ゴッデスの欠番ちゃん   作:またろー

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新設部隊

 上機嫌で鼻歌を唄いながら、ナイフを使って、赤く熟した果実を回転させながら剥いでいく。細長くなった皮が床に向かって伸びていくにつれて、甘く、華やかな香りがひらく。

 先日の任務で、ラプチャーと交戦した付近に大規模な農園があり、そこで栽培していたリンゴを頂いてきたのだ。あ、もちろんお金は払ったよ。タダでもいいと言われたけど流石にね?その代わりと言ってはなんだが、沢山おまけを付けてくれたのだ。

 

 何を隠そう、ボクの大好物はリンゴである。肉厚な食感と甘酸っぱい果汁に、爽やかな後味。リンゴって見た目からしても、フルーツとして完璧だと思うんだよね。火を通して、ジャムやコンポートにしても美味しいし、栄養価まで高いなんて、非の打ち所がない。楽園の象徴になっているのも頷ける。

 そういえば、握力80キロあれば林檎を握り潰せるらしいけど…今なら片手で林檎潰せちゃうなぁ。勿体ないからしないけどね。

 

 食べやすい大きさに切り分けて、器に盛り付ける。少し剥きすぎた気もするが、リンゴなんてどれだけでも食べられるから平気だよね?

 お皿に乗り切らなかったリンゴを口に放り込むと、シャクと小気味良い音を立てる。

 柔らかすぎず、程よく固い、ボク好みのリンゴだ。

 

「ん〜おいひい!」

 

 休憩がてらみんなでリンゴを食べていると、指揮官とリリーバイスがやって来た。先程まで通信で会議を行なっていたが、それが終わったようだ。

 何やら、特にリリーバイスが暗い顔をしている。上から無茶振りでもされたのかな?それくらい、いつもの事だと思うけど…

 

「上からの指令だ。喜べターリア、お前をご指名だぞ」

 

「えぇ…ボク?全然嬉しくない!溜まってる仕事が山ほどあるのに…それに単独ってこと?みんなと離れることになるじゃん。それってさぁパワハラだと思うんだよね!」

 

「ターリアを虐めるなんて、信じられません。指揮官が代わりに行けばいいじゃないですか。ほらターリア、口を開けてください」

 

「へ?あ、あーん…シャク シャク…えへへ」

 

  楽園(エデン)はここにあった。ドロシーに食べさせてもらうリンゴは、さっきより数段美味しく感じた。お返しと題して、同じようにリンゴを差し出すと、彼女は桃色の髪を耳に掛けながら、上品に口をつける。

 これが女子力…ッ!大口を開けてリンゴに飛びついた自分を恥じつつ、ドロシーの所作を目に焼き付けた。

 

「お前らな…私をなんだと…ハァ」

 

 指揮官は何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。ボクたちも本気で言ってるワケじゃない。まともに相手するのが馬鹿らしくなってしまったのだろう。それに指揮官は上からの命令でも、ガン無視して、結果で黙らせるハードボイルドな人だ。そんな彼が了承した任務なら、きっと何か重要なことに違いない。

 

「新しく近接戦闘特化のニケで構成される部隊を設立するらしい。そこで、ゴッデスで活躍してるターリアに教育を頼みたいそうだ」

 

「…っ!行きます!」

 

 指揮官の言葉に態度を一変させる。

 近接部隊。ゴッデス最後の一人のメンバーである紅蓮が所属していた部隊だ。指揮官が説明した通り、近接武器を主武装とする部隊として試験的に設立されたもので、所属するニケはもれなく刀を使うらしい。正史では紅蓮が合流する前に、何やら反乱が起こり紅蓮以外は死んでしまったようだが、詳しい情報までは分かっていない。せめて黒紅蓮が実装するまでプレイしていれば…と考えるがそんなことを言っても仕方がない。

 Red Ashはレッドフードがメインだったから、黒紅蓮については情報が少なかったんだよね。指揮官たちに、何か情報があれば教えてほしいの頼んでいた甲斐があったというものだ。まさか、教官として関わることになるとは想定外だったけど。

 

「ターリアが行くなら私も同行します」

 

「ダメだ、近接戦闘部隊と言っただろう。それにドロシーにはターリアの抜ける穴を埋めて貰う」

 

「何故私がそんな事を…そもそもターリアの行ってる仕事の大半は、もともと指揮官のものでは?」

 

「あな…穴ですって…?ハァ…ハァ」

 

「…ラプンツェル?顔が赤いですよ、呼吸も…大丈夫ですか?」

 

 ん…?ラプンツェルの様子が何かおかしい。ハッ!まさか…いや、もしかしなくてもレッドフードの仕業だろう。くそ、聖女が堕落する瞬間を見逃してしまった…っ!あとでレッドフードに、ラプンツェルに貸した本について聞こう。ラプンツェルに直接感想を聞くのも悪くないな…でへへ。

 後のラプンツェルを知っている身からすると、平常運転だが、初めてみるスノーホワイトからすれば心配なようだ。リンゴを食べる手を止めてまで、心配している。まさか性的興奮を覚えているだけとは思わないよね。でもそれ、放っておいていいやつだから…

 さて、ドロシーがゴネているので何とかしましょうかね。

 

「コホン…!ドロシー、ボクだって離れたく無い。できるなら君と一緒に行きたいよ。でもドロシーが残ってくれたら、ボクは安心して行ってこれる。指揮官とリリスのお手伝い、頼んでもいい?」

 

「…!と、当然です。戻ってくるまでに、ターリアの仕事は全て片付けておいてあげます」

 

「ありがと、頼りにしてる!」

 

 手を握りながら頼むと、頼られる事がよっぽど嬉しいのか快諾してくれた。少し焚き付けすぎたかな…何かお土産でも買って帰ってこよう。

 

「全くこっちの気も知らないで…あなた、紅蓮って子に会いたいだけでしょ。随分と狡猾になっちゃって…」

 

「えー?何のことだろー?」

 

 リリーバイスがジトーっとした目で見つめてくる。どうやら彼女には見透かされているようだ。ドロシーを頼りにしているのは本当だが、確かに紅蓮に会いたい気持ちも大きい。図星を突かれて動揺から、棒読みになってしまう。

 今のボクは、部隊を離れる事に不安はない。紅蓮が合流するまで、大きなイベントは無いはずだし、こっちにはリリーバイスがいるからね。知っている事は共有しているので、何か異変があったらすぐに戻ってくればいい。ボクはただ、ゴッデスを信じればいいのだ。

 

「ドロシーにはああ言ったけど、心配はしてないから。みんなの事、よろしくね?リリスお姉ちゃん!」

 

「ええ、任せなさい!…あ」

 

「にひひ、言質とったからね」

 

 かくして、ボクはしばらくゴッデスを離れることになった。当面の目標は紅蓮のスカウトと、近接部隊で起こるらしい反乱を防ぐ事になりそうだ。

ーーーーーーーーーー

「今日からしばらくの間、うちの部隊に合流するターリアだ」

 

「初めまして!紹介に預かりました、ゴッデス部隊のターリアです。ラプチャーとの戦闘について、みんなに教える為に来ました。よろしくお願いします!」

 

 到着早々に、部隊の面々へと顔見せとなった。疎に拍手が起こるが、あまり反応がよろしく無い。ゴッデス部隊のネームバリューを持ってすれば、もっと歓迎されるかと思っていたのだが、甘かったか?

 資料にあった通り、部隊は十名の特殊改良量産個体Aで構成されている。簡単に言うと近距離戦闘に特化して、軽量化などのチューンアップを施した量産型のカスタム機である。

 この中に紅蓮がいるはずなんだけど…

 

「ちょっと待て」

 

 そんな微妙な空気の中、一人だけ明確に異を唱える者がいた。

 

「ゴッデス部隊の武名はよく聞き及んでいる。だが…見たところ、其の方はかなり華奢な肉付きをしているが、本当に剣を振れるのか?その背に担いだ剣が、飾りではない事を示してもらいたい」

 

 い、いた。紅蓮だ…! 原作時間軸の紅蓮(白紅蓮)と違って、発言や態度の節々がトゲトゲしている。

 

 それよりもなんだ、その太ももは…ッ!むっちりしすぎだろ。ボクが華奢だって?そりゃ、あなたと比べればボクなんてガリガリだよ!挑発してるつもりかもしれないが、そんな太ももで言われてもなにも頭に入ってこない。

 

「聞いているのか?」

 

「あー、えっと…ボクと戦ってみたいって事?でも剣術とかは素人だから、得られるものはないと思うよ」

 

「では、我々に何を教えると?」

 

「効率的なラプチャーの殺し方だよ」

 

 何故かさらに空気が重くなる。噛みついてきていた紅蓮すらも、押し黙ってしまった。…言い方が剣呑だったかな?確かに一部を切り取ったら、殺し屋みたいな発言だもんね。でも笑顔で言うようなセリフでもないし…うーん。

 

「もういいだろう。挨拶もその辺にして、全員準備しろ。これから、出撃だ」

 

「え、今から出撃ですか?聞いていませんが…」

 

 突然の話に耳を疑い、思わず聞き返したがどうやら聞き間違いではないらしい。部隊のニケたちは、既に準備に取り掛かっている。

 その表情は固く、緊張しているのがわかった。

 

「伝達ミスがあったのだろう。しかし、今回は初陣(慣らし)だ。お前は見てるだけでいい」

 

「…了解しました」

 

 伝達ミスって…でもボクが自己紹介でスベったわけでは無いことが判明した。彼女たちは初陣を前にして、精神的に追い詰められていたのだ。

 初陣前に、外部から来たやつの為に時間使わすなよとか思ったが口には出さない。上官だし、ボクがゴッデスの指揮官しか知らないだけで、他所には他所の決まりや雰囲気があるのだろう。ボクなら勘弁して欲しいと思うけど。

 …教官として呼ばれたはずなのに、練兵の前に実践とは…これじゃまるで、もしもの時の保険だな。見てるだけで良いとは言われたが、いつでも戦闘に入れるようにしておこう。まぁ新兵の引率と考えればこれも任務の範囲か。

 

 作戦区域への移動中、部隊長らしい『 薔花(そうか)』というニケと話をした。最初は紅蓮に話しかけたんだけど、集中したいから話しかけるなと言われてしまった。もっともである。心が折れてしまったボクは、大人しく隅に座っていたのだが、見かねた薔花が逆に話しかけてくれたのだ。うぅ…優しい、そしてかわいい。

 

 話の内容は部隊のメンバーのことや、どんな訓練を受けたかなどだ。一応事前に貰った資料は頭に入れているが、本人たちから聞かないとわからないこともある。部隊の実力を測る狙いがあったのだが、雑談の中で、思いもよらぬ事実が判明した。

 

「薔花って紅蓮のお姉さんなの⁉︎」

 

「そうですよ〜」

 

 薔花のふわふわとした雰囲気は、紅蓮と正反対だ。話し方も似てもつかないが、言われてみれば、その柔らかい表情には白紅蓮と近いものを感じた。そうか、紅蓮の姉(そうか)はニケになっていたのか……ごめんなさい、何でもないです。

 

 紅蓮に姉がいる事は知っていたが、姉妹でニケになっていたとは思わなかった。適応率のせいで、互いに記憶は殆ど無いらしいが、それでもわかるのは姉妹だからなのだろうか。

 そうすると、姉を失った紅蓮が自暴自棄になって反乱の首謀者となるのか…?でもゴッデスに加わった後の紅蓮は、そんな感じでは無さそうなんだよね。

 …早合点は良くないか、まだ合流したばかりだしゆっくり調べていこう。

 

「二人はさ、どっちが強いの?」

 

「今は私の方が強いかな?レンとは985戦976勝9引き分けなんです」

 

「ぼっこぼこじゃん」

 

 戦っている回数にツッコミを入れたくなるが、それ以上に勝ちすぎじゃない?こういうのって競っているか、どちらかが少し勝ち越してるとかじゃないの…?

 

「こっそり勝ちを増やすでない。975勝10引き分けだ」

 

「あら〜、レン聞いてたの?」

 

「隣で私のことを話していれば、嫌でも耳に入ってくるというものだ」

 

 細かい!それは誤差だよ誤差!良くて引き分けって…紅蓮が弱いわけでは無いと考えると、この子めちゃくちゃ強いのでは?紅蓮と一緒にゴッデスに来てくれないかな…

 それより、『レン』って呼んだ!愛称ってやつ?尊い…寿命が3日くらい伸びた気がする。特定の人からだけのあだ名っていいよね。他だと、レッドフードのスノー呼びとかが大好きです。

 てっきり、近接戦闘部隊で1番強いのは紅蓮だとばかり思っていたのだが、どうやらそうでは無かったらしい。これは大きな収穫だ。

 

「ターリアさん、質問しても良いですか〜?」

 

「ターリアでいいよ。なに?」

 

「それではターリア、リリーバイス少佐の事はご存じですよね?」

 

「もちろん…っ⁉︎」

 

「あの!少佐はラプチャーを、素手で引き裂くって本当ですか?」

 

 ボクの返答に被せるように食いついてきたので、ややたじろぐ。薔花のテンションが、高くなった気がした。リリーバイスのファンガールか?

 ゴッデスの中でも、リリーバイスの知名度は断トツだ。最初のニケであることも要因のひとつだが、その圧倒的な力による逸話の数々が彼女を有名にした。今話題になっているのは、その中でも最も有名な話だ。

 

「ラプチャーを素手で?ありえないだろう」

 

「あ〜、それは本当の話だね」

 

 こういう噂話には尾ひれがついて回るのが常だけど、リリーバイスの噂話はどれも本当か、嘘だけど、多分出来るものが大半である。知らない人からすれば、話半分に楽しんでいるつもりだろうけど…現実は小説より奇なりというやつだ。

 信じられないといった様子で紅蓮が驚愕している。あればっかりは、自分の目で見ないと信じられないよね…

 今のボクなら、大分無理をすれば真似できるかもしれないけど、やる意味があんまり無いしなぁ。よし、今度リリーバイスに会わせてあげよう。きっとそのうち機会はあるだろうし。

 リリーバイスに頼めば、喜んで見せてくれるだろう。

 

「ボクの武器、正確にはこれの元になった剣があったんだけど、リリーバイスが数回振っただけでバラバラになったからね。力持ちとかそういう次元じゃないんだよね、だから握手とか絶対しない方がいいよ」

 

 話は盛り上がったが、作戦区域に近づくにつれて、静かになっていった。そして遂に、軍用車が停止して、楽しい旅路の終わりを告げる。まぁ楽しかったのはボクだけかもしれないけど…少しでも緊張が和らいでいたらいいな。

 

「ひとつ質問です。あなたも初陣は緊張しましたか?」

 

 部隊の全員が下車し、最後にボクと薔花が車を降りる時、ボクは薔花に呼び止められた。振り返った薔花のどこか不安げな表情は、部隊のみんな、特に紅蓮には絶対に見せないものなのだろうと、直感的に察せられた。

 

「そりゃあもう、ドキドキしたよ!戦闘が始まっちゃえば、なんて事なかったけどね。あ、でも…ボクの時は後ろにリリーバイスがいたから、参考にはならないかも」

 

 今回の任務はラプチャーに占拠された街の奪還だ。そう言えばボクの初陣もそうだったっけ。あれから一年と少し、他の子の初陣を見守る側になるとは…ボクも成長したものだ。

 でもこんな時、リリーバイスなら不安を吹き飛ばしてあげられるのかな…なんて考えていると薔花の表情が綻んだ。

 

「それを聞いて安心しました。なら私たちも大丈夫ですね〜」

 

「どういうこと?」

 

「だって私たちの後ろにはあなたがいますから」

 

「は、あははっそうだね!後のことは考えずに、思いっきり暴れておいで!」




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