明日もう1話更新します。
プロローグ
「──この物語は、破綻した」
まるで凍てつくような、止まった空気の中。
静かな声が、シャーレの部室に響く。
「脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈……全てが上塗りされ」
「その意味は混然とし、読み取れず、黒に至り──その意義と価値を喪った」
それは、少女の声だった。
先生も聞き覚えのある……けれど、これまで聞いたことのない、冷たい声音。
「先生。これはもう、あなた
これから起こることは、最早そのテクスチャに囚われることはないのだから」
青かったはずの表層を剥がす、赤い空。
各地にそびえる、至聖所を騙る偽りの塔。
そんな、世界の破滅と言っても信じられそうな光景の中で……。
「主人公も、悪役も、事件も、葛藤も無く……その全てが確かなエッセンス足り得ず。
全ての構成要素が分解され、縺れ合い、脈絡も構成も必然性もなくなった──『作為的に作られた』世界。
それは果てに物語の意味を喪い、ただ理不尽な力が暴れ回るだけの、理解不能で不条理な世界へと帰結する」
『歪みの乳母』……ゲマトリアのオリヒメは、吐き捨てるように語った。
「……そう。元よりあなたの、いいえ、私たちの
私とあなただけは、『絶対者』たる私たちだけは、それを知っている。
『外から来た』私たちは……知っている」
こつ、こつ、と。
音を響かせて、彼女はシャーレの部室を歩く。
そうして大きな窓ガラスに手を触れ、外を……赤く染まった空と、今まさに破綻しようとする平穏を見て。
「だから、始めます。
物語と呼ぶに満たない……歪な二次的創作を」
ニタリ、と。
不気味で、気味の悪い笑みを浮かべた。
「脈絡も、ジャンルも、必然性も、構成も……全てを無くした、今この瞬間。
全ての価値を喪った私が、たった一つの絶対を使って、この世界を切り替える。
そんな……哀れで、未熟で──ええ、物語にすら満たぬ、歪な自己満足を」
その笑みは……。
まるで、これから全ての望みが叶うのだと。
生まれて来た意味を、生きている価値を知るのだと。
そうとでも言うような、満ち足りたものだった。
「観客を冒涜し、登場人物を侮辱し、舞台装置すら嘲り……愛したモノすら踏みにじり。
最後にはただ一人、私だけが満足してこの本を閉じる。
そんな──『転換』の創作を」