトキの方は、その言葉をなんら気にした様子もなく、平然と受け流した。

 

「ええ、確かに。皆さまがこの中央タワーに到着したことで、エリドゥの都市構造変更機能はその意味を為さなくなりました。

 ……ですので、リオ様からは、プラン変更の許可を頂いております」

「あぁ? プランの変更?」

「ええ。……『アビ・エシュフ』への移行を」

 

 

 

 パサリと、トキが身に纏っていた軽装のメイド服が、その場に落ちる。

 残ったのは、頭に付けたヘッドドレスと薄い生地のインナーだけを纏った、あまりに無防備に思える姿態。

 

 けれど。

 先生たちがそれに驚くよりも早く、次の変化が訪れる。

 

『っ、何か来る!』

 

 ヴェリタスの副部長であるチヒロの言葉と共に……。

 

 横手から壁を破壊しながら、何か大きなものが、その場に突っ込んで来た。

 

 舞い上がる破片と爆風に思わず目を腕で覆う一行の前で。

 トキは素早くそれに……補給ポッドを模した、円筒状の機械に乗り込む。

 

 彼女が指定の動きで四肢を入れ込めばすぐさま機械的に固定され、各所が展開するように人型へと変形。

 最後に、後ろ頭から頭上を通って回り込んだバイザーが……オリが着けていたものと同じそれが、トキの目を覆い隠す。

 

 この間、僅か1秒弱。

 チームが再び目の前の敵に目をやった時……そこには、巨大なパワードスーツを纏う、敵の姿があった。

 

「……パワードスーツ、『アビ・エシュフ』、起動。

 これより、戦闘を開始します」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 調月リオは、自らの姉と従者に、1つずつ『武装』を提供した。

 

 姉には、『超音速自走レールガン(サムス・イルナ・ケテル)』を。

 預言者の抜け殻を活用し、超抜的な破壊力と機動性を両立した、1つの思考により支配されるもう1つの体、究極の暴力を。

 

 従者には、『未来演算強化義体(アビ・エシュフ)』を。

 都市中の電力と演算能力を用いて行われる未来予知、それによる被弾の極限までの軽減を企図した、絶対的な防御性能、究極の頭脳を。

 

 十分に発達した科学は魔法と見分けが付かない。

 ビッグシスターの手に成る、奇跡が如き2つの兵器。

 それこそが、この戦場で先生たちが打破せねばならない、恐るべき相手だ。

 

 

 

 そしてその内の片方、暴力を担う側面たるサムス・イルナ・ケテル。

 

 デカグラマトンの預言者ケテルが残した機体は、尋常な科学では考えられない性能を持っていた。

 いくらビッグシスターとはいえど、その常軌を逸していると言う他ない性能を、人工的に再現することは不可能だった。

 預言者ケテルの抜け殻は、最高峰の頭脳をして特異現象の1つと認めせしめたのだ。

 

 その性能はしかし、機能そのままに改造され、『武装』として組み込まれた今も変わらず。

 全長30メートルの巨体をそこまで重厚でもない四脚で支え切り、それどころか時速300km以上の速度でそれを動かし慣性を制御、極めつけには走行を行いながら巨大な銃口からの砲撃すらをも可能とする。

 

 理論と科学によって構成されたロマン砲とでも呼ぶべき超火力の代償を、法則と常識を超越する特異現象によって完全に打ち消している。

 残ったのは、秒速100メートル弱の速度で自由自在に走り回りながら即死級の砲撃を行う、それこそ列車砲シェマタもかくやという脅威。

 

 それこそが、調月リオが創り上げた、もう1つの『武装』。

 調月オリの持つ「対個人に向けた、不条理な暴力」の象徴だった。

 

 

 

 ……そして、中央タワーから離れることしばらく。

 エリドゥの一画にて。

 

 その砲撃が、今。

 間違いなく、完璧に。

 

 狐坂ワカモを貫いた。

 

 

 

 足場にできる支えがない、空中という場所。

 オリの攻撃を躱そうと、体を逸らした瞬間。

 

 ……ワカモが決して、抵抗も回避もできない、刹那の隙。

 

 オリはずっと、それを待ち望んでいた。

 その瞬間を……獣が気を抜くその瞬間を作るために、様々な偽装を施していた。

 

 ケテルの機体を組み込んだサムス・イルナに、しかし従来の仕様に基づいて、レール上での運用を行わせたこともそう。

 レールさえ破壊すれば砲台は無力化すると誤認させるためだ。

 

 オリが本気を出すことなく、ワカモにレールを破壊させていったのもそう。

 順調に戦況を好転させていると思わせるためだ。

 

 追い詰められた時、砲台を特攻させたのもそう。

 レールから外れて落ちて体勢を崩し、砲台としての機能を喪失したと思わせるためだ。

 

 最後の瞬間に転移し、躱されるとわかって攻撃を仕掛けたのもそう。

 砲台から意識を逸らさせ、回避行動によって致命的な隙を作らせるためだ。

 

 それは。

 最初から、一人の強者を……本来のプランであれば美甘ネルを、完膚なきまでに打ち倒し、あるいは撃ち滅ぼして、障害を排除するために造られた計算尽くの行動だった。

 

 

 

 調月リオによって企てられたこの策謀は、本来狙った相手にこそならなかったものの、同じく頂点級の強者たる狐坂ワカモに対しても十全に働き。

 

 直撃を受けたワカモは、エリドゥの高架を支える柱へと、目で追うことも困難な速度で叩き付けられ……力なく、地面へと墜落した。

 まるで押し花のような、赤い跡だけを残して。

 

 

 

「……さて、終わりか」

 

 その顛末を見届けて。

 ビルの排水管に掴まっていたオリは呟き、軽く思考を動かす。

 サムス・イルナ・ケテルはその意思に従い、オリの直下へと移動。

 殆ど下を見ることもなくオリはその手を離し、機体の上に着地した。

 

 オリの『武装』は、彼女自身の意思に基づいて稼働する、もう1つの体だ。

 人が自らの手が動くことを疑わないように、見えずとも自在にコントロールすることができるように。

 サムス・イルナ・ケテルは現在、完全にオリの制御下にあった。

 

「計画とは違う相手だけど、初見殺しは問題なく成功か。ま、これが私の真骨頂だからね。

 サムス・イルナの砲撃はビナーの鱗も貫通する。いくら強い神秘を持っていようが、流石に神秘と特異現象の重ね技だったアレより硬いわけもない。

 これでワカモは完全に無力化。次は、トキちゃんの応援に行ってダブル武装で先生たちを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……浅はか、な。

 誰が、無力化されたと、言うのです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳に入った言葉に。

 在り得ないはずの、声に。

 

「…………」

 

 オリは、絶句した。

 

 

 

 在り得ないと、そう現実逃避したくなる程の衝撃だった。

 

 その砲撃の威力を、調整中の試射でも、実戦での反動でも、そして感覚の繋がっている今も知っている、オリだからこそ。

 その砲撃に耐えられる生徒がいるなどとは、欠片も思ってはいなかった。

 

 サムス・イルナ・ケテルの砲撃。

 それは、単体相手への単純な衝撃と火力だけで言えば、トリニティ古聖堂に直撃した巡航ミサイルですら比べ物にならないもの。

 下手な生徒どころか、それこそ自治区最強級の生徒であろうと……当たり所が悪ければ、ヘイローにすら響きかねない一撃なのだ。

 

 耐えられるはずがない。

 ……いいや、耐えられていい、ものではない。

 

 

 

 けれど……。

 あるいはそれこそが、愛の力、なのか。

 

 

 

「……やはり。それは、脅威……で、すね」

 

 仮面はその全てが割れ、崩れて。

 美しい装束さえ千切れ飛び、灼けて。

 その肩のドス黒い傷からは、夥しい血を流し、肉を垂らして。

 骨まで折れたか、まともに直立すらできず。

 

 ……それでも、なお。

 

 その金の眼だけを、ギラギラと、禍々しく光らせて……。

 

 

 

「……あの、お方のた、め……に。

 それだけ、は。連れて……行きましょう、か」

 

 

 

 狐坂ワカモは、立ち上がった。

 

 

 







 どっちが不条理だよ……。

 どっちもか。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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