クリスマスということで特別編……ということもなく、普通に本編です。
緊急招集会議前日の深夜、サンクトゥムタワーにて。
唐突に現れたオリの、防衛室長不知火カヤへの急接近を以て、その遭遇戦は始まった。
調月オリの速度は、キヴォトスにおいても随一。
戦場にその身を置いているわけではないカヤには、その動きを目で追うことすらできない。
ぶちぶちと髪が抜ける感触と共に、直前までオリの頭があった位置へと、カヤの頭を持って来た。
直後、カヤの額を穿つ、一発の狙撃。
遥か後方から自分を狙っていたスナイパーの攻撃は、カヤという肉の盾によって防がれた。
「……そこか」
ぼそりと呟いたオリは、続けて用を果たした盾を蹴り飛ばしてどこかへ放り、腰に括りつけていたスタンバトンを右手に取って……。
「うざいっての!」
暗闇に乗じ足音もなく駆けて来ていた、小柄な少女に向かって振り下ろす。
一切容赦のない、直撃すれば昏倒も免れない速度の攻撃を、少女はその手に持つ防護盾で受け……。
「く、うっ!」
その盾にヒビを入れられながらも、なんとか致命打を受け流す。
少女は使い物にならないと悟ると即座にその手を盾から離し、その長い金髪をたなびかせて姿勢を落として、更にオリへと接近。
肉を切らせて骨を断つ覚悟で、右腕に持つサブマシンガンの引き金を引き絞り……。
この暗いフロアの中、目を焼くようなマズルフラッシュと、けたたましい銃声。
それが収まった時には……。
サブマシンガンは、カシャンと音を立てて床に落ち。
「放、ぐ、ううぅうぅぅっ!」
食いしばった歯の間から漏れる悲鳴が、そこに響く。
金髪の襲撃者は、オリにその足首を吊り上げるように握られ……いいや、握り潰されていた。
オリを襲うべく突撃し、近接戦をしかけた襲撃者。
彼女はオリからの攻撃を受け、これ以上は盾が持たないと判断すると、即座に放棄。
姿勢を落として、スライディングをするようにオリの足を払いに行った。
銃撃によって注意を引き付けると同時に行われた足払いは、確かに有効だった。
オリにこれといって抵抗する気がなかったとはいえ、確かに相手の体勢を崩すことには成功した。
……けれど。
対するオリは、即座にこれを立て直した。
器用なことに、地に付いた左手でバランスを取って、持っていたスタンバトンを投げつけて相手の得物を弾き飛ばし。
側転の要領で一回転しながら、相手の足首を拾いに行く。
その勢いに、今度は襲撃者の方が姿勢を崩され、ぐるりと一回転。
恵体で身長の高いオリは、小柄な襲撃者を優に吊り下げることを可能とした。
……ほんの一瞬で、決着は付いた。
金髪の襲撃者は銃を手放し、足から吊り下げられて抵抗の手段を失い。
それを為したオリは、つまらなそうに、彼女の足首を破壊している。
今のオリは、普段に比べ短絡的ではあるが……同時、即時の判断力はいつも以上に図抜けている。
ミレニアムの最強を相手にしてもなお互角以上に戦える彼女を前にすれば、積み重ねた鍛錬や整った装備すら無意味なものとなってしまう。
襲撃者は、非常に優秀な人材ではあったのだろう。
足音を消した強歩も、その盾を用いた接近も、それが通じないと分かるや即座に行った方針転換も、視線を下げることなく行われた足払いも、確かな熟練と高い判断力を感じる手並みだった。
けれど今のオリは……大切な人が傷つけられることを予感して怒りを抱いたオリは、ただ優秀なだけで勝てる手合いではない。
「うるさいな、何痛がってんだよ。散々他人に痛みを押し付けてきたんだから、悲鳴くらい抑えろよ」
オリは苛立ちを露わに、その手に握った少女を見やる。
いつかどこかでも見たことのある彼女は、脂汗をかきながら、必死に悲鳴を押し殺しているが……。
それでも、殺し切れない絶叫が、やかましく深夜のフロアに反響している。
足首を、骨や肉ごと握りつぶされ、悲鳴を上げる。
それはごく自然で、何の違和感もない反応だ。
……実のところ、それすらも、彼女たちの策の内でもあったのだが。
深夜のサンクトゥムタワーには、電気の一つも灯っていない。
月明かりすら朧なここでは、襲撃者と違って暗視ゴーグルを付けていないオリにとって、細かな状況を窺い知ることが困難になる。
すぐ傍で誰かが絶叫を上げ、細かい音が聞き取れないこの瞬間なら、尚更に。
だからこそ、本来は苦痛に耐性を持ち、悲鳴を堪え切れる少女は、敢えてそれを止めようとしていないのだ。
オリが襲い掛かって来た相手に意識を割いている隙に、向こうの壁に叩き付けられて意識を失ったカヤを救出しようとする、2人の別動隊のために。
……彼女たちからすれば、ここにオリが現れた時点で、戦術的な勝利は放棄せざるを得なかった。
カヤにとってそうであったように、彼女たちにとっても調月オリは天敵。
ただし、カヤのそれとは違って……今の自分たちでは決して勝てないだろうと思わされる、という意味での天敵だ。
故に、4人の襲撃者たちは、戦略的撤退を選んだ。
ポイントマンが注意を引き、狙撃手が狙い撃って、オリを釘付けにし。
その隙に残った2人がカヤを奪還し、撤退する。
それが襲撃者の真の目的であり。
今まさに、向こうの壁に叩き付けられ意識を失ったカヤを、闇夜に乗じて忍び寄った2人の少女が抱え上げようとしていたのだが……。
……確かに、視界はろくに通らず、耳は潰され、注意も惹き付けられてはいたが。
それだけで止められるようであれば、調月オリは「不条理」足り得ない。
倒れ込み意識を失ったカヤを、黒髪の少女が担ぎ上げようとしている、その時。
オリは金髪の襲撃者をてきとうな方向へと投げ飛ばし……軽くその身を捻る。
調月オリの神秘による
「非実在」という本質を持つ彼女は、その神秘さえ解放すれば、空間に縛られることがなくなる。
近接ファイターである彼女にとって、どれだけ開いた距離でも一瞬で詰められ、また危険な攻撃から逃れられるこれは、非常に有用なものではあるが……。
……しかし、その力の本当に恐ろしいところは、単なるポジションの変更ではない。
オリのこれには、予備動作やタイムラグがない。
つまるところ彼女が使おうと思った時、その次の瞬間には行使が終わり、移動は完了している。
その上で……例えば、だ。
その腕を振りかぶり、何もない空間に殴りかかる、その瞬間に相手の元に転移すればどうなるか?
その答えが、目の前の光景。
その一撃は、いつどこからどこにどのように飛ぶか予期も予測も対策もできず、故に回避も防御も受け身も不可能となり……。
黒髪の少女の腹部に、オリの渾身の拳が突き刺さった。
ばきりと、そしてぐちゃりと。
プロテクターを貫き、肉と骨を叩き潰す、不快な感触が拳を伝う。
それを以て尚手を止めることなく、オリは右手の拳を起点に少女の体を振り回し、そのまま向かいの壁に向かって振り抜く。
その脳に鳴り響く激痛から受け身を取ることもできず、黒髪の少女は壁に叩き付けられた。
「がッ……!?」
「FOX1!?」
仲間の危機に悲鳴を上げる、横にいたピンク髪の少女。
続けて、オリは彼女に手を伸ばした。
黒髪の少女の下に駆け寄ろうとする彼女の襟首を掴んで、その身を引き寄せる。
そのまま、後ろに倒れるようにしてその身を滑らせれば……。
「うっ!?」
危機に焦れた狙撃が、要救助者に続き、仲間の頭を貫いた。
一度、この狙撃に痛い目に合わされたオリは……もう二度と、それに当たることはない。
「下手くそ」
呟き、再びその場から消え、直後に現れたオリは……。
その右腕に、アッシュの髪色の小柄な少女を……大きな対物ライフルを抱える、狙撃手を掴んでいた。
「なっ、あ、どうやって……!?」
目を白黒させる狙撃手の手を掴んで、仲間たちを救おうと片足を引きずって迫って来る金髪の少女に向かって投げ飛ばす。
弾丸のような速度でぶつかった少女たちは、団子になって数メートル程転がった。
そしてオリは、頭を抑えてフラつくピンク髪の少女の頭に生えた狐耳を掴んで立ち上がらせ。
暗視スコープを握りつぶして破壊、無理やりに引き剥がし、その奥にあった目と視線を合わせて……。
その、見知った顔に対して、言う。
「……久しぶり、ニコ。
クソ外道に堕ちた結果、私なんかに仲間をボコられる気分はどう?」
* * *
元SRT特殊学園所属、FOX小隊。
月雪ミヤコ率いるRABBIT小隊の先輩たち。
それが、カヤとオリの戦いに乱入してきた少女たちの正体だ。
連邦生徒会長の直下部隊であり、彼女の失踪によってその指揮系統が宙ぶらりんの状態になったために解体された、SRT特殊学園。
しかし、FOX小隊の生徒たちはこの決定に納得せず、ヴェルキューレへの合流を拒否。
その後は防衛室長のカヤに拾われ、SRT再建を条件に、彼女の私兵として使われている、というのが今の状況だった。
今日も突発的な緊急事態に対応できるよう、彼女たちは陰からカヤの護衛を行っていたのだが……。
……突如として現れたオリによって不意を打たれ、カヤは完全に意識を喪失。
そしてほんの数秒の内に、カヤを救出しようとしたFOX小隊も、半壊以上の状況に追い込まれていた。
「私さあ……ムカつくんだよね、お前たちみたいなヤツら見るとさ。
自分たちは正義だー、正しいんだー、みたいな顔でさあ、何平然と人を傷つけてんだよ。せめて自分たちがイカれてるってことくらい自覚しろよ」
オリは内心の苛立ちをぶつけるように、ニコの耳を上に引っ張る。
彼女の脚が地面から離れ、ニコはその顔を激痛に歪めて必死にオリの腕を引き剥がそうとするが……。
悲しいかな、全くと言っていい程に力が足りない。
FOX小隊は元々、SRT特殊学園にいた頃に非常に多くの知識と厳しい鍛錬を積み、最新鋭の装備も使うことのできる、エリート部隊だ。
だが、彼女たちは鍛錬によってその力を培っただけで……オリのように、生まれついての怪物というわけではない。
単純な膂力や握力、速度の勝負になれば、オリに勝つことは決してできない。
「おっ、オリちゃん、やめ……!」
「やめ? お前たち、『やめて』って言われてやめたことってあるの?
カヤの下で色々やってたみたいだけど……人に迷惑かけて、時には理不尽に制圧も脅迫も拉致監禁もしてたよね? バレてないと思ってんの?
で、そういう時に慈悲を乞う人を助けたことってあった? ちなみに私はあったよ、リオちゃんに然るべき敬意を払う奴ら限定だけど」
……あの、エリドゥでの決戦の日。
限界まで溜まっていたフラストレーションが弾けたあの時に比べれば、今のオリは、まだ理性を残している。
少なくとも、まともに会話をすることができる程度には。
だが、それでも。
ただでさえ去年の頭、連邦生徒会長の失踪以来印象が非常に悪かったFOX小隊が……。
間接的にしろ、先生を害そうとしていた。
その事実に……いいや。
彼女たちが、「そんな人間」になってしまったことに、激怒が抑えられない。
「どんなご大層な過去があるとか、どんな大仰な理由があるとか、どうでもいいんだよ、他人からすれば。
自分たちの目的のために誰かを傷つけてる時点で害悪じゃん。そのどこに正義があんだよ。
せめて悪なら悪らしく、ボロクソにやられて無様に負けてろよ、それしか存在価値ないんだからさ」
口から溢れるのは、悪意の煮凝り。
どこか具体的なそれは、目の前の少女たちというよりは……自分自身に向けられているようだった。
調月オリは、悪だ。
彼女はそれを、誰より強く自覚している。
なにせオリは、天童アリスを害した。
そして、これまでにも多くの生徒や人間を傷つけて来たのだ。
確かに、理由はあった。
多くの、複雑な、どうしようもない事情が。
それは妹
そして、彼女自身の生きた証のため、でもあった。
けれど、そんなことは、傷つけられる人々からすれば、どうでもいいことだろう。
理由があれば約束を破っていいのか? 物を盗んでいいのか? 人を害していいのか?
そんなわけがない。
如何なる理由や目的があれど、悪い事をすれば、その時点でその人間は言い訳しようもない「悪」だ。
情緒酌量の余地があるからといって罪がなくなるわけではなく、誰かのためだからといって悪くなくなるわけでもなく、善なる目的があったとしても手段が悪なら正義とは呼べない。
客観的に見て、調月オリは「悪」以外の何物でもない。
罰され、倒され、英雄の糧となって無様に終わる。
その役割だけが残された、悪だ。
正義を、正しい人々を際立たせるための存在だ。
……そして、目の前の少女たちも、そう。
SRT特殊学園という、キヴォトスの治安を維持していた組織の復活。
それは確かにキヴォトス全体の善に繋がるだろう。その目的は確かに善なるものだ。
けれど、だからといって、彼女たちが今行っていることが善になるわけがない。
彼女たちが、正義であるはずがない。
それに……さらにもう1つ、言うのなら。
たとえ学校が再建されたところで、彼女たちは正義にはなり得ない。
もうそこには、絶対的な正義がないのだから。
「こうして喧嘩売って来てさ、私に勝てるとでも思ったわけ? ああもしかして、一度私を止められたからって、調子に乗っちゃったのかな?
……わからないんなら言ってあげるよ。
お前たちはさ、別に強くないんだよ。私を止めたのは、お前たちじゃなくて
かつて、SRTには、絶対的な正義があった。
連邦生徒会長。超人と呼ばれた存在。
実務と頭脳においてリオと並び、身体能力と戦闘力においてオリと並んでいた少女。
彼女は常に正しく、そして強かった。
だからこそ、彼女の直下たるSRTは常に正義の名の下、完璧な作戦を実行することができたのだ。
「あの時も……そして、この前のもそうだよ。
アレ、あの人の作戦でしょ? お前たちだけで、私をあそこまで完封できるわけないし。
まぁ、あの人が必要って言うんなら、血くらいあげてもいいけどさぁ……だからって、あの人の加護もないお前らが、本気の私に勝てるとか、笑わせないでよ。
私に勝てるのは、今はもう、ホシノと……それからネルだけなんだから」
権威面でも、サポート面でも、作戦面でも、そして絶対的正義の根拠としても。
連邦生徒会長なくして、SRTは在り得なかった。
……そして、今やその正義は消えた。
「本っ当に気色悪いし醜悪だし、最低だよねお前ら。
だって、ただ自分が縋るものが欲しいって理由で、二度と取り戻せないって分かってる正義という虚像のために誰かを傷つけてるんだから。
よく訓練された狐だったのに、飼い主がいなくなった瞬間、人間に迷惑をかける害獣に逆戻り。
ほんと……あの人が報われないわ。あれだけお前たちのことを想ってくれてたのにさ」
……その言葉に。
倒れ伏していた黒髪の少女が……FOX小隊のリーダー、七度ユキノが、よろよろと立ち上がる。
「……取り、消せ」
「あ?」
「SRTのっ、正義を……貶すこと、だけは、許さない……!」
七度ユキノにとってそれは……「SRTの正義」は、絶対だった。
自分たちは手を汚してもいい。悪に堕ちてもいい。
それでも、どのような手段を以てしても、SRTを再建する。
絶対正義。正しさの基準。唯一無二の命令系統。
それはSRTの、キヴォトスの、そして正義の未来のために……。
そして何より、自分たちに続く後輩たちのために、それは必要なのだ。
正義を取り戻す。
それこそが、FOXが今働いている理由。
だからこそ、取り戻そうとする正義を否定することだけは、決して許すことができず……。
……しかし。
その殺意の籠った視線に対して、オリは、それ以上に強い殺意を投げ返した。
「誰がそれを貶したよ、厚顔無恥な悪が。
私が馬鹿にしてるのは、お前らであってSRTじゃない。お前らはもうSRTを名乗れるような人間じゃないし。
今も辛い環境に身を置いて、自分たちだけでもSRTの理念を継ごうとする子たちがいるっていうのに……思考停止で三下に使われて、SRTの正義に泥塗ってばかりの害獣が。
SRTの正義がクソなんじゃなくて、それを貫くこともできないお前らがクソだって言ってるんだよ」
FOX小隊も、気付いているはずだ。
SRT特殊学園は、連邦生徒会長の圧倒的な能力に依存していた。
彼女なくしては、存続も再建も、真っ当な形では叶わない。
たとえ再建されたとしても、そこにあるのは誰かが恣意的に戦力を操るための、ただの傀儡学園だ。
間違っても、絶対的な正義などありはしない。
少し考えればわかる不可逆な事実から目を背け、誰かのためと偽って、自分の縋りたいもののためという利己的な目的で、その暴力を行使する。
それは……オリからすれば、決して許しがたい在り方だ。
それこそ、同族嫌悪から、衝動的な殺意すら抱いてしまう程に。
「お前ら、二度とSRTの先輩名乗るなよ、あの子たちに威張れるようなことやってないんだし。
……私ももう、誰かのお姉ちゃんとか、名乗らないから、さッ!!」
その言葉と共に。
七度ユキノの腹に、再び、拳がめり込み……。
その中身を、グチャグチャに、かき回す。
「ッ、ア、グゥ……ッ!!」
「ユキノ、ちゃんっ!」
「力もない、理念もない、意志も正しさも道理も慈しみもない。あるのは、不条理で理不尽な暴力だけ。
お前たちは正義じゃない。だからこうして、より強い悪に、暴力に負けるんだよ」
オリの脳裏に浮かぶのは、先生の姿だ。
幼い頃から憧れていた、オリの英雄。正義の名の下に自分さえ下してくれた、あの超人と同じくらいに「正しい」人。
先生は、あのエリドゥにあってなお、常に正しかった。
オリにどのような都合があれど、悪は悪であると、正しく認識し、無辜の少女を助けるという正義を果たした。
そんな人だからこそ、先生は世界に……「青春の物語」に、肯定される。
たとえどのような苦境に立たされても、負けない。
未来を知るオリによる策すらも乗り越えて、然るべきハッピーエンドへ進むことができる。
……けれど、キヴォトスにおける殆どの人間がそうであるように。
目の前の少女たちは、「そう」ではない。
利己の目的のために、誰かに迷惑をかける害獣。
世界はそんな彼女たちを祝福しない。だからこうやって、オリという悪を前に、簡単に屈するのだ。
「ホントクソだよ、お前ら。クソはクソなりに分をわきまえてろ。
……また先生に手を出そうとしたら、お前たちの大事なものと人から、順に壊して殺すから」
そう言って、最後にユキノの体をニコの方へと蹴飛ばし、彼女は顎で示した。
「行きなよ、害獣共。先生の前に汚い死骸晒すのもアレだし、見逃してあげる。
……ていうか、ユキノの内臓ぐっちゃぐちゃにしたから、早く治療しないとヘイローあっても死ぬよ。
ああ、それとついでに、そこに転がってるまな板も持って行ってね。私が怒ってるメインはソイツだから、放っとくと思わずぶっ殺しちゃうからさ」
* * *
FOX小隊は、意識を失ったままのカヤと重傷のユキノを抱え、サンクトゥムタワーを下って行った。
オリはそれを冷めた目で見届け……。
『よろしいのですか?』
耳に付けた小さなインカムからの言葉に、先程までの熱の籠った様子からは打って変わって、温度を感じさせない冷たい声音で応える。
「……別に、どうでもいい。
シッテムの箱は復旧したっぽいし、今の先生はあの子たちじゃ絶対に傷つけられないし……そもそも、カヤはともかく、FOXへの怒りは八つ当たりと同族嫌悪が大きい。
まぁ、シャーレ廃絶云々って話もあるけど……『あの子』もよくわからないって言ってたし。
カヤの意思を封殺した時点で、私が本気で怒る理由はなくなった」
まるで自分に言い聞かせるように……いいや、実際言い聞かせているのだろう。
理屈で感情を納得させようとするオリに、しかしインカムの声は、さもわからないという風に尋ねた。
『自らの感情を果たすために殺さなくて良いのか、と聞いているのですが。
あなたは我々と同じ「悪」なのでしょう? であれば、手を上げる理由もないように、手を止める理由もないでしょう』
「……っ」
オリはその言葉に、一瞬、息を詰まらせ……。
その時。
パッと、サンクトゥムタワーの電灯が、灯る。
「……ちっ、流石に騒ぎ過ぎたか。見つかってないだろうな狐共、カヤがあんな状態って知られると、ちょっと面倒くさいことになるんだけど」
『こちらで監視していますよ。彼女たちは既にその塔を脱しています』
「そ。……まったく、最期に好きな人の寝顔を見ることも許されないんだね、悪役は」
つまらなそうに肩をすくめ、オリは自らもここから脱するべく、その神秘の一端を解放しようとし……。
その、直前。
『ああ、それから、報告しましょう。
つい先程、ゴルコンダが、「袋」を完成させました。
あなたが帰り次第、手渡す予定です。無事な帰還をお待ちしていますよ』
そんな、ゲマトリアの黒服の、小さな言葉が。
誰に聞かれることもなく、サンクトゥムタワーの片隅に、消えていった。
カヤとFOX小隊、最終編からは退場。
キヴォトスが一体となって危機に立ち向かうシナリオとあまりにもミスマッチでノイズだし仕方ないね。
次回からは、原作とは大きく異なる緊急招集会議。
(追記)
誤字報告を頂き、訂正させていただきました。ありがとうございました!