これからも間隔が空いてしまうかもしれませんが、気長にお待ちいただけると幸いです…!
市街地での戦闘は、基本的に人類側が有利である。遮蔽物も多く、小回りの効くニケの方が立ち回りやすい。人間が人間のために作った街であるため当然ではある。
街の被害を考えた場合、戦闘の難易度は跳ね上がるが、ラプチャーが市街地に侵入している時点で、そんな悠長な事は言ってられないことがほとんどである。
つまり、今日は初陣としては丁度よい戦場だといえるだろう。ラプチャーの数も小規模で、ロード級は確認されていない。現在24体の敵性反応が確認されている。
『こちら01。屋内への侵入及び、潜伏。完了しました』
『よし、ではラプチャーの殲滅を開始しろ』
『了解』
若干のノイズを伴った薔花の声が、通信越しに届く。部隊が配置についたようだ。遂にこれから彼女たちの戦闘が始まる。
尚、こちらの指揮官は基地に残って指示を出しているため、こっちには来ていない。ボクはカルチャーショックを受けていた。潜在的に、指揮官というのは戦場に出てきて、ニケと一緒に戦うイメージがあったからだ。今回の作戦地域では、エブラ粒子を使用しておらず、基地からそう遠く無いため通信が可能である。だからわざわざ危険を侵す必要はないと言えばそうなのだけど…
当然現場まで来た方が指揮は取りやすい。通信越しに指揮を取るのも不可能ではないが、状況判断が難しくなる為かなりの技量が要求される。どのように対応するのか楽しみにしていたのだが、どうやら薔花に丸投げするようだ。一応ボクもいるし、敵の規模もいざとなれば、ボク一人で対処出来るレベルだから問題ないが、そんな事を彼は知らないだろう。
… 階級はそれなりで将校らしいけど、本当に能力があるのか疑問に思ってしまう。体も薄いし、失礼だが頭も良くはみえない。少し探りを入れた方がいいかもね。そのうち実際に指揮を見ることもあるだろうから、その時に色々確かめようかな。
あ、現場云々の話があったけど、ニケより前に出るのは絶対に間違ってるからね。うちの指揮官には、自分が生身の人間であることをぜひ忘れないで欲しい。あの人が突っ込む所為で、何度ラプチャーに囲まれたことは数知れない。まぁ、なぜかその後は何とかなるんだけど…ボク達が居なかったら命が何個あっても足りないんだから!
…ともかく!
話が逸れたね。まもなく薔花たちが仕掛けるわけだが、ボクはというと、薔花たちから少し離れた地点で待機していた。ラプチャーも薔花たちのいる建物も見える場所だ。かなり高い電波塔で、市街地が一望できる。念の為に
ボクは全く隠れておらず、堂々と体を晒しているが、ここはラプチャーの感知範囲外なので見つかる心配はない。ラプチャーを研究してた甲斐があったな、まるでラプチャー博士だ。
通信から一呼吸おいて、スコープ越しに、建物から人影がひとつ飛び降りるのが見えた。その影はラプチャーに気づかれるよりも早く刀を振り、2体のラプチャーを斬り捨てた。
ラプチャーの群れは、少しのタイムラグを経て、味方の反応が途絶えたことに気づく。そして薔花を感知すると、囲む様に包囲した。絶対絶命にも見える状況だが、薔花に焦りはない。後に続いて飛び降りてきた紅蓮によって包囲に穴が空いた。
凛と咲き誇る花がニ輪、その背中で仲間たちにラプチャーと戦えることを示した。その姿に背を押され続々と降ってくる刃の雨に、鉄の怪物は混乱し、なす術もなく掃討されたのだった。
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「初任務、お疲れ様でした!損耗率ゼロで帰還できたことと合わせて、素晴らしい戦果だったと思う」
初陣を最高の形で終えた新部隊。労いをかけると、場が盛り上がった。ボクはこれが本来の部隊の空気感なんだろうと確信する。やっぱり歓迎されてなかった訳ではなく、タイミングの問題だったようだ。ボクは人知れず、胸を撫で下ろした。
「今回の戦闘に関して言えば、何も伝えれていなかったから心配だったけど、余計なお世話だったね。でも浮かれすぎは注意だよ?まだ君たちの戦いは始まったばかりなんだから!」
評価すべきところは評価しつつ、改善点を述べる。読み込んできた『
それから初陣で上手く行ったことに調子に乗り、派手に被弾した経験を例に挙げて、注意喚起を行った。
…あの時の事はあまり思い出したく無い。自分の黒歴史であることもそうだが、後でリリーバイスにこっ酷く怒られたんだよね…本気で怒ってるリリスってホントに怖くてさ、もう泣いたよね。今でもたまに夢に見るんだ…でも可愛い後輩の糧になるならいい。甘んじて夢の中でリリスに怒られよう…グス
「さて、早速だけど近接部隊の基本戦術について説明したい。ちょっと座学になるけど我慢してね」
「基本戦術ですか?この部隊に通常の銃を使った戦術を適応するのは難しいと思います」
「そうだね。だから教えるのはニケに最初からインストールされてる戦術ではなく、ボクが考えてきたものだ。武器特性の違いから、これまでのボクの経験則も踏まえて、大分実践的なものだから役にたつと思う」
「じゃあ進めるね?」
ボクは纏めてきた資料をみんなに配り、詳細な説明を始めた。
「君たちの長所は機動力と隠密性。機動力は言わずもがな、ラプチャーは音に敏感に反応するから、銃声の無い剣はその点で優れていると言える」
「逆に弱点は射程と応用力の低さだ。例えば、今回の作戦。敵戦力に追加があったり、ラプチャーの規模が百を超えていれば、簡単には行かなかった。近接武器だと遠方に出現したラプチャーへの対応が難しいからね」
ラプチャーが中隊規模ならあんな作戦やらせないけど。指揮官も…ややこしいな。こっちのは『指揮官様』にしようか。指揮官様も、新兵を意味もなく蜂の巣にする訳無いしね。
「つまり!奇襲の効果が続いているうちに倒し切れた、というのが今回の勝因だよ」
それらを踏まえると、この部隊の1番効率の良い運用方法が浮かび上がってくる。奇襲と潜伏を繰り返すヒットアンドウェイ、いわゆるゲリラ戦法だ。可能な限り遮蔽物の多い戦場を選びたいが、開けた戦場でもエブラ粒子を使えば上手く戦えるだろう。まあそれは追々だね。
「当分の訓練は、ラプチャーの攻撃パターンや装甲の薄い部位を覚えるのと、味方との
「連携と言うのはどのような訓練を行うのですか?」
「連携に関しては難しく考える必要はないよ。共通認識を作れば良い。みんなに守って欲しいルールはひとつ、
「意味がわからないな、狙われているなら対処すべきだろう」
「ちっちっ!わかってないね。シュガーコーヒーくらい甘ーい!そんなんじゃすぐやられちゃうよ」
紅蓮の意見を受けて揶揄うようにそう言うと、ピキッと、紅蓮の顔に青筋が浮かんだ。薔花や他の隊員たちはシュガーコーヒー?と頭を傾げている。
「出撃前は邪魔が入ったが…今こそ、貴様に教官として相応しいチカラがあるのか見極めさせて貰おう…!」
「止めなさい。レン!」
「あはは、そんなに怒る?ま、話を聞いてるだけだとつまらないだろうし…身体を動かしながらやろっか。今のうちに鼻っ柱を折ってあげるよ」
紅蓮はターリアというニケを計り兼ねていた。最強のニケ、リリーバイスの右腕であり、大きさなどは違えど同じ剣を使うニケ。口には出さなかったが、話は良く届いていたし、意識していた。
実際に教官としてやって来るという話になった時には、どんな豪傑かと期待に胸を膨らませていた。
しかし実際に会ってみると、ターリアは年端もいかぬ少女だった。第一印象は、少し背伸びをした子ども。上背といい、雰囲気と良い年下にしか見えず、挑発をしても、まるで気にしていない。輸送車の中で、姉と話していた様子は子どもそのものだった。
一方で、空気が一変した瞬間があった。私が、『剣が使えぬのなら、我々に何を教えるのか』と問うた時だ。
その答えはシンプルなものだったが、その何とも表現しがたい迫力に、私は思わずたじろいでしまった。
ーーラプチャーの殺し方、そう口にした彼女の言葉には説得力があった。そして今、再び目の前に向かい合うと、ターリアは実際より何倍も大きく見えた。
あの時感じたものと同じ圧。その正体を確かめるため、紅蓮は刀を握る手に力が入る。
「参る!」
ターリアが手招きをすると、紅蓮は地面に弾かれたように、直線的に距離を詰める。紅蓮のスタイルは居合いと呼ばれる抜刀術だ。しかしその刀身は鞘から抜かれることはなかった。
剣を抜く前に、ドスッという生々しい音と拳の感触を感じ、顔から血の気が引いていく。カウンター気味に入ったターリアの拳は重く突き刺さり、紅蓮の身体をくの字に折った。
いぇーい、ボクの勝ち!…え?剣で戦うんじゃないのかって?いやいや危ないでしょ、普通に。グーパンなら、リリスも紅蓮を勧誘する時殴ってたし、セーフ!
「レン!」
薔花の呼び掛けも届かず、紅蓮は白眼を剥いて、崩れ落ちた。
「と、まあこんな風に…さっきの話の続きだけど、相手に狙われてる時は警戒されてるから、無理に倒そうとしても被弾する可能性が高いんだよね。だからそういう時は味方に任せるか、回避に専念!みんなは機動力に優れてるから、それで何とかなる。逆に味方を狙っている敵は積極的に倒して行こう!じゃあ質問ある人ーって言いたいところだけど…その前にちょっと紅蓮を寝かせてくるね」
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「…?」
「あ、目が覚めた?」
「…っ、ウップ」
体を起こして声を出そうとすると、内臓が持ち上がって吐きそうになった。腹部の鈍い痛みの正体は、すぐに思い出せた。目の前にいるコイツのせいだ。
「あー、ごめん。思ったより深く入っちゃったからしゃべるのキツいよね。でもこれでちょっとは認めてくれたかな?」
「ふ、ふざけるな…私は剣の勝負をするつもりで…」
「そんな約束してませーん。また勝負してあげてもいいけど、負けを認めないと強くなれないよ?」
「くっ…」
納得はいかないが、コイツの言っていることは正しい。しかしそれとは別に、態度や言い方に苛立ちを覚える。どうして私より強いものは、こうふざけた者ばかりなのか…
「…わかった、負けを認めよう。その代わり、次は剣で勝負してもらう」
「条件を出せる立場じゃ無いと思うけど…まぁいいよ。薔花に勝てたらね」
「姉さんとも仕合ったのか⁉︎」
「うん。紅蓮が寝てる間にね。順番に階段を上がって行きな?ボクの次には
見たところ、ターリアには傷一つ見当たらない。つまり、姉さんの剣も届かなかったという事だ。階段というにはあまりにも一段が高く、壁のように聳え立っている。
「…化け物共め」
「こらこら、紅蓮にもそうなってもらうからね?それじゃあ明日からも頑張ろう!」
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