原作を一ミリも知らない系転生主人公VS絶対に主人公をハーレムにするタイプのラブコメ 作:トラブルしたかった人
「…なんだこれ…?」
とあるゲーム売買プラットフォームを開いてみると、ギフトとして謎のゲームを送り付けられていた。
首を傾げる俺はただの転生者。名前は上が四文字、下が二文字のどこにでもいる普通の男だ。
転生してから早30年が経過したが、特にどんな物語にも関わることなく平穏無事な人生を送って来た。なので転生者とは名ばかりのただの一般人である。
そんな俺だったが、ゲームが趣味だ。故にSt〇amと呼ばれるゲーム売買プラットフォームはよく利用していた。
で、Ste〇mにはギフトと呼ばれる機能がある。購入したゲームを他人のアカウントにプレゼントを贈る、もしくは他人からゲームを買ってもらってプレゼントを貰えるのである。
さて、今回その機能を使って、謎のアカウントから謎のゲームが送られてきたわけだが…。
タイトルは『ラブコメシミュレータ』。とあるラブコメ世界をシミュレートすることができるゲームらしい。
なんのこっちゃ。それにストアページに表示されるゲーム内容も、ゴテゴテのフォントが使われていて見るからにクソゲー。インストールさえ躊躇してしまう程のうさん臭さが漂っていた。
普通の人間ならこんなもんインストールしない。
でも、俺今暇なんですよね。
大型連休。本来なら全ての時間をつぎ込むはずだった、発売予定だったビッグタイトルのゲームが発売延期になり、突如として宙ぶらりん状態になってしまっていたのである。
謎のゲームでさえ暇をつぶせるのであれば歓迎してしまえる気分だった。ようはただの捨て鉢状態。発売延期は辛いよ。
「インストール…早っ。秒で終わったぞ。これ本当にゲームなのか…?」
ウィルスの可能性も大。やっちまった気がする。
デスクトップにアイコンが表示された。
恐る恐るマウスカーソルを動かして、俺はそれをダブルクリックする。
すると、ウィンドウ画面が立ち上がり、安っぽいBGMが流れ始めたではないか。
良かった、とりあえずゲームではあるらしい。
俺はホッと胸をなでおろしつつ、スタートボタンを押す。
次の瞬間、俺の視界はぶっ壊れたテレビの画面が急に切れるようにブツリと危ない暗転をした。
◇
俺の名前は結城リト。どうやら俺はこの世界での主人公らしい。
気が付けば風呂場にいて、結城リトとしての10なん年間の記憶が一気に蘇った。
目の前がくらくらする。前後不覚状態だ。
待て、とりあえず落ち着け。この状況をできるだけ箇条書きで纏めるんだ。
俺は謎のラブコメシミュレーションゲームをしていた。
スタート画面を押すと気を失った。
で、気が付けば俺は『Toloveる』の世界に、結城リトとして二度目の転生を果たしていた。
訳が分からん。どういうことなのなの。理解の範疇を超えてるってばよマジで。
これもまた神の悪戯なのだろうか。
俺は元々転生者。しかも何を隠そう、神の玩具として転生させられたタイプ。
『暇なので最近の流行にあやかって貴様を転生させることにした。我を存分に楽しませよ』
と、そんな感じで転生させられたのだ。
最近の流行って、随分と昔の流行なんだが…まあ神にとっては10年20年もごく最近のことなのかもしれない。
それでいざ転生させられて身構えていたが、俺の予想に反して俺はこれまで平穏な人生を送ってきた。普通の日本、普通の設定、普通の人生。
いつ何が起こるか分からなかったから、若い頃はとにかくトレーニングを積んできたが、30を超えるとそれもあまりやらなくなった。
自分が転生者であることすら忘れかけていたのだ。
それが今回のこれだ。ついに神の介入が起こったのかもしれない。
「…でも、そもそも俺、Toloveるとかあんま見た事ないんだけど…」
最後に見たのはもう30年以上前の話だ。
全くと言っていい程覚えていない。
ぼんやり覚えているのはヒロインの大体の見た目くらいだろう。
原作知識はほぼ皆無。そんな状態で主人公に憑依転生って、どうしてくれるんですかコレ。
って言うか、今気が付いたんだけど…結城リトと風呂場は危険な組み合わせでは?
ハッと気が付いた丁度その時、俺が浸かっていた湯船が急に爆発して、視界が真っ白に染まった。
「んーっ!脱出成功~!」
そこにいたのはピンク色の髪の女。それもかなりの美少女だ。
裸である。別に異性の裸を見て慌てる程純な性格ではないが、唐突に目の前に現れられたら別の意味で驚く。
見覚えがあるってことは…つまり、そういう事なのだろう。
「…アンタ誰?」
俺が口元を引くつかせながら尋ねると、美少女は露わな身体を一切隠さず、恥じらい一つ感じさせることなく笑顔で答えた。
「私、ララ!デビルーク星から来たんだ!初めまして、地球の人!」
美少女…ララは、とんでもなく元気な笑顔で俺の手を取って握手を交わしてきたのだった。
◇
『とりあえず、風呂から出よう』というと、『うん、分かった!』と二つ返事。
そそくさと人目につかないように二階の自分の部屋…結城リトの自室に避難し、ため息を一つ。
「…で、デビルーク星から来た宇宙人さん。一体どんな用事で地球に?」
さて、結城リトの部屋はごく普通の一般家庭の高校生の部屋って感じだ。
あるとすれば漫画とノートパソコンくらい。棚には某有名漫画雑誌の某有名漫画なんかのメジャーなタイトルが並んでいる。
そんな部屋をキョロキョロ見渡していたララは、俺の問いかけに笑顔で答えた。
「うん、実は私、逃げてきたんだ。追われてるんだよね…舟も壊れちゃって、捕まって連れ戻される寸前だったんだ。それを、このぴょんぴょんワープ君で逃げてきたって訳!これ、凄いんだよ!星間レベルの短距離ワープが可能なんだ~!」
「ワープねえ…それで偶然俺んちの風呂がワープ先だったと。凄い偶然もあったもんだな」
「だねー」
さて、どうしたもんか。俺のベッドに腰掛けてくつろいでいるお姫様に頭を抱える。
ちなみにこの先の展開について、俺は覚えていることは一つもない。
要は何らかの組織から逃げてきたんだろ?
「よし、ならとりあえず警察にでも行くか」
「ケーサツ?」
「地球の国の一つである日本の、治安維持機関の一種。外国人の保護もやってくれるくらいだから、宇宙人でもワンチャン保護してもらえるだろ。ほら、案内してやるからとりあえず服着ろよ」
原作知識皆無、今後の展開も知らないとなると、もう好き勝手行動しちゃってもいいだろう。
何かを演じられる程器用でもないしな。素で行かせてもらうことにした。
箪笥から服を取り出してララに投げる。
原作崩壊?知らん知らん!文句なら神に言ってくれ。
「公的な治安維持機関?やだ、私行かないもん!絶対連れ戻されちゃう!」
「とはいっても、正直一般地球人の手に負える問題じゃありませんので…」
「お願いだから助けてよー!」
「助けてって、あのなぁ…むっ」
気配。窓の方を見ると、そこには手のひらを細長く変形させて窓の鍵を開けようとする謎のマスコットキャラがいた。
ガチャリ、と鍵を開けて窓を開け放ち、部屋の中に飛び込んでくる。
「ララ様ー!ご無事でしたかララ様!」
「ペケ!良かった、ペケも無事に脱出できてたのね!」
「はい、ギリギリの所で何とか…おや、ララ様。ところでそこの冴えない顔の地球人は一体…?」
俺のことかおい。
「冴えなくて悪かったな」
「この家の住人だよー。あ、そう言えばまだ名前聞いてなかったね。あなた名前は?」
本名教えるのやだなー…と、一瞬よぎったが、口を開いた。
「…結城リト。リトが名前な」
「ふーん、リトっていうんだ。素敵な名前だねー。あ、この子はね、ペケっていうんだ。私が作った万能コスチュームロボットなの」
「初めまして」
「初めまして」
…こんなキャラいたっけ?
多分いたんだろうけどなー…存在自体覚えてない。30年前の記憶なんてカプコン製のヘリ並みに使えないんだなぁ。
「じゃあペケ、お願い!」
「了解~!」
おっと、なんだ?
ペケが光り輝いた。
で、それがララの身体に…えっ、服になった!?
何それ、こわ…訳わからん。
「万能コスチュームロボットね…言葉通りの意味だったんだ」
「きつくありませんか、ララ様」
「うん。良かったー、ペケがこんなに早く来てくれて!」
という訳で、裸体から服を着た状態にレベルアップしたララだが…。
なんというか、服のデザインが宇宙人だ。
シュールである。ダサ…いや、これもお洒落の一つなのだろうか…?
「どう?素敵でしょ、リト!」
「ああ、まあ裸よりはマシだな…」
ほぼ全身タイツなのはどうかと思うが。
「それ、どういう意味?」
むっとさせてしまったが、嘘を言う訳にも行かないのでそっと視線をそらした。
「さて、それではララ様。これからどうなさるおつもりで?」
「うん、それなんだけど、考えがあってね」
「…むっ」
またセンサーに感あり。
開けっ放しだった扉から二人のスーツ姿の男が音も無く飛び込んできた。
こんな素早い動きを音もたてずにやるとは…できるな。
「全く困ったお方だ。地球を出るまでは、貴女の手足を縛ってでも自由を封じておくべきだった」
「…ペケ~?私言ったよね。尾行にはくれぐれも注意するようにって…!」
「は、はぃぃ…」
「もー、この間抜けロボ!全部水の泡じゃないの!」
「言ってる場合か!」
「きゃっ!」
気配を消してララの背後に回っていた俺は、仕方なくララをひょいと持ち上げると一飛びで窓から屋根の上へと飛び移った。
「なに!?いつの間に…!」
「待て!」
後ろから叫び声が聞こえてくるが、無視して家から離れる。
はい、凄い身体能力ですよね。我ながら侮れん能力です。
でもこれ、チートなんですよねー。神から貰った能力ってやつです。
内容は『呼吸による身体強化』。ようは鬼滅の刃に出てくる呼吸みたいなもんである。原理もほぼ同じ。違うのは、本当に純粋にただ身体強化を施す呼吸ってところだ。刀を振っても特殊な斬撃エフェクトが出る訳ではない。
つまり借り物の力。道具と一緒だ。
でも利用しない手はない。折角貰ったんだから使わないと損である。
結城リトになっても使えるみたいでよかったー。使えなくなってたらララと一緒に二人で二階の窓から下に落下して怪我してたところだ。
「ったく、家で暴れられちゃ敵わん!」
今日転生して来たばかりとは言え、結城リトとしての記憶は完璧にインストールされてしまっている。自分の部屋に土足で踏み入られていい気分はしないのだ。
「わ、凄い、リト凄い!」
住宅街の屋根の上を凄まじい速度で駆けていく。
「ララ、あの…わくわくテレポート君使ってどっかに行けないのか?」
「ぴょんぴょんワープ君!あれ、実はエネルギーの充填に一日は時間がかかるの!」
「ならしばらくは使えんか…ちょっと黙ってろ、舌噛むぞ!」
宇宙人相手に意味ないと思うが、とりあえず後ろの二人は振り切ってみるか。
ララをしっかり担ぎ直して、『シー…』と特殊な呼吸を行い足を強化。
さらに速度を上げて俺は屋根から屋根へと風のように移動する。
「きゃーっ!」
ララが抱き着いてくる。動きにくい。
しばらく移動し、公園までやって来た。
「…ここまでくればまけただろ」
「はーっ…地球人って凄いんだね!ロケットに乗ってたみたいだったよ!」
「地球人全員が同じことできる訳じゃねえからな。俺がちょっと特殊なだけだ」
子供みたいにはしゃぐララを下ろして、周囲を見渡す。
「…おいおい、マジか」
俺達の進行方向を潰す形で、空からトラックが振って来た。
背後に先ほどの二人組が降り立つ。どうやら空を飛べるらしい。
「うーん、無理」
「リトー、諦めないでよー!」
いくら素早く移動できたって、空飛ばれて地形無視されたらどうしようもない。
「分かってるって…おい、とりあえず所属を言え所属を。お前ら一体何者だ。何故こいつを狙う」
『ふっ、随分と勇ましいな、地球人』
「おお、UFO!」
円盤型の機械が突如として現れた。
あまりにもそのまんまなUFOの出現に思わず興奮しかけた。すぐに我を取り戻す。
UFOの中央から光の柱が降り注ぎ、そこから一人の人間が地上に降り立つ。
鎧を着た男。
うーわ、強いなアイツ。
「部外者は首を突っ込まないで貰おう」
マントをはためかせ、俺に凄んでくる鎧男。俺は負けじと憮然とした態度で答えた。
「悪いが善意の第三者による保護だ。俺視点だとアンタら少女誘拐犯にしか見えないものでな。とりあえず所属を教えてもらおうか」
「…はあ。仕方あるまい。私はデビルーク星の王室親衛隊隊長にして、ララ様直属の護衛役兼世話役兼お目付け役のザスティンという!此度はそちらにおられる、デビルーク星第一王女であらせられるララ様の家出を阻止するためにこの地にやって来た!即刻ララ様を明け渡していただきたい!」
俺はララに白い目を向けた。
「…おい」
「やだー!私絶対帰らないもん!これ以上好きでもない人とお見合いなんてしないんだから!」
「おい、家出娘。アンタこんなことでこれほどの騒動を…?」
「こんなことって何よー!リトは私がこれまでどんな大変な思いをしてきたか知らないからそんな事が言えるの!」
「んな事言ったってなぁ…」
あ、アホくせえ。一瞬で家に帰りたくなった。
もうこれでシナリオ終了で良いから、とっとと家に帰って寝たい。
「しかしララ様…これはララ様の御父上のご意思なのです!」
「パパなんて関係ないもん!…それに!」
「おわ」
ララが俺の腕に抱き着いてきた。
「私、この人と付き合うことにしたんだから!」
「…え?」
「もう婚約だって済ませてるのよ!一緒にお風呂だって入ったんだから!」
空気が死んだ。
「…おい、貴様…どういうことだ…?」
「どういうこともなにも、全部こいつのデタラメだ」
「嘘じゃないもん。裸だって見られたもん!胸だって揉まれたもん!伝統にのっとり、婚約はちゃんと成立したもん!」
「なっ、なっ、なっ!」
ザスティンが壊れたロボットみたいになった。
俺はこいつの意図を理解し始めていた。
「おい、お前…まさか俺を…」
「しーっ!お願い、協力してー!」
耳元で懇願される。
協力してって、こいつは本当に分かっているのだろうか?一国の王女が男と婚約する意味、その重さを。
…分かってないんだろうなー。まあ、ラブコメ世界だし気にするだけ無駄なのかも。
…それにしても…これってもしかして原作通りの流れ?
嘘だろ?ここまで素で好き勝手やって来たのに、まさかの原作ルート突入?
やっぱり運命には逆らえないってことなのか?
「という訳で、とりあえず今日の所は帰ってくれる?私はこのままリトの家に泊まるから!」
ぐいっ、と引っ張られて元来た道を引き返す。
後ろを見てみると、唖然とした表情で固まるザスティンとやらがそこにはいた。
…今日の所は追ってくるつもりはないようだ。
家に帰って来た。
「という訳で、今日からよろしくね?」
「…はあ…一日だけだからな」
もう夜も遅い。流石に追い出すような真似はしたくないが…明日には出ていってもらいたいところだ。
俺はため息をついて、玄関を開けた。
家族には絶対バレないようにしないと。