あーーー、キッツい!誰だよタイラント級2体相手にできるとか言ったやつ!時間稼ぎで精一杯なんだが⁉︎
想定よりも敵の連携が厄介だ。思わずこころの中で弱音を吐いた。
敵の連携は弱いところから崩すことが鉄則である。ウルトラを倒す為には雑魚ラプチャーを片付ける必要があるが、ウルトラはそれを黙って見ているワケではない。タイラント級2体の弾幕を防ぎながらなんとか片付けてもすぐに補充されるし、その元凶を断ちたくてもマザーホエールには攻撃が届かない。ボクは思いっきり攻め倦めていた。
「ぐぬぬ…こんな事ならみんなを撤退させなければよかった」
…ないものねだりだな。ヘレティックの強さがわからなかった以上、あの時点では退却させるのが最適だった。それに薔花や紅蓮ならともかく、他の子たちはこんな大怪獣バトルにはついてこれないだろう。
ウルトラの攻撃を捌きながら雑魚ラプチャーたちを減らしていると、戦場に一陣の風が吹いた。残っていたラプチャーはコアを破損し、その機能を停止した。現れたのは、黒く鋭い気配を纏ったニケである。
「…私を呼んだか?」
「あ、紅蓮!いやぁそうなんだよ、丁度手が足りなくて…って紅蓮⁉︎どうしてここに…」
「手こずっている様だな、手伝ってやる」
「そうだけど、そうじゃなくて!退却指示したよね⁉︎命令無視??」
意気揚々と登場した紅蓮だったが、ボクが確認するとバツが悪そうに押し黙った。確かに退却させなければよかったと言ったが、それはそれ、これはこれである。軍という組織において、命令違反を簡単に許すことはできない。紅蓮は規律を重んじるタイプだ。完全な独断ではないだろうし、きっと薔花も一枚噛んでいるな。
「…退却はした。これは…そう散歩だ」
「散歩…?」
「ああ、偶然歩いていたらお前が戦っていた」
「…フフ、あはは!何それ」
あまりにも拙い言い訳に、思わず吹き出してしまう。怒る気も失せてしまった。どちらにせよ今は戦闘中だ。無駄なことをしている時間はない。
「それじゃあ運動がてら、手伝って貰おうかな?それで命令違反はチャラってことで!」
紅蓮にもたれるように背中を合わせる。いい機会だ、紅蓮にはチームワークを覚えて貰うとしよう。
紅蓮が参入した時、雑魚ラプチャーを掃討してくれたお陰で、残っているのはウルトラとマザーホエールだけだ。そして、次に雑魚ラプチャーが召喚されるまでは少しの猶予があった。
「ボクが注意を引いている間に羽を斬って。結構硬いけど…斬れるよね?」
「無論だ」
紅蓮の返答に満足したボクは目の前の敵へと向き直った。紅蓮の参戦によって、戦力に余裕が生まれただけでなく、ボクが限界まで出し切っても問題がなくなったのが大きい。後のことを考えなくて良いのであれば、取れる選択肢はいくつかある。
ウルトラの厄介なところはどこかーー?
ニケのボディだろうと容赦なく溶かす毒液?侵食を誘発する触手?どちらも間違ってはいないが、ボクにとっては違う。1番面倒なのは、空中機動力だ。
堅牢なウルトラの装甲も、全力の一撃なら斬り裂ける。しかし、それだけ大きい攻撃を当てるためには隙が必要だ。その為にあの羽が邪魔だった。
「いくよ!」
ボクは合図と共に、音と砂塵を撒き散らしながら接近する。愚直に、正面からだ。
毒液とレーザーの雨を掻い潜り、妖しく伸びてくる触手を叩き切りながら注意を惹きつける。ラプチャーにも学習能力が備わっているようで、その攻撃は徐々に鋭く避け辛いものになっていく。しかし、まだまだ対応できるレベルである。
ようやく間合いに入った時、ウルトラは嘲笑うように羽を広げた。既に何度か見てる動きだが、このタイミングで飛翔されるとどうしても届かない。
「ばーか、それを待ってたんだよ!」
距離を取ろうと飛び上がった瞬間、影に潜み、背後に回り込んでいた紅蓮が剣を抜いた。空中で羽を両断され、ウルトラは空中で何もできない時間を過ごす事になった。飛ぶことも地を駆けることもできず、ただ地面に落ちる虚無の時間。それは隙以外の何者でもなく、ボクは落下点に回り込むと全身にチカラを込めた。先のヘレティックでさえも回避を選んだ一撃がウルトラを襲う。
「よっし!完勝だね」
「どう剣を振ればこうなるのだ…馬鹿力め」
「ふふん、褒め言葉として受け取っておこう…およ?」
ボディの緊急冷却を開始
活動を停止しますーー
「あ、ヤバい…紅蓮助けてぇ」
ボク会心の一撃はウルトラを粉々に粉砕したが、その直後、力が抜けて膝から崩れるように座り込んだ。身体が面白いくらい重く、身動きが取れない。重力ってこんなに大きかったっけ?例えるなら、電動自転車のアシストが無くなったような…そんな感じがする。
「どうした急に?」
「あのね、調子乗りすぎてガス欠になっちゃった」
「何だと?ふざけるな!まだもう一体残っているだろう‼︎」
紅蓮はラプチャーを召喚しようとしているマザーホエールを指さして、ターリアを責めた。
「ごめんって!そんな怒んないでよ…」
紅蓮の言い分はもっともだ。実はこうなるのは初めてでは無い。ゴッデスがリリーバイスとボクの二人だったころに、何度か似たような状態になったことがある。あの時は身体の出力負荷許容値もそれほど高くなかったので、割とすぐにダウンしていたのだ。
症状が重くなったのは、より無理をできるようになってしまったからかな?その分強くはなっているのだが、戦えなくなるどころか動けなくなるのは少し困る。また対策というか、予防策を少し考えよう。
「ちょっとボクを抱えて逃げ回ってくれる?しばらくしたら回復するからさ」
「く…仕方がない。どのくらいだ?」
「…8時間くらい?」テヘ
「あ゛?」
少しでも和やかにしようと、イタズラっ子のように舌を出したのが気に入らなかったらしい。紅蓮は青筋を浮かべ、剣を握り直した。
「ちょいちょい!動けないんだって!その剣でどうするつもり⁉︎」
ボクらの頭上に影が落ちる。新手かと肝を冷やしたが、太陽を隠したそのシルエットは見慣れた巨大な
「あ、来た!」
「今度は何だ⁉︎」
「大丈夫、頼りになる援軍だよ。人類の勝利の女神!思ったよりずっと早かったね」
ゴッデスを乗せた飛行戦艦は、減速することなくマザーホエールに向かって突撃を仕掛ける。こうなればもうボクが動けなくても問題ないだろう。高度さえ取れればそれほど大した敵でもないしね。いやーホントにいいタイミングだよ。
ぼんやりと眺めていると、その途中で艦から飛び降りてきた人影が地面に突き刺さり、クレーターを作った。
「えぇ…」
派手な登場だったが、純白の衣装を纏った少女は、何事もなかったように桃色の美しい髪を靡かせる。そして彼女はどういう訳か一直線に紅蓮へと殴りかかった。紅蓮はなんとか反応し、鞘に納まったままの剣で受け止める。
「…ッ!」
「ターリア無事ですか⁉︎…その眼は一体…いいえ、それは後ですね。安心して下さい、私がすぐに…」
「ち、ちょっと待って!その子味方!味方だから‼︎」
ドロシーは紅蓮をヘレティックと勘違いしたようだ。全く、ドロシーはこんなにそそっかしかったっけ?もっとお淑やかなお嬢さまだったのに。
ーーえ、状況をよく見ろって…いいよ?
ボクは力なくへたり込んでいて、そんなボクに向かって紅蓮は剣を構えている。そして、その上空にはマザーホエールが浮いている、と…
…ボクが悪いですね、はい。確かに絶体絶命の大ピンチに見えるかもしれない。ドロシーは紅蓮のことを知らないもんね。逆の立場でも同じことをしたかもしれない…いや絶対する。
取り敢えず誤解を解いて、ドロシーを落ち着けることに成功した。
「紹介するね、この子は紅蓮。ボクが教官をしている部隊のエースだよ」
ボクが促したことによって、お互いに挨拶を済ます。それぞれ当たり障りのない自己紹介といった感じだけど…なんだかドロシー機嫌悪い?
「何故あなたは、その…紅蓮と抱き合っているので?」
「な、抱き合ってない!肩を借りてるの!ボクは今オーバーヒート中で、身体が動かないんだよ!あ、でもしばらくしたら治るから気にしないでね」
「身体が動かない…なるほど。つまり、何をしても逃げられないと言う事ですか?」
「うん?そうなるけど…ド、ドロシー?なんか顔怖いよ」
「紅蓮、先程は失礼しました。貴方も戦闘で疲れているでしょう、ターリアを支えるのを代わります」
ドロシーは半ば強引に紅蓮からボクをひったくった。動けないボクは、為されるがまま、膝の上に抱き抱えられることになった。
「ちょっとドロシー、君の服が汚れちゃうよ」
ボクの心配を他所に、ドロシーの腕の力は強くなる。
「…あなたのことです、また無理をしたのでしょう。少しは反省してください」
後ろから抱きしめられる形になった為、表情は窺い知れないがかなり心配させてしまったようだ。甘んじて受け入れよう、だって身体が動かないからね。何やら背中に柔らかいものが当たっているが、これは仕方のないこと…そう不可抗力なのだ。
それから間も無く、艦が着陸し中からゴッデスメンバーが降りてきた。
「…ドロシー。なに堂々とサボってるの?地上が片付いたなら、こっちを手伝ってよ」
「一度地上に降りてしまったのですから、地上から攻撃しても届きませんよ。それに私の役割はターリアを守ることでしたので」
「勝手に飛び出しといてよく言うわ…」
「まーまー、何とかなったし良いじゃないか。お嬢サマの我儘は今に始まったことじゃないだろ?」
「みんな久しぶり!元気してた?」
「それはこっちのセリフよ…ってあなた、その眼はどうなってるの?カラコンとかじゃないわよね?」
「何の話?」
そういえば、ドロシーも同じようなことを言いかけていたな。はて、と話についていけないでいると、ドロシーに手鏡を手渡された。それを使って自分の顔を確認すると、なんと瞳に四芒星…俗に言うキラキラが浮かんでいた。
「え、なにこれ!リリスとお揃いじゃん、めちゃくちゃかわいい!」
それは何度かパチパチと瞬きを繰り返しても、消えることはなかった。それはリリーバイスの瞳の紋様と同じであり、瞳の色も同じ紫紺であることも合わせて、殆ど一緒だった。
「かわ…そんな風に思ってたの?」
「うん!!ねぇ一緒に写真撮ろ?今ならリリスの妹を名乗ってもいけるんじゃない⁉︎」
憧れの存在に少し近づいて、ターリアはテンションが上がっていた。リリーバイスが珍しく照れていることには気づかなかったようだ。
「わ、私も瞳の色は同じです。それに髪だって部分的には同じ色です!」
「いいや、ボクの方がリリスに近いね!こればっかりはドロシーにも譲らないよ!」
「…ドロシーはターリアじゃなくて、リリスお姉ちゃんに張り合っているのでは?」
「スノー、先輩が自分のことに鈍いのは前からだろ」
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「そういえば指揮官は?」
「乗り物酔いでダウンしてるぞ。今はラプが付いてる」
ボクは指揮官がいつまでも降りてこないことに気がついて尋ねると、ラプチャーを解体する紅蓮に絡んでいたレッドフードが答えた。
「えー情けないなぁ。もう!」
「おいターリア、随分と好き勝手言ってくれるじゃないか…」
指揮官がヨロヨロと歩いてくる。見るからに元気がなく、吐いたのか少指揮官
「うわ、ひどい顔」
「ひどいのは顔色だ。顔は良いだろう」
「…はいはい、指揮官は男前だもんね。お酒でも飲んだの?」
「バカいえ。お前からの救難と聞いて、リリスが無茶な操縦をしてな…」
妙に早い到着だと思ったらそういうことか。ゴッデスの艦には艦長や操縦士がいるのだが、偶にリリーバイスが操縦することがある。その操縦は速さだけを求めたもので乗客の事は何も考えられていない為、乗り心地は察しの通りである。
「あ、そうだ。ねぇ見て?リリーバイスとお揃い!!」
「…メカゴリ」
…何か言いかけた指揮官はリリーバイスにトドメを刺された。
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久々にゴッデスが出てきて安心しました。