精神が肉体から離れ、現実世界と夢世界の狭間にて彷徨うイアソンはとある人物と出会っていた
「おや、危機管理能力が高いイアソンが死にかけているとは。相手は神代の英雄に劣らぬ強敵でしたか?」
「なんでここにケイローン教授がいるんだよ!!」
「あと俺が死にかけてるのは民間人を庇って砲撃を喰らったからであって、風紀委員会なぞ本来ならばなんてことはない!!」
「ほう、彼女のバリアを使わなかったということですか。あなたはここぞという場面において力の扱い方を間違えるようなことはないと思っていましたが」
「何でアンタがアロナのバリアのことを知っているのか気になるのだが……風紀委員会にも理由があったとはいえ無関係の民間人を巻き込めば大問題だ。俺としては面倒な事この上ないが生徒の味方である先生なんて役割を押し付けられているのでな。あいつのバリアを大将に使って民間人に大怪我を負わせてしまったっていうどうやっても覆すことの出来ない失態を防いだだけだ」
「最も俺の能力がどこまで下がっているのか確かめたかったのもあるわけだが」
「相変わらず限界を超えた状況でのあなたの輝きは素晴らしいものです」
「……アンタから素直に褒められるとなんか気持ち悪いな」
「褒める時はしっかりと褒めるべきですよ。あなたもアルゴノーツの船長としてその重要性を理解しているはずです」
「そりゃあそうだが……」
そんな中イアソンの肉体が光に包まれていく。知名度がほぼゼロに近いキヴォトスといえどイアソンが英霊であることに変わりはなく、その肉体の回復は通常の人間とは異なる。セリナが意識が回復するまでに数日かかると言ったのはイアソンが人間と同じ肉体の場合であり、受肉しておらず英霊のままであるイアソンは魔力供給を行うことが出来れば肉体を回復することが出来る。
「はぁ……また仕事に戻らねばならんのか。なぜアンタではなく俺が先生なんぞに……!!」
「それは私よりもあなたが適任だったからです」
「はあ?」
「これから先あなたは多くの困難に見舞われます。その一つ一つがヘラクレスと真正面から殴り合って勝つほどの難しさでしょう」
「おいちょっと待て、どういうことだ!! ヘラクレスに真正面から殴り合って勝つほどの難易度だと!? 冗談じゃない!! 最強のアイツに真正面から戦うなど気狂いでもやらんぞ!! そんな問題誰がやるか!! それこそアンタでもなければ無理だろ!!」
「あくまで例えですよイアソン。その上でこのキヴォトスのあらゆる問題について私はあなたが適任だと考えています」
「……この世界にはいったい何があるって言うんだ」
「具体的なことは私にも分かりません。ですが、あなたなら問題ないはずです」
「……はあ、相変わらずだなアンタは。もう会うことはないだろうが一応礼は言っておく。じゃあな」
「ええ、あなたの無事を願っていますよ」
「ここは⋯⋯トリニティの病院か」
「お目覚めになられたようで何よりですあなた様」
「……俺はどれくらい寝てた?」
「丸一日ほど寝込んでおられました。ああ、あなた様が生きている……本当にうれしい限りです」
「……心配かけたな」
「もう二度とこのようなことをしないと誓ってほしいのですが……そのお顔を見るかぎり誓って下さらないのですね……」
「……不本意ながら俺はどんどん厄介ごとに巻き込まれるらしい。ワカモも割り切ってくれ」
「……納得は致しませんが承知いたしました。しかし救護騎士団から数日は意識が戻ることはないと伝えられていたのですが、何かお心当たりはございますか?」
「あー……たぶんこいつのおかげだな」
「これは確か……大人のカードでしたか」
「こいつのおかげで魔力……エネルギーを補給できたんだと思う」
「それで今日は何の用だ。万が一俺が行動不能になったときの動き等は伝えていたはずだが」
「昨日対策委員会がカイザーの目的を調べるためにアビドス砂漠へ偵察に行きカイザー理事と接触、借金の増額と保証金の請求が行われました」
「あいつら……!! ……音声は?」
「指示通り全て録音いたしましたので問題ありません。今日はお見舞いに来たのですが念のため持ってきていて正解でした」
「コピーはとってあるか?」
「そちらも問題ありません」
「よし、よくやった。これでカイザーの方は何とかなる。あとは土地関係だが……仕方あるまい、ごり押しで行く」
「私はこの後予定がありますので失礼いたします」
「……それはさっきから駄々洩れの殺意と関係あるのか?」
「……あなた様にはお聞かせしたくありません、どうかお許しを」
「ダメだ、ゲヘナとの一件でシャーレにも色んな意味で注目が集まってる。下手にお前が暴走すればさらなる問題になる」
「ですが……!! 私はあの男を絶対に許すことなどできません!!」
「いいから話してみろ。話はそれからだ」
「……あの男は、カイザー理事はあなた様の大切な思い出を侮辱いたしました」
「……俺の思い出?」
「あなた様が心の底から笑って楽しそうに誇らしそうに語ってくださるアルゴノーツのお話を、船員の方のことを、そしてあなた様のことを侮辱したのです!!」
「………………」
「あなた様……? ……ッ!?」
突如として病室に濃厚な殺気が充満する。自身が放っている殺気よりもあまりに濃すぎる殺意にワカモは周囲を見渡し驚愕していた。出会ってからこれまで声を荒げることはあっても本気で怒った姿を一度も見せなかった先生がこの殺気を放っている。その事実に驚きながらもワカモは愛おしい先生の新たな一面を見れたことに感動している。
「あいつらを、アルゴノーツを侮辱しただと……!! ふざけやがって!!」
「ワカモ、カイザー理事はどこにいるか分かるか?」
「あの男は現在アビドス自治区を進撃中でございます」
「はあ!? ホシノはどうした!? あいつがアビドス捨てるわけがあるか!! 伝言はちゃんと伝えたんだよな!?」
「はい、小鳥遊ホシノはあなた様からの伝言を聞いた上でカイザー理事とその協力者からの契約に応じました」
「あのバカ……!!
「ワカモ!! 今すぐ俺をアビドス自治区に連れて行け!! 状況は最悪どころではないがまだ打開できる!!」
「承知いたしました。ですが無理は決してなさらないでください」
「分かっている!! 俺は今から便利屋に連絡を入れるが、お前の準備が出来たらすぐに移動を開始しろ!!」
「おい聞こえてるか便利屋!!」
『先生……!! 意識が回復したのね!! よかったわ!! 今アビドスが大変なことになってるのだけれど!!』
「そこについてカヨコと話したいから変わってくれ!!」
『わ、わかったわ。……先生、変わったよ』
「状況はどうなっているか端的に説明してくれ!!」
「あなた様移動を開始いたします」
『……現在カイザーが市街地中心に攻撃してる。このままだとアビドスは陥落すると思う』
「俺がそっちに到着するまでにカイザーの相手はできるか!?」
『依頼を受けてるってのもあるけど、社長が見捨てることは出来ないって元々加勢に行くつもりだったから問題ないよ。依頼を受け行った日に私たちが何をしていたか覚えてる?』
「あの日って言うと……お前らが爆弾を辺り一面に埋め込んだ日か!!」
『そう、でもゲヘナとシャーレの一件でアビドス自治区に埋め込んだ爆弾を無許可で使うのはさすがにあれだから暇なときに撤去しようと思ってたんだけど、今回使っても良いかな』
「カイザーを撤退させたら書類を渡すからそれに記入して提出すれば問題ない!! 【連邦捜査部S.C.H.A.L.E】の名のもとに許可する!!」
『ありがとう先生。合流地点はどうする?』
「商店街前に集合しろ!! そこで指示を出す」
『わかった、気をつけてね先生』
「私にもご指示を。必ずや果たしてみせましょう」
「お前は俺を商店街へ送り届けたあとはビルを駆け回って理事を探せ!!」
「承知致しました」
「それではあなた様お気を付けて」
「ああ、お前も一応気をつけておけ」
「ああ、あなた様が私の身を案じてくださるなんて⋯⋯!! 昂ってしまいます⋯!!」
「⋯⋯さて、起きろアロナ」
『ふーんだ、先生なんか知りません』
「あのなぁ⋯⋯拗ねてるところ悪いが今はそれどころじゃないことぐらいわかるだろ」
『つーん⋯⋯』
「はぁ⋯⋯お前抜きの作戦に組み立て直すか」
『⋯⋯先生、アロナはそんなに頼りないですか?』
「⋯⋯はぁ?」
『少し前から何かとギリシャ?の機械と私を比べるじゃないですか』
『それにゲヘナ風紀委員会の生徒さんが砲撃した時も先生を守るためのバリアを大将さんに使っていましたよね』
『確かに私はよくミスをしますし、居眠りをしちゃっています。それでもちゃんと先生を守れる力があるんです』
『⋯⋯先生にとって、アロナはお邪魔なのですか?』
「はあぁぁぁ⋯⋯そんなしょうもないこと悩んでたのかよ」
「確かにお前はポンコツだ」
『うぅ⋯⋯』
「居眠りはするわ、書類のミスをするわ、予定時刻を忘れるわでギリシャのアレに比べればザコAIもいいところだ」
『やっぱりアロナは⋯⋯』
「だが、お前が1番人間らしいよ」
『え⋯⋯?』
「人間のことを思いやって行動できる時点でアイツらより億倍マシだ! いや、0に何をかけても0だから意味は無いか」
「それに俺がお前のバリアを使わないのは、保険だ保険」
『保険⋯⋯ですか?』
「認めたくないが俺は調子に乗れば乗るほど泥船になっていく。なら最初からバリアなんて言う無敵モードを使わないようにすればいい。本当ならお前のバリアで楽をしたいんだがな」
「そもそも神であるアレとお前を比べる方が愚かだったな。お前は優秀だよ」
『優秀だなんて⋯そんなぁ』
「時期に便利屋が到着する。マップを展開してくれアロナ」
『へへん! このスーパーアロナに任せてください!』
「(褒めたことに関しては事実だが、チョロいなコイツ)」
「先生! 待たせたわね!」
「お、お身体の方は大丈夫なんですか……?」
「……あまり無理はしないでね」
「くふふ、がんばろー先生!」
「ええい!! 一度に全員で話すな!! 今から指示を出すが問題ないな!」
「大丈夫よ! どんと来なさい!」
「カイザーの小隊を処理しながら理事の方へ向かう! 北はアル、東はハルカとムツキ、西はカヨコが担当だ! 戦い方については俺が責任を取るから好きに戦え!」
「えー? メガネっ娘ちゃんたちと私たちで指揮の差が激しくない?」
「俺はお前らが爆弾を仕掛けた場所なんぞ知らんからな。現場を理解していない指揮官が最前線に出るなど愚の骨頂でしかない。本命のカイザー理事との戦いでは俺が指揮を執る」
「その……先生、顔が怖いわよ」
「お前は大切な社員を何も知らないバカに侮辱されたら我慢できるか?」
「無理ね」
「そういうことだ」
「それで、先生はもうあの子たちに連絡入れたの?」
「……まだだが」
「えぇ!? 入れるべきよ!?」
「今はそんなこと言ってる状況じゃない!!」
「そら、さっさと行くぞ!!」
「な、なんだこれは……!? どうなっている!?」
自らが選抜したPMCの精鋭が淡々と撃破されていく様子にカイザー理事は恐怖を抱いていた。シャーレの先生の指揮能力について黒服から忠告されていたが、所詮は砲撃で瀕死になる貧弱な人間でしかなく実力の高い便利屋とはいえ物量で押し切れると高を括っていた。それがどうしてこうなった?
「前方20メートルの集団に爆弾をブチかませ!」
「まっかせてー!」
「ぐうぅ!!」
「ハルカは目の前の集団の腹に思いっきりぶち込め!!」
「わ、分かりました……!!」
「こいつらヤバい……!」
「カヨコ三回目の威嚇準備だ! タイミングはお前に任せる!」
「私にだけ指示が大雑把過ぎない?」
「お前ならタイミングは間違えないからな!」
自分が数年かけて組み立てた計画が崩れ落ちていく音がする。カイザーを敵に回すことの怖ろしさを理解していないのか理解できずにさらなる恐怖に叩き込まれていくカイザー理事。何より今すぐにでも自分を殺そうという意思が伝わってくるシャーレの先生の目が最も恐ろしい
「4時の方向に爆弾を抱えて突貫かまそうとしている奴がいる。アル任せたぞ」
「ええ、もちろんよ」
「あ、あり得ん……!! 貴様らなんぞに我々が……!!」
「うるさいわね、あんたなんかよりも先生の方が一緒に仕事がしやすかった。それだけの話よ」
「あはっ、雇い主を裏切ることぐらい、悪党としては当然でしょ! そんなことも予想できなかったの?」
「言い残すことはあるか、クソ男」
「ふざけるな!! ポッとでの貴様に我々の偉大なる計画を邪魔されてなるものか!!」
「黙れ、アルゴノーツを侮辱した時点でテメェに地獄を見せてやると決めてんだよ」
便利屋と先生によるカイザーの蹂躙劇に諦めかけていた対策委員会が立ち上がっていく
「確かに悪党としては正解。でも先生のその発言は過激すぎると思う」
「……お陰様で目が覚めました。私たちに今、こうして迷っている時間はありません。それと先生は言葉遣いに気を付けてください、シロコちゃんたちに悪影響です!」
「そうね! 何よりもまず、ホシノ先輩を取り戻さないと!!」
「それに先生が戻って来たんだから非公認じゃなくなるわ!」
「ホシノ先輩を助ける、今大事なのはそれだけ」
「くっ、この期に及んで無意味な抵抗を……! よくも……!!」
「遺言はそれでいいな、クズ野郎」
そこから先の戦闘はあまりにも酷いモノだった。ただでさえ便利屋4人に蹂躙されていたというのに、そこに対策委員会が加わってしまえば戦いにならないということなど分かり切ったことであった。しかしながらPMC兵は誰一人として諦めることなく戦っていた。手を抜けば自分が捨てられるかもしれない恐怖からなのか、単純にカイザー理事を慕っているのか。ただPMC兵の誰もが誉れ高き戦士であることだけが明らかだった
「理事、傷が……!! すぐに治療を!」
「くっ、一度退却だ! 兵力の再整備に入れ!」
「は、はいっ!!」
「覚えておけ、この代償は高くつくぞ……!」
「そんときはまたお前を嬲るだけだ、覚悟しておけクソ男」
『敵兵力、退却していきます……』
「ふぅ……疲れました……」
「……ん」
「情けないやつらね」
「いや~、あれこそ正に本物の三流悪党のセリフって感じだね。「覚えておけ―」なんて実際に初めて聞いたよ」
「想定通り、大体上手くいった」
『皆さん、一度退却してください』
『きっとこの次は……今までで一番大きな戦いになると思います。皆さんで集まってホシノ先輩を助ける方法を探さないといけません』
「そうね、さっさと戻りましょ」
「……先生、どうしたの?」
「お前らに今一度聞かねばならんことがある」
「何でしょうか?」
「お前らは本気で小鳥遊ホシノを助けに行くつもりか?」
「な、何言ってるのよ先生? そんな当たり前のことを聞いてきて?」
「あいつはお前らを裏切った」
『ホシノ先輩は私たちのことを裏切ってなんかいません!!』
「お前たち対策委員会は全員で協力して借金を解決するんだろう? だというのに小鳥遊ホシノはお前らのことを切りすててカイザーに身売りした」
「このことがどれだけ重大な事か分かっているのか?」
「小鳥遊ホシノのこの行動はおまえたちでは借金を返すことなどできないと判断して行われていると考えることが出来る」
「……いくら先生でも先輩の覚悟をバカにするのは許さない」
「いいか! 小鳥遊ホシノはアビドスの指揮官だ! 指揮官が目的を諦めて挫折することは絶対にしてはならないんだよ!! 船員が、仲間が挫折しようとも、指揮官だけは前を向き続けて引っ張り続けなくてはならないんだ!! だというのに小鳥遊ホシノはそのことを放棄した!! 俺が見てきた中で最悪の指揮官と言っても過言じゃない!!」
『それは……』
「その上で俺はお前たちに改めて聞くぞ。本当に小鳥遊ホシノを助けに行くのか?」
イベストと恋愛要素は必要?
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イベストだけ
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恋愛だけ
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どっちも必要
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どっちもいらない