ゴッデスの欠番ちゃん   作:またろー

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更新に時間が空いてしまい、申し訳ないです!
展開に悩んで書き直したりしていると何が良いかわからなくなって…
終わり方は決まってるんですけど、破綻しない様に話を繋げるのって思ったより難しいですね。
前回は、ウルトラ戦です。レッドフードに庇われ、発狂して倒れたところまででした。


侵食2

 気がつくと、何もない空間に立っていた。暗くも明るくもないが、白い(もや)のせいでどこまで見えているのか距離感が掴めない。人の気配を感じて振り返ると、そこではレッドフードが、スノーホワイトにヘッドロックを掛けていた。

 いつものように戯れているのだと思ったボクは、二人のもとへと駆け寄る。しかし、彼女達の間に会話はなかった。外にいるにも関わらず、不自然なほどに静かだ。

 ボキッ…と嫌な音が静寂を引き裂き、レッドフードが手を離すとスノーホワイトは力なく地面に崩れ落ちた。まるで糸の切れた操り人形のように。

 

「え、え?な…にをしてるの…?今の音は何…?」

 

 何が起こったのか理解できなかった。スノーホワイトは倒れたまま、ぴくりとも動かない。レッドフードは、彼女を一瞥するも心配する素振りさえみせなかった。

 

 背中を嫌な汗が伝う。自分の身体が自分の身体でないような感覚。時間が止まったように、ボクは身体を動かせなかった。

 

 不気味な色の空の下、ゆっくりと振り返った彼女の瞳は、赤く、無感情な光を放っていた。ラプチャーのコアと同じ色に染まったそれはひどく馴染んで見えた。まるで最初からそうだっかのように。

 

「ぁぁあ゛あ゛あ゛…ッ!」

 

 跳ねるように飛び起きると、見慣れた無機質な部屋が目に入った。さっきまで夢の中にいた事を確信し、安堵する。乱れた呼吸が治っていくと同時に、ここに至るまでの状況を少しづつ思い出していった。

 

 レッドフードが倒れた時、ターリアは溢れ出した自責の念を抑えることができなかった。わかっていた悲劇を止める事ができなかった、その精神的ショックは思考転換が起こってもおかしくは無かったほどだったが、感情の激流は、NIMPHによって浄化されたため難を逃れた。

 しかし思考転換こそ免れたが、精神的なトラウマは刺さった棘のように、心を擦り減らしていく。頭の中ではぐるぐると、思い出した記憶がまわり続けている。

 

 余談だが、ゴッデス所属のニケは脳構造がアークのニケとは異なる。アークのニケは思考転換によって攻撃的になり、人間への危害も可能となるとされているため、思考転換を起こしたニケはイレギュラーとして処分される。しかし、ゴッデスのニケは一部記憶を失うとともに、性格が変わるような変化を見せる。

 思考転換は残酷なものにも見えるが、本人にとっては、過度なストレスから精神を守るための自己防衛反応でもある。思考転換が必要な時にしないというのであれば、それ相応に苦しむことになるのだ。

 

 そうだ、レッドフードがボクのせいで…

 

 猛烈に吐き気を感じて、ゴミ箱を覗き込むが何もでない。口内に胃酸の味を噛み締めながら、涙を流した。

 

「ううっ…うっ…」

 

 ボクは何も変わって無かった。両親を死なせた時から何も。

 

 ラプチャー侵攻が始まった時、ボクが二人をシェルターから連れ出したりしなければ、二人は今も生きていたかもしれない。無力な子どもながら、なんとかして助けたいと願った大切な人だった。二人はボクの目の前でラプチャーに殺された。ラプチャーへの恨みもあったが、それ以上に自分の無力が憎かった。

 それから何の因果かニケとなり、ゴッデス部隊の一員に加わった。画面の向こうにいた女神達と過ごす日々は楽しくて、ゴッデスとして共に戦えることは、本当に誇らしかった。

 リリーバイスに次ぐ力を与えられたボクは、今度こそみんなを助けるはずだったのに…また護るべき人に護られてしまった。

 自分の罪も忘れた鉄クズは、不相応にも女神の一席に座し、再び同じ罪を繰り返した。

 

あぁ神様。

もう忘れない、もう繰り返さないことを誓うよ。

代償が必要なら、ボクが払う。

だからどうか、どうか。

もう一度ボクに機会を与えて欲しい。

レッドフードを助けさせて下さい。

 

 

 頬を叩いて喝を入れる。過ぎた事と、一蹴することはできないが、今は悔やんでいる時間などない。そんなことをしている間にも、レッドフードは侵食に苦しんでいるのだ。

 両親は死んだ。ボクが殺したようなものだ。だが、レッドフードはまだ生きている。

 ボクがすべきなのはレッドフードを治療することである。

 侵食はレッドフードが初の症例だ。原作通りなら、これからラプンツェルがV.T.Cと治療法を捜すが、残念ながら間に合わずレッドフードが離脱という流れになる。

 そうはさせない。今度こそ、今度こそボクがみんなを助けてみせる。

 

「…みんなに話さないと」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 部屋を出ると、丁度通りかかったらしいドロシーに部屋へと押し戻された。

 

「おはよ、ドロシー。レッドフードはどうしてる?」

 

「た、ターリア…⁉︎いつ起きたんですか?いえ、身体の調子はいかがです?」

 

 ドロシーによると、ボクは3日も寝ていたらしい。レッドフードは回復して既に復帰しているとの事だった。

 過剰なほどに体調を心配されたが、なんともない事を説明すると取り敢えずは落ち着いた様だ。みんなと話すべくいつもの作戦室に向かおうとすると、ドロシーはボクを抱き抱えて連れて行こうとするため、ボクの居室にみんなを集めることになった。

 

「ターリア、もう大丈夫なのか?部隊のことなら気にしなくていい。ゆっくり休め」

 

「あはは、休めなんて初めて言われたよ。指揮官こそ疲れてるんじゃないの?」

 

 広い部屋ではないので、さすがにこの人数だと狭く感じる。

 なるべく明るく、元気に振舞う。自分を()めている時間はない。発狂して倒れるなんて無様を晒したんだ、これ以上みんなに迷惑をかけるな。腹の底から昇ってくる自分への怒りと自罰的な気持ちを押し殺す。決して表面には出てこないように、蓋をして固く封をする。

 

「何だ、元気そうだな。私の心配を返してくれ」

 

「ボクはニケだよ?破損箇所を修復したらすぐに全快さ!」

 

 ターリアの言う通り、彼女のボディ損耗は軽微、ラプンツェルの能力で完治する程度のものだった。そして寝ている間にそれらの傷は全回復していた。だがそれは、あくまでも表面上に限った話である。

 

「そんなわけないでしょ。あなたが治さないといけないのは精神的な部分よ。ニケも脳は交換できないから」

 

「平気、へっちゃらだよ。ボクのことは心配ない」

 

 リリーバイスの優しい言葉に、他のみんなも頷いている。

 違うんだみんな。ボクにそんな言葉を貰う資格はない。ボクが油断したせいで、仲間が傷付いた。あの場で唯一、ボクだけはウルトラの危険性を理解していたのに。

 レッドフードはいつも通り飄々としている。その様子を見ていると、この間のことは全部ボクの妄想で、侵食なんてされなかったんじゃないかと思いそうになる。全て悪い夢だったんじゃないかと。

 

「これでゴッデスも元通りですね」

 

 そして、ドロシーがそう口にした事で、現実へと引き戻される。

 …みんなはまだレッドフードの状態を知らないからそんな事を言えるんだ。

 話を変えるために、わざとらしく咳払いをひとつしてラプンツェルに問いかける。本人に聞かないのは、レッドフードは絶対に嘘をつくからだ。

 

「そんな事より、レッドフードの状態はどうなってる?」

 

「随分苦しまれていましたが、その日のうちに目覚め、今は落ち着いているようです。しかし、診たことがない症状でしたので、原因と対処法を模索中です」

 

「だからもう大丈夫だって!」

 

 レッドフードは何ともないとアピールしているが、ラプンツェルから聞いた話は概ね、知っている通りだった。やはり、レッドフードは侵食されたと考えて間違えないだろう。

 

「…そっか。話っていうのはその事についてなんだ。レッドフード…ボクは君がいま、どういう状態なのか知ってる。君も気づいてるんでしょ?言い出し辛いなら、ボクからみんなに言っていい?」

 

 レッドフードはボクの言葉の真意を推測っていたが、ハッタリではないとわかると、罰が悪そうに頷いた。

 

「全部お見通しかよ。ま、いつまでも隠せる話じゃないしな…」

 

「ありがとう」

 

「じゃあ結論から言うね、レッドフードはとても危険な状態だ。このままだと一年ほどで死ぬ」

 

「…え?」

 

 スノーホワイトが、ターリアの信じがたい言葉に過敏に反応した。

 

「レッドフードが死ぬ…?う、嘘ですよね?三日も寝てたから寝ぼけてるんじゃないですか?いくらターリアでも、そんな冗談は笑えないです」

 

「嘘じゃないよ、寝ぼけてもいない。レッドフードが死ぬ、ボクを庇ったせいでね」

 

 そう振る舞っているだけかもしれないが、いつも通りのレッドフードが目の前にいるのだ。突然の余命宣告が信じられなくても無理はなかった。スノーホワイトがわかりやすく狼狽えているが、他のゴッデスメンバーも言葉を失っていた。

 

「だ、だって、レッドフードはこんなに元気なんですよ…?ほら、レッドフードもなんとか言ってください!」

 

 レッドフードは答えない。目を伏せて、沈黙を持って是とする。

 

「そんな…」

 

「レッドフードはいま侵食状態にある。侵食というのはラプチャーの新しい攻撃で、ニケがくらうと人類に敵対する行動を取るようになるんだ」

 

「いずれ、アタシもそうなるのか?」

 

「何もしなければね」

 

 レッドフードは原作からして侵食に対して特異な反応を示していた。マリアンやメティス部隊の例から見ても、侵食は無意識に作用し自覚症状などが無いものだと考えられるが、レッドフードは侵食に苦しみ、そして自分の死期を悟っている様な描写があった。未来の侵食型ラプチャーも進化していたのだろうが、レッドフードと同時期に侵食を受けた量産型と比較しても、侵食に強い抵抗力を持っていたのは確かだ。レッドフードは最後まで味方に銃口を向ける事はなかった。

 

「…!レッドフードは治るんですか⁉︎」

 

「治すよ。侵食の治療法はある」

 

 今から話すことは絶対に口外しないでと前置いて、話を続ける。

 侵食の治療方法は2つだ。一つ目は記憶消去する方法である。特別なものを使わない代わりに、侵食初期にしか効果がなく、記憶と共に戦闘経験値も失われてしまう。レッドフードが侵食されてから、既に72時間以上経過している。原作では侵食から3時間以内を侵食初期としていたが、ラプチャーの年代が違うことやレッドフードの侵食耐性を考えると、有効なのかどうか判断が難しい。

 もう一つはアンチェインドという物質を用いて、NIMPHを破壊する事だ。

 侵食はラプチャーがニケのNIMPHに侵食コードを流し込み、NIMPHを変化させることを指す。そして変化したNIMPHは脳に強制的な命令を持続的に下し、ニケをコントロールする。 つまり、NIMPHがないニケは侵食を受けないのだ。

 NIMPHは脳のニューロンに作用し記憶の保存・消去・上書きを可能にするが、由来も原理も殆どがわかっていない。ただ便利だから使っている、その危険性をエデンの研究者セシルは危惧していたが、ボクはその先を知らない。唯一知っているのは、NIMPHを失ったラプラスが記憶の上書きが出来なくなったことで、酷く臆病になった事くらいである。

 そしてこれは直感だが、レッドフードはそうはならないと思っている。

 

 とにかく、アンチェインドの詳しい仕組みは分からないけど、それがニケのNINPHを破壊して、侵食を治せることは確かだ。原作では弾丸に精製して使用していたが、直接血液に曝露しても効果があるはずだ。それならすぐにでも試せる。

 

「ボクはアンチェインドによる治療を行うべきだと思う。NIMPHを破壊するリスクはゼロじゃないけど、そっちの方が確実だし」

 

「それについては賛成です。レッドフードはモノ好きですが、記憶消去を選ぶほどではないでしょう」

 

「誰がモノ好きだって?お嬢様?」

 

「レッドフードはどっちが良い?決めるのは君だ」

 

「…選ぶまでもないだろ。記憶を失ったらそれはアタシじゃない。で?そのアンチェインドっていうのはどこにあるんだ?」

 

 レッドフードの問いを受けて、ボクが指揮官の方を見ると、全員の視線が彼に集まった。

 

「なんだ、私の顔に何かついているか?」

 

「ひとつ確認だけど、指揮官の血液型ってRh –x型だよね?」

 

「そうだが…」

 

「珍しい血液型らしいね、ついでにもう一つ確認だけど…注射苦手だったりする?」

 

「まさか…」

 

「そのまさかだよ。アンチェインドは指揮官の血液に含まれている」

 

「「「!!!」」」

 

「ち、ちょっと待て…なぜそんな事を知っている?新種の侵食型ラプチャーとやらに、侵食の治療法が私の血液?いくら何でも話が突飛すぎる」

 

「まあ、そう…だよね」

 

 当然の疑問だ。いくらボクがラプチャーについて調べているとしても詳しすぎる。ラプチャーがどういう進化をするか、そしてその対処法まで予見しているというのは、現実的ではない。

 ボクが原作知識、この世界を基準にすると未来の事を知っているというのは、いつか話さねばならないことではある。ただこれを話してしまうと、今までの関係ではいられない気がしていた。得体の知れない相手に、自分の内面まで知られているというのは、さぞ気持ち悪いことだろう。

 

 やっぱり嫌われるかな…あぁ、それはいやだなぁ…

 

「レッドフードが治ったら全部話すよ。だから今は、何も言わずに信じてほしい」

 

「…わかった」




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