ゴッデスの欠番ちゃん   作:またろー

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日常、そして戦場

 ハァ…なんであんな事言っちゃったんだろ。剣の衝突する甲高い音を聞きながら、カタカタとキーボードを叩く。

 ボクは今、近接部隊の訓練を見ながら、スキマ時間に書類仕事を進めていた。どうしてこうなった!と叫びたい気分である。予定では、こちらでの生活にはかなり時間に余裕がある予定だったのだが、日々の忙しさはゴッデスの時とほぼ変わっていない。分担が無い分、作業効率が下がっているため、寧ろ悪化している気すらする。そのせいで、みんなよりひと足先に紅蓮と仲良くなっておくという、ボクの作戦は全く進んでいない。

 こんな事になってしまった原因は数週間前に遡る。

 

 

 新しい事をする時、どれだけ事前にシミュレーションをしようとも思いもよらぬ不具合が起こる。新設の部隊、それも今までに無かった近接戦闘専門の部隊だ。実際に戦闘を観測すると、気になる点がいくつか見つかった。薔花たち隊員の問題ではなく、部隊としてのシステム的な課題だ。

 

「指揮官様、お時間よろしいですか?」

 

「今は忙しい。全く、なぜ私がこんな仕事を…指揮官はニケを指揮すればいいのではなかったのか」

 

「こっ…コホン」

 

 …子どもかっ!とツッコミそうになる口を手で押さえる。そんなに指揮官様との関係は気安く無いし、おそらく冗談じゃなくて本気で言っているからね。

 運送業者がトラックの運転だけではなく、荷物の積み下ろしも行うように、指揮官の仕事も指揮だけでは無い。仕事というのはそう単純なものではないことくらい、いい大人なら理解して欲しい。まあコイツはその指揮も薔花にやらせてるワケだけど。あっ、やべ、コイツとか言っちゃった。

 

 先日、指揮官様の事を調べた所、三大企業『ミサイルズ』重役の息子であることがわかった。大学を中退した後、親に甘えて就職もせずに遊び回っていたそうだが、何年か前、ついに親の堪忍袋の緒が切れて、人類連合軍にぶち込まれたとのことだ。大人しく自分の会社で面倒を見てくれれば良かったのに…

 甘やかされて育ったお坊ちゃんに、環境が変わって心機一転、遊び人から真人間になろう!なんて心意気があるはずも無く、やる気もない。教育のお陰か最低限の能力は備わっているが、そのせいで自分を優秀だと思っているところが痛々しい。杜撰な仕事でも許されているのは、軍がミサイルズから多額の支援と技術提供を受けているからだ。軍に入れるくらいだから、ほぼ絶縁状態じゃないかと思うけどどうなんだろうね?追加の調査結果が待たれる。

 迷惑を被るのは、コイツと接する上官と部下だ。現状、当然ではあるが、上からも、下からも好かれてはいない。こういう奴が戦場で、味方から撃たれるんだろうな。まぁその戦場には出てこないんだけど。

 

「部隊のことで報告書を作成しましたので、ご確認いただきたいのですが」

 

 ボクは部隊の報告及び軌道修正の相談のため、指揮官様の執務室にやって来たのだが…何やら忙しいらしい。しかしこちらとしても、読んでもらわなければ仕事が進まないため、簡単には引き下がることはできない。どうやって言い包めるようか考えながら、作業をする指揮官様の高級そうな椅子を眺めていると、信じられない言葉が飛んできた。

 

「余計な仕事を増やすなよ。私は今日中にこの仕事を終わらせねばならんのだ…そうだ、お前が代わりにやれば良い」

 

「私がですか?」

 

「報告書を読んで欲しいのだろう?それならその為に、時間を作るのが部下の仕事ではないか?」

 

ーー??

 何を言っているんだコイツは…もしかして、ボクに仕事を手伝えって頼んでる?…それが人にものを頼む態度なの?それにいつからボクがアンタの部下になったんだ…?

 …ダメだ、なんだか頭が痛くなってきた…

 

「…私は別の隊の所属です。そう言った仕事は行わない方がよろしいかと存じます」

 

 うん、我ながら冷静沈着な答えだ。変に噛みついてもいい事は何も無いからね。仕事を抱えるのはボクの悪癖だが、今回は上手く切り抜けれそうだ。

 そもそも原則として、指揮官の業務にニケは関与できない事になっている。ゴッデスに関しては、どう考えても一人では決済できない量の仕事が振られるうえ、リリーバイスが上級士官であるため特例が適応されている。ちなみにボクが手伝うのはグレーなんだけど、リリーバイスの補佐ってことで黙認されている形だ。

 しかし、別の隊では話は全く変わってくる。責任の所在がややこしくなるし、情報の機密保持の面でも問題が出てくる。ボクだって別にデスクワークが好きなわけでは無いし、教官としての仕事もあるからね。ここへは新しい部隊を鍛えるために来たのであって、事務仕事を手伝いに来た訳ではないのだ。

 

「チッ…出来ないならそう言えよ」

 

「は?出来るけど?」

 

 ーーというやりとりがあって、一度書類仕事を肩代わりしてから、アイツは業務の大半をコチラに投げてくるようになったのだ。

 …わかるよ?ボクにも悪いところはあった。でもね、アイツめっちゃムカつくんだよ!この前だって、指揮官の事を傭兵上がりでうす汚いとか、与えられたニケが強いだけで大した事ないとかバカにしてきたし‼︎

 ボクたちの指揮官は彼以外あり得ない、これはボクだけでなく全員の総意だ。あの場に薔花が居なかったらきっと手が出ていた。あぁッ思い出しただけでもムカムカしてくる!

 

 それにアイツが何を勘違いしているのか知らないが、ボクは来客扱いで、ボクへの命令権はウチの指揮官が持っている。だから、その気になれば自分でやれと突っぱねることも出来るのだが…それをすると皺寄せが別に行ってしまう可能性がある。つまり、外部のボクに対してこの扱いである事を考えると、そのうち直属の部下である薔花にも仕事を投げかねないのだ…いや奴なら間違えなくやる。今彼女には、現場指揮やそれに付随した戦略を覚えてもらっているため、余計な負担は増やしたく無い。

 

「うぅ、ドロシーの淹れてくれたお茶が飲みたい…」

 

 ボトルに入った味気ない水を飲みながら、愚痴を溢した。みんなは元気にやってるだろうか。今朝の新聞にもゴッデスの活躍が載っていたし、心配はないのだけど少し寂しさを感じる。ホームシックってやつかな。

 ラップトップの画面から視線を上げると、紅蓮と薔花の模擬戦闘が始まる時だった。開始の合図と共に紅蓮が仕掛け、それを薔花が受ける。真剣な顔の裏で、どこか楽しそうにしている二人を見ているとなんだか混ざりたくなってくる。

 ボクは今まで、ニケ同士の戦闘にはあまり意味を感じていなかったため、ゴッデスでも誰かと戦ったりはしなかった。アリーナとかも無いし、ラプチャーを相手にするのとは勝手が違うしで、訓練でもお互いの動きに合わせる練習をすることが多かった。それが間違っていたとは思わないが、剣は銃と違い実践形式の方が上達するのかもしれない。

 そんなことを考えていると、何度目かの衝突で紅蓮が薔花の体勢を崩した。

 

「…とったッ!」

 

 紅蓮の放った追撃の一閃は薔花の首元で刃を止めた。薔花の剣も紅蓮の腹部に突き立てられているが、あの状態からなら紅蓮が首を落とす方が速いだろう。つまり、紅蓮の勝利である。

 

「誘いとわかっていて乗ってくるなんて…私の負けね」

 

 薔花は意図的に隙を見せた。生物は攻撃する際、最も無防備になるからだ。わざと相手の攻めやすい形を作り、動きをコントロールしてカウンターで仕留めるのだ。

 そして紅蓮は、それを罠だと看破した上で敢えて誘いに乗った。これによって立場は逆転し、紅蓮が主導権を握り勝負が決まったのだ。

 

「勝った、のか…?」

 

「文句なしでしょ。初白星おめでとう、紅蓮!」

 

 実感が湧かないのか、紅蓮は放心状態にあった。そもそも、技量もボディのスペックもほぼ互角なのに、一勝もできてなかったのがおかしいんだけどね。多分パッと見た感じだと、紅蓮の反応が速すぎて、薔花のフェイクに引っかかっていたのが原因だ。今回勝ちを経て、勝率は5分にまで持っていけるだろう。

 

「それじゃあ次はボクとだね。それとも紅蓮ちゃんは勝ったまま、気持ちよく終わりたいかな?」

 

「望むところだ…ッ」

 

 

 はい、勝ちました。まだまだ負けませんとも。いやワンパンじゃないよ?それだとお互いの訓練にならんからね。紅蓮にはもっと強くなって貰わないと!

 しかし勝ったとはいっても、剣捌きとかは参考になる点が多い。紅蓮や薔花と打ち合っていると、ボクは思ったより力押しで戦ってたんだなと思い知らされる。これじゃリリスのこと脳筋って言えないよ…

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 近接部隊のみんなは筋がいい。コチラに来てから一カ月ほどしか立っていないにも関わらず、ボクの教えた近接戦闘の基本をすぐに理解して、実践できている。ただ一人を除いて。

 

『ストーーップ!そっちじゃないよ、紅蓮!ヘイト意識!いつも言ってるでしょ⁉︎』

 

 ボクの指示は『味方を狙っているラプチャーは真っ先に落とす』『自分を狙ってるラプチャーは味方に任せる』の二つだ。紅蓮はひとつ目の方は実践してくれているが、自分が狙われている敵を味方に任せるということが出来ていない。

 確かに、自分の命が狙われている状況で、その対処を他人に任せるというのは簡単なことではない。それ相応の信頼関係が不可欠だ。しかし、彼女の場合は味方を信用していない訳ではない。

 紅蓮風に言えば、自身に向けられた敵意のような物に敏感なのだ。戦闘を見ていると、考えるより先に身体が勝手に動いてしまっているのがわかった。

 

 そんなわけもあり、実戦の中で口を挟むとすれば、紅蓮にしか言うことがない。思いっきり暴れている分、撃破数(スコア)が1番高いのも紅蓮なので、教えてる側としては複雑である。しかし、敵を倒すよりも被弾しない方を優先してほしいという思いは変わらない。紅蓮も何とか実践しようとしているのは伝わってくるが、苦戦しているようだ。

 …どうしたものかな。1番手っ取り早いのは、紅蓮を狙っているラプチャーを紅蓮より早く倒せる人と組ませることだ。でも、それが出来る薔花は指揮を執る必要があるんだよねぇ。

 近接部隊の中でも薔花と紅蓮は突出している。強い駒をどう使うかなんて、贅沢な悩みだ。

 

 作戦終了後、警戒は保ちつつ軽くストレッチを行う。狙撃の姿勢で固まった身体が、バキバキと音を立てる。本日もライフルを準備していたが、ボクの助けが必要なシーンはなかった。他の部隊であるボクが、一瞬、弾丸一発でも関与したら、それだけで彼女たちの戦果に傷がつくからね。後輩の戦果を横取りする趣味はないので、多少被弾するくらいなら手を出すつもりはない。

 

「んー、やっぱりボクにスナイパーは向いて無いね。変に疲れる…ん?」

 

 身体を捻りながら、ふと見やった地平に違和感を覚えて意識を集中する。

 ーーなんだ…?遠方で土煙が上がっている。ラプチャーの進軍ならいくらか横に広がっているはずが、それにしては規模が小さい。しかしそれは安心する要因にはならなかった。

 

ーー違和感が胸騒ぎに変わり、

 

 銃のスコープを望遠鏡代わりに使うと、土煙の中に一つの影が見えた。生物らしからぬメカメカしい見た目に、嫌というほど見慣れた赤い光。味方でない事は明らかである。ただ、この敵は人の形をしていた。

 

ーー胸騒ぎが確信に変わる。

 

 ボクの記憶の中にこんな敵はいない。見た目も出現タイミングにも思い当たる節はなかった。つまり原作で描写されていない敵か、イレギュラーな敵かのどちらかだ。

 前者であれば、紅蓮たちで対処できるレベルの敵である。少なくとも、近接部隊に死者が出るようなことはないだろう。後者であれば、その実力は全く目処がつかない。

 かなりのスピードで移動しているが、距離も離れている。多少の時間はありそうだ。エンカウントまでの時間を概算していると、スコープ越しに目が合った気がした。

 

「…ッ!報告、作戦地域に新たな敵が接近中‼︎約200秒で当該地域に侵入見込み。識別クラスは推定タイラント以上!」

 

『なんだと⁉︎至急、迎撃用「ダメだ、総員即時撤退。指揮官様は至急ゴッデスに応援要請をお願いします」

 

『なに?指揮官は私だぞ、勝手なことをするな!』

 

「うるさいッ!そういう事は一度でもまともに仕事をしてから言え!」

 

「な…ニケの分際でーー」プッ

 

 時間が勿体ないので、通信を切断した。こういう時は現場に来てなくてありがたいかもね。高所から飛び降りて、みんなの元へ駆け寄る。

 

「みんな、話は聞いてたね?任務終わりで申し訳ないけど、直ぐに退却して」

 

「しかし、指揮官は迎撃をと…」

 

()()()()()()()()()()?これはゴッデスのターリアとしての指示だよ。責任はボクが取る」

 

 目配せをすると、意図を読み取ってくれた子たちは大人しく引き下がってくれた。

 

「ターリア、私はまだ戦えるぞ。損耗はほとんどゼロだ」

 

「うん、素晴らしいね紅蓮、でもそういう問題じゃないんだ。今はボクの指示をきいてほしい」

 

 唯のタイラント級が相手ならそれでもよかったが、今回の敵は不確定要素が多すぎる。万全の状態で挑むべきだ。

 

「…つまり、足手纏いだと?」

 

「…」

 

「レン、行くよ」

 

 ボクが答えられずにいると、薔花が紅蓮の手を引いた。紅蓮は渋々ながら退却準備を始めた。

 

「…ありがとう、二人とも。あと薔花、指揮官様のあの様子だと応援を呼べてないかもしれないから、代わりにお願い。ボクの名前を出していいからね」

 

 

 部隊の退却を見送った後、市街地の外で迎撃準備を整える。接近中の敵はかなり近付いてきており、肉眼で視認できた。ラプチャーと比較すると細身のシルエットは、何を考えているか読み取れないポーカーフェイス、無機質な表情を浮かべていた。

 

「あれは…ヘレティック?それとも侵食されたニケ…?」

 

ーー解

識別信号はラプチャーのものです。

ターリアの記憶と照合した結果、対象をヘレティックと推定。

目標の排除を推奨します。

 

 排除って…簡単に言ってくれる。

 ヘレティックはニケとラプチャーの融合機体だ。作中に登場したヘレティックは、いずれも凄まじい戦闘能力を誇っており、NIKKEの世界ではレイドボス的な扱いを受けていた。とてもじゃないが単独で戦うような相手ではない。

 合理的な判断をするならば、近接部隊と協力して迎撃するのが最適解だろう。ただ、その場合は何人かの死者が出る。これはボクの我儘だ。

 だが、我儘を通せる程度の力は付けてきた…はすだ。その内戦わないといけない相手だし、この戦いを試金石としよう。

 

ーーリミッター第六段階解放。

戦闘可能時間を再計算…完了

リミッター第六段階解放後、6350秒の戦闘行為が可能です。

実行しますーー

 

「…エンカウンター」

ーーーーーーーーーーーーーーー

 近接部隊が作戦地域まで乗ってきた輸送車は、ラプチャーに感知されないようにかなり遠くに停めてある。ターリアが戦闘を開始する頃、紅蓮たちは漸く停車地点に到着していた。

 隊員たちが車両に乗り込む中、紅蓮は足を止めた。

 

「姉さん、先に行ってくれ」

 

「…教官の指示は全員退却よ」

 

「戦うつもりはない。ただこの眼で見ておきたいのだ、ターリアの本気を」

 

 部隊長として接していた薔花だったが、紅蓮はあくまで姉に頼み事をしていた。そのことに気づいた薔花は、いつもの姉の顔に戻る。

 

「はぁ、言い出したら聞かないんだから。近付きすぎたらダメよ〜?ターリアの邪魔はしないように」

 

「ああ」

 




次か、その次くらいでRED ashに入ると思います。

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