ヴィサスと名乗った男 予告編 作:コンテナ店子@コミケ出ます
イラストはすめらぎ様に依頼しました。素晴らしいイラストを誠にありがとうございます。
興味がある方は明日「イ-06b」までお越しください。
お待ちしています。
何度も繰り返される息。久しぶりにその人物の様子を筆者が発見した際に捉えることが出来たのはそれだけであった。しかし、その音ですらも、より大きい掛け声とすらも言うことが出来ない声に掻き消されてしまいかけている。後者も何か意味のあるものではない。ただ前者とは全く異なるリズムの等間隔な形で何度も繰り返されている息と共に出るだけであった。
その声の持ち主がただ体を前後させている物の、体で動いているのはそれ以外には肩のあたりにまで伸びている髪の毛と思われる部位のみ。それがわずかに上下に揺れるかのよう。周囲のひび割れた地面の上に転がるわずかな砂の欠片ですらもその場で動かずに転がされているのみ。同じく数本のみが確認できる細い雑草も風に揺れることすらない。
そして、筆者の方へと背中を向けながら腰を落としているその生物と同種の生き物と思われる生物たち二体も、座り込み指で歯の掃除をしている物とただただ空を眺めているのみ。それ以外には果てしないひび割れの地面が、薄汚れたような灰色の雲に包まれた空と重なり合う場所にまで伸びているだけであった。
筆者がただ目の前で行われている行為をしゃがみつつカメラを向けている間は気づくことがなかったが、この時点において前方にいる生物の足の間からその人物の様子を確認することが出来た。赤色をしているその生物の奥で、今その人物は四肢を折り曲げ前腕と脛を地面へとくっつけた状態で四つん這いになっている。
頭を下へと向けるような体勢をしていることもあり、長髪の全てが肩へと掛からずに下へと向かっている結果、表情を見ることはできない。ただ、生物が腰を突き出すと共に声が出てしまっているその人物は、そのたびに抜けてしまっているせいで力を入れながら自身の指を強く握りしめるような動きを何度も繰り返していていた。喉を搔き乱すような声が、時たま出ている膨らんだ口の中の息が一気に噴き出すかのような形に変化していたが、それ以外には歯を噛みしめながら喉を鳴らすような物だけである。
人物側が着ていたと思われるボロが地面に打ち捨てられているものの、その上半身側は生き物が覆いかぶさる形になっている結果、筆者の目もカメラもどちらも現在の様子を捉えることが出来るのは尻と足の部分のみ。
そこに出来た傷の様子を見ることはできるが、それは前にいる生物がその倍近くはあるかのような巨体であるがために、確認出来るのはわずかなタイミングのみ。腰が強く打ち付けられることで隠れる範囲が狭くなった時だけであった。
一方で、虚空を見つめているだけの周辺にいる同じ色をした二体のうち、片方がため息を吐きながらいたが、それで何かが変わる訳でもない。筆者がカメラに取り付けられているモニターを確認のために体をわずかに動かすが、それ以外でわかる動きはもう片方の一体があくびをしたのみ。
二つが消えて行った先の雲たちは、黒の方が濃いような色をしている部分がほとんどである。一部その中に無理やりこじ開けたような不規則な形で出来上がった穴があるも、それはほんのわずかに白が混ざるような色をしているだけであった。
そんな空をカメラで撮影していた筆者であったが、その間も生物が出した後にそれへと続くような形で喉を搔き乱すような声を出し続けている人物の声だけが音となって捉えられていた。
カメラのモニターが表示している撮影時間の数値が増えて行くのと五十九からまた零に戻るのを何度か見届けた後に、急に一際大きな声をすぐに喉を引っ込めるような声を出した生物が体を反ら動きをした後に、一気に大きなため息を出していた。続けて何度か肩で息をしながら、顔の横で髪の毛を落とすように頭も同じ向きにする。
一方で、それに肩のあたりを見られるような形にしている、筆者が探しに来た人物は両肘を地面に置いたまま、それを自身の体の方へとほんのわずかに近づけるようにしながら尻も同じ方向へとひっこめている。そのまま後者をわずかに震わせるような動きを繰り返していた。
しかし、その震えが落ち着いた後、生物が呼吸を荒らしている間もその人物は何もしない。声も出さずにその場でただ静止しているかのようであるが、筆者がずっとそっちを見つめ続けていることもあり、カメラが未だ空を捉えたままであったことに気づいたのは数秒後のこと。それの角度を変えようとそれに片手だけをわずかに触れたが、それを原因として揺れた後に、またそれを元に戻すことにした。
ただ、その生物が一際大きな声を出しながら立ち上がったタイミングで筆者はカメラの向きをすぐ彼らの方へと戻す。低い形で出した声に周囲でしゃがんでいた彼らも気づいたようで、体勢を同じままに首だけを使ってそっちを見ている。しかし、その二体も最初の一体と同じ色をしている上に体格も筆者や取材対象者をはるかに超える大きさのため、それだけでも大きな物が動くことになっていた。
彼らの中の一体が歩き出したことで、それに続いて他の仲間も付いて行った結果、筆者の他にこの場所へ残されたのは今回取材対象となった人物と彼らの足音。そして、その内の一体が発したと思われる、抑揚もほぼないただ吐き捨てるだけの「行こうぜ」という声だけであった。
音はその場にとどまることがないため、数秒後にはすぐになくなり、ただ周囲に数本だけまばらに生えている細い雑草以外にはその人物が今もわずかに足を開きながら地面に倒れている様子だけがその場に取り残される。
ずっと動かずに、顔を横に向けているが、それは斜め後ろから撮っているカメラの側からでは撮ることはできない。両方の肘をわずかに折り曲げた状態で頭の頂点が向かっている方と同じ前側へと伸ばしているのみ。髪の毛も大きく左右に広がっているがそれらは全て動くことはない。
筆者の持参したカメラは対象者を遠くから撮影していることもあり、フレーミングの中でもその人物はだいぶ小さく撮影されている。その中の三分の一にも満たない範囲にしか取材対象の体は締めていないだろう。
その人物が両方の手を地面に突きながら何度も呼吸をし始めたことに気づいたのは、後者の音が筆者の元にも聞こえたところであった。前者も砂利がわずかに擦れるような音がしていたのも筆者が確認したのは撮影した映像を見ていた後ということもあり、こっちは何もせずにいた。咳を繰り返した後にまた対象者は一度体勢を崩して上半身を地面へと落っことし、赤く腫れあがった尻を大きく上へと突きあげるような体勢をしている。
崩れたそれをしばらく同じ体勢へと戻せずにいる人物であるが、ただ何度も口で激しく繰り返している呼吸だけは変えられずにいた。またわずかに砂利だけを動かしている彼はだんだんと縮こまりながら、歯を強く噛みしめることで高い声を一瞬だけ出すことを数回繰り返す。しかし、当然ながらその一部始終は筆者のカメラが捉えている映像の長方形の中から一切出ない。それどころか、彼の映っている範囲がだいぶ小さいこともあり、本当にわずかな動きしかわからなかった。
「俺を、見ろ……」
筆者がその人物を発見してから十数分という時間が経った後、その人物は今も体を縮めた四つん這いの体勢で、顔を地面に向けた状態のまま大きな声を出す。しかし、その声は本当に一瞬。唾液を吐き出すような勢いで出ていたのは最初の数文字だけで、一度息を切らすように止まった後に出たものは、だいぶ小さくなってしまっていた。
声と共に頭をわずかに振っているのは、髪の毛が揺れることでこちらにも確認出来るような物であった。それと共に喉をわずかに鳴らすような声が筆者の方にも聞こえてくる。映像の中ではわずかに体が中央からずれた位置でずっと同じ体勢でいる。
その人物が立っている地面はいくつものひび割れによって出来上がった模様がある物の、それはどれも同じものが一つもなく、大きいひし形のような物をしている場所もあれば本当に小さな丸のような形をしている物もある。それらをかたどっているひびは真っ黒以外の何物でもない。
カメラの映像の中には入っていない筆者の足元にある物も同じで、わずかに足を動かすことで中へとわずかな砂が落とすも、その音が聞こえることもなく勝手に消えてしまうかのようであった。
「俺を撮りに来たんだろ、お前は」
髪の毛同士の隙間からわずかに見えている目で筆者とカメラの方を見つめているその人物の眼が真っ赤に染まっている様子は、しゃがんでいるこちらの肉眼でも、映像の中に映っている様子でも確かに確認することが出来る。瞳孔が一切動くこともなく、ずっと同じ方向を向き続けていた。
体はわずかに呼吸と共に上下に動いているようであるが、一方で、その目だけは筆者の方をまっすぐに捉え続けている。
それが終わったと共にすぐに下を見たその人物は、自身のすぐそばに転がっていたボロを着直しながら立ち上がり、歩きつつ両方の腕を通していたが、帯を締めることで体全体を隠すことが出来たのは筆者の方へと歩き出してから数秒後のこと。その間はほとんどそれが体を隠す役割を果たすことが出来なかった。
「早く行くぞ」
一瞬だけで終わるような早口で対象者がその言葉を言い終えたのは、筆者及びカメラの横を通り過ぎた後。わずかに体を前のめりにしながら進んでいたその人物は、こっちが振り返った後も全く同じ体勢でいるようである。そのままわずかに呼吸を繰り返している相手は、また穴が開いたことで見えている大きな傷の跡が出来ている背中をこっちへと向けて立っている。
しばらく筆者へと背中を向けたままにしているその人物だが、ふとした瞬間に首だけを使ってこっちを見てくる。目全体の中でも目尻を特に上向きに鋭くとがらせているそれをカメラと筆者を捉えていた。今回はカメラがズームしていることと、先程よりも明らかに距離が近いこともあり、その顔がだいぶアップの状態で撮影されていた。
筆者がこの度この人物を取材することとなったのは、かの人物からの指示に他ならない。かの人物は道楽の一環として数々の世壊を統括し、その動向を観察し続けている。しかし、より自然な形にしたいという思想から、彼自身が課している決まりとしてその世界へと自分自身は干渉しないこととしていのだ。
かの人物は世壊を統括する立場でいる一方で、あくまで筆者の憶測に過ぎないがそれを自身の思惑通りに動かせていないようである。しかし、人智を超える存在である彼の思想を理解することは到底出来ることではないということを注釈する。
その最たる原因は前回の世壊の実行において発生したヴィサスによるかの人物への反逆であった。幾度も条件を変えながらその動向を観察し続けていたが、あくまで世壊の一部でしかないヴィサスがかの人物の存在を認知したのはその回が初めてであった。
その原因が何たるかを解明するため(これも筆者の推測でしかない。かの人物は撮影をするようにとしか我らには伝えていない)筆者らを作り出し、ヴィサスを始めとした各知的生命体の元へとその動向を記録するため送り出したのである。
一方で、筆者が担当することとなった今回の取材対象者は意外にもその許可を簡単に出すこととなった。最初に話しかけた時は確かに筆者に対してよい顔をしていなかったが、かの人物に関しては伏せて対象者の動向を記録することのみだけではあるが、事のあらましを話すとしばらく熟考した後にその許可を出す旨を筆者へと伝えてきた。
しかし、その時の言葉は本当に一瞬で終わる物であったがため、その真意はかの人物同様不明である。
対象者が歩くのに合わせて筆者もカメラを担いだまま歩いていたため、時折確認する長方形のモニターの中は補正で多少は軽減されている物の、細かく手ブレで上下に動き続けていた。また、先程の全身を遠くから捉えていたのと同様、以前よりは近づいてはいるが、その全身が捉えられるような形になっている。
着ているボロにいくつもの穴が開き、素肌が見え隠れしているその体がある場所を除くと、周囲は変わらない光景。白と灰色が交じり合うような色をしている雲にだけ支配された空と、黒ずんだ茶色をしているひび割れた土の上に転がる砂の数々のみ。それの内後者を取材対象者はずっと踏みしめると共にわずかに転がっているのかいないのかを感じさせるだけにしていた。
一方で、その間その人物は何か声を出すわけではない。能動的に出している音は息を吸ったり吐いたりするものがまれにする程度。それ以外で対象者は体をわずかに前のめりにしながら早歩きでまっすぐに道を進んでいるだけであった。そして、それに続くかのように、遠くから見ているせいで力が入っているのかいないのかわかることもないが、それでもわずかにわかるのは、握っている拳の中に隙間を全く作っていないということのみ。
しかし、それも数分間歩いている間に足の動きを緩めることで出来たわずかな隙間の時に、尻を触ってその形を内側へと寄せるような動きをする所で止まってしまっている。ただ、それもほんの数秒の間のみ。最初に片方の手だけでそれを行っていた際には、足を動かすペースを落とすだけであったはずのを、両方の手で行う時にそうなっていた。
人物がまっすぐに進んでいる間一度も風が起きなかったせいもあり、まれにわずかに草が生えていることも見えるが、それらが揺れるなどの動きをすることはなかった。それどころか、筆者らからある程度離れた位置にあるときはカメラの映像の中から途中で見切れてしまっている。
ただ、今回の取材対象者が進行方向をただまっすぐに進んでいるせいで、足元にそれがあった際にはそれをひしゃげさせるように足で踏みつぶす。しかし、それをされた側の形が変わるのに対して、その足のペースがモニターに表示されている時間の数値が進む物よりも早く動いているのが変化することはない。そして、それは進行と一緒に揺れる髪の毛の動きも同様であった。
しばらくの間同じ荒野だけを視界が支配していたが、その奥側にうっすらとした影が見えだす。そこにいる生物らはしゃがみ込んでいるようで、地面へと突き刺さる岩のようにすらも見えていた。
一方で、それらへとまっすぐに向けて進んでいるモニターの中央辺りにいる人物は、進行方向を一切変えずにただまっすぐに足を進める。それどころか、早さも呼吸を筆者の側に聞かせているテンポを変えることすらもしない。まっすぐに伸ばした手を小さく前後に振っているまま頭を前のめりにするような姿勢のままいるだけであった。
それがようやく止まったのは先ほど遭遇した彼らと十数歩ほどの距離にした時。向こうにいる例の生物三体は地べたに胡坐を掻いて座り込んでいたり、しゃがんだまま肘の上に両手を乗せているだけにしていたりなど。内側に体を向けながら三体で円を作るようにしていたが、それらが会話をしている様子はない。
何か言葉になっていないうめき声のような物をあげてはいるようだが、それはどこかへと届かせているようではなく、ただ意味もなく喉からこぼれているのみ。さらに言えば、その中の一部はただのあくびしかないようであった。
それから先の彼らは体の一部を掻きむしるためにゆっくり手を動かしていたり、何かの生き物と思われるそれの頭蓋骨を左右に傾けるかのように動かしたり、体を横にして寝転がっているだけにしている。
一方で、取材対象者はただ肩幅ほどに足を広げながら、両脇をわずかに開く姿勢でまっすぐに目の前にいる生物たちの様子を眺めるのみ。それ以外に筆者の持つカメラが周囲の様子を映すことはない。油で滲んでいる髪の毛が動くこともなければ彼が身に着けているぼろも同様。そしてそれは、三体の生物たちも同じであった。
「満足かよ」
先に声を出したのは取材対象の方であった、言葉を出す前に一度だけわざと笑うような形でわずかに大きな声を出していた。それに引き続いて顎を上へと持ち上げつつ片方の手を腰へと置き、もう片方の肘を降り投げながらもその手は上に向けた状態で斜め上へと運ぶ。
一方で、先程人物へと好き放題していた生物は少し背中の辺りを掻くようにしていた動きを数秒間だけ続けた後に一度静止。それからため息を吐きながら体を起こし、巨体を目の前にいた取材対象者へと見せつけるような体勢になっていた。
「ノンケでもホモでも一緒だろ。レイプにしても殺しにしてもヤるならマグロじゃねぇ」
わずかに口を開いた生物に対して、それよりも早く早口目の言葉を発した対象者は、あえて抑揚をつけるように、言葉を止める直前の所でほんの数秒にも満たない長さの声を伸ばしていた。それから続けて自分の体へと腕をくっつけるような体勢でいるその人物は、目の前に立っている生物を見つめるだけにしていた。
一方で、それと向き合っている生物はわずかに数回だけ乾いた笑うような声を出したのと共に、後ろへと振り返ると、そっちで自分の思い思いのことをしているだけにしていた連中も首だけをそっちへと向けていた。それでわずかに笑うような声を出しているが、それも長続きしないどころか、ほんの一瞬で終わってしまう。
一度だけ地面に向けてため息をついてから顔の向きを対象者へと戻したその生物は、筆者とその手に持っているカメラからすると奥側にいるにもかかわらず、明らかに前側にいるそれよりも大きくその二倍はありそうな巨大な体を撮らせている。結果として、モニターに表示されている映像の中ではその体の隅側が見切れて見えない。
ただ、その巨体の側が体を大きく反らすような形でその手にしている得物を背中側へと動かすと、そのままの勢いでそれを地面へと叩きつけようとしていたが、それよりも取材対象者の動きが早いようで、素早く地面に手を突きながらそこを軸に体を斜めにして滑らせるような動きと共に攻撃を回避する。
それだけでなく、腕の反対側に体全体が来たところで相手の得物の上へと乗ると、それを持ち上げるよりも早く相手の肩の上へと体を回すような要領で飛び上がり、そこを踏み台にして相手の背中側へ。それから寝転がっている生物の元へとスライディングして頭蓋骨を蹴飛ばすとそれのすぐ横にあった腕の骨と思われる物を拾いつつ立ち上がった。
一方で、武器を振り下ろした生物は肩にそれを担ぎながら首だけを使って相手の方を見つめ、鼻から激しい息を吸ったり吐いたりを繰り返している。また、一度走るのを辞めていた取材対象者はわずかに体を前のめりにしながら顔を下へと向けて地面を見つめていた。
その人物の顔はカメラに対して横側を見ているせいもありその表情の半分しか見ることは出来ないが、わずかに開けている口の中で見えている歯を強く食いしばっているようで、口元にすらもしわを作っているようであった。さらに目元も細くしているようで眉も下へと下げてそこを平らにするような形になっている。
一方で、肩もそこを小さくわずかに震わせながら手にも力を入れているようで、手にしている腕の物と思われる骨の上で手が滑っている。ただ、その顔はこの場所の光源がどこにいるのかわからないままにもかかわらず、影になっているせいで全体が暗くなっている。
続けて、生物が何度も大きく鈍い音を立てながら足を動かし始め、その動きの勢いすらも利用してまたもう一度片手に持つ得物を取材対象者へと振り下ろす。しかし、それは後者が足元に転がっていた頭蓋骨を蹴り飛ばして斧のようなそれの刃にぶつけることで標準を反らされてしまう。地面に突き刺さったそこを登り、さらに一度腕の上を駆け上がると、やってきた反対側の腕が自分に当たるよりも早くそっち側の方へと飛び映っている。
気づけば、取材対象者は敵の首を足で絡みつき、その骨を相手のそこへと突きつけながらただただそこにいるだけにしていた。髪の毛と手前にいる生き物の頭のせいでほとんどその人物の顔は見ることが出来なかったが、わずかに見えている目元は、首を使って顔が前のめりになっているせいで、暗い影の中からわずかに覗いているかのようであった。上側の瞼が落っこちているままそこが平たくなっている結果として、中の瞳孔も見えている範囲がだいぶ狭まってしまっている。その状態でその男はまっすぐに相手を見るのみ。
一方で、のしかかられている側はわずかに両手を持ち上げるような形にしながらそこで体を細かく震えることしか出来ずにいた。それに対してその人物は一度だけため息を吐くと、すぐゆっくりと滑るように体を地面へと落とす。そこで立ったまま肩を落っことしながら自身のボロについた砂煙を払い、カメラに背中を向けた状態でいる。しかし、それも数秒間の間の話であった。
歩き出した取材対象者が先ほどの時と全く変わらないペースで立てていた足音の隙間からわずかに舌打ちをしている音がしているのが聞こえる。一方で、戦いを仕掛けた生物は大きな砂煙と音を立てながら尻もちを付き、それ以外の二体も中腰の姿勢でその場にいることしか出来ない。
「言っただろ。今のお前には勝つだけの価値はねぇ」
その中の一体がわずかにその人物へと声をかけるような動作として手を振り子のように持ち上げようとした瞬間、それが口を開けるよりも先に取材対象が足を止める。それからわずかに顔がこっちへ見えないくらいの角度でそれの向きを後ろ側に近づけるかのようにしていた。
「女犯して孕ませろ。男は火あぶりにして子供を食らう。それまでお前らの首は預けておく」
その言葉を発した後にもう一度筆者がモニターの様子を確認するも、先程対象者が生物たちを仕留めるためにしていた一部始終をそのカメラが映像として捉えることはできていなかった。
筆者は今回の取材対象者の撮影が全て完了した後、本作品を文章としてドキュメンタリー作品として公開する許可をいただいたことに伴い、世壊へと住む彼らへとその人物像についてインタビューを行うこととした。
なお、この完了とはかの人物から事前に指示を受けていた期間が終了したことを意味している。