ゴッデスも残すところあとひとり。ニケとして生まれ変わって一年が過ぎた。この世界のニケになる前の記憶は、戻る気配がない。覚えているのは、ラプチャーに貫かれて、冷たくなっていく自分の身体。両親はまだどこかで生きてるのだろうか?リリーバイスから聞いたボクを発見した時の話を聞く限り、その可能性は低そうだが、もし生きているなら
現在の最優先はレッドフードを守る事。ゴッデスの歯車が狂い出した元凶である、レッドフードの
これはボク個人の考察だが、侵食とは、ラプチャーがニケ、ひいてはゴッデス部隊を潰すために作られたウイルスによって引き起こされる症状である。侵食コードを流し込むことで、ニケの脳内に存在するNIMPHという記憶を編集するソフトウェアに干渉し、ニケを一種の洗脳状態にする。そしてこの状態になってしまったニケは、人類に対して敵対行動をとる。共に背中を預けて戦った仲間と同士討ちをさせる最悪の攻撃だ。
未だ侵食を扱うラプチャーは現れていない。もし出現が報告されれば、レッドフードには待機して貰おうと考えている。あれから幾度か殲滅作戦を共にして、レッドフードの実力は十分に理解した。彼女は強い。普段の自由な性格に反して、戦闘中は冷静で作戦の意図を理解して戦っているのが細かいところから伝わってくる。特にスノーホワイトと二人で組むと、長距離から一方的な蹂躙が可能で早くもゴッデスの戦術の一つとして組み込まれている。レッドフードのことを守る必要はないと思える。それでも、もしものことを考えると、最善を尽くしたいというのがボクの思いだ。
二人の仲…ですか?ええ、もちろん二人は仲良くなっていますとも。ボクがちょっとジェラシーを感じるほどにはね。
「レッドフードって戦い方変態だよね。どんな訓練したらその巨大なライフルで近距離戦闘が成立するの?」
レッドフードの戦闘スタイルを一言で表すとしたら
「変態ってお前…。…どうって、普通だよ。寧ろアタシはお前らの方がすごいと思うけどな。戦闘中に武器を持ち替えたり、変形させたりしたら、頭がごっちゃにならないか?」
「それは訓練でできるようにするんだよ」
「ならお前らも近距離で対艦ライフルだろうと、使えるように練習すればいいじゃないか」
確かに…っていやいや、ボクは何を納得しかけているんだ。そもそも対艦ライフルは近距離で運用する想定で作られてない。それに全力で走りながら正確な狙撃をするなんて無茶だ。遅刻しそうな時に、パンを咥えながら走る古典的な表現があるが、レッドフードのやっていることを例えるならパンの代わりにラーメン啜りながら登校するようなもので、どんな練習をすれば良いのか、皆目見当が付かない。
朝、ラーメン食べながら走ってる人を目撃したらどう思う?…変態だよね。
それに彼女はリロードも迅速だ。どれだけ威力の高い銃だとしても、そして正確に敵を射抜けたとしても、たったワンマガジンの弾丸ではラプチャーの軍勢を退けることはできない。精密な射撃技術に加えて速射、連射ができて、初めて凸スナと呼ばれる戦術は可能となるのだ。こればっかりは、才能の世界なんだろうね。ボクからすれば、武器を切り替えた方が効率が良い。
ただそれはそれとして、ボクもやってみたい。だってレッドフードの戦い方がカッコよかったから。
「じゃあ偏差は?偏差はどうやって計算してる?」
「計算〜?そんなことしてないぞ。いいか、例えば…」
レッドフードは
「あー!もう、狙撃銃なんですから丁寧に扱ってくださいよ!」
「大丈夫だって!それに、もし壊れてもスノーが直してくれるだろ?」
「その時は直しますけど…」
スノーホワイトがレッドフードを嗜めて、それを上手く躱すレッドフードの図。これが見たかったんだよ…我が生涯に一片の悔いなし。
そして駆け寄ってきたスノーホワイトはレッドフードに捕まり、腕の中へと収まった。
こ、これはあの、ヘッドロックスチル…⁉︎こんなの無料でみていいんですか??写真…はダメだな。この尊みを目に焼き付けないと…!
スノーホワイトはターリアに視線で助けを求めていたが、推しの供給過多となっている彼女には届かなかった。今彼女の頭にあるのは、少し頬を膨らませてるスノーホワイトも可愛い!である。そしてレッドフードはヘッドロックを掛けたまま少し移動し、空いている右側のスペースにターリアを収め…今ここにダブルヘッドロックが完成した。
「うぇ」
「なんだよ、羨ましそうな顔してただろ?」
「し、してないよ!」
ふと横を見ると同じような体勢で、レッドフードに抱えられているスノーホワイトと目が合い、同時に吹き出した。
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最近、不穏な情報が入ってきた。ラプチャーではなく、人間社会のことについてだ。
ラプチャーによる進行が始まって、今や全人類がその存在を認知している。人類は生息圏の半分を失ったと言われている。たった一年余りでだ。
そんな状況下で、何かを信仰すると言うのは精神を健康に保つための手段の一つである。そんな人におすすめしたいのがラプンツェルが所属する教団だ。忘れているだけかもしれないが宗教とは無縁だったボクから見ても健全なもので、弱者救済を掲げる活動は多岐に渡り、その影響力は計り知れない。
何よりも、ラプンツェルが教皇候補、つまりは上層部にいた事も好感が持てる理由だ。
しかしそんな教団とは別に、最近になって、にわかには信じ難い信仰をしている人がいるらしい。
曰く
ラプチャーは傲慢な人類を処分するための、神の使い。
反抗することは新たな罪を重ねることに過ぎない。
ラプチャー信仰とも言うべきものだが、実際にラプチャーと戦っている側からすれば悪い冗談だ。宗教の自由…だっけ。何を信じようと個人の勝手だと思うけど、少なくともボクには、あれが神様の使いには見えないかな。
…全ては精神的に追い詰められている事が原因だ。不安を取り除くためにも、より一層頑張らないとね。
ある日、いつものように出撃したゴッデス部隊はラプチャーとの戦闘終えた後、近くの施設に立ち寄って避難民の支援を行っていた。任務後にも関わらず、ラプンツェルとターリアを筆頭に、精力的に奉仕活動に勤しんでいる。
「なあ、お嬢様。これどこに持っていくんだっけ?」
「…お嬢様と呼ぶなと言いましたよね」
大きな木箱を肩に担いだレッドフードが、近くにいたドロシーに指示を仰ぐ。それを受けて、ドロシーはやや不機嫌な様子で反応した。
「そうだったか?それよりも早く教えてくれよ〜結構重いんだよこれ」
「フン、知りません」
「こらこら、仲良くしなさい。その荷物は向こうにラプンツェルがいるから、そっちに持ってって」
「りょーかい」
少し拗ねた様子のドロシーの代わりに指示を出すと、レッドフードは荷物を運んでいった。全くレッドフードの揶揄癖にも困ったもんだね。
「…何故、ターリアはレッドフードと私を近づけようとするのですか?」
「ん?あ〜さっきの?ただのお約束というか決まり文句というかみたいなもんだよ。そんなに気にしないで。ていうかドロシーは別にレッドフードのこと嫌いじゃないでしょ?」
「はい…?私がですか?」
ボクがそういうと、ドロシーはまさかといった顔で目をパチクリさせている。何を言ってるんだこの子は。もしかして、レッドフードと険悪なつもりなのか?だとしたら自己分析甘すぎだよ、そんなところも可愛いけど。
「気付いてないの?本当に嫌いなら口聞かないタイプでしょ、ドロシーは」
「そう…かもしれません。ターリアは私の事をよく見ていますね」
「見てるよ〜ボクはゴッデスオタクだからね」
にしし、とボクが笑うと、ドロシーも笑い返してくれる。この日常をこれから先も守っていきたい、そう思えた。
ニケの身体のおかげか、山積みになっていた物資の運搬は小一時間ほどで終わった。休憩がてらみんなで談笑していると、施設の人たちが集まってきた。どうやら先日襲撃された市街地からの避難民であるようだ。その時の
指揮官が何を言うでもなく、スッと席を立ちみんなを庇うように前に出た。ボク達はこれから、非難を浴びると確信していた。
「ありがとう!」
誰かがそう言ったのを皮切りに、集まった人たちが口々に声を上げる。その言葉はどれも感謝の言葉であり、ゴッデスを褒めそやすものだった。身構えていたボク達は呆気に取られて、立ち尽くすばかり。そんなボクらを呼び戻したのは、一人の少女の言葉。
「わたしねっ、大きくなったらおねえちゃんたちみたいになる!」
そう宣言した少女の手には色鮮やかな花束があった。ボクはなぜか指揮官とリリーバイスに背中を押されたので、少女の前で屈み目線を合わせる。
「ありがとう、君ならきっとなれるよ。それまではボク達がみんなを助けるね!」
差し出された花束を受け取り、少女の頭を優しく撫でると、どこからともなく拍手が起こった。慣れないことしたかなと思ったが、少女は満面の笑みを返してくれた。
感謝の言葉を貰ったことによって、ボクらのやってきたことの価値を再確認し、胸が熱くなる。
ただレッドフードだけは、なんとも言えない顔をしていた。
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今ボクはレッドフードを探している。彼女は持ち前のコミュ力で、すっかりゴッデスに馴染んだと思っていたのだが、
微かに音楽が聴こえる。もうすっかり耳に馴染んだ昔の歌を辿っていくと彼女を見つけた。陽の光を受け、赤い髪が燃えていているようだ。気高い狼が吠えるが如く、ひとりで地平線を眺めていた。後ろから声をかけて、隣に腰掛ける。
「やあやあ、レッドフード。こんないい景色を独り占めなんて、連れないじゃないか」
「お、なんだ先輩か。歌でも聴きたくなったか?」
「それもいいけどね。かわいい後輩の悩みを聞いてあげようと思ってさ!『アタシはゴッデスに相応しくない』だって?」
「…なんだよ、リリーバイスに聞いたのか?別にいいよ、悩みってほどのことじゃない」
「まぁそう言わずにボクにも話してみなよ。こう見えて、見た目の割には年取ってるんだぜ?」
レッドフードは冗談だと受け取ったのか、くしゃりと笑い、ボクが引く気がないと分かると、古びたラジカセから流れる音楽を止めて話し始めた。
「そうだよ、アタシはゴッデスに相応しくない。アタシはどこでもいる不良で、ヘマをやらかして死にかけてたとき、
それはレッドフードの、弱音とも取れる発言だ。自分は他のメンバーとは釣り合ってないのだと、レッドフードは自嘲するように笑った。そんなことはあり得ないし、ゴッデスにそんなことを考えてる人はいない。だがリリーバイスは伝えられなかったみたいだ。何故ならそれをリリーバイスの口から伝えても、レッドフードには響かないから。
レッドフードのファンの一人として、そして友人として、この弱音はゴッデスの中でボクが一番理解できる。
「ふーん、ボクと一緒だ」
「はあ?何言ってんだよ先輩。
肩を組みにいったボクを突き放すような言葉。隣にいるのに、近くにいないようなものいいだ。まるでレッドフードとボクの間には距離があって、お前はそっち側の人間だと線引きするような。いつもなら自分から肩を組んで来るくせに、困った後輩だよ全く…
「いいや違わない。ボクもレッドフードと同じで、エースパイロットでもないし、お嬢さまでも聖女でも、天才武器職人でもないよ?あ、あと死にかけてた時にニケになったのも一緒だね」
胸中を見透かされたことに驚いたのか、レッドフードは珍しく言葉に詰まっている。そんなレッドフードにボクは言葉を続ける。
「ボクはニケになる前、何してたのか憶えてない。もしかしたらすっごいクソ野郎だったかも知れないよ?」
まあ犯罪は犯していないと思っているけど、どこにでもいる普通の人間だったんじゃないかな。どっちにしろ、ゴッデスに相応しくないという点では変わらない。
「…そんなことねえよ。先輩は昔もきっといい奴だったに決まってる」
「フフン、そう言ってくれると思った。レッドフードもいい奴だね、
レッドフードが顔をあげこちらをみると、したり顔で笑うボクと目が合う。
「ボクも勝利の女神なんて、ちやほやされてさ…戸惑うこともあるよ?でもきっとそれはみんな一緒。自分のことを女神なんて思える奴はそう多くない。でもその代わりに他のみんなが思ってくれていれば良いのさ。レッドフードがボクのことを
心の状態というのは、少なからず表情に表れるものだ。表に出てくる心情と書いて表情だから。自惚れかもしれないがボクと話をして、レッドフードの顔は明るくなったように見えた。
うん、やっぱりレッドフードは明るい顔が似合う。レッドフードは心のモヤモヤを吐き出すように、大きく息を吐いた。
「…そうだな。服のボタンがズレてたら教えてやる奴がいないといけないからな」
「なっ、そ、その話は忘れてっていったよね!」
レッドフードに出会った時のことを揶揄われ、顔を赤くしていると、彼女は笑いながら頭を撫でてきた。リリーバイスとは違う、乱暴な撫で方に髪が乱れる。でも嫌な気はしない。
「ははっ、やっぱり先輩はすごい奴だよ、尊敬する。そんで、そんな先輩が信じるアタシもきっとそうなれるって事だよな」
「尊敬する先輩の頭撫でるんじゃない!…でもそう言うことだよ。これからもよろしくね!」
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