調月姉妹のやべー方   作:アリマリア

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衝突(1)

 

 

 

 ヴァルキューレを装ったカイザーによる先生の拉致、そして真夜中の襲撃は、未然に防がれた。

 

 ……とはいえ、後者は監視カメラの類が何故か機能停止していたが故に「誰がそれを行ったのか」「そこで何が起こったのか」がハッキリしない。

 残ったのは、2発の狙撃を受けたらしい窓に残された弾痕と、嵐でも吹いたのかと思う程に荒れ果てたフロアだけだった。

 

 ここから深夜の事件の詳細を明かすには、今しばらくの時間がかかる。

 それも、翌日に控えた会議の事を考えれば、この調査は後回しにされてしまうだろう。

 各自治区の代表のもてなしや会議の進行などを考えれば、連邦生徒会には圧倒的にマンパワーが足りないのだ。

 精々が危険物が残されていないかの調査が関の山だろう。

 

 更に、問題はそれだけに留まらない。

 翌朝には、連邦生徒会防衛室長、不知火カヤの失踪が発覚した。

 これは昨日の事件と結び付けて考えられ、「不知火カヤが何か騒動を起こしたのではないか」……ではなく、「カヤは騒動に巻き込まれてなんらかの攻撃を受け、排除されたのではないか」という推測を生み。

 結果として、先日から性急な行動の目立つ七神リンが、自身の行動の妨げになり得る防衛室を厭ってそれを行ったのではないか、という疑念が生じてしまった。

 

 調月オリの介入によって、歴史は辿るべき運命から少し形を変え……けれど、大きな流れを乱すには至らず。

 ただし、ほんの少しの負担の軽減、先生に発生する犠牲の除去にだけは成功した形となる。

 

 

 

 * * * 

 

 

 

 そうして翌日。

 連邦生徒会は先生の無事を確認、サンクトゥムタワー内に爆発物などが仕掛けられていないかなどを改めて確認し、必要最低限の補修と会議を行う部屋の変更、その通達などで大忙しではあったが……。

 

 ひとまずは無事に、緊急招集会議が始まった。

 

 サンクトゥムタワーの会議室に集まったのは、キヴォトスの三大校を含む、多くの自治区の生徒たち。

 

 トリニティからは、ティーパーティのナギサとセイア、ナギサの信任を受けて護衛として来たミカ、シスターフッドと救護騎士団の長であるサクラコ、ミネ。

 ゲヘナからは、生徒会を担う万魔殿(パンデモニウムソサエティー)のマコトやイブキたち、それと微妙な距離間を保つ風紀委員のヒナとアコ。

 ミレニアムからは、少し憔悴した様子の生徒会長のリオと、彼女を支えるようにセミナーのユウカとノアがこの場に顔を揃えている。

 

 アビドスは急用で欠席、元SRTの生徒たちは正式に所属が決まっていないために不在。

 他にも、山海経からは生徒会長ではなくその使いが来ていたり、百鬼夜行は現在内部で何かがあったらしく不在であったり、ヴァルキューレからは生徒会長ではなく局長が参加していたりするが……。

 

 連邦生徒会に寄せられる不信の割には、かなり多くの出席率を確保できたと言っていいだろう。

 

 それもやはり、リンたちの横で座って、時たま笑顔で生徒たちに手を振っている、先生の存在が大きい。

 特にトリニティ、ミレニアムの両生徒会は、先生への義理を通すためにこの場に来たという意味合いが強い。

 もしその名が出されなければ、彼女たちはここにはいなかっただろう。

 

 

 

 そうして、各校の責任者、連邦生徒会、そしてシャーレの先生による緊急招集会議が始まった。

 

 まずリンが共有したのは、各地に現れた不明瞭な超高濃度エネルギー体の計測データ。

 計器の異常が疑われ、老朽化したこともあってそれらを一新した後も同じデータが計測されたため、計器の不具合ではないことが確定。

 その上で、これが現れた場所がどこも曰く付きの場所であることを根拠とし、これがキヴォトス全体の危機に繋がる懸念から、非常対策委員会の設立を宣言。

 様々な自治区にこれが現れていることから、それぞれの自治区の生徒会へと調査の協力を願い出た。

 

 この発表と要請に対する各校の反応は、それぞれだ。

 ミレニアムのリオは表情を変えずに淡々と聞き、ノアに記録を取るよう指示し。

 ゲヘナのマコトは「正気かコイツら?」と言わんばかりに眉をひそめ……実際に口を開こうとしたところでヒナが鋭い視線でそれを阻害。

 トリニティの生徒たちの反応はなんと十人十色で、ミカは興味なさげに落ち着かない様子で、逆にナギサやミネは冷静に話を聞く姿勢。一方でセイアやサクラコは真剣にこの議題に臨んでいた。

 

「トリニティのティーパーティ、百合園セイアはこの話を支持するよ。

 近く、キヴォトスに災厄と言っていい流れが訪れる可能性がある。私の予知夢はそれを示唆していた」

「シスターフッド、サクラコです。我々は本件以上に急を要する案件で、『シャーレ』と話し合わなければ……え、何ですかマリー? いえ、いえ、そういう意図では……は、はい、わかりました。

 申し訳ありません、先の発言を撤回させていただきます。シスターフッドとしても、キヴォトスの安寧の維持のため、本件に関して協力を約束させていただきます」

 

 トリニティにおいて大きな力を持つ勢力の過半数が協力を表明したことで、トリニティがこれに参画することを確定した。

 

 続いてゲヘナは、マコトが「では我々とシャーレとで共同戦線を張るということだな!?」とどことなく認識のズレは感じるものの、概ね要請に応えるような感じの意思を表明。

 続いて風紀委員もまた、万魔殿(パンデモニウムソサエティー)の抑えと戦力の一部貸与、自治区内での活動の援助の形で協力を約束する。

 

 最後にミレニアムも……リオとしては、これ以上他のことに時間を割くことへの個人的な苦悩こそあるものの、だからこといってミレニアム、キヴォトスの安寧を守るという彼女の本懐を投げ出すわけにもいかない。そのためならばと、殆ど間も開けず了承した。

 ユウカとノアは彼女の様子にやや不安そうな様子こそ見せたが、その決定に異は唱えない。

 元よりミレニアムは、その全ての判断をビッグシスターに依存している。それこそリオが失踪でもしない限り、この形態が大きく変わることはないだろう。

 

 

 

 結果として、多くの自治区と、勿論シャーレもまた協力を表明し、非常対策委員会は無事に設立された。

 その目的は、超高濃度エネルギー体についての調査と、トリニティの提唱する「色彩による脅威」へ向けたキヴォトス全体での協力。

 

 ……勿論、各陣営にはそれぞれの思惑があり、一致団結とまでは言えないものではあるだろうが。

 それでも多くの勢力がそれぞれ歩み寄る姿勢を見せた、と言っていいだろう。

 

 

 

 とはいえ、全てが完璧に行われた、というわけではなく。

 

「この委員会の設立に立場上最も反対するであろう、防衛室長の失踪。

 それに基づくSRTの解体、キヴォトスの治安維持戦力の減少。

 シャーレを利用して行われた、ある意味で全自治区から戦力を徴収するような委員会の設立。

 ……リン先輩。いいえ、連邦生徒会長()()、七神リン。

 どこからどこまでが、あなたの狙いなの?」

 

 既に盤面から払われた火種は、けれど疑念という影響を波及させている。

 それがいつ花として咲くことになるかは……未だ、不明瞭ではあったが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 緊急対策委員会設立後、深夜。

 各生徒がそれぞれの自治区に帰った後も、リンはサンクトゥムタワーに残り、資料を作っていた。

 

 委員会の設立によって各校と連携を取るようになり、それぞれから情報が雪崩れ込んで来ていた。

 前日に起こった不明瞭なキヴォトス全体の震動、そのタイミングと揺れ方についての報告。

 超高濃度エネルギー体の発生場所についての事実と憶測、噂レベルの情報。

 特にミレニアムからは、「色彩」や「ゲマトリア」と呼ばれる存在について……流石に全てが狂言とは思い難いものの、信じ難いような情報が送られてきていた。

 

「信じるべき、なのでしょうが……。

 キヴォトスで暗躍する不明な大人、そしてそれが招いた……全てを覆す現象、ですか。

 ……ただでさえ私に不信感を抱いているアオイは、反発するでしょうね。先生に頼る……のは、むしろ悪手。私自身の働きで信頼を取り戻すべき。

 けれど、その為の時間が……一度疑心暗鬼になれば、何をしても疑いの目で見られるでしょうし……いっそ私が代行を罷免されることを前提として、やれることをやるべき、でしょうか」

 

 リンにとって、連邦生徒会長代行の座は、決してどうでもいいものではない。

 慕っていたと、そう言っていいだろう先輩から託された、キヴォトスを維持し守るための権力。

 それがなければ、リンが取れる手段は大きく制限されるだろう。あるいは連邦生徒会長の捜索に関しても、今以上に規模を収縮せざるを得ないかもしれない。

 

 ……しかし、その座は、あくまでも手段だ。

 

 彼女にとっての最優先の目的は、連邦生徒会長が作り上げたこの箱庭のような学園都市の維持。

 代行の座は、そのために託された手段に過ぎない。

 

 目的と手段を取り違えてはいけない。

 キヴォトスの安寧のために必要ならば、リンはその座を手放す覚悟でいた。

 

 ……リンを、少なからず慕っている自分を、それでも真正面から非難するアオイ。

 未だ経験不足の面はあるが、公明正大な彼女なら、私心なくキヴォトスを守ろうとしてくれるだろう。

 故に、いざ自分がこの仕事を維持できなくなれば、リンはそれをアオイに託そうと判断していた。

 

 勿論、自分にできる範囲で全てをやってから、の話にはなるが。

 

 

 

「そのために、ひとまず今は……各校に情報共有を行いながら緩く統制、参加されなかったアビドス自治区に向かって協力を……」

「いや、その必要はない」

 

 不意に、リンの耳に、大人の男性らしい声が届いた。

 

 聞き覚えのない、そして聞くはずがないそれに、ゆっくりと振り向いた先。

 そこには……。

 

「……全く、手間を取らせてくれたな。

 アレはもう少し使い出があると思っていたが……結果として、計画はグダグダだ」

「あなたは……カイザーコーポレーション!?」

 

 一人のロボットと……その背後に、数多の銃を装備したロボット群が、リンに向かって銃口を向けている。

 

「このキヴォトスの核たるここを行政官1人のみにするとは、白痴か、それとも豪胆か。

 ……主席行政官というのは少し厄介ではあるが、通信網も警報装置も全て処理済み。問題はない」

 

 先頭に立つロボット……カイザーPMCの現在の長であるジェネラルは、冷淡に告げた。

 

「これより、連邦生徒会の全権限は、我々カイザーコーポレーションが引き継がせてもらおう。

 学園都市は……今日この日を以て、企業都市へと生まれ変わるのだ」

 

 

 







 本作は今回が2024年最終投稿になります。
 読者の皆々様、良いお年を。
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