調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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調月姉妹のかっけー方

 

 

 

 倒しても倒しても、ロボット群は無限に湧き出てきた。

 ドローンを1機撃ち落とせば瓦礫の影から2機が現れ、オートマタを1体撃ち倒せばビルの影から2体が現れる。

 果てには戦車や5メートル程度の大型ロボットまで現れ、廃墟を訪れた4人に対して攻撃を加えてきた。

 

 互いの穴を埋め合う抜群のコンビネーションを誇る才羽姉妹、無双系ゲームもかくやという大立ち回りを見せるオリ、そして彼女たちの動きをより良くする先生の指揮という3つの要素が合わさっても、無限の軍勢には勝てない。

 ジリジリと追い立てられるように後退を強いられた4人は、結局、人気のない廃工場の中に逃げ込んだ。

 

 それを指示した先生としては、「取り敢えずこの中で、ある程度増援の波が落ち着くまで籠城しよう」という考えだったが……。

 

 

 

「あれ……? あのロボットたち、急に追って来なくなった……?」

 

 先導を切っていたモモイが、振り返りながら首を傾げる。

 

 先程までは親の仇とでも思っているように執拗に追いかけてきたロボット群は、殿を務めたオリが廃工場の歪んだ扉に飛び込んだ瞬間、ピタリと足を止めた。

 そして、まるで解散するかのように、四方八方に散っていったのだ。

 

 どうやらこれ以上戦闘する意思はないらしいことを確認し、モモイは額を拭った。

 

「何でかよく分かんないけど、とにかくラッキ~! ……でいいのかな?」

「良くないよ、うわあああん! もう嫌、いったいなんでこんなところでロボットたちに追われなきゃいけないの!?」

「落ち着いて、ミドリ。生きてればいつか良い日も来るよ!」

「いつかじゃなくて今日の話をしてるの! それにそもそもこれ、お姉ちゃんのせいでしょ!」

 

 わいわいと騒ぐ才羽姉妹を後目に、オリは先生と言葉を交わす。

 

「やな予感がするねぇ。先生、私から離れないでね」

“うん、ゲーム開発部の子たちのこともよろしくね”

「もち、私にできる限りは守るよ。……ただ、いざと言う時は先生を優先する。私はシャーレの部員で、あなたはシャーレの先生だからね」

“そうならないよう、注意しないとね”

 

 直接的には否定せず、しかしその意思を肯定することはなく、先生は頷く。

 

 

 

 そんなことを話していた2人に、モモイがわーっと突っ込んできた。

 

「ちょっと、2人して何の話してるの~? 私とミドリも混ぜてよ~!」

「はぁ、ホントもう……なんでモモミドはこんなに緊張感ないのかね。

 ゲームとかでもこういう展開あるじゃん? 今まで追って来た敵が急に追跡をやめた時は、大体相手の想定通りに追い込まれたか、あるいはソイツらが立ち入れないくらいやべー場所に入っちゃったかだよ」

 

 オリが呆れの表情でそう言うと、モモイもまた半目の呆れ顔になって彼女を見つめた。

 

「は? 何言ってるのオリ。ゲームと現実は別でしょ。そこは分けて考えようよ」

「くっこのモモガキ……ッ!! いつも『私は魔法使いだから強いんだよ』とか『私には隠された5つの神器が』とか言ってるくせに!

 正論やめろ! モモイに正論言われるとか恥すぎる!」

「何それっ、ムキーッ!!」

 

 両腕をグルグル回しながらオリに突っ込んたモモイ。

 しかし、先生が瞬きする内に、彼女はオリに関節を固められてしまっていた。

 

「あだだだだっ!!」

「まぁ真面目な話すると、あのロボット群は全体的に意思はなさそうだったけど、こちらを追い詰めようっていう連携が取れてた。古くから設定されてる、共通した1つの命令を元に動いてるんだろうね。

 その上で、この工場には入ってこなかった。そう考えると、多分それだけ大事なナニカを作ってる場所だったんじゃないかな、ここ」

「ちょ、痛い痛い、ギブギブギブ!! オリ、ねぇ聞いてる!? 今左腕から変な音したんだけど!!」

「させたんだよ」

「に゛ゃーっ!! 先生助けてーっ!!」

 

 

 

“オリ、その辺りで。……しかし、これからどうしようか”

 

 涙目で手を伸ばしてくるモモイを開放させてから、先生は状況の整理を始める。

 

 廃墟から出ようにも、この工場の外に出ればその瞬間、またロボットたちに襲われることになるだろう。

 無理をすれば、帰還も不可能ではないだろうが……。

 

 先生の言葉に、オリは申し訳なさそうに眉を落した。

 

「ごめん、さっきの戦闘でちょっと残弾数が心配になっちゃったかも。帰りの分持つかはちょっと微妙かな。モモミドは?」

「私はまだ行けそう! ていうかオリが撃ちすぎなんじゃない?」

「私も、帰りの分は大丈夫です。……お姉ちゃん、オリ先輩は私たちが前に出なくてもいいように頑張ってくれたんだから、そんなこと言っちゃ駄目だよ」

 

 キヴォトスにおける戦闘は、主に銃撃戦だ。

 それが発生すれば、当然ながら弾丸を消費してしまうため、無補給の状態ではどうしても可能な戦闘時間に上限がある。

 

 オリはそれを忌避するからこそ、近接格闘や得物の奪取なども行うのだが……。

 廃墟のロボットには躊躇や恐怖がなく、フレンドリーファイアも恐れず、またその数も膨大だ。

 下手に相手に近づいて、味方すら巻き込んだ戦車砲やライフルによる滅多撃ちを喰らえば、流石の彼女といえど無傷ではいられない。

 そのため、照準が合わないよう跳び回りながら、1体1体ショットガンで仕留めて行かねばならなかったのだ。

 

 その結果、現在の残弾は出発時点の35%余り。

 帰りも同じように戦闘を行うには、少しばかり不安の残る量だ。

 

「じゃあ私たちが代わりに前出よっか?」

「2人は殊更に頑丈じゃないから、フロント張らせるのはちょっと怖いかな。ミドリはどう?」

「オリ先輩程には戦えないですけど……敵を散らすだけならなんとか」

「うーん……いっそ私が前に立つだけ立って攻撃を受けるとかもアリかな」

 

 

 

 生徒たちが話し合っているところに、先生が口を挟む。

 

“というか、『G.Bible』はもういいの?”

「あ、そうだ、帰る前に『G.Bible』探さなきゃじゃん!」

 

 モモイはポンとその手を打ち、ポケットからスマホを取り出す。

 そうして、ヴェリタスが作ってくれた座標の検索アプリを起動し……。

 

「……え!? 『G.Bible』が最後に使われたの、ここじゃん!」

 

 そう叫んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そもそも一行がこの廃墟に来たのは、ゲーム開発部が必要とする『G.Bible』があるという情報を掴んだからだ。

 そして『G.Bible』は、どうやらこの廃工場の中にある可能性が高いらしい。

 

 であればと、一行は工場の探索を開始した。

 

 

 

 ……そんな中で、大人である先生は、うっすらと気付く。

 

 その工場は、どこかおかしかった。

 一見すれば何かしらの工業製品を生産していたように見えるが……あくまで、そう見えるだけだ。

 器具の配置や空間の使い方に、利便性以上の作為を感じる。まるで「普通の工場に見えるように形作った」かのような空間。

 

 何のためにこんな場所を、と先生が考えていた時……。

 

 

 

『接近を確認』

 

 合成音声の無機質なアナウンスが、その場に響いた。

 

 

 

 それに対する生徒たちの反応は、それぞれで。

 

「えっ、な、何?」

「部屋全体に、音が響いてる……?」

「…………連邦生徒会長」

 

 モモイは驚き、ミドリは辺りを見回して……オリは、眉をひそめた。

 

 彼女たちが当惑している間にも、アナウンスは流れ続ける。

 

『対象の身元を確認します。

 才羽モモイ、資格がありません。

 才羽ミドリ、資格がありません。

 調月オリ、資格がありません』

 

「え、なんで私のこと知ってるの!? あと資格って何さ!?」

「私のことも……一体どういう……?」

「私もかー。まぁそりゃそうか」

 

 謎めいたアナウンスに、首を傾げたり呟いたりする生徒たち。

 先生は音の発生源を探そうとして視界を巡らせ……。

 

 

 

『シャーレの「先生」。

 ……資格を確認しました、入室権限を付与します』

 

 その言葉を、聞いた。

 

 

 

「ええっ!?」

「え、どういうこと!? 先生はいつの間にこの建物と仲良しになったの!?」

「……相変わらず、あの人の考えてることはわかんないなぁ。いや、わかるけど」

 

『才羽モモイ、才羽ミドリ、調月オリの三名を、先生の「生徒」として認定。

 同行者である「生徒」にも資格を付与します。承認しました。

 下部の扉を開放します』

 

 アナウンスがそこまで告げた時、オリが動いた。

 慣れた手付きで、腰のホルダーに付けられた小型の装置を素早く操作。

 パシュンと音を立てて上に撃ちだされたワイヤー付きのフックは天井を捉え、鋭く刺さった後に内部に返しを展開する。

 

 そうして彼女が先生を右手に、才羽姉妹を左手に抱えた、その瞬間……。

 

 ガタンと音を立てて、足元の床が開く。

 

 

 

「うわっ何!?」

「な、うわっ、お姉ちゃん、暴れないで!」

“うっ……床が開いた?”

 

 一瞬だけ浮遊感を感じ、しかし直後に、オリの腕にぶら下がるようにして支えられた3人。

 彼らが無事なことを確認して、オリは安堵の息を吐く。

 

「いやー危ない危ない、下部の扉って言うから一応備えたらこれだよ。もはや罠では?

 先生、大丈夫? ちょっと衝撃が強かったかな」

“いや、大丈夫。ありがとうね。それで……”

 

 先生が言葉を続けようとした時、左手側の2人が騒ぎ出す。

 

「これ何!? フックショット!? 超カッコ良いんだけど!!」

「すごい、ゼルナの伝説みたい……!!」

「はいはい騒がない騒がない。ちなみにこれはヒマリに作ってもらった装備ね。欲しいなら自分でお願いすること。ヒマリ面倒見良いから可能性はあるよ。

 ……さて、ミドリ。ワイヤーが伸びている元に装置あるでしょ? その青色ボタンを2回、黄色のボタンを1回、短く押してくれる?」

「私が押したーい!」

「モモイは駄目」

「なんで!?」

「面白がって他のボタン押すから」

「お姉ちゃん、暴れないでってば!」

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぎながらもミドリが言われた通りにボタンを押すと、ゆっくりとワイヤーが伸び、一行は下に降りていく。

 

 十秒程度で下の地面にまで着き、オリは両腕の3人を解放。

 そして装置の赤のボタンと緑のボタンを同時に押し、天井に刺さっていたフックの返しを畳んで、ワイヤーを巻いて再び装置に収納した。

 

 

 

 4人が降り立ったのは、薄暗い通路。

 アナウンスの言っていた「下部の扉」から、5メートル程下にあたる場所だ。

 

「それで……ここ、どこだろう」

「そんなに深いところに落ちたって感じじゃないけど……」

 

 首を捻る才羽姉妹に、オリが答える。

 

「うーん……あんまりこういうの教えるのは良くないんだけど、今回は特別かな。

 廃墟の下には地下通路があるんだよ。上ったり下ったり複雑に分岐する通路があったり、何を作ってるかよくわからない工場があったり、その上何故か不定期に構造が変わったりして、半ば迷宮みたいになってるんだ」

「そこに落ちた、ってことですか……?」

「いや……それが微妙なところなんだよね」

 

 

 

 オリは、チラリと横にいる先生を見る。

 

「先生。ミレニアムがこの廃墟の管理を放棄したってことは言ったよね?」

“うん、聞いたね”

「ミレニアムが放棄した後、この廃墟は連邦生徒会の……より正確に言えば、そのトップである連邦生徒会長の預かりになったんだ。

 連邦生徒会長はすぐさまここの立ち入りを全面的に禁止して、かなり厳重な警備を敷いた。そして自分とお抱えの戦力だったSRTの少数精鋭で、何度か調査に入ってる。結局何もわからなかったみたいだけどね。

 だから、管理者である連邦生徒会長が失踪した今、立ち入り禁止になってるくせに警備は殆どなくて、私たちでも普通に入れちゃうってわけ」

“そうなんだ”

 

 言いながら、オリは先生の反応を見ていたが……。

 先生は、連邦生徒会長という言葉にも、殊更に大きな反応を見せなかった。

 

 やっぱり「あの子」の言う通り、先生は連邦生徒会長のことを覚えてないのかな。

 そう考えながら、オリは話を続ける。

 

「……この地区が放棄されたのは、先生が来る直前。それ以降ここに人が出入りした形跡は殆どない。

 仮にいたとしても、広い廃墟の中でロボットたちに襲われながら的確にこの工場に辿り着いて、その上連邦生徒会長預かりになってるはずのここのセキュリティを変更できるとは思えない。

 つまり、さっきのアナウンスが仕込まれたのは、先生が来るより前だって考えられる」

「えっと、オリは何が言いたいの……?」

「お姉ちゃん、もうちょっと静かにしてよう」

「ありがとミドリ、助かるよ。

 で、だ。さっきの資格云々のヤツ、多分かけられたのは生体認証だと思うんだけど、その上でアナウンスは『シャーレの先生』って言ってたんだよね。

 このセキュリティが設定された時点で、先生が『シャーレの先生』になることを知ってたのは、ごく一部しかいないはず。

 そしてその時に、この廃工場に入ることができたのは更に少数だ」

“……つまり、あのセキュリティを組んだのは、連邦生徒会?”

「より正確に言うと、連邦生徒会長。こんなことするのはあの人くらいしかいないだろうし」

 

 

 

 言いながら、オリは思い出す。

 

 人当たりが良く、スルリと心に入り込んできて、その上仕事も常人の何十倍とできて、更には武力的にも秀でて自分と同等に戦えた人物。

 おおよそ欠点という欠点がなく……そしてそれこそが唯一の欠点であった、超人を。

 

 あの人は、どこか未来を見ているような、不思議なところがあった。

 あるいは自分と同じように、誰かに救われた経験を持っているのかと思ったが……恐らく、違う。

 

 少し前にリオが言っていた言葉を借りると、彼女は恐らく本当の意味で「未来が見えていた」のだ。

 それが、オリの所感だった。

 

「連邦生徒会長は、なんというか、不思議な人だったんだよね。

 夏の内から生徒会の人員補充したりとか、まだ壊れてないビルの補修費用の予算立てたりとか……将来的に必要になることがわかってるような動きをする、不思議な人。

 だから、こうして廃墟の一区画に変なセキュリティを構築してること自体は、いつもの奇行で済ませられるんだけど……」

“……私がここに来る資格を持ってたってことは、連邦生徒会長は、私にここに来てほしいと思ってた?”

「いや、惜しいけど違う。『先生以外の人にここに来てほしくなかった』んだと思うよ」

 

 例えばそれは、オリが定期的に会う、キヴォトスの外から来た悪い大人。

 あるいは連邦生徒会長は、黒服が先生よりも先にこの先にいるモノに接触しないように、あのセキュリティを用意したのかもしれない。

 

 念のため手を出させないよう交渉したけど、連邦生徒会長がきちんと頑張ってくれてる以上必要なかったかもしれないな、とオリは内心でため息を吐く。

 

「まぁつまるところ、この通路の先には、連邦生徒会長が先生にだけ見せたかったものがあるはずだ。

 それが何なのかまではわからないけど……ひとまず、行ってみようか」

「え、『G.Bible』は!?」

「お姉ちゃん、今なんとなくそういう空気じゃないでしょ……!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして一行が廊下を歩いた先には、人工照明に照らされる、広く寂れた空間があった。

 

 そして、円形になったその中心部には……。

 

「お……女の、子?」

 

 長い黒髪を垂らし、まるで命を絶やしたかのように静かに眠る、1人の少女がいた。

 

 

 

 彼女たちはその日、少女に出会う。

 

 

 







 連邦生徒会長になるカリスマあり、キヴォトスを平和に保つ統治能力あり、誰とでも仲良くなるコミュニケーション能力あり、オリと同格の戦闘能力あり、包容力に満ち溢れた胸あり。
 見てるかカヤ、これが超人だぞ。頑張って牛乳飲んで目指そうね♡
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