1周年を迎えてさらに盛り上がりをみせている本作ですが、ゴッデスの話を思いついたので、描き始めました。途中で失踪すると思いますが、それでもよかったら読んでください。
それはいつも通りの日常だった。
優しい母の声で目を覚まし、朝の忙しい時間を通り抜けて、父と一緒に家を出る。
朝の通学路は、青い空の下、鳥が歌い、柔らかい風が肌を撫ぜる。あんなに億劫だった学校に通う日々が、どれほど幸せな時間で掛け替えのないものだったのか、失って初めて気づくというのは本当らしい。
人類は永らく地球生態系の頂点に居座り、外敵というものを久しく忘れていた。そんな平和な時間に、同じ種同士で争っていたなんて、愚かだったと言うほかあるまい。しかし奇しくもその外敵の出現により、人類は戦争を止める事となる。
外敵の正体はわかっていない。宇宙からの侵略者かもしれないし、突如出現した新種の生物、または科学技術の暴走かもしれない。
明らかなのは、人類は絶滅の危機に瀕していて、その外敵の名前は'ラプチャー'だということだ。
名前なんて、人類が勝手につける識別タグだ。でも俺は知っていた、人類が名前をつける前から。
順に説明する。
ラプチャーによる侵略が始まったとき、俺は前世の記憶を思い出した。
前世の記憶と言ってもほんの一部分だけだ。前世での自分の名前すら思い出せない。
そもそもこれは前世の記憶なのか、未来予知の様なものかすら定かではない。
思い出せたのはとあるゲームの記憶、'勝利の女神:NIKKE'というゲームが好きな男だったということだけだ。そして、ここは俺の愛したゲームの世界である事を、直感的に確信した。
勝利の女神:NIKKEの世界は、アークという巨大シェルターに逃げ込んだ人類が、侵略者から世界を奪還するというストーリーだった。
しかし、まだこの世界にはアークは存在しない。つまりココは本編が始まる約100年前の世界という事になる。
周年イベント:Red ashの更に前、人類はその殆どがアークに辿り着く事なく死んだらしいが、果たして俺はアークに辿り着けるのだろうか。
ゲームの世界と言っても、ただ少し未来の知識があるだけで今の俺には力がない。ただのモブキャラにこの侵略戦争を生き延びることが出来るのかはわからない。
それに今の俺にとっては現実そのものだ。俺は生きてるし、家族もいる。二人を死なせたく無い。ただの人間が生き延びるためには、何とかしてアークに辿り着く他ないだろう。
しかし、アークがどこに出来るのかが分からない。避難先がわからないまま、外を彷徨うなんて自殺行為だ。それまでは近くのシェルターに避難するしかない。
避難している近くで、軍が通常兵器を用いてラプチャーと交戦を始めた。反撃の狼煙だの、人類の希望を背負ってだの宣伝しているが俺は知っている。それらの全てで勝利を掴むことは無いと。
人類は敗北の山を築き上げる、勝利の女神が舞い降りるその時まで。
人類連合軍が結成されたとの報道があった、後にアークを管理する中央政府の母体となる組織だ。同時に、巨大な地下シェルターを建造しているという情報も得ることができた。足繁く、軍の駐屯地のボランティアに通った甲斐があったというものだ。
漸く目的地がハッキリしたためで、これから家族と避難を開始する。生きている鉄道や交通網を使えば、不可能な距離じゃない。俺は両親を説得して、シェルターから抜け出した。
避難は順調そのものだ。ラプチャーは大きな音や光に集まる習性があるからか、戦闘地域を避けていれば、ラプチャーに遭遇することは無かった。交通網も思ったよりは残っていたし、このまま行けば食糧が尽きる前に目的地に到着出来る。少し希望が見えてきた。
お父さんが死んだ。
わからない、何を間違えた…?
私が、シェルターから連れ出したから…?
ごめんなさい、ごめんなさいゴメンナサイ…
泣き叫ぶお母さんの手を引き、口を押さえて必死に逃げた。
ごめんなさい、お父さん。お母さんは絶対守るから。
少し落ち着いた。恐らくあのラプチャーは、群れから逸れた個体だったのだろう。父が念の為に持っていた爆弾で自爆した事で、ラプチャーは沈黙した。
遭遇したのは運が悪かったとしか言えない。いや、これまでの運が良かったのか?
母は憔悴しきっている。今日の分の食糧を母の口に押し込み、手を引いて歩き出す。背負って上げたいけど、この身体では不可能だ。父の形見でも回収できれば少しは、元気が出るだろうか…いや、そんなリスクは冒せない。命を賭けてくれた父のためにも、母を必ず送り届ける。
足が重い。けど長かった旅路にもやっと終わりが見えてきた。早ければ明日には着くかもしれない、母も少しは元気になった。
あ、あ…お母さんが…
どうして、こうなったの。
お母さんは私が守るって誓ったのに。
また守られてしまった、お父さんに合わせる顔がない、
ごめんねって何?どうしてお母さんは謝ったの…?
わからない、何も。何で私は歩いてるの?何で私は生きてるの?
…一体何のために?
ラプチャーに見つかった、もう目的地はすぐそこだったのに。逃げようと走ったが、脚がもつれて転んでしまった。
…まぁでも、いっか。もう助けたかった二人はもう居ないし、死んだら会えるかな。
腹部に衝撃があった後、酷く熱を帯びる。何か温かい液体が流れ出る感覚。痛みはあまり感じなかった、空腹が紛れだ気がする。
私の息の根を止める為に、ラプチャーの目が赤く光を放つ。
何ひとつ守れない、意味のない人生だった。
目を閉じて終わりを待つ、しかしその時は来なかった。トドメを刺されずとも、すぐに死ぬ事には変わりはない。そのエネルギーが勿体ないという事だろうか。ラプチャーは意外と倹約家らしい。
しかし目を開くと、ラプチャー達は粉々に粉砕されていた。立っているのは美しい白髪の女性、その吸い込まれる様な瞳には見覚えがあった。
「リリーバイス…?」
「…ッ!