近接部隊はとてもピーキーな部隊である。
近接戦闘に目をつけたのは悪くなかったと思う。一応ボクは戦えてるし、未来で紅蓮は、その特異性からラプチャーと有利に戦えると話していた。ただ、近接戦闘しかできないニケを集めても、それほどの成果は出せないだろう。
そう考える主な理由として、まず味方と合わせる事が難しいこと、そして近接戦闘のリスクが挙げられる。
味方との連携は銃を使った戦闘よりシビアになる。タイミングを合わせるだけなら同時に引き金を引けば良い銃と違い、剣は届く距離まで踏み込まねばならず、空間的な制限もある。また、ラプチャーに接近するほど被弾のリスクも増える。
他の隊員が弱いというつもりはないが、近接戦闘を軸に戦うなら、紅蓮や薔花レベルまで能力が突出している必要があるだろう。
事実、この部隊の戦果は紅蓮と薔花で半分以上を占めている。10人の部隊でだ。
またこれまでの作戦で、近接部隊はラプチャーと正面から戦った事は一度もない。完全なる奇襲を仕掛けて、一手で決め切るというのが作戦の常だ。今のところ素晴らしい結果を出しているが、毎度そう都合よくいくものでもない。部隊が徐々に消耗していくことは明らかだ。
鉄砲玉として考えるならちょうど良い戦力と言えるが、そんな特攻隊のような事は絶対に許されない。
…腐り切った
「つまりなんだ…?私たちに剣を捨てろというのか?」
そんなことを部隊の面々に話すと、野犬のような鋭い視線が返ってきた。
「極端だなぁ、紅蓮は。そうじゃなくて、バランス良く行こうって話だよ」
このままではいけない、ならどうするか。その答えはシンプルなものである。近接部隊に通常の量産型ニケ、つまり銃撃戦が可能なニケを合流させるのだ。幸にして、時期に量産型が合流するため、計画としては実に現実的だ。
「な・の・で!近いうちに、君たちには量産型ニケと合流してもらう。これはボクの持論だけどさ。近接戦闘は銃火器による十分な支援を受けて、最大のパフォーマンスを発揮すると思うんだよね」
多分ボクが1番強いのは、ドロシーと一緒に戦ってる時だ。ドロシーはボクの視線や少しの動作を読み取って、的確な援護をしてくれる。逆もまた然り…だと思う。ドロシーに聞いた事ないからわからないけど、個人的には阿吽の呼吸ってやつができてると思う。
コンプラ的にどうかと思うけど、ドロシーと同じ戦場に立つのは楽しい。
紅蓮はあまり腑に落ちないのか、眉間に皺を寄せている。
「ま、やってみるのが1番いいよね。順番にボクと合わせてみようか」
スノホワ印の武器を変形させ、銃へと形を変える。うーん、相変わらずかっこいい。それを見て紅蓮が驚いた顔をしている。
「えへへ、カッコいいでしょ?」
「ターリア、お前は銃も使えるのか?」
「ありゃ、そっち?この間もボクはライフル装備してたでしょ?」
「スコープを望遠鏡代わりにしているだけかと思っていた」
確かに一発も撃ってなかったけど、そんな風に思われていたとは遺憾である。
…少し本気をみせてあげよう。リリーバイスの背中を任されるボクの腕前をね。
「これでも戦闘において、ゴッデスでは1番器用なんだよ。そんなに疑うなら紅蓮からやる?好きに動いていいよ、合わせるから」
こうして、ボクは全員に銃と剣の相性の良さを植え付けた。近距離と中遠距離のコンビネーションは映えるからね。この後の訓練では、銃との連携の科目が加わったのだった。
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先日、ボクと近接部隊はゴッデスと合流した。みんな変わりないようで一安心である。
なお、ボクのおめめは身体が動けるようになったタイミングで元に戻った模様。非常に残念と言わざるをえない。
調べてもらってもあまりよくわからなかったが、原因はリリーバイスの出力に近付いたからだと思っている。ボクの記憶によると、作中でリリーバイスの瞳についての言及はなかったので、お手上げ状態だ。
強いて言えば、指揮官がリリスの見た目は人間と違うといった発言をした時があった。確か、原作でドロシーと初めて会った時だったか。ドロシーを初めて見た指揮官が、人間にしか見えないと驚いていたのだ。
リリーバイスとドロシーの間に瞳の模様以外で異なるところはなかったため、その事を指していたのだと思う。ボクの目を見てメカゴリラとか言いかけてたし間違いないだろう。キラキラシイタケメの良さがわからないとは、見る目のないことだ。
そうそう、近接部隊が合流したといったが、それは隊員に限った話で、その指揮官は合流していない。
近接部隊の指揮官は失脚した、いや失脚《させた》。色々と雑務を投げられる中で、横領だの不正行為だのが山のように見つかったため、それをボクが告発したのだ。
そろそろ一周年イベントであるレッドアッシュが始まる時期だ。ボクもゴッデス部隊に戻りたかったし、紅蓮たちをあんな奴に任せることはできないからね。今頃、家でお父さんに泣きついてるんじゃないかな。
ボクが提出した報告書には、近接部隊の問題点と再編成の具申についてを記していたんだけど…結局、あの報告書も読んで無いだろうね。全く、清々したぜ。
指揮官がいなくなったことで、薔花たちはゴッデス第二部隊として再配置された。結果的にはボクの狙い通りになった形だ。薔花を隊長に指揮官はゴッデス指揮官が兼任することとなる。
仕事を増やされた彼は、これ以上は体がもたないと泣き言を言っていたが…一番融通が利く上、ボクは彼以上の指揮官を知らないから仕方がない。
「それではブリーフィングを始める。全員揃っているな?」
「はい!揃ってる!」
「なんだ、先輩。楽しそうだな?」
「うん、なんだか帰ってきたー!って感じがする…ってなんで頭を撫でるの⁉︎」
あからさまにテンションの高いのは自覚しているが、まるで犬でも宥めるかのような扱いにボクは憤った。
「確かに、ゴッデス全員揃ってのミーティングは久しぶりね」
「そういうこと!それに今日は薔花たちの歓迎会もあるし!」
「そうだよ、忘れてた!いやぁ、いつぶりだ?飲み会なんて」
「?飲み会なら先週やったじゃない」
「「え?」」
リリーバイスの言葉に、レッドフードフードとボクの困惑の声が重なった。いや、ボクはともかくレッドフードはなんでだよ。
「酔い潰れるまで飲むからそうなるんですよ」
「レッドフードはお金を払いたくなくて、寝たふりをしているのかと思ってました」
「スノー、アタシのことを何だと思ってるんだ?」
「前に、無銭飲食で捕まったことがあるって」
「いやそれは若い時の過ちってやつで…」
「ちょっと待って!そんなことより飲み会やったの?ボクがいない間に⁉︎」
「仕方なかったのよ。期限が迫っていた予算が…」
「またそれ!」
「ゴホン!その飲み会の話をするためにも、早くブリーフィングを始めたいんだが?」
「どーぞ、どーぞ」
「ちょっと!ボクは納得してないんだけど⁉︎」
軽く点呼を取るが、その過程で少し話が逸れるのはいつもの事だ。指揮官が軌道修正を行い、ようやくブリーフィングが始まる。
「…じゃあ、ボクから報告するね」
さっきまでの和やかな空気と変わり、みんながボクの話に集中する。
今回、ボクは初めてヘレティックとの交戦を行った。この戦闘経験は非常に価値がある。そこから得た敵の目的や戦闘スタイルなどを共有する。
「と、その前に…今回、ボクはヘレティックを逃がしてしまった。まずそのことについて謝罪させてほしい」
「ターリアは悪くありません」
「ドロシーの言う通りです。タイラント級を複数体相手にして無事なだけでも、十分すぎる戦果ですよ!」
ボクが頭を下げると、ドロシーとスノーホワイトのフォローが入る。その気遣いはありがたいけど、どれだけフォローされても結果は結果だ。
初のコミュニケーションが可能な敵ということもあり、決定的な情報を掴むために捕縛をしたいと欲が出てしまったのだ。ヘレティックを無力化した時、いや敵の増援が来たタイミングでもトドメを刺していれば…
「ううん、確実に破壊しておくべきだった。奴が次に戦場へ出てくる時、リリーバイス以外が遭遇したら必ず連絡してほしい、ボクが相手をする」
「それはミスを挽回するためかしら?」
「違うよ、これが一番合理的だからさ。もちろん1人にこだわるつもりはないよ。複数人で相手できる状況ならそうする」
反省点は多いが、奴の動きは覚えた。どれだけ成長したとしても、一度剣を交えたボクなら対処できる自信がある。そしてボクで対処できる相手にリリーバイスを使うのは勿体ない。
「はい、反省終わりね!情報共有を始めます」
過ぎたことを気にし過ぎても良いことはない。それにボクは自分のミスにケジメを付けたかっただけで、みんなに慰めて欲しいわけではない。反省は重要だが、切替もまた重要なのだ。ボクは手を叩いて、本題へと話を展開することを伝える。
さて、戦闘途中に奴が溢した『スペアボディ,劣化コピー,お母様』などのキーワードとなる単語から考えると、やはりクイーンは実在するようだ。お母様というのは順当にクイーンのことだろう。クイーンを打倒する、兼ねてから想定していたボク達の最終目標はより明確になった
残りの二つについてだけど、察するに劣化コピーというのはボクが、リリスの…ということだろう。
そう仮定すると、ボクがスペアボディならリリーバイスがメインボディになる。ゲーム的に言えばボクがリリスの強化素材だというこの上無い朗報だが多分そうじゃないだろう。
…原作でリリスがクイーンの前身という話があったが、ボクにもその適性があるという事か?…欠片も嬉しくはないが、最悪リリスの身代わりになれるのは悪くない。
…この事は言わない方がいいか。
「ボクから伝えることは2つある。ひとつはボクら人類連合軍の勝利条件の確認。そして2つ目、これはボクの予想だから鵜呑みにはしないでほしいんだけど、敵はリリーバイスを狙っている可能性がある」
「リリスを?どういうことだ?」
指揮官がボクの発言に食いつく。
「順番に話すから、焦らないで。まずヘレティックの発言からクイーンの存在はほぼ間違いない。そしてクイーンが表に出てこないことと、ラプチャーの指示系統から考えて、クイーンさえ倒せば全てのラプチャーは機能停止する可能性が高い」
つまり、この仮説が正しいとするなら、ボクらはクイーンさえ倒せばこの戦いを終わらせることができるというわけだ。
「ラプチャーの女王…ですか」
「そ、でもこれはある程度予測できていたことだし、情報の確度が上がっただけだね」
「そのクイーンの場所がわからないって話じゃ無かったか?地上はもちろん、海の中まで探したし、存在しない説が有力になってたんじゃ?」
「それに関してはアテがある。まだ我々が探していない場所があるだろう?」
そう言って指揮官は上を指差した。レッドフードはピンときていないようだが、色の濃いサングラス越しにでも凄いドヤ顔が透けて見える。
「空か?」
「宇宙さ」
「…カッコつけてるところ、大変申し訳ないけれど続けて良いかな?」
「…続けてくれ」
指揮官は被っていた軍帽を深く被り直した。ごめんて。
「敵がリリスを狙っている可能性、これはクイーンが表に出てこない理由が、もっと別にある時の話なんだけど…もしかすると、クイーンは思うように動けないのかもしれない」
「それがなぜリリーバイスに繋がるんだ?」
「自由を得るためにリリスの身体を狙っている、ということだよ。もし、クイーンにリリスの身体が乗っ取られたら…侵食よりももっとマズい事になるだろうね」
ボク達は最大戦力を失い、敵は親玉が自由を得て動き出す。そうなったらもう終わりだ。最悪の事態を想像して、空気が重くなる。誰が唾液を飲んだ音が聴こえた。
「寄生…いいえ、乗っ取りモノですか…はぁ…はぁ…」
ラプンツェルが天然なのはもとからだけど、エッチなことに興味をもってからは空気を読まなくなったように思う。もしやTPOを記憶から消去して性知識を蓄えてるんじゃないだろうな。
「ちょっとレッドフード、ラプンツェルに何見せてんの!」
「アタシじゃない!大体あんな事があってそんなのみるワケないだろ⁉︎」
「確かにそうかも…」
…とはいえ最悪の事態を想定しても、悲観する必要などない。そういう意味で妙に暗くなった空気を壊してくれたのは、有り難くもあった。これはラプンツェルの人徳かな。
「ボクが変なこと言ったからだね。別にリリスが狙われていても関係ない。みんなもわかっているように、リリスを温存して勝てるほど戦力に余裕はないからね」
「だからボクが言いたい事はひとつだ。負けないでね?リリス」
「当然よ」
本来の流れなら、リリスの限界が来るのはまだ先であるはずだ。今のところ彼女にその気配は全くない。これまでできるだけ全力を出させないようにしてきたことが、功を奏しているのかもしれない。
そして万全であるならば、リリーバイスが負けることはあり得ない。原作でもリリーバイスは、恐らく…亡くなった後で頭部を持ち去られていた。ラプチャーはついぞリリーバイスを戦闘で止める事はできなかったのだ。
「ボクから報告することはそのくらいかな…あ、そうだ。ボクはまた別行動するね」
「え、またターリアはどこかへ行ってしまうんですか?」
「うっ」
せっかく合流したのに…と、スノーホワイトの悲しそうな表情と声に後ろ髪を引かれる思いだが、こればっかりは譲れない。ボクにはシンデレラとまだ見ぬフェアリーテイルモデルを迎えに行く役目があるんだ!
軌道エレベーター急襲作戦。打倒クイーンを掲げ、人類が決戦として計画したその作戦は、その前段階で先手を打たれ失敗に終わった。原作での敗因はシンデレラを奪われたことと言っても良い。それを防ぐために、ボクは研究所へ前入りしておくのだ。
「今回はすぐ戻ってくるから」
「それでしたら、私も同行します」
「え、なんで?」
「何故?この前のことをもう忘れたのですか?私たちが到着しなければどうなっていたか…単独行動なんてさせません」
「いや、あれは早かれ遅かれみんなが来るのがわかってたから無茶したのであって…」
「は?」
「ごめんなさい。ボクが悪かったです!」
有無を言わさぬ圧力にボクが大人しく謝罪すると、ドロシーは満足したように微笑んだ。あ、その顔見たことある。ドロシーがリロードする時に浮かべる悪い笑顔だ。その顔好き。
「でもこっちの戦力を減らし過ぎるのは問題だし、多分戦闘にはならないよ?」
第二世代のフェアリーテイルモデル、その開発と製造は極秘事項だ。原作ではサラッと流されていたが、その施設が奇襲を受けるなんてあってはならないことだ。研究チームには絶対に情報が漏れないように、少人数かつ閉鎖されたネットワークでの開発を頼んでいる。結局1番のセキュリティはアナログってわけなんだよ。
「薔花や紅蓮が合流したので十分です。むしろ危険なのはあなたの方では?」
「…それにあなたは私と一緒の時が一番強いのでしょう?」
「な…ッ、ど、どこでそれを…」
あぁ、自分でもわかるくらい顔が熱い。本人のいない所で勝手に盛り上がってした話が、本人に伝わっているなんて恥ずかしすぎる。でも、その話をするってことは、ドロシーも少なからずそう思ってくれているということで…
嬉しいなぁ。
「うん、わかった。ドロシー、ボクと一緒に来てくれる?」
「…えぇ、喜んで」
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